学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第13話:戦慄の旋律─音楽の天才

※※※

 

 

 

「全く、びっくりしたよ。この部屋なら誰にも邪魔されずに練習出来ると思ったんだけどね」

 

 と言っている音神。

 どこか儚そうな瞳と、少し長めの色素が薄い髪を持つ彼は、いざ話してみると物腰柔らかで穏やかな人物だった。

 防具を脱いだ花梨と俺は、取り合えず彼に謝罪と事情を話すことに。

 すると音神は、

 

「ああ、多分その幽霊は僕だ。この間、手が滑ってバイオリンが変な音を立ててしまったことがあるからね。まあ、そうじゃなくても誰も居ないはずの教室からバイオリンの音がしたら誰だって不気味に思うか」

「何だ……幽霊じゃなかったんだ……」

 

 悪いが幽霊よりも防具着込んで突っ込んできたお前の方がよっぽど怖いと思うぞ花梨よ。

 まあ、想像通り、クリーチャーでも幽霊でもなんでもなかったのだ。

 変な音が聞こえてたっていうのは、音神がこの部屋でバイオリンの練習をしていたからか。

 まあ、音楽室じゃ管弦楽部が練習してるし、部活に入らずにずっと習い事なり1人で練習してきた彼にとっては学校で練習するなら空き教室を見つけるしかないが……そもそもそれなら家でやれば良い訳で。

 

「怖がらせてごめんね」

「むしろこっちこそ邪魔してごめん……」

「いや、良いよ。こんなところで練習していた僕も悪いしね」

 

 はにかんで返した音神は、椅子に座るとバイオリンを抱きかかえた。

 折角だし、色々聞きたいこともある。こんなことも無ければ話さなかったくらい接点は無いし。

 

「なあ、音神は何時からバイオリンをやってるんだ?」

「小学生の頃からだよ。母さんがバイオリンの先生さ。母さんは昔、バイオリン教室の先生をやっていたからね」

「そうなのか」

「ああ。まさかドイツに留学まですることになるとは、母さんも思わなかったらしいけど」

「何度聞いてもすげえな……お前」

「僕はすごくないよ。僕は天才じゃない。凡人だから、周りに追いつけるように必死で練習しただけさ」

「いや、努力の天才さ」

 

 思わずそんな言葉が出る。

 俺は生まれ持っての才能も存在するとは思っているが、そんな奴はほんの一握り。

 だけど、それより賞賛すべきは努力の天才だ。

 真っ直ぐに、ただひたすらに努力を続ける奴こそ、俺は努力の天才とそいつを称えるだろう。

 そういう奴が語る夢程、輝いているものはない。

 

「夢は、オーケストラで大勢の前で演奏すること。そうだね、ドイツのオーケストラに入って、僕の音を世界に届けたい……なんて、大それた事を考えてるんだけどね」

「大それてなんかねーよ、もっと自信持て。本気で頑張ってる奴の夢を馬鹿にする奴は、俺がぶっ飛ばしてやる」

「うんっ、あたしも頑張る人は大好きだよ。音神君の夢から、そういうのが伝わってくるもん」

「そういえば、刀堂さんも剣道で全国に行ったことがあったんだっけ。君こそ頑張り屋さんだ」

「え、えへへ……あたしも、頑張ってきたからね。積み上げてきた物への自信はあるつもりだよ」

「……そうか。それくらい、練習してきたんだね」

「夢は、プロの剣道選手、だからね!」

 

 俺は取り残されそうだった。

 2人共、ちゃんと自分の未来に夢を見据えてるんだな。

 それに比べて俺は――何にも将来の夢だとか目標だとかが決まっていない俺は、どうだろう。

 ワイルドカードの事件やデュエマ部の事で、今の目の前の事に精いっぱいの俺は未来の事を考えている余裕なんか無い。そもそも、見えてすらいない。

 そんな現実を突き付けられた気がした。

 

「やっぱ、羨ましくなっちまうな。そういう夢があるやつって。俺には、まだ何もねぇや」

 

 気が付いたら、自嘲気味に俺の口からはらしくない弱気な言葉が漏れていた。

 いけない。こんなこと、こいつらに言ったって仕方ねえだろ。何言ってんだよ。

 

「わ、わり、変な事言っちまったな。忘れてくれ」

 

