学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
今までシー・ジーが従えていた猿の怪物だ。きっとあれが、彼の切札なんだろう。
何だか不気味だ。
今まで俺が知っている水のクリーチャーとは一線を画す。
生物の姿を模していながら、全く感情や生き物らしさが感じられない無機質さ。
カシャカシャと音を立てて、丸いカメラアイが標的を捉えた。
「お爺ちゃん、気を付けて! 《ギャ・ザール》は今までのオーラとは比べ物にならないくらい恐ろしいカードです!」
「一体、何をするつもりなんだ……!?」
「トキワギ機関に逆らう愚かな類人猿共。お前達が私達へ反抗が成功する──その命題の答えは偽だ! 《アネモⅢ》で攻撃するとき、《ギャ・ザール》の効果発動!」
「アタックトリガー!?」
「その効果で手札より、コスト6以下のオーラ、または呪文を使う。私は《*/弐幻ケルベロック/*》を《アネモⅢ》へ付ける」
大猿に取り込まれていくのは三つ首の魔獣のデータ。
《ギャ・ザール》の瞳が妖しく輝き、再び起き上がる──
「なっ!? 攻撃中にアンタップした!?」
「《ケルベロック》が付いたクリーチャーは「ブロッカー」を得てアンタップする。そして、《アネモⅢ》で貴様のシールドをパワード・W・ブレイク」
大腕が一気に俺のシールドを薙ぎ払った。
これで残るシールドは3枚。
だけど、まだ《アネモⅢ》は攻撃出来る──思わず、俺の弱音は緊張混じりに押し出された。
「《アネモⅢ》で攻撃──《ギャ・ザール》の効果で《ケルベロック》を付けてアンタップ」
「させないっ、《バツトラの父》をタップして、その攻撃を無効化する!」
《バツトラの父》は相手が自分を攻撃するとき、タップする事で攻撃を止めることが出来る。
しかし、これも1回限りだったのか──
「──やっべぇ」
「安心しろ。《ケルベロック》はもう手札には無い。だが……連続攻撃が終わったとは言っていない。《アネモⅢ》で再び攻撃! その時、能力でカードを1枚引き、手札から《極幻星 ジュデ・ルーカ》へ
大猿に取り込まれたのは、星型のサイバー・コマンドのようなクリーチャーのデータ。
しまった、これで《アネモⅢ》のシールドブレイク数が上昇してしまっている。
その長い尻尾から散乱するようにして光線が放たれ──
「──パワード・T・ブレイク」
俺のシールドを一気に3枚、切り刻んだ。
一気に砕け散るシールド。
まずい。
俺の体は完全に剥き出しだ。
しかし──まだ、逆転の芽は残っている。今、手札に加わったカードが決め手だ。
……白銀耀、落ち着け。冷静に対処すれば……!
「諦めろ。此処で貴様を逮捕する」
「ッまだだァっ! S・トリガー、《SMAPON》でパワー2000以下のクリーチャーを全て破壊! そして、スーパーボーナスで俺はこのターン、敗北しない!」
現れたスマホのクリーチャーが熱線で《CS-20》を焼き払った。
そして、俺の眼前に巨大なバリアが展開される。
あ、危ない。間一髪──
「
──おかしい。
そういえば、砕かれたはずのシールドの破片がまだ空中に浮いている。
破片が鏡のように不思議そうな俺の顔を映した。
その時──それが歪み、次々にオーラとなって戦場へ解き放たれる。
「《ジュデ・ルーカ》を付けたクリーチャーがシールドをブレイクした時、その数だけ山札の上を捲る。そして、その中からコスト6以下のオーラを好きな数場に出しても良い」
な、何だってぇぇぇ!?
ちょっと待て、ってことはもう3枚もオーラが出て来るのか!?
