学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「そこ、また速くなってたわよ」
帰ってきたら、またバイオリンのレッスン。
毎日、勉強の合間に欠かすことは無い。
しかし、最近弓を持つ手が震える事がある。留学への不安か、それとも――
「奏太! 集中出来ないのなら、今日はやめなさいな。ドイツへの留学は確かに研修の為だけど――向こうで恥ずかしい音を出すのだけはやめて頂戴よ」
「……はい、母様。すいません。一度、部屋に戻って休みます」
「にしても、最近ずっとこんな感じよ。不安なの? 留学は貴方の事よ。よく考えなさいな」
考えている。勿論、分かっているんだ。
スランプなんて理由を付けて、いつまでもこんな調子じゃダメなんだ。
何とか、何とかしないと……。部屋に戻り、バイオリンを手に取った。
音が狂う。弓が震える。
手が汗ばむ。
「駄目だ!!」
思わず、叫んだ。
こんな音じゃ、世界に通用するわけが無い。
留学しても、上達するとは限らない。
「……はあ」
何時からだろうか。
バイオリンが、自分の中でやらなければならないことになってしまったのは。
親がバイオリンの先生だから、物心ついた頃からやっていたバイオリン。
凡人の僕は、周囲に追いつくので必死で、抜きんでるようになってからも毎日練習を欠かせなかった。
趣味も全部捨てて、バイオリンの為に生きる事を決意したんだ。
「あれ……?」
僕、何でバイオリンを始めたんだっけ――
声が、聞こえた。
気が付けば、それは机の上に落ちていた。
「……」
此奴が、喋っているのか。
だが、もう僕は無我夢中でバイオリンを弾いていた。
「僕の音を……認めてくれているのか?」
うれしい。
僕の音を認めてくれる人がいるなんて――
※※※
「ハロー! アカル! ブランちゃんの華麗な復活デース!」
二日程して、ブランは再び学校に戻ってきた。
風邪がすっかり治ったようで何よりだが、また騒がしくなるな。
嬉しそうに花梨は「良かったよー、もうすっかり元気に」と言っていた。
そんな昼休みのことだった。一緒に弁当を食べながら、にこにこと花梨はブランに二日前の肝試しまがいのことについて話していた。
一方の俺は、音神から貰ったカードと最近手に入れたカードでデッキが組めないか、四苦八苦していたのだった。
「で、すっごい頑張り屋さんで、謙虚で……音神君、かっこいいなあって」
「へえ、そうだったんデスカ。なかなかmiracleな出会いでしたネ! ……音神君、デスカ……」
ん? どうしたんだ。
俺もデッキを組む手を止めた。
「どうしたんだよ、ブラン」
「諜報活動は探偵の基本なのデ、早速色々調べてたんデスケド……気になる事が1つあってデスネ」
「おい、もう平常運転かよ」
「で、何々? 気になることって」
花梨の前でもいうのだから、おそらくそんなに変わったことではないだろう。
どうせまた下らんことか。そう思っていたが――
「……いや、3組の音神クン……彼、昨日から様子がおかしいみたいデ」
「様子が?」
「おかしい?」
音神の事を調べていたのか此奴。
待てよ。様子がおかしいってことは……まさかと思うが……。
「人が変わったように、誰とも話さなくなってしまったみたいで……」
「そう、か」
「Yes。極度に他人に心を閉ざす、というのが正しいでしょうカ」
「そんなことが……あたしも違うクラスだし、知らなかったよ」
「そうデスネ。元々、他人とあまり話すタイプじゃないみたいデスケド」
そういった所で、ブランが目配せした。
怪しい、と言いたいのだろうか。しかし……なんか引っかかる。
「これは……ワイルドカードが濃厚でありますなあ。でも、隣のクラスの生徒に取り付いているなら、我が気付いているはずでありますが……」
チョートッQもそんなことを言っている。
こいつが直接クリーチャーに反応していないってのがどうも気になる。
なんだか……嫌な予感がしてきたぞ。
「心配だな……ねえ、耀。見に行ってあげてよ。あたしも、心配だよ……」
「……ああ、分かってる。でも、部活があるんだろ? 俺達に任せろ」
「良いの?」
「良いんだ」
不安そうな顔の花梨。
こいつも、音神の事を案じているのだろう。同じような立場だもんな。
分かってる。あいつの夢は、誰にも壊させやしない。
だから――こっからは俺の出番だ。
※※※
「あいつ多分、今日もあの教室で練習してるはずだ」
「そうと決まればやることは1つ、ですからネ!」
「何で私まで……まあ、良いですか。暇潰しにはなりそうです」
そんなわけで、今度は俺と紫月、そしてブランを加えた3人組で旧校舎を探索していた。
「で、何か策は?」
「突撃する。何か悩みがあるなら、聞く。困ってる奴がいるなら、放っておけねえ。それが俺だろ?」
「……本当、目の前の事しか頭に無いんですね」
「デモ、アカルらしいデス!」
「だろ?」
そう。真っ白で、無色で、何にも無くても、俺の手の届く所に困ってる奴がいるなら放っておけない。
偽善だと言われようが、自分勝手だと言われようが、目の前の”今”に俺は向かうんだ。
それが、今の俺に出来ること――
