学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR8話:海戸ロストシティ──現実

 視線を下に下ろす。

 露になった脇腹に、火傷のような傷があった。

 

「お前、その傷……」

「こういう()()()が好きなんだって。熱い鉄の塊で背中にジュッて押すんだよ?」

「──ッ」

 

 背筋が凍った。

 そんな事を強要する奴が居るのか。

 こんな年端もいかない少女に。

 背中に広がっているであろう火傷の痕。其れは恐らく一生消えないはずだ。

 

「だけど、我慢したんだ。お母さんと、お父さんが悪いから、って言われて──だから私も悪いんだって」

「そんな事、ねえだろ」

「ううん。でも、我慢するしかなかった。私が、悪いから……私が出来る事はそれしかないから、ずっと──」

「じゃあ猶更、自分の身体大事にしろよ! もう、そんな酷い目に遇う事ぁ無いんだぞ!? 俺がお前を守ってやる、約束する」

「……本当? でも……それじゃあ私が納得できない。私には、これしか出来る事無いし……」

「出来る事が無いなんてこたぁない。これから増やしていけば良いだろ。人生、生きてりゃ割と何とかなるぞ?」

「そう?」

「そうだよ」

 

 だから、彼女にはもっと自分の身体を大事にしてほしい。

 劣悪な環境に居たのだから、すぐに慣れるのは無理だと思うけど。

 

「でも残念──お兄さんの身体、抱きたかったのに」

「だから、そういうのは本当に好きな人とな」

「……お兄さんの事、結構気に入ってたんだけどなあ」

 

 少女は口を尖らせて、残念そうに言った。

 

「食べちゃいたいくらい……好きで、誰にも渡したくなかったんだけどなあ」

「渡したくない?」

「お兄ちゃん、女の子連れてた」

「あれは……親戚みたいなもんだよ」

「そう……なら良かった」

「良かったって?」

 

 彼女は少しおかしそうに微笑んだ。

 ああ、良かった。こんな屈託のない笑みを浮かべられるようになって。 

 もう少し塞ぎ込んでてもおかしくはなかったのだけども。

 アカリはこの子をレジスタンスで保護すると言っていた。だから、これから真っ当な未来を歩めれば良いんだけど。

 

「うん、本当に良かったっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方を誰にも、渡サずに、すムか、ラね」

 

 

 

 

 

 

 

 少女の口が、耳まで裂けた。

 

「え?」

「──うレ、シィ、私ダケ、のモノ、ひトりジメ」

 

 いや、最早少女の顔のそれではない。

 裂けて、ガバァッと開いた大口には──凡そ人のそれではない歯がずらりと並んでいるのだった。

 心臓が、ずきりと痛む。

 恐怖で。

 

「な、何なんだ!? ユイ!? どうしたんだ!?」

「キャ、キャ、キャキャ、綺麗な顔──喰イ、たイワァ、丸ごト、ねぇ」

「おい、え、ちょ──チョートッQ!! チョートッQ!!」

 

 駄目だ、呼び掛けても全く声がしない。

 何が起こったのか分からない。

 だけど少なくとも、最早目の前に居るのはクリーチャーであり、俺はクリーチャーにマウント取られて組み伏せられているので動けない。逃げられない。

 そう言えば、だ。

 鍵が掛かっている部屋にどうやって彼女は入って来た?

 もし、彼女が普通の人間じゃなかったとしたら?

 いや、違う。そもそも──ユイがクリーチャーだったとしたら?

 

「ワイルドカード──ッ!!」

「キャキャキャキャキャキャキャキャ、唇ヲ吸ッテ、顔ノ皮ヲ剥イデカラタベルノダケドォ──ヤッパ、丸ゴトガ、一番、ヨネェ」

「ふ、ふざけんなッ! この野郎──」

 

 嫌だ──!

 こんな所で食われて堪るか!

 だって、だって──まだ俺にはやらなきゃいけない事が山積みだっていうのに!

 

 

 

 

 ──そんなボランティア精神で、この街のいざこざに全部首を突っ込んでたら、命が幾つあっても足りません!

 

 

 

 

 そんなアカリの言葉が、脳裏に過る。

 無意味だったってのか。

 無駄だったってのか。

 やらなきゃいけない事が山積みだったのに、人助けに脇道逸れたのがそんなにいけなかったのかよ!?

