学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「──よ、40機ィ!?」
と俺が叫んだ矢先、機体が大きく揺れる。
駄目だコレ、下手したらぶっ壊れるんじゃねえのコレ!?
エアロマギアの時でさえ、障壁にぶつかっただけであれだけ揺れたのだ。
外で何が起こっているのか想像に難くない。
「もしかしてこれ、攻撃受けてるとか……?」
「あははは……正解、ですかね?」
「じゃねーよ! どうすんだコレ!」
「我々、こんなよく分からない所で死にたくないでありますよ!」
「うう、仕方ないじゃないですか! これ旧型のオンボロ機なんです、2017年がヤバいからわざわざこれで無茶してて」
「つまり時間Gメンのタイムマシンは最新型だと」
「そう……なりますかね?」
「猶更悪いわ! どうするんだ!」
「一度2079年に帰還します! するしかありません!」
余程2016年のダッシュポイントを死守したいのだろう。
時の回廊で幾何学的な隊列を組んで飛ぶそれらしき影の数々が光線を放ってきているのが窓からも見える。
「仕方ありません、お爺ちゃん、5秒数えるんでその間にシートベルトを付けて下さい!」
「そんなものあったのか!? ちょっと待──」
「いーち──ワープに入りますッ!!」
一秒しか経ってない──と叫ぶ間も無かった。
座席に座り損ね、シートベルトすら付けられなかった俺は、彼女が叫んだ途端に強烈な耳鳴りと共に、後ろへ吹っ飛ばされたのであった。
「ぎゃあああああおろろろろろろろろろろろろろろろろろ」
「マスタァァァ!?」
「しっかり掴まってて下さい!」
後ろを全く見ていないアカリの一言がトドメを刺す。
一体何処に掴まれと!?
いや、死ぬかと思ったね。
いきなり重力の法則が無視されて、身体が浮き上がってそのまま飛んで行ったからな。
今まで何度か死に掛けているけど今回のもなかなか強烈だった。
「ほげぇぇぇおろろろろろろろろろ」
「ちょっとお爺ちゃん五月蠅いです!」
「アカリ殿ォ!? マスターが白目剥いて転がってるでありますよォ!」
「ごめんなさい、聞こえませんッ!」
「アカリ殿ォォォ!?」
……今でこそ達観してるけどさ、当の俺は滅茶苦茶痛かったし揺れですっごく気持ち悪かったとだけ。今回のヤバさは上の下くらい。
頭かき混ぜられた所為で、もう目が回ってて、呂律の方は全く回ってなかったね。
「おぇ、うっぷ、おろろ……何処は此処? 誰は俺?」
「ごめんなさいお爺ちゃん、敵の攻撃が想像以上にヤバくて数えている暇がありませんでした」
「ねえ、やめよう? せめてもっとお爺ちゃんを労わろう? 俺死んだら、君ヤバいんじゃないの」
「本当にすみませんでした、はいエチケット袋」
吐きそうになりながら俺はフラフラのままアカリに連れられる形でタイムマシンの出口から地面へ転がり落ちた。
今度からは乗ったらすぐに座席に座ってシートベルトを付けよう。
というか、事前に知らせてくれよ……本当マジで。
「見てくださいお爺ちゃん、着きましたよ」
「待って、もうちょっと吐かせ、げろろろろろ」
「マスタァァァ!?」
「もう……この程度で吐くなんて、平成生まれは温室育ちってのは本当だったんですね」
「お前の所為だよこのウマシカァ!! 人の話は聞かねえわ、人に肝心なことは言わねえわ、未来の俺はお前に何を教えてたんだ!」
「マスター、そんなことよりアレを見るでありますよアレを!」
「ああ!?」
もう2018年に帰りたくなっていたが、周囲を見た途端言葉を失った。
タイムマシンが降り立った場所は──廃墟。
足元には大量の瓦礫が散乱しており、空は灰色だ。
方々には崩れ落ちたビルや、骨組みだけの建物が点在している。
だが、そのいずれも──何処か見覚えのあるものばかりだ。
「これは……一体」
「マスター、此処は……」
「人工都市・
※※※
「
「かつてはそう呼ばれていたようですね」
「……一体、何があったんだ」
海戸ニュータウン。
デュエリスト養成学校である鎧龍決闘学園を中央に抱く巨大な埋め立て都市。
しかし、それでもこの荒れ方には違和感を感じた。
あれだけ人がいた街なのに、全く人の手が加わらないまま朽ち果てた──いや、それどころか当時の姿のままある時を境に荒れ果てたようにさえ見える。
落ちている看板には、俺も知っているような名前のデパートが書かれているし。
まるで──此処だけ時間が止まってしまっているようだ。
「2018年──今から61年前の事でした」
ぽつり、と彼女は語り出す。
瓦礫に塗れた道を歩きながら、何処かもの悲しそうに。
「お爺ちゃん達が戦っていた実体化するクリーチャー、ワイルドカード。それがある日、全世界で大量発生したんです」
「大量発生? それだけなら魔導司でどうにか出来そうな気もするが」
「もう詳しいデータも残っていませんが、推定10億人以上が最初の日にワイルドカードに憑依され、
「クリーチャーに、なった?」
「はい。ワイルドカードという現象がどのようなものなのかも分からないまま……全世界で」
「……俺達でも、どうにもならなかったのか」
「ならなかったようです」
「──!!」
ちょっと待てよ。
つまり、時間Gメンの介入が無ければ、ワイルドカードによって世界は壊滅的な打撃を食らうってことじゃないか。
「馬鹿な! じゃあデュエマのクリーチャーが世界を滅ぼすってことじゃないか!」
手が震えて来る。
世界の終わりも良い所だ。
俺達は、どうなった?