 だけど、返ってきたのは意外な返答だった。

 

「僕は……白銀君が羨ましいかな」

「え?」

「時折、君みたいにまだ何も決まっていない人が羨ましくなることもあるんだ。僕には、バイオリンしか取柄が無いからね」

「ま、そんなこと言ったら俺にはデュエマしか取柄ねえし」

「デュエマ?」

 

 あれ? 食い付いた。もしかして、やってたりしたのかな。

 

「音神君、デュエマやってるの? もしかして」

「いや、昔やってただけだよ。ただ、お守り代わりに今もカードを持っててね」

 

 ごそごそ、とポケットを取り出すと音神は1枚のカードを俺に見せる。

 いや、思わず飛びのきそうになったね。これ、かなりのレアカードじゃねえか。

 

「すげえな。それ持ってたのか……」

「何なら、白銀君にあげるよ」

「オイオイ良いのかよ!? それ、かなりのレアカードだぜ!?」

「君、デュエマ部なんだろ。このカードも、僕がお守りなんかにするよりは誰かに使って貰った方が嬉しいはずさ。ドイツに行く前に、踏ん切りをつけておきたいんだ」

 

 そこまで言うなら、仕方がない。

 余程此奴の決心が硬いという事なのだろう。

 それを受け取った俺は、思わぬレアカードの入手に立ち尽くしていたが――花梨の声で正気に戻った。

 

「ねえ、音神君。1曲、弾いてくれない?」

「おいおい、花梨。あんまり無理を言うなよ……」

 

 これ以上我儘言ってどうするんだ花梨。

 やれやれ……だ。

 

「ああ、ごめん。いつもなら良いんだけど……」

「ほらな?」

「むぅ」

「いや、違うんだ。実は最近スランプ気味でね」

 

 彼は少し困ったように言った。

 

「不出来なモノを人に聴かせるなんて、恥ずかしい事だ。それで誰にも見つかりそうにない部屋で練習していたんだ」

「そ、そうだったのか。今日は本当に悪かったな」

「ごめんなさい……」

「いや、良いんだ。君たちと少し話せて、幾分か楽になった気がするよ」

 

 そう言った彼の表情は、笑ってはいたが少し暗かった。こんな音楽家にも、スランプというものが訪れるのか。だとしても、俺は絶対にそのスランプを抜けて欲しいと思っている。

 応援しているぞ、音神。

 それに比べて俺は――

 

 

 

 ※※※

 

 結局あの後に部屋を出た俺は、花梨と一緒に旧校舎の1階のフロアを抜け出た。

 どこか、複雑そうな表情を浮かべていた花梨。

 こいつも、ちょっと前まで自分には剣しかないと言っていた。表情に修羅のような厳しさは無いが、音神も花梨と似たような所があるのだろうか。

 

「……凄かったね、音神君」

「そうだな」

「あたしも頑張らないと。耀もね。絶対、やりたい事や夢が見つかるよ」

「頑張れって言われてもな……」

 

 無い夢に向かって頑張れって言われても困る。

 

「……別に、今叶えたい夢が無くったって良いじゃん。いや、あたしが言っても説得力無いけどさ。あたしだって、剣道だけで食べていけるなんて思ってないし、不透明な未来を見てるんだよ?」

「そうだけど……」

「だから、ゆっくり決めれば良いじゃん」

 

 ゆっくり、か。だけど来年にはもう受験生なんだ。

 きっと、適当に受かりそうな大学を受けるんだろうけどよ。理系の大学とか、俺には無理だし、文系の大学を受けるんだろう。その後、大学を出た後――どうするんだろ。

 

「……ああ」

 

 曖昧に返した俺は、その後の言葉が続かなかった。どこか心配そうな顔で俺の顔を覗き込んでいた花梨は、最後に「今日は本当にごめん」と言って走り去った。

 そこまで謝らなくても良いだろ。俺だってワイルドカードじゃないかって気になっていたしな、とは言ってやれないのが辛い。

 そして、旧校舎の玄関に居た紫月と合流する。結局、クリーチャーだとかは出なかったのだろうか。

 チョートッQは何も言わなかったから、俺達の近くには出なかったのは確かだ。

 

「ってわけで、紫月。大丈夫だったか?」

「ええ。こちらは異常なしでした」

「そうかあ」

 

