学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR2話:取り残された少年──時間Gメン

突如、地面からポリゴン状のドットと共に猿のような怪物が生えてくる。

 これって、クリーチャーなのか?

 だが、まるで立体映像のように所々にノイズが走っている。

 こんなクリーチャー、見た事ねぇぞ……!?

 赤い瞳が俺を狙うように光った。

 

「さあ、そいつからエリアフォースカードを取り締まれ!」

 

 停止した時間の中を大猿が動き出した。

 俺を狙い、腕を振り上げる。

 逃げるべきか?

 しかし、怪物が進む先には停止した人達が立っている──

 

「くっそが──デュエマが、出来なくったって──エリアフォースカードを持ってなくったって──ッ!!」

 

 俺は地面を蹴る。

 そして、降りかかる巨腕をすんでのところで滑り込むようにしてすり抜けた。

 

「──ッ向かってきただと!?」

「力が無いのが何だってんだ? デッキが無いのが何だってんだ! 部員の為なら体一つで立ち向かう……それが、デュエマ部部長・白銀耀って男だァァァーッ!!」

 

 思いっきり振りかぶる拳。

 それがシー・ジーの頬を捉えようとした時だった。

 そこで身体は止まる。

 足が、手が、宙に浮いてしまう。

 そこから先へ進まない。そして瞬きした時だった。

 気が付けば、俺の体は再び怪物の眼前に立たされていた。

 

「──!?」

「残念だが、お前の時間は此処でお終いだ。時間Gメンに唯の人間が勝てる……命題の答えは偽だ」

 

 戻された。 

 何が起こったのか分からない。

 チャチなものじゃない。 

 まさか、本当に巻き戻した──!?

 

「少し、痛めつけなければ……分からないか?」

 

 大腕が俺の体を吹き飛ばした。

 まるで風の前の塵のように、吹き飛んだ俺は──硬い地面に叩きつけられ、肺が潰れて息が出来なくなる。

 

「いつものように皇帝(エンペラー)のカードを守る術は今のお前には無い。諦めろ」

 

 つかつか、とシー・ジーが歩み寄る。

 何も、出来ない。

 デッキも、相棒も、仲間も居ない俺は、本当に無力で、ちっぽけだった。

 いつもならこいつなんかすぐに倒せるのに。

 いつもなら誰かが助けてくれるのに。

 

「ハッ──」

 

 いつもなら、か。

 たらればで、何言い訳付けて諦めてんだよ俺──!

 

「ははっ、我ながらカッコ悪いぜ──ッ!」

「む」

「諦める? それは俺の嫌いな言葉ワースト1なんだよ……俺は諦めの悪さなら、誰にだって負けねえよ!」

「まだ立つのか。だが、何時まで持つ?」

「テメェに、勝つまでだ。諦めなきゃ、絶対に勝機がやってくる。何時だって、そうだった」

「そうはならない。お前達でさえ、乗り越えられないものがある」

 

 そんな訳は無い。

 今までだって、そうだった。

 俺のやることは、何が起こったって変わりやしないんだ。

 

「教えてやるよ。勝利の女神が微笑むのは何時も──」

 

 

 

「諦めの悪い方、ですねっ!」

 

 

 

 刹那。

 空が光ると共に声が降って来る。

 発砲音が幾つも響き渡る。

 それが怪物の身体に幾つも風穴を開けてしまった。

 

「ッ……!!」

 

 俺も、そして時間Gメンも上空を見上げる。

 そこには──見慣れたクリーチャーの見慣れぬ姿。

 馬に跨り、銃を掲げた孤高のガンマン──

 

 

 

「青い、ジョニー……?」

 

 

 

 ヒヒィン、と甲高い音と共にそれは降り立った。

 そして、後に続くようにして、誰かが落ちて来る。

 ……落ちて来る?

 

「あ、ヤバい、降り方ミスって──ちょ、ちょちょちょちょタンマァァァーッ!!」

「?」

 

 さっきの声が取り乱したように大きくなる。

 間もなく──何かが降って来た。

 

「え? え? ちょ、タンマはこっちのセリ──」

「ああああああ、受け止めてくださぁぁぁい!?」

 

 おや、空から女の子が──と思う間も無く、彼女は俺に頭から突っ込んできた。

 

 

 

「ぎゃーっ!?」

 

 

 

 いたたた……何が、起こったんだ。

 回る目とチカチカする頭で、落ちてきた少女を見やる。

 

「うー、頭が、身体が痛いです……うーん」

「……?」

 

