学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
──言わば、レジスタンスの拠点と呼ばれる場所はロストシティの最下層に位置していた。
各階層に駐留所こそあるらしいが、所謂本拠点は此処らしい。普段ならば、誰も立ち入る事の出来ない場所。
そして、最下層でなければならない場所だという。
「様々な研究施設が、此処に集中している。守りは頑強で、地震どころか核爆発でも壊れやしねえよ」
とは、そのレジスタンスの団長に就任していたトリスの科白だった。
「なあ、そろそろ教えてくれないか? 何でトリスがレジスタンスの団長になってんだよ」
「こうしてみると、あの頃の憎々しい顔そのままだ。杖でボコボコにしたくなる」
「団長、自重してください」
「わぁーってるよ」
「なあ、質問に答えてくれ」
「コホン。まあ、そっちも色々大変だったな」
研究室の一角に俺とアカリは座らされていた。
せめてのもてなしのつもりか、お冷がコップに入れられて置かれていた。
「地下水を濾過した水だ。水だけは……何とか、なっている。地上の水源の殆どは汚染されたが、それを濾過する技術も出来ている。魔法の力もあってな」
「なあ、そろそろ本題に入ってくれねえか?」
「急かすな。今も言っただろ。レジスタンスってのは、アルカナ研究会……いや、魔導司組織の生き残りみたいなもんなんだ。今の世界の技術に魔法が組み込まれてるのはその為さ」
「生き残りって……アルカナ研究会は無くなったのか?」
「ファウストが死んだ以上、あたしが引き継ぐしかなくなった。まあ、ファウストだけじゃない。大半のメンバーがワイルドカードとの戦いで命を落とした」
「……」
火廣金は、なんて怖くて聞けなかった。
トリスのしわくちゃの悔しそうな顔を見ると……とてもじゃないが、口には出せない。
「お前の顔を見ると……ヒイロのやつを思い出しちまうね。今のお前と、同い年くらいだったからな。あれから、もう60年経つわけだが」
「……死んだのか。火廣金も」
「死んだ、と思う」
「……」
俺は居た堪れなかった。
そのまま悲痛な沈黙がその場を支配していた。
「希望は持たない方が良い、ってことだ。お前の仲間の生存に関しては」
ぽつり、とトリスは言った。
「はっきり言って、誰もお前の仲間が死んだ所なんざ見てねえんだ。分かるか?」
「というのは……」
「エリアフォースカードの使い手の殆どは、戦いの中で散り散りになった。何処に誰が行ったのか、情報も何も残っちゃいねえんだ。死んだのかもしれない。生き残ったのかもしれない。戦いに疲れ、今も息をひそめて暮らしているかもしれない。だけど……希望は持たない方が良い」
「……」
トリスは苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「勝ち目はほぼ無いと言っても良かった。人間が次々にクリーチャーになっていくんだからな。多勢に無勢だ、魔導司は次々に集団で嬲り殺されていった」
「……」
「だけどな。ある時突然──
「戦局が変わったのか」
「ああ。そして、その使い手によって組織されたのが今のトキワギ機関だ」
「そいつの事は分からないのか?」
「分からない。用心深い奴なのか、トップの詳細は未だに掴めてねえんだ。あれから60年近く経ってるが、人間か魔導司かもわからん」
俺は、辛さを押して聞き出す事にした。
「俺は、どうすれば良いんだ?」
「……過去を変える上でお前とアカリにやってもらうこと。それは、2018年4月1日……この時点までにエリアフォースカードを全て集める事だ」
「1か月しかねぇじゃねえか」
「そうだ。時間は無い。急いで残りのカードを集めなきゃいけねえ」
エリアフォースカードは大アルカナのタロットカードと対応している。
全部で22枚。途方も無い話だと思っていたが、そういえば今の時点で俺達が持ってたカードはどれほどだっただろうか。
「お前達。今の時点で持ってるエリアフォースカードを教えてくれ」
「俺達が持ってるのが
「アルカナ研究会が持ってるのは、
「あれ全部で17枚だっけ? 1枚足りないような……あっ、ノゾム兄の目覚めてないカードがあるじゃねえか。これで18枚」
「となると後4枚でありますか。多いような少ないような……」