俺は確かに無事かもしれない。だけど──デュエマ部の皆や黒鳥さん、桑原先輩、翠月さんは? 花梨は?
あいつらは、どうなっちまったんだ?
「なあ、俺達はどうなった?」
「お爺ちゃんは、そこまで詳しく話してはくれませんでした! だって、あんなに深刻な顔するお爺ちゃんは、その時のことを話している時くらいでしたから……」
「……」
詳細は分からない。
だけど、どの道壊滅的な結果に陥った事は確かなのだろう。
「この時代の俺は何処にいるんだ!?」
「分かりません……」
「何やってんだよ未来の俺はッ!」
アカリが肩を震わせた。
ごめん、だけど叫ばずにはいられなかった。
自分の孫にこんな事をやらせている場合じゃないだろう。
呆れを通り越して怒りすら湧いてくる。
デュエマが世界を滅ぼす未来、そしてこの時代の俺がこの場に居ない事への失望。
淀んだ空、荒れ果てて誰も住まなくなった街。
海はどろどろに黒ずんでいる。
世界は、クリーチャーによって荒らし尽くされてしまったのだろう。
未来は──放っておいても絶望の道を辿るしかない。
「結局、ワイルドカードをの大量発生を止めなきゃ、トキワギ機関を止めても意味が無いのか」
「そうなりますね……はい。タイムマシンを開発していたトキワギ機関がデュエマを消そうとしているのは、ワイルドカードの大量発生を止める為ではないかと私達は推測しています」
「……」
「でも、もしそうなった場合、私達は……トキワギ機関に反抗する手段を完全に失う事になる。今、世界が荒れ果てているのは、彼らが物資を独占しているからなんです」
「物資の独占?」
「はい。彼らの作った中央国家……ディストピアは彼らが選別した人しか居住権が無い。それ以外の人間に人権はありません。また、資源も物資も他の国から一方的に搾取しているんです。上層部の私腹を肥やす為に」
「成程な。ワイルドカードの大量増殖で国家機関が麻痺したところに、トキワギ機関は君臨したってことか」
「はい……日本も、ほぼ壊滅状態で、今は各県が独立国家となって自治を敷いている有様なんです」
「……県が独立国家って……」
「この状況を打破するには彼らの目論見を阻止し、尚且つワイルドカードの大量発生を止める必要があります」
敵は二つ。
2018年に発生するワイルドカードの氾濫、そして2079年の未来を牛耳るトキワギ機関。
いずれも放置しておけば、問答無用で俺達の未来を終わらせる。
漠然とした感覚しか湧いてこないのは、今回の事件も事件で怖ろしく規模が大きいからだろう。
「マスター……」
「どうにかするっきゃねえだろ」
手が震えてきた。
仲間を目の前で失うかもしれない。
未来の俺が悲嘆に暮れていたのは、そこに理由があるかもしれない。
だから──変えなきゃいけない。たった俺一人でも。
「いや、どうにかしてやる。仲間を助ける為に」
「……それでこそ、お爺ちゃんですっ!」
「で、どうすれば良いんだ? 此処は廃墟だし……」
「そうでもないですよ?」
アカリは悪戯っ子のような笑みを浮かべると、足元のマンホールに手を掛け、手に持った端末を翳す。
すると、意図も簡単にそれが開いてしまった。
「なあ、下水道の中に入るのか?」
「はい。それと、タイムマシンを仕舞っておかないと」
言ったアカリは、カードを取り出す。
すると、オンボロの機体はすぐにその中へ吸い込まれるように消えてしまった。
「……それ、どうなってんだ?」
「タイムマシンは人工的に作られたクリーチャーみたいなものなんです。魔法技術が組み込まれているので」
「成程な……科学じゃ成し得ない領域を魔法で補ってるのか」
「それじゃあ、この中に入りましょう」
彼女は開いたマンホールの蓋を指差した。
……正直入りたくないんですけど。
「……本当に入らなきゃ駄目?」
「本物程臭くはないですよ?」
「……臭いのか」
「私は何て事無いですけどねっ」
「慣れたのか……」
下水道の奥に何があるのだろう。
降りると、妙にキツイ匂いが漂う。
そして──俺は目を思わず見開いた。
「街が……!」
無数の窓が、そして天井へ向かって伸びる幾つもの建物が目を覆った。
地下空間に、超巨大な集合密集住宅が敷き詰められている。
「これが海戸ロストシティの真の姿です。人々はクリーチャーの襲撃を逃れる為、必然的に地下へ追いやられる事になりました」
日本の中でもクリーチャーの影響で住める場所と住めない場所がありますが、此処はまだ住める方だそうだ。