 ぼんやりと、まだ彼女の輪郭がぼやけている。

 癖っ毛のある長い藍色の髪にゴーグルを掛けた少女だ。

 頭をぶるぶる子犬のように振ると、彼女は俺の方に向き直って「ごめんなさいごめんなさいっ! ちょっと足が滑っちゃって」と謝る。

 

「あのー、何なの君? いきなり空から降ってきたけど」

「お、おお、こうしてみると若い、すっごく若いです! 若いけど、若干面影があるような、そんな感じですねっ!」

「話聞いてた!? 俺の質問に答えてくれる!? 色々あり過ぎて頭のキャパがワールドブレイクしそうなんだよ!」

 

 ずいっ、と少女は俺に詰め寄る。

 近い。すっげー顔が近い。

 何なんだこの子、初対面の相手に距離感バグってないか?

 

「つか若い若いって失礼な! 俺はまだ17歳だぞ!」

「あはは、すみません。ちょっとテンション上がっちゃいましたっ」

「一体お前は誰なんだ?」

「あー……びっくりすると思うんですけど。それに、信じてくれないかもだし」

「もう今日は何があっても驚かねえぞ。それにもう信じられない事は慣れっこだ、ドンと来い」

「そですか? じゃあ自己紹介からっ」

 

 ゴーグルに手を掛けながら、自慢げに彼女は言ってのける。

 

 

 

「あたしは朱莉(アカリ)。白銀朱莉。つまり、2079年からやってきた爺ちゃんの孫です、はいっ!」

 

 

 

 は?

 ……孫?

 ……。

 

「孫ォォォーッ!?」

「驚いてるじゃないですかっ!」

「驚くっつーか、とんでもねぇ嘘吐くんじゃねぇ!」

「しかも信じてない!」

 

 信じられるわけがあるか。

 孫。孫娘。……俺の孫娘!?

 俺、まだ、子供すらいないんだけど、どうなってんだ。

 

「待て待て待て。いきなり何なんだ、孫とか何とか言って──今回の不審者はどいつもこいつも言ってる事がしっちゃかめっちゃか過ぎるぞ!」

「不審者じゃないですーっ!」

「白銀朱莉。何をしにこの時代に飛んできた」

「デュエマを消させない為ですよ」

 

 勝手に話を進めてんじゃねえよ! 

 本当に何なんだコイツら……。

 俺の頭が混乱する中、俺を差し置いて二人は相対する。

 互いの手には、既にこの時代からは消えたはずのデュエル・マスターズのデッキが握られていた。

 

「公務執行妨害も加えて逮捕するしかないな。時間Gメンの権限を以て、貴様等を拘束する。この命題は真だ」

 

 シー・ジーの手帳が開き、光と共に機械音声を発した。

 その場は歪んだ空間で包み込まれる──

 

 

 

「ごめんなさいっ──この人、ちょっと連れ帰らないといけないんでっ!」

「は?」

 

 

 

 ──その直前に。

 青いジョニーが俺とアカリの脇を抱え、彼の愛馬が強くアスファルトを蹴った。

 完全に、ブラフだ。

 デュエルする気満々だったシー・ジーは呆気に取られる。

 

「何をやっている、早く動け!」

 

 だが、もう怪物は動く様子は無かった。

 

「ダメダメ、この特製弾丸を食らったら、しばらくは動けませんよ?」

 

 空へ飛びあがった俺達は空間に飲み込まれる前に、空中に浮く何かに吸い込まれる──

 

「此処で逃げるのが解と言うのかッ! 白銀朱莉!」

「その通り! あくまでも此処では、ですけど」

「……最後まで逃げられると、本気で思っているのか?」

「思ってないですよ」

 

 何かに吸い込まれる直前──彼女は大胆不敵に笑みを薄っすら浮かべた。

 

 

 

「──逃げるんじゃない。アカリは、君達に勝つ。それが……爺ちゃんの願いですから!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──で。

 勝手にやってきて勝手に横入りされた挙句、俺は消化不良のままこんな所に連れて来られたわけだが……何だ此処。

 全面が白い壁に覆われており、所々妙な計器が置かれている。

 かと思えば、女の子らしく可愛らしいぬいぐるみも棚に置かれていた。

 