「……それと、出力を上げるために出来るだけ覚醒させたカードが望ましいだろう」
となると、出来る限りエリアフォースカードの使い手も集めなければいけないのか。
「今、レジスタンスにはエリアフォースカードの使い手は一人しか居ない。アカリだけだ。後は魔導司の生き残りと、エリアフォースカードの複製品で何とか賄ってる状態だ」
「複製品?」
「レジスタンスのメンバーは大抵持っている。逆に時間Gメンの連中も複製品のエリアフォースカードを持っているんだ。出力は著しく落ちるが、無いよりはマシだ」
「ってことは、シー・ジーの持ってた節制のカードも複製品ってことか」
「そうなるんですかね? それにしては強かった気がしますけど」
「シー・ジーか。あいつの名前は聞いたことがある。時間Gメンの隊長格だ。それなら本物を持っていてもおかしくはない」
しかし下っ端も全員エリアフォースカード使いという事か。
数があれだけ多いと、まともに相手をしていると大変な事になる。
「ただな。タイムマシンってのは厄介な性質を持っていて、少なくとも本物のエリアフォースカードを持っていなきゃダッシュポイントへ到達出来ない」
「そうなんですか? でも、時の通路には時間Gメンのタイムマシンが大量に──」
「あれは通路を巡回してるんだ。レジスタンスのタイムマシンを待ち伏せするためにな。これを回避するには最新型のタイムマシンを使うしかない」
「じゃあ、敵の数自体は少ないってことなのか……」
「ああ。タイムマシンの収容人数を考えると、そう多人数は運べないはずだからな」
此処で良い事を聞けたぞ。
相手は少数精鋭というわけだ。
つまり、旧型のタイムマシンで時の通路を飛ばない限り、物量で圧殺されることは無いということじゃないか。
「それで、アカリは何のカードを持ってるんだ?」
「私のは……
「でも守護獣が見当たらないでありますよ?」
「ジョルネードはどうなんだよ」
「あれは魔力で実体化させてるだけです。本当の守護獣は別にいるんですけど、後で紹介します」
何処か含みのある言い方だ。
猶更、気になって来るじゃないか。
「なあ、全部のエリアフォースカードを集めたらどうなるんだ?」
「元々、エリアフォースカードは22枚全てが連動して起動し、とてもつない魔力を発するようになっている。それこそ、文字通り戦略兵器レベルの威力でなァ」
「そうだったのか!? そんな話初めて聞くんだけど」
「お前が知らないのも無理は無い。つい最近、大魔導司メフィストの魔法工房が見つかって明らかになった事さ。……だが、これまでカードが全て揃った事は一度も無い」
俺達の時代でもまだ揃ってないカードがあるからな。もう少しで揃いそうだった所にワイルドカードの大氾濫が起こったってことか。
「だから、時を駆けて違う時代のモノを使ってでも22枚全てを集めろ。それが歴史を変える鍵になるかもしれねえ。だが、トキワギ機関の時間干渉を食らえば、それは絶望的だ」
「デュエマが消えた時点でエリアフォースカードの使い手がデュエマを忘れちまう。そうなったら、折角集めた分のカードが無駄になっちまうってことか」
「その通り。デュエマを消されたら、今度はこっちの時代が詰む。いや、それどころか別次元の脅威に対しても人類は対抗出来なくなる。トキワギ機関が自分達には時間干渉の影響を無効化させている辺り、それも織り込んでいる可能性があるが」
「自分達だけがクリーチャーの力を使おうってのか」
「そうなったら、この世界は今度こそお終いだ。全部、トキワギの手に落ちる」
そうなれば、猶更2016年へ急がなきゃいけないってことか。
でも待てよ。元々何で俺達がこの時代に来たかって、アカリのタイムマシンが旧型のオンボロだったからのような。
「なあ、時間Gメンの奴らに対抗できるタイムマシンってあるのか?」
「そうです! 修理は終わりましたか?」
「優秀なメカニックのおかげでな。不具合については1日ありゃ十分だったそうだ」
「よ、よかったです……」
曰く、タイムマシンはちょっとの不具合が命取りになる危険な乗り物らしい。
幾ら1日の修理で済む故障でも甘く見てはいけないのだという。
そりゃあそうだ、あんな大群で追いかけてくる連中相手なら猶更整備に整備を重ねておく必要があるだろう。