「効果で《幽具ランジャ》、《*/弐幻ニャミバウン/*》、そして──《無修羅デジルムカデ》を使用。全てGR召喚してそれに付ける」
展開される超GRゾーンの穴。
「《ランジャ》を《甲殻TS-10》へ、《ニャミバウン》を《マシンガントーク》へ、そして《デジルムカデ》を《シェイク・シャーク》へ、それぞれ
チップからランチャーのようなクリーチャーが現れ、《ゲラッチョ男爵》に酷似したクリーチャーを蛇のようなオーラが飲み込むようにして取り込んだ。
そして鮫のようなクリーチャーからも覆い被さるようにして、《阿修羅ムカデ》に酷似したオーラが顕現した。
GRクリーチャーには見覚えのある姿も散見される。
だが、そんな事より今は──場に大量のオーラを纏ったクリーチャーが現れてしまったことの方が重要だ。
「《ランジャ》の効果で《ガチャダマン》をパワーマイナス3000で破壊。そして《ニャミバウン》の効果で《バツトラの父》をバウンス。そして《シェイク・シャーク》で《ダテンクウェール》を次のターン攻撃不能に」
成程、確かにこれでは頭を抱えるしかない。
これでは俺のクリーチャーはほぼほぼ機能停止したも同然。
次のターン攻撃出来るのは《SMAPON》と《ヤッタレマン》しか居ない。しかも──
「《デジルムカデ》の効果でお前のクリーチャーは全てタップして場に出る。加えて、《マシンガントーク》で《アネモⅢ》もアンタップさせて防御も万全だ」
「……成程な」
「お爺ちゃん……!」
不安そうな表情のアカリ。
絶望的な状況の俺。
成程、シー・ジーからすれば俺達は最早崖っぷちというわけだ。
「今、投降するなら手荒な真似はしない。どうだ? 降参するか? それとも、我が《ギャ・ザール》に砕かれるか──択べ」
「なあ、シー・ジー。三つ目の選択肢、追加していいか?」
「”泣いて詫びる”、か? 私は容赦はしない」
「……ハッ、ちげーよ──」
そうだ。こんな状況、選択肢は決まり切っている。
俺が選ぶのは──最後まで、諦めない事。そして、
「俺が此処で勝つことだ」
「ほう。まだ勝利を諦めないと?」
「俺はこの目で見たわけじゃないから、お前らの正しさだとか信念だとか、何が本当で何が間違ってるかも分からねえ。アカリの言ってる事だってまだちょっと信じられねえ」
「ちょっ、酷いです、お爺ちゃん!」
「では何故、そこの反逆者に与する?」
「決まってんだろ。他でもない俺の仲間の為だ。あいつらの変えられた歴史は、俺が元に戻す。正しいとか間違ってるじゃねえ。俺の歩んできた道の通りに直すんだ!」
「……くっ」
そうだ。
それが、俺のやるべき事だ。
歴史が上書きされたなら上書きし返してやる。
仲間との歴史を、取り戻してやる。
「くっ、ククッ……狂った証明だな、偽善者よ」
「ああ?」
「貴様は……それが本当に正しいとでも思っているのか? 仲間とやらの為に、”公益”を犠牲にするつもりか? それが、例え世界を滅ぼす事になっても?」
「世界を滅ぼす? どっちが狂ってんだ! デュエマを消したり、時間を書き替えたり──」
「それだよ、白銀耀。お前が狂っているのは、そこだ」
俺が……?
こいつ、何を言っているんだ。
「白銀耀。貴様は仲間思いではあるが……その本質が酷く歪で傲慢なエゴの塊だ」
「俺が……傲慢? 何言ってんだ、ゴチャゴチャうるせぇぞ! 俺はやらねえ善よりやる偽善を選ぶだけだ!」
「違う。偽善ですらない。お前はお前の為に戦っているのが何故分からない」
「何が言いたいんだ!」
嫌な汗が伝った。
「仲間の為に戦ってるんじゃあない。仲間の為に戦っている
「──ッ」
こいつ、何言ってんだ。
そんな訳は無い。
そんな訳はあって堪るか。
だって、俺は、俺は何時だって──俺じゃない、誰かの為に、仲間の為に戦ってるんだ。
「うるせぇな、さっきから……だから、どうしたってんだよ!」
「
「誰がお前なんかに分かって……!」
「お前は自分が気持ちいいから戦っている。違うか? 正しい側に自分が立っていると思いたいから戦っている。違うか?」
「そんな事──!」
「お爺ちゃん、冷静になってくださいッ!」
声が飛んで来る。
振り向くと、必死な表情のアカリが俺の顔を睨んでいた。
「デュエマを消すわけには、仲間との思い出を消すわけにはいかないんでしょ!? アカリも、仲間の為に戦ってるから痛いくらい気持ちは分かります! 何で自分が戦ってるのか見失わないで!」
「黙れ。口出しするな、反逆者。次はお前も逮捕してやるからな」
「お爺ちゃん! マスターカードを使って下さい! 早く!」
「マスターカード──あっ」
「お爺ちゃんに信用してもらえるように、アカリも頑張ります。だからっ、敗けないで!」
そうだ。
こいつが逆転の鍵だ。
信じてみるしかない。今はアカリの事を。
「……ありがとう、切札を借りるぜ……アカリ!」
刻まれるのはローマ数字のⅣ。
今こそアルカナの力を解き放ち、切札を切る時だ。
「相手ターンの終わりに、マスター・J・トルネード、発動──」
そうだ。
今は迷ってる場合じゃ無いだろ。
あいつの言葉に惑わされるな。
俺の……俺のやることは、最初から変わってないじゃないか!