「なあ、何処は此処? 誰は俺? 一体何がどうなってんだ!?」

「お爺ちゃん落ち着いてくださいよっ。ボケて言葉がひっくり返ってる」

「ボケてねーよ馬鹿! 好い加減俺をジジイ扱いすんな! ビックリドッキリ現象には慣れっこだったけど今回は何だ? いきなり未来から現れた不審者と俺の孫を名乗る不審者のWブレイクだ! 世界はおかしくなってるし、仲間の記憶もヘンだ! どうしてくれんのマジで!」

「どうしてくれんのって、アカリの所為じゃないですし……」

「一体何が起こってんだ! これは一体何なんだ?」

「歴史改変。時間Gメンは、時間のほころびに漬け込んでデュエマを歴史から一時的に抹殺したんです」

 

 そんな簡単に言うんじゃない。大変な事になってんじゃねえか。

 だけど同時に──そんな大掛かりな計画でなければ、此処までの異変は引き起こせない。

 ロードの時とは違う。あいつ一人じゃない。組織だった「犯行」だ。

 

「彼ら、時間Gメンを率いているのは──【トキワギ機関】。60年後の未来を牛耳っている組織です。彼らは国家をも超越しており、自らが造り出したクリーチャーの力で徐々に未来をディストピア化していきました」

「ディストピア……成程。人間性を無視した徹底した合理的な世界、ってことか」

「はい……それに対抗するのがエリアフォースカードの使い手でした。彼らは、未来の世界でもそれぞれの経緯で散らばったカードと出会い、トキワギ機関に反抗していました」

「成程な。見えてきたぞ。トキワギ機関にとっては当然、エリアフォースカードの使い手が邪魔になる。つまり、デュエマが邪魔になる」

 

 だからデュエマの歴史を消したんだ。

 

「だけどそんな事をしたら、あいつらもデュエマ出来なくなるんじゃ……」

「いえ、あいつらはトキワギ機関が保管しているエリアフォースカード、世界(ザ・ワールド)によって時間の干渉を受け付けなくなっているんです」

世界(ザ・ワールド)……?」

「はい。それがエリアフォースカードⅡⅩⅠ番のカード。トキワギ機関は配下にこの力を分け与え、歴史の改竄を一方的に行っているんです」

「なんだそりゃ……!?」

世界(ザ・ワールド)もまた時間の干渉を無効化する力を持っているのでしょう」

 

 つまり、あいつらは下手をすれば自分達以外にクリーチャーの力を使えなくさせる事も出来る。

 いや、むしろそれを狙っているのだろう。

 邪魔なレジスタンスからデュエマを奪い、自分達だけがクリーチャーの力で世界を思うままにしようとしているのだ。

 

「このままでは、60年先にも改変の影響が出る……その前に、この時代にデュエマを思い出させなければなりません」

「……」

 

 話が、デカすぎる。

 世界の次は時間。歴史を改竄しようとする奴らとの戦いか。

 

「まだ、信じられませんか」

「いや信じる信じないとか、そういう次元じゃねーんだよ……改めて落ち着いて考えてたけど、頭が付いていけねえ」

 

 確かに頭は着いていけない。

 時間の話や、世界(ザ・ワールド)のエリアフォースカード、そしてトキワギ機関。

 今歴史はとんでもないことになっている。

 

「だけど」

 

 そうだったとしても、俺の返事は決まっていた。

 

「デュエマを消して無かった事にするなんて、絶対に嫌だ」

「爺ちゃん……!」

「だからキラキラした顔で爺ちゃんゆーな!」

「ううん、爺ちゃんならそう言うと思ってたました! うん! 若い頃の爺ちゃんがあたしと戦ってくれるなんて!」

 

 ……そんな純粋な目で期待されても困る。

 

「しかしどうする……どうにかしてエリアフォースカードが無くてもあいつらと戦えねえといけねえが、生憎デッキもねぇし」

 

 というか、そもそも60年後のカードプールに今のカードって通用するのか?

 ……分かんねえ。分かんなくなってきたぞ。

 

「とにかく、今はこの時代のダッシュポイントを脱出するのが先です。タイムマシンで時間の穴に突っ込みます!」

 

 そう言って、マシンが唸り声を上げた時だった。

 モニターの眼前に何かが現れた──

 

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

 

 

 何だ!?