「それじゃあ行くぞ、ドックに」
「ドック? 船みたいだな」
「最新式は、一味違うんだぜ? 白銀耀」
トリスは機嫌良さそうに笑うと、曲がった腰を上げて歩きだす。
俺達も彼女に着いていくのだった。
※※※
「なあ白銀耀、顔色ちょっと悪いぞ」
「……そ、そうか?」
廊下でドックとやらに向かう途中、俺はトリスに突っ込まれた。
彼女に言われた通り、顔にちょっと出ていたのかもしれない。
未来で仲間達が死んでいる事、俺達の前には困難が幾つも待ち受けている事。
それに加えて──さっきの出来事だ。
まだ、首の無くなった少女の火傷痕が忘れられない。
いや、あんなの忘れられるわけが無い。
「さっきの宿屋の一件はあたしも聞いている。あの女の子、お前がドクター・オペラの元から連れ出したんだって?」
「……ああ」
「あいつはな、ああやって助からない人間や犯罪者から臓器をはぎ取って医療に回してる。お前らからすれば残酷に聞こえるかもな」
確かにそうだ。
あんな年端もいかない子が相手でも奴らは容赦をしなかった。
だけど、アカリの言った通り、この街はその臓器で医療が回っているというのだ。
「この世はお前が思ってる程悪意や欺瞞に満ちてるわけじゃねえ。誰もが最善を尽くそうとした結果──互いに利害がぶつかり合ったり、力の弱い方が負けたりして、結果的に残酷に映る事もある。それは、何時の時代だって同じだった」
「何時の時代も? ワイルドカードの大氾濫が起きる前もか?」
「ってのはファウストが言ってた事だ。あいつも長生きしてたから説得力はあったぜ。あたしも昔は信じられなかったが……今なら分かる。特に今は、最善のぶつかり合った結果、ギリギリ崩壊しないところで踏みとどまっている」
「最善が、ぶつかり合った結果……」
「そうだな。正義なんて綺麗なもんじゃねえ。だが、それで泥臭く踏みとどまってるんだ。ただ、今は誰もが自分の為に生きるので精一杯だ。そんな中で、マフィアや闇医者は……まだマシな方だと思うぞ」
「何でそう思うんだ?」
「さっきも言ったでしょう。彼らのおかげでインフラも福祉も辛うじて回ってるからです」
「……」
「この世界は歯車だ。歯車同士が噛み合わねえなら、どっちかが互いに譲歩し合うしかない」
「じゃあ、結果的に俺は……歯車が回るのを邪魔しちまったのか」
「お爺ちゃん……」
「そうなるな。オペラはワイルドカードが顕現する前に対象を安楽死させ、クリーチャー部位を的確に除去する。そうすれば、残った臓器は確実に他の誰かを救う」
じゃあ、結果的に──俺がやったことは、それで誰かが助かる可能性を奪ったってことじゃないか。
……何やってんだよ、俺は……!
「まあでも、今回は無理はねぇよ。此処最近都市内でのワイルドカード発生事例は極めて少なかったしな。一昔前はもっとヤバかったんだが、レジスタンスとマフィアが街からクリーチャーを根絶やしてからは激減している。お前が助けようとした気持ちは、間違ってねえと思うぜ」
「……それでも、怖いんだよ。結果的に、またどっかで間違えそうで──俺が良かれと思ってやってることは、本当に合ってるのかって──痛ッ!?」
カコン、と額が硬い杖で小突かれた。
不機嫌そうに鼻を鳴らすと、トリスがこちらを睨んでいた。
「あたしの知ってる白銀耀はな……迷いなんて知らねえ、猪突猛進の突っ走る馬鹿だった。今のお前は……悩みに悩んで迷路の中、さながら血迷った子羊か?」
「っ……」
「団長、あんなことがあったら誰だって……」
「逆だ馬鹿。悩まねえよりよっぽどマシだよ。人間なんぞにアドバイスしてやる義理なんざねぇが一つだけ言っておいてやる。今のお前、あたしが知ってるそれよりよっぽど良い顔してるぞ?」
「はぁ……!?」
人の葛藤を何だと思ってんだコイツ。
60年経っても、妙に意地が悪いのは変わらない。
「おら、そんな事よかアレを見ろ」
通路の突き当たりのシャッターが開く。
心に一抹のもやもやを残したまま、俺は中を覗いた。
その奥には──暗い船渠が広がっていた。
水際まで降りてみたが、船らしきものは見当たらない。
アカリが叫ぶ。
「カンちゃんっ! 私です! アカリ、戻ってきましたよ!」
「カンちゃん?」
そうアカリが呼びかけた時だった。
ざばぁっ、と音を立てて──水柱が上がった。
「え」
ちょ!?