「場のジョーカーズを合計コスト10以上になるように手札へ戻す。対象は《ウォッシャ幾三》と《SMAPON》だ!」
「おのれ、そのデッキにも入っていたのか! 白銀朱莉、余計な事を……!」
「合計コスト10達成。巻き起こせ、ジョーカーズ
戦場に吹き荒れる大嵐。
そこから水飛沫を上げて、
「これが俺の
刻まれるのは黄金のMASTERの紋章。
まだ、俺でさえも見た事が無い──青いジョーカーズの頭領がそこに立っていた。
「水文明のジョーカーズ……これが、《ジョルネード》……よし、一気に行くぞ!」
俺の言葉に頷いたガンマンは虚空に三発の弾丸を撃つ。
そこから現れた大穴から、GRクリーチャーが更に飛び出した。
「《ジョリー・ザ・ジョルネード》の登場時効果! 俺は3回、GR召喚をする!」
1発目は《ヤッタレロボ》。
2発目は《ジェイ-SHOCKER》。
そして3発目──超GRの穴にレールが敷かれていく。
「マスター! この穴に飛び込めば力が手に入るでありますな?」
「そう、みてえだな」
《ダンガンテイオー》がエリアフォースカードから飛び出す。
「なら……進むしかないでありますな! だからマスターは、ドカンと構えていればいいのであります!」
音速で穴へ突貫する《ダンガンテイオー》。
それが時空を突き破り──獣の如き咆哮を上げて戦場へ降り立った。
ああ、背中を押されちゃ仕方ない。
やるしかねえ。此処で──!
「これが俺の
獣の咆哮が戦場に轟く。
降り立つのは全身が紅く光る装甲に身を包んだ獣。
大地を踏みしめ、駆ける俺の切り札だ。
「《デジルムカデ》の効果はタップイン……だけど関係ねぇな。俺のターンの始めになりゃ、全員アンタップだ!」
「くっ……!!」
「そんでもって、俺のターン。2マナで《ウォッシャ幾三》を召喚! 効果で《ダテンクウェール》をGR召喚!」
「無意味だ。《デジルムカデ》でタップインしろ!」
いいや、これで良い。
確かに無意味に思えるかもしれない。
だけど──
「《ジェイ-SHOCKER》で攻撃……するとき、Jトルネード発動! 《ウォッシャ幾三》を手札に戻す!」
「!?」
「こいつのJトルネードで手札に戻したコストと同じクリーチャーを、相手は場に出せない!」
そうだ。
幾らオーラと言っても、本質は下にあるカード。つまり、召喚さえ封じてしまえばオーラも付けることは出来ないはずだ。
コストはどっちを指定すれば良いか迷ったけど……《アネモⅢ》と《シェイク・シャーク》、《TS-10》は3コストだった。
つまり、少なくとも超GRゾーンの半分以上がコスト3のカードってことだ。
残りがコスト2の《マシンガントーク》と《CS-20》だから、外れる可能性もある。だけど無策で突っ込むよりよっぽどマシだ!
「シールドをブレイク。言っておくけど、《ジョルネード》の効果で俺のジョーカーズはブロックされねえからな!」
「くっ……!」
「《ジョルネード》でシールドをW・ブレイク!」
嵐の弾丸が二発、相手のシールドに撃ち込まれた。
しかしそこからも何も出てこない。
結構ギリギリだけど……このまま押し切るしかない!
「そして、《ダンガスティックB》で攻撃! こいつは、場とマナにジョーカーズが合計8枚以上あれば……パワー8000のW・ブレイカーになる!」
「ガァァァァァーッ! 押し潰すでありますよォーッ!」
吼えろ鋼の暴獣。
風のように疾く走り、そして駆ける。
そして鋭く、そして重い爪がシー・ジーの残るシールドを叩き砕いた。
しかし、そこから2つの光が飛び出す──S・トリガーか!