 機体が揺れて俺は床に放り投げられる。

 そのまま機体がぐるぐると回転し、頭の中がかき混ぜられた。

 

 

 

「衝撃緩和フィールド作動ッ!!」

 

 

 

 アカリの声と共に──ぼよん、という音が聞こえてきた。

 うっかり舌を噛んでしまったが、何とか地面に激突することだけは避けられたらしい。

 そのまま態勢を整えたマシンは地面に着陸した。

 アカリに続くようにして俺もタイムマシンの外に出る。

 見回すと此処は学校の校庭。だけど、今はピッタリと時間が停止しているからか、何もかもが不気味なほどに静まり返っていた。

 

 

 

「警告する。直ちに投降せよ」

 

 

 

 成程な。

 さっきの鳥の怪物がタイムマシンをぶっ飛ばしたのか。

 当たり前のように俺達の目の前に立ちはだかるシー・ジーは俺達に不遜な敵意を向けている。

 猿の怪物も威嚇するように甲高い声を上げていた。

 

「お爺ちゃん不味い……タイムマシンの復旧に時間掛かるかもです……!」

「アカリ! お前は機械の面倒見てくれ!」

「え!? で、出来ますけど、お爺ちゃんどうするんですか!?」

 

 どうもこうもない。

 こんな所で、助けられてるだけなんて俺の性に合わない。

 

「白銀耀。お前にはデッキも何も無い。なのに、何故抵抗する?」

「お前らが歴史を書き換えた所で……俺が憶えてれば問題ねぇんだ」

「バカバカしい。”ありもしないこと”を喋るお前は、この世界では唯の狂人でしかない」

「んなわけねーよ……何より、皇帝(エンペラー)! こいつが俺の歩いて来た軌跡の証だ。答えてくれ、皇帝(エンペラー)!」

 

 鞄から取り出した白紙のエリアフォースカードを握り締めた。

 

 

 

「俺だけは憶えてる。デッキの中身も、カードの感触も、仲間達との思い出も──俺が全部憶えてる。今はそれだけが、”あいつらが必死に生きてた唯一の証”だ!」

 

 

 

 思い出せる。

 今は鮮明に、全部。

 ブランと初めて会った時の臆病な顔も、あいつがもう一度心の底から笑えた日の事も。

 火廣金と初めて相対した時に感じた強烈な敵意も、あいつと初めて並んで戦ったあの時の事も。

 紫月の俺に対する不信感も、あいつが俺に託してくれた信頼も。

 

 

 

 そして、初めて俺と一緒に戦ってくれた相棒の事も!

 

 

 

「全部、憶えてるぞ。頭じゃねえ。魂で、だッ!!」

「ならば全部忘れてしまえ、白銀耀ーッ!!」

 

 

 

 大猿が襲い掛かったその時。

 握り締めていたエリアフォースカードに灯が点った。

 シー・ジーの目が驚愕に見開かれた時──降りかかる巨腕を何かが受け止めていた。

 

 

 

「……ったく、おせーよ……」

 

 

 

 小さな体で腕を受け止める新幹線のクリーチャー。

 ああ、会いたかった。

 今日ほどお前の事を待ち遠しかった日は無いぜ。

 

 

 

「──相棒ッ!!」

「ッじゃないでありますよ! 何で毎回毎回一番ヤバいタイミングで呼び起こすのでありますか、我がマスターッ!」

 

 

 

 怪物の巨腕をいなすなり、彼は大変カンカンに怒った様子で俺の眼前に飛んできた。

 

「本当に人使いが荒いであります!」

「そっちこそギリギリまで寝てんじゃねえ! 流石に2回目は避けられなかったぞ今の!」

「ステゴロで戦おうとするそっちが悪いであります、てか我は寝てないであります! 色々バグってて、こっちに出てくるまで大変だったのであります!」

「ちょっと二人共ーっ!? 修理が終わるまで持ちこたえてくれませんか!? ねぇ!?」

 

 やっべぇ、アカリの事を忘れてた。

 今は軽口をたたき合ってる場合じゃない。

 今度こそ、二人であいつをぶっ倒す!

 

「チョートッQ、デッキは!?」

「わ、我は何も知らないでありますよ!」

「だーっ、どうすんだ! デッキもねぇんじゃとんだお笑い種だ!」

「爺ちゃん、これを受け取ってください!」

 

 不意にデッキケースが飛んで来る。

 それを受け取ると、中には40枚のカード、そして──

 

「何だこれ?」

 

 ──見た事の無い裏面が白いカードが何枚か入っていた。

 

「そのデッキは、ジョーカーズのデッキです! それならきっと、使いこなせるはずです!」

「待って! 何だこの白いカードは──」

 

 

 

「──時間Gメンの権限を以て、実力を行使する」

『Gメン・執行開始(アレスターモード)……節制(テンパランス)、ローディング』

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