「……ん? バイオリンの音が聞こえてくるデース?」
「ああ、そろそろ着くはずだが……」
もうすぐそこに扉が見える。
あの教室の中に音神が居るのは間違いないようだ。
そう思っていると、案の定と言うべきか――
「……来るでありますよ!」
「気を付けな、マスター!」
チョートッQとシャークウガが叫んだ。
同時に、薄暗い旧校舎のフロアに眩い光が迸り、廊下に降り立った。
それは、純白の体に幾つもの鐘をぶら下げた2体の龍であった。
「《音精 ラフルル》に《大音卿 カラフルベル》――!! 両方共、ドレミ団のクリーチャーデス!!」
「ドレミ団……!? また革命軍のクリーチャーかよ!!」
ドレミ団。
光と水文明の混色で構成された、革命軍の派閥の1つ。
非常に強力なロック能力を持つ、光の守りと水の妨害を併せ持ったような連中だ。
「こいつら、恐らくトークンだぜ。本体の生み出した分身だ」
「では、私たちが請負いましょう。白銀先輩は先に行ってて下さい」
「良いのか?」
「構いません。どうせ、直接音神先輩に会った事があるのは先輩だけですし」
「というわけで、此処は任されマシタ!」
ラフルルとカラフルベルの前に立ちはだかる紫月とブラン。
仕方ねえ。先に行かせて貰うぞ。
紫月の投げたエリアフォースカードが展開されて、クリーチャー達を別の空間へと引きずり込む。
「マスター、超超超――」
「――可及的速やかに、ワイルドカードの排除、だろ!」
その間に、俺は脇を通るようにして扉へ突き進む。
迷っている暇は無いのだから。
※※※
中で紡がれていた音は、思っていたよりも綺麗で穏やかだった。
しかし。部屋の中央でバイオリンの音を奏でている音神は、尋常ではない様子だった。
目を瞑り、バイオリンの弓を動かし続ける彼は、まるで何かに取り付かれているかのようだ。
「来るでありますよ、マスター!」
「ああ!!」
咆哮と共に、天井から天使の羽を広げた一際巨大なクリーチャーが光に包まれて降り立つ。
俺はその姿に一瞬見惚れてしまったが、すぐに睨む。金色の鬣に法衣を纏った天使龍。
此奴が黒幕――その名前は、すぐに浮かんできた。
「《時の法皇 ミラダンテ
「見るでありますよ! 音神殿の方を!」
音神の顔をよく見ると、奴の頬が痩せこけてきているのが見える。
やっぱり、あのクリーチャーが実体化するのに彼のマナを吸収しているということなのだろう。花梨の時と同じだ。
しかも、音神の演奏に合わせて、ミラダンテの力がどんどん増幅されているのか、はっきりと実体化している。
「バイオリンの音を通して、宿主のマナを吸い取っている……!! このままでは、音神殿は死んでしまうであります!!」
「ざっけんなよ、あのクリーチャー!! ンな胸糞の悪い方法で実体化しようってのか!!」
沸々と怒りが沸きあがった。バイオリンを利用したのか。誰よりもバイオリンを愛し、バイオリンに一生懸命な音神のバイオリンを利用したのか!
あいつは絶対に叩きのめす!
ともかく、このままでは音神の命が危ない。演奏を止めさせなければと思っていると、バイオリンの弓を引いていた手が止まった。
すかさず、俺は呼びかけた。
「……音神!! 聞こえてるか!?」
「ああ。聞こえてるよ。さっきから、ずっとね」
「おい、お前、気付いてるか!? 自分が悪いモンに取り付かれてるって!!」
「悪いモン、か」
はあ、と溜息をつく音神。
彼の口から声が漏れた。
とても、凍り付くような冷たい声色で――
「……僕からすれば、演奏を邪魔する君たちの雑音――はっきり言おう。とても迷惑だ!!」
キアアアア、と甲高い声でミラダンテが咆哮を上げた。
俺は確信する。完全にクリーチャーに意識を乗っ取られているらしい。
やっぱり、実力行使と行くしかないようだ。
音神は、バイオリンを置くと、ゆっくりと俺の方に歩み寄る。
そして、言った。
「ミラダンテは、僕の演奏を認めてくれたんだ。世界の人を震わせることが出来なくたって、僕の演奏に喜んでくれる人を満足させられればいいんだ。例え、それがクリーチャーだとしても。例えそれで、命を落としたとしても」
狂気さえも感じさせられる虚ろな眼で音神は俺を睨みつけた。
口元には薄っすらと笑みが浮かべられている。
もはや、この世のモノとは思えないような深淵を垣間見た気がした俺の背に、百足が走っていくが――
「……音神……! そんなに簡単に、夢を諦めて良いのかよ」
「僕には、自信が無い。最近、スランプ続きだったからね。こんなバイオリニストじゃあ、巨大なホールで演奏なんて無理だ」
「……クソったれ!!」
俺は憤った。
簡単に夢を投げ出す此奴の態度も、胸糞悪いワイルドカードのやり口も――!!
「僕を邪魔する奴は、僕が時間を止めてやる」
「やれるもんなら、やってみろよ!」
デッキを取り出し、エリアフォースカードを目の前の音神に突き付けた。
絶対に否定させやしない。お前の夢も、お前が追いかけてきたものも!!
此奴の未来も、運命も、他の誰にも奪わせやしない!
「チョートッQ行くぞ!! デュエルエリアフォース!!」
「了解であります!!」
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