 俺は唯、助けたかっただけなのに。

 どうしてこうなるんだ!? 俺のやった事は──

 

 

 

「イ、タダキ、マァァァァァァグエッ」

 

 

 

 

 

 

 乾いた銃声が、何発も響いた。

 見ると、扉をすり抜け、青い弾丸が飛んでいる。

 

 

 そして、それが幾つも怪物の側頭部を撃ち貫く。

 

 

「グェッそ、ンナァ……」

 

 間もなく、化け物の頭は消え失せ──1枚のカード、そして頭の無くなった少女がベッドから転がり落ち、凄惨な火傷痕を俺に見せていた。

 

「──お爺ちゃんッ!!」

 

 扉が開いた。

 無理矢理こじ開けたのか、息を切らせたアカリがそこに立っていた。

 その背後には、青いガンマン──ジョルネードが立っており、間もなく彼女の持つカードへ吸い込まれて消えた。

 

「大丈夫ですか!? 怪我は!?」

「あ、ああ……俺は、大丈夫だ」

 

 だが、少女に目を落とす。

 その身体も、最早消えつつあった。

 

「今、その子の身元を確認したのですが……彼女の働いていた店で……その、彼女が相手をした客が次々に死ぬ事件が発生したそうなんです。被害者は皆、首から上が無くなってたようで」

「……そういう、事か」

「恐らく、もうとっくにワイルドカードに憑りつかれて、成り代わられてたんじゃないでしょうか……この様子だと。それでベッドを見たら何時の間にか居無くなってて、お爺ちゃんの部屋から妙な気配がして」

 

 バクバクと鳴りっぱなしの胸を抑える。

 ……こんな事って、あるかよ。

 ワイルドカードに憑依され、クリーチャーが実体化すると宿主は死ぬ可能性がある。

 元のクリーチャーが強力であれば、ある程だ。

 しかし、転がっているカードは──《毒吐きダリア》。そんなに強力なカードではないはずなのに、憑りつかれた期間が長かったのだろうか。

 彼女の頭はクリーチャーに食われてしまっていたようだ。

 

「チョートッQは完全に眠らされてます。クリーチャーの能力でやられたんでしょう」

「なあ、人助けしない方が良いって、こういう事があるからか?」

「そういうわけではないです! ワイルドカードが地下都市に侵入してくる事自体が珍しいですから」

「そうか……なら良かった」

「良かったって──」

「最後の被害者が俺だったからだよ。それで全部終わりだったからだ」

「……」

 

 酷い火傷痕を見やる。

 思わず拳に力が入った。

 

「なあ、アカリ。タイムマシンで、この子がワイルドカードに殺される前に戻れねえのかな。いや、こんな酷い火傷痕を付けられる前に戻れねえのかな」

「……タイムマシンは、どんなに最新鋭のものでも出発した時代とダッシュポイントの間以外は行き来出来ません。決して、万能じゃないんです」

「助けて、やりたかったよ。だって、首から下の火傷痕は……あの子のものだろ?」

「……だから言ってるんです。全部自分の事のように扱ってたら、お爺ちゃんは……壊れてしまいます」

 

 それでも。

 そうだったとしても。

 あの瞬間に感じた体の冷たさは、決して偽物じゃなかった。

 

「世の中には……どうにも出来ない事の方が多いです。だからせめて、私は……出来る事をやろうと思ってる。それだけです」

「……そう、だよな」

「でも、お爺ちゃんの気持ちも本物だったと思います。否定は……出来ません」

 

 俺は放心状態のまま天井を見つめていた。

 何か、俺は──間違っていたのだろうか?

 

「今、レジスタンスの調査団が宿に来ています。此処を出ましょう、お爺ちゃん」

「……そうだな」

 

 俺はアカリに連れられるようにして外へ出る。 

 入れ替わるようにして、彼女が呼んだレジスタンスのメンバーが部屋へ押し入っていった。

 ただただ、己に無力感を感じながら、俺は部屋を出た──

 

「あっ、団長! お疲れ様です!」

 

 アカリの声が跳ねた。

 団長? レジスタンスの団長だろうか。

 もう来たのか……速いな、と思って見やった時、俺の体は硬直する。

 彼女は杖を突いた老婆だった。

 両目には眼鏡を掛けており、髪の色は──金色。

 

「ギャッ!!」

 

 そして、踏まれた猫のようなしゃがれた声が飛んできた。

 思わず俺は彼女の顔を見やる。

 幽霊でも見たような青白い顔で彼女は叫んだ。

 

「し、白銀耀ッ……!!」

「え? 俺の事知ってるの? 婆さん」

「はっ、はははっ、よくも言ってくれるじゃねえか。来るのは分かってたが、いざこうして目にしてみると……自分が如何に老けたのかがよく分かる」

「えーと……誰?」

「お爺ちゃん、まさかその年でボケたんですか?」

「失礼な! 知り合いには違いないけど、一応60年以上経ってんだぞ!」

「クッソ屈辱だがまあ良いだろう」

 

 金髪と言えばブランを思い浮かべるが、彼女とは雰囲気が違う。

 主に口の悪さとか。

 俺の知り合いに居る口の悪い金髪の女と言えば──

 

 

 

「ご紹介します。現レジスタンスの団長、トリス・メギスさんですっ!」

 

 

 

 ──今、何て?

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