それにしても滅茶苦茶な建築である。俺が知っている限り日本は地震大国だ。
「大丈夫なのかコレ? 大きな地震が来たら一発で壊れるんじゃ……」
「そうなりますね。一応技術で対策に対策こそ重ねてますが……はっきり言って欠陥建築も良い所です。でも、クリーチャーから逃れるには……これしか方法は無かったようです」
地下に巨大なアパートや集合住宅が幾つも”埋められている”。
それが現在の海戸ロストシティの構造らしい。
地震への対策こそしてはいるが、何時崩壊してもおかしくは無いという。
また、幾つもの階層構造となっており、街に幾つもある階段やエレベーターで下へ下へ降りることが出来るという。
「第二階層以降は迷路のようになっているので、迷わないように。私の近くに居て下さいね?」
「お、おう……迷ったら二度と戻ってこれないかもだからな」
と言って俺は絶句した。
そこに広がるのは迷路のように入り組んだ街。
悪臭が漂い、太陽の代わりにオレンジ色の薄暗い照明が灯りとなっている。
そしてこの階層そのものがスラム地帯と化しているのか、住宅にすら入れず段ボールに包まる人や、衣服がボロボロの人が散見された。
此処は、本当に日本だったのか?
「……トキワギ機関ははあらゆる富を自分達の作り上げた国家に集中したんです。その結果、他の国では深刻な物資不足が起こってるんです」
「世界中でこんな事が起こっているのか……本当に、大変な事になってるんだな」
「ええ、そして何より此処、すっごく治安が悪いんです」
「……大丈夫なの? コレ」
「大丈夫ですよ。エリアフォースカードさえ持っていれば、向こうからは襲ってきやしませんから」
──ふと、視線を感じた。
ホームレスや、街を歩く人々からの視線が俺に集められている。
だが、それは決して明るい意味のそれではない。
羨望。あるいは獲物を狙うかのようなギラ付いた視線。
または不信感だ。
妙な居心地の悪さを感じていた。
「目を合わせないように。今のお爺ちゃんに出来る事は何も無いので」
「いや、だけど」
「どうせ今は上げるものも無いですけど、持ってるモノ持ってたら集られたり、盗られますよ? 裏路地の方じゃカツアゲ、強盗、人殺しなんてのはしょっちゅうです」
「犯罪が蔓延してるのか」
「日本が形を成さなくなってから何年経ってると思ってるんですか。日本国の法律も道徳もとっくに形骸化してます。此処をシメてるのは、自警団も兼ねているレジスタンスと闇市を取り仕切るマフィア組織ですから」
「闇市? マフィア?」
「はい。今の物流を取り仕切ってるのは彼らなんです。奴らのドンがエリアフォースカードの使い手ですから。まあでも、どうにもなりませんね」
「どういう事だよ」
「レジスタンスの敵は機関だけで精一杯なんです。マフィアの非人道的行為にも目を瞑るしかないんですよ。だからどうにもなりません」
「そんな他人事みたいに」
「他人事ですよ。自分だけでどうにか出来ない事を全部を全部自分事のように考えてたら……気が持ちません」
彼女の見せる自分達の境遇への一種のドライさは……幾つもの問題に対して精神的に圧し潰されないようにするためのものなのだろう。
そればかりか、こんな状況では人々の間にも利己心や猜疑心が蔓延っているのは確かだ。
自分達が自分の為に生きなければ生き残れない……そんな世界なのだろう。
「だから──過去さえ変えれば、全て良くなるはずなんです。ワイルドカードや……トキワギ機関さえ無ければ、こんな事には」
閉塞した地下都市を歩きながら、俺は嘆息した。
ワイルドカードが起こした大災害は──太陽も、人の心さえも壊してしまったのか。
誰もが手を取り合えばもっとマシな未来になったのかもしれない。
だけど、現実はそうはならなかった。
トキワギ機関も、此処を取り仕切るマフィアも、自分の事だけしか考えなかったのだろう。
いや、きっと自分の事以外考える余裕などないのだ。
この世界の荒れ果て方では──何処にも希望等見えないように思えて来る。
だから、アカリも、トキワギ機関も、過去を変えて今の世界を変えようとする方向に舵を切るしか無かったのだろう。
「嫌ァァァーッ!!」
突如。
耳を劈くような音が聞こえた。
明らかに恐怖が入り混じったそれだ。
悲鳴の聞こえた方向は明確だ。
確かに、今の俺がこの街に出来る事なんて無いに等しいかもしれない。
「待って下さいお爺ちゃん、何処に行くんですかッ!」
だけど、この身体は──静止を掛けて止まる程賢くは無いのだ。