 何も無かったようで、何よりだ。

 胸を思わず撫でおろす。

 しかし――紫月は首を傾げると言った。

 

「……先輩。浮かない顔をしていますね」

「んあ?」

「何か、ありましたか。刀堂先輩にフられましたか」

「いや、ちげーから」

 

 そうじゃない。

 そうじゃなくてだな……。

 取り合えず、勝手に色々言われる前に説明をしておく。

 

「……成程。その音神先輩がスランプだと」

「ああ。ドイツの留学前だかんな。何事も無く、向こうに行けりゃ良いんだが」

「……そう、ですか」

 

 俺が花梨や音神を応援するのは、あいつらには夢があるからだ。

 だから、同時に音神や花梨が俺とは別の世界に生きている人間のように思えてしまったのだ。

 辛い事も多い。好きな事をやらなければならないことにしてしまうのは大変だろう。花梨だって、それで追い詰められたに違いない。

 比べて、俺にはそんな夢は無い。俺の未来は、いつも無色だ。何も分からない。決まっていない。ぼんやりだ。

 だからと言って、それが不安なわけじゃない。このままではいけないと思うこともある。

 でも、現実はそれどころじゃない。俺には、目を背けられない問題が目の前に幾つも山積みで、逃げる事は許されないのだから。

 

「……目の前の事ばかりにいっぱいっぱいで、未来への不安も希薄な俺って――夢が無いってのが、すっげー情けなくてさ」

「はぁ」

 

 彼女は溜息をついた。そして――言ったのだった。

 

「いい加減、ぐだぐだ愚痴られるのもうざいんで、簡潔に言いますけどね」

 

 俺は口を噤んだ。

 言葉とは裏腹に、紫月は真剣な表情だった。

 

「……私、最近の白銀先輩の事はそれなりに評価してるんですよ。目の前の事に、今の事に真っ直ぐになれる白銀先輩を、私は花梨先輩やその音神先輩にも劣らないと思っています」

「そうかあ?」

「先輩は花梨先輩に異変があった時、一生懸命どうにかしようと奔走していました」

「当然だろ、幼馴染なんだから」

「ステップルの時も真っ先にワイルドカードじゃないかって疑って、色々駆けまわっていたってブラン先輩に聞きました。私が屋上にワイルドカードを追いかけに行った時も真っ先についてきましたし、先輩は、お人よしですし目の前の人にいつも一生懸命です」

「そ、そうかあ?」

「今回もそうですよ。怖がりな花梨先輩に、何だかんだ言ってついていったじゃないですか。ワイルドカードの心配をして、私まで手配しました」

「……只のお節介焼きだよ、俺は。それも手の届く所だけさ」

「誰もがスーパーマンではないのですから。私なんか、目の前の欲望に結構忠実ですから。主に睡眠欲とか」

「刹那的だなオイ」

「刹那的で良いんじゃないですか? 先輩は、先輩が今やりたいことをやれば良いと思います。先輩は未来の事でぐだぐだ考えるより、後でぐだぐだ後悔してくれた方がお似合いです」

 

 これはつまり……何だ。

 俺は目の前の事だけ考えてろってことか。

 何なら1つ、反論しておくことがあるな。

 

「言っとくけど俺、後悔はしたくねーからな。つか、デュエマで1度自分が選んだ手を次のターンになって戻すなんてありえねーし」

「……なら、精々今目の前の事を考えとけば良いんじゃないですかね」

 

 少しだけ、紫月が微笑んだ気がした。

 そうだな。今は、ワイルドカードの事を考えておけば良い。音神のスランプはあいつの問題だし、あいつが解決するしかないんだ。

 

「なあ紫月」

「何ですか?」

「お前結構……熱いやつなんだな」

「えっ……?」

「いやさ、仏頂面だし正直俺、お前に悪く思われてるのかと思ってたけど……こうして話してみると、俺の考えてることをズバッと斬ってくれたりさ」

「別に、そう思っていたわけではないです! ……塩対応だったのは謝りますけど、それは退屈だったからです」

「そっか」

 

 ちょっとだけ彼女の事が分かった気がした。

 この間もそうだったけど、表情に出ないだけで紫月は結構、感情表現がストレートなのだ。

 

「……傷つけたなら謝りますけど」

「良いって。俺も本音で接してもらった方が嬉しいからさ」

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