「S・トリガー、《ニャミバウン》、そして《ランジャ》……GR召喚して
だが、彼は言葉を失う。
捲れたのは《アネモⅢ》。《ジェイ-SHOCKER》の効果でバトルゾーンに出る事を封じられている、コスト3のクリーチャーだ。
場にクリーチャーが出なければ、そもそもオーラを付ける事も出来ない。
そして出ないGRクリーチャーはそのままトップ固定される──だから、もうあいつは何も出来ないんだ!
「おのれ……こんな解は、有り得ないッ!!」
悪態を吐くシー・ジー。
彼に向かって、機械化されたジョーカーズが襲い掛かる。
これで、終わりだ!
「《ヤッタレロボ》でダイレクトアタック!」
※※※
膝を突いたシー・ジーから逃れるようにしてタイムマシンに飛び乗り、何とか一息吐いていた。
まだあいつも諦めた様子は見せていない。
とはいえこれで一安心だ。この時代──変えられた現代を抜け出す事が出来る。
「お爺ちゃん、これから2016年のダッシュポイント……タイムマシンで侵入可能な時代に向かいます」
「そこで時間Gメンの時間改変を食い止めるんだな?」
「はいっ。奴らの施した工作を止めます」
変えられた時間を戻す事が正しいのか。
あいつらが、時間Gメンが戦っているのは公益──レジスタンスを滅ぼす以外にも何か目的があるのか?
分からない。分からないけど──
「アカリ、ありがとな」
「はい?」
「デッキと切札を貸してくれたことだよ」
「はいっ。当然です。私にとって、お爺ちゃんは若くてもお爺ちゃんですからっ」
「……俺は、お前の事を信用してなかったのにな」
「大丈夫です。これから信じてくれれば、それでいいです。アカリは、お爺ちゃんの味方です」
「……ありがとう」
まだ俺は何も分からない。
だけど──今頼れるのはアカリ。
そして。
「さーて、マスター! 何があったのか、説明してもらうでありますよ!」
「ゲッ、そういやお前、何も知らないまま駆り出されたんだっけか」
「お、おおお! チョートッQ! チョートッQじゃないですか! これが爺ちゃんの守護獣ですね!」
「何でありますか!? マスター、彼女についての説明を求めるでありますよ!」
「ああ……イチから全部説明すると長いんだけどな……」
こうして全部チョートッQに説明した。
彼も半信半疑だったが、最後には頷いていた。
「少し分からないであります」
「まあ分からないよな」
「いや、そうじゃなくて。分からないのは
「!」
そうだ。
何で俺の
「特異点であるお爺ちゃんと契約してるから、とかですかね? 憶測ですけど」
「ってことは、お前にも分からないのか……」
「だって、特異点なんてそう居るわけないじゃないですか。事例が少ないんです」
そりゃそうだ。
特異点なんて例外中の例外のはずだ。それでも、何か理由があるはず。
そんな気がしてならない。
「何であれ、今は仲間を元に戻す事が先決であります」
「ああ。皆を元に戻さないと──」
そう言いかけた時。
ズキリ、と胸を刺すようにシー・ジーの言葉が脳裏に浮かんだ。
お前は自分が気持ちいいから戦っている。違うか?
……。
そんなわけ、ないだろ。
俺は、皆の役に立つために頑張って来たんだ。じゃナきゃ、俺ハ──何ノタメニ、自分ヲ殺シテ
「マスター?」
「──あっ、いや、なんでもねえ」
いけない。
こんな事に何時までも囚われている暇は無い。
俺は、俺がやらなきゃいけない事をやるだけだ。
それは仲間を元に戻す事。先ずは、そう来なきゃ始まらないんだ。
「行くぞ相棒。今度は時間を超えた戦いだ」
「応、であります! このチョートッQ、時の果てまでも付いていく覚悟であります!」
「ちょっとお爺ちゃん、私の事も忘れないでくださいね!」
「あのマスター、コイツさっきからマスターの事じーちゃん呼ばわりでありますが良いでありますか?」
「事実、そうなってるみたいだからな……」
ともあれ。
今は進むしかない。
いや、遡るしかない。時間の流れを辿って、そして元に戻す。
俺の知ってる世界に、デュエマと仲間を取り戻すんだ。
そう、俺が意気込んだ時だった。
突如、機内に警報が鳴り響く──そして、アカリが蒼褪めた顔で言った。
「大変です、爺ちゃん──」
「なあ、これ何なの? ヤバい音してんだけど」
かくかく、と震える首をこちらに向け、彼女は呟く。
「後方、約40機──時間Gメンのタイムマシンが、追ってきます──」
……ヤバくない?