めっちゃ水が掛かって──
「マスターだっ、マスターっ! わーいっ!」
「え? ちょ──ギャーッ!?」
な、何だ一体!!
何が出て来やがったんだ!?
ザバーン、と音が鳴ったかと思えば次の瞬間にはもう、服はびしょびしょになっていたんだが何があったんだマジで!!
「さ、さっぶッ! 何だ一体!? おいアカリ、トリス・メギス、大丈夫か!?」
「アカリは予め傘を持ってたので平気ですよ?」
「右に同じく」
「俺には何も言わなかったのかよ!」
成程こいつら、既に傘で水飛沫を完全に防いでしまっていた。
「だから大事な事はもっと早くに言えよッ!」
「だってお爺ちゃん人の話聞かないじゃないですか、言っても仕方ないかなあって」
「ちなみにヤバそうだったのでデッキの入った鞄は我が避難させていたであります」
「俺も避難させてくれ、たまには守護獣らしくしてくれよ!」
「非難はしてるでありますな」
「上手くねえーんだよ!」
泣きっ面に蜂。
どうして頭からいきなり水をぶっかけられなきゃいけないのか。
しかも結局濡れたの俺だけだし。
「何なんだよこいつ……」
「これが私の守護獣にしてタイムダイバー、《せんすいカンちゃん》です!」
「いぇーい、マスターだ! マスターが帰ってきた!」
丸っこい潜水艦のようなクリーチャーは両腕のアームをガチャガチャ言わせながらアカリを前にしてはしゃいでいる。
こいつが最新型タイムマシンってのか?
「タイムダイバーは、守護獣を弄って完成させたタイムマシンだ。見た目は元のクリーチャーの所為でアレだが、後部スペースの居住性は抜群、座席も増加して4人乗りだ」
「今の所最新鋭っぽい要素が何一つ感じられないんだけど」
「何よりタイムダイバーの名の通り、時の通路の最深層をステルス移動することで時間Gメンの追跡を逃れる事が出来る優れものってわけよ。なんせ、元のクリーチャーも
「そーのとおりー! カンちゃんは、ハイスペックサイキョーのGRクリーチャーなのだー!」
「陽気な奴でありますなー……」
とても最新鋭には見えないがそういうことにしておこう。
お調子者は見てきたが、こいつは突き抜けてるな……アホっぽさが既に漂っている。
何だろう、嫌な予感しかしない。
「つーわけで、お前達には今から2016年のダッシュポイントに向かって貰う」
「……いよいよか」
「いきなりも何も、此処を修正しない限りデュエマは永遠に失われる事になるだろうな」
「はい。急がなければ、改変された歴史が正しいものとしてまかり通ってしまいます。その前に時間Gメンの野望を阻止しなければ」
「超超超可及的速やかに行くでありますよ!」
「希望はエリアフォースカードの使い手であるお前達だけだ。……未来を変えろ、二人共」
「……ああ、分かってるよ」
今やるべきことは仲間の歴史を俺の知っているものに戻す事。
じゃなきゃ話は始まらない。
「お爺ちゃん、行きましょう! 2016年へ!」
俺は頷いた。
だけど……煮え切らない。
俺は何時まで、自分の中の「やるべき事」を貫ける?
何時まで、仲間の為に戦える?
もし、「正しい事」と「やるべき事」が大きく食い違った時──俺はどっちを取れば良い?