学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR13話:反撃──俺にとってのデュエマ

※※※

 

 

 

「信じるんですか? 俺の話を」

「あたしはこれでもカンが良い。あたしに嘘吐けた奴、今まで一人も居ないしな」

「確かに……部長は洞察力は探偵クラスですから」

「だろ? 分かってんな。だから、違和感があったらすぐ気付くはずだ」

 

 大胆不敵な笑みを彼女は浮かべる。

 自分の推理に100%の自信を持つ彼女らしい顔だった。

 

「だけど、違和感が一つだけあった。お前、背が5cm1年間で伸びただろ」

「あっ……はい」

「さっき部室で見掛けた白銀に比べても、今のお前の方が若干背が高かった。顔も少しイケメンになってたんじゃないか?」

「からかわないでくださいよ」

「だけど、あたしがお前を白銀って確信できたのは……やっぱ声だな。声は簡単には変えられない。それと目だ。これもそうそう変わらん。お前、左目の強膜の左下にホクロがあるだろ。黒っぽいシミだ。こんなもん簡単に偽装出来ない」

「人の目まで観察してたんですか!?」

「するさ。趣味は……人間観察だからな。これでお前は晴れて本物ってわけ」

 

 そんな趣味の人間はきっと、十中八九変人なのだろう。

 目の前にその証拠がどや顔で立っている。腹立つなあ。

 

「次に、電話がかかってきた方の白銀も本物だ。本物じゃないと知らないことを知っていたしな。これで、あたしの前に居る白銀は両方本物。そして目の前に居るお前が未来から来た、ということで全部が繋がったわけだよ! いやー、推理し疲れたね!」

 

 まあ、悪い奴が変装して仲間に近づく事件を経験した俺としては、それだけでは不安が残ったのだが……今部長にそれを言っても余計にややこしくなるだけだ。

 信じて貰えただけ良しとしよう。

 

「ところでさ、デッキ見せてくれない、デッキ! 未来から来たなら、あたしが知らないカードとか持ってるんだろ!?」

「ネタバレとか良いんですか部長」

「モーマンタイ! あたしはマル秘情報大好きなの知ってんだろ? 海戸の方で極秘に開発されてる試用カードとやらが何なのか知りたいんだよう!」

「……やめときます、先輩ネットとかに流しかねないんで」

「何でさ! 信用無いな、あたしは! ……それじゃあ、そうだな……お前に聞いておきたいこと、か」

 

 考え込むと、彼女は思いついたように言った。

 

「そうだ。何でお前、この時代にやって来たんだ?」

「えと、話すと長くなるんですけど」

「3行で纏めろ」

「無茶苦茶な!」

 

 俺はこれまでの事を全部、出来るだけ簡潔に話した。

 命懸けのデュエマの事。

 仲間が居なくなったこと。歴史を変えて、デュエマ部を消してしまったやつがいること。

 そしてこのまま未来を変えなければ、いずれ仲間とも離れ離れになってしまうこと。

 

「あたしがSF履修してて助かったな白銀。こんな荒唐無稽なファンタジーを信じられるのはこの世にあたしくらいなものだよ」

「いや本当ありがとうございます……割と今だけは先輩の後輩で良かったと思ってます」

「何か含みがある言い方だがそういうことにしておいてやろう」

 

 何時もこう頼れる先輩だったらよかったのだけども、無茶ぶりは当たり前、飄々として掴み処が無かったからなあ……。

 

「なあ白銀。お前がさっき怪我してたのは命懸けのデュエマってやつの所為か?」

「……はい。この時代を変えようとしてる奴が居るんです。そいつを倒さないと……デュエマが消されるから」

「そうか……」

 

 先輩は傷だらけの俺を見て思うところがあったのだろう。

 真剣に話を聞いてくれたものの、ずっと考え込むような顔をしていた。

 

「でも俺、此処の所何一つ上手くいかないんです。何やってても俺が間違っているみたいで……いや、実際その通りなんですけど。こんな事じゃ、仲間を元に戻すなんて、夢のまた夢で」

 

 それどころか命懸けのデュエマで負ければ大怪我を負う事さえある。かと思えば、選んだ選択が間違っていて、自分の浅はかさも痛感して。

 デュエマを元に戻すつもりだったのに──俺は迷走してばかりで前に進めてない。

 そもそもこのまま歴史を元に戻す事が正しいのか?

 元に戻したら、普通の生活をしていた彼らは、また戦う事になる。

 それはつまり、ワイルドカードとの戦いで命を落とす危険を負わせることにもなるのではないか。

 

「俺はもう、何が正しいのか分からないんです。このまま戦って歴史を元に戻すんじゃなくて、俺一人で全部背負ってしまえば──」

「お前にとってのデュエマって何だ?」

「……え?」

「あたしは難しいことは分かんないけど、デュエマなんて只のカードゲームだと思ってる。言ってしまえば、あたしにとってのデュエマなんて遊びで、暇潰しだ」

 

 こんなこと言ったらプロ目指してる人とか何よりその命懸けのデュエマしてるやつらに怒られそうだけどな、と部長は続けた。

 

「だけどな──あたしは遊びで手を抜いたことは一回も無い。あたしのデュエマは遊び半分じゃない。遊び全部だ。自分の命を懸けたとしても、きっと同じだと思うぜ」

「それでも、俺は……そういう世界に巻き込まれてしまったんです」

「巻き込まれたなら、なおさら忘れちゃいけない。お前にとってのデュエマは何だった? 戦う道具じゃなかったはずだ。大事なのはきっと、戦うことじゃないと思うんだよ」

 

 ましてお前一人で抱え込むなんて以ての外だ、と彼女は付け加えた。

 神楽坂部長は、真剣だった。

 俺が今まで見た中で、一番まっすぐに俺の事を見ていた気がする。

 

「これは今の……あ、この時代のお前って言った方が良いか。とにかくお前には話したことなかったんだけども。余計に気負わせたりしちゃいけないと思ってさ」

「え?」

「この部に、何で2年生が居ないかだよ。色々濁らせて言ってなかっただろ?」

「それは、他のカードゲームをやってる人が多いから……だったはずですが」

「何でそもそも違うカードゲームに行ってしまったのか? デュエマに嫌気が刺したからさ。……あたし達デュエマ部の所為でな」

 

 そんなバカな。

 今の部の雰囲気からは考えられない。

 デュエマに嫌気が刺してやめてしまうなんて──

 

「あれは、先代部長がまだ居た頃なんだが……その頃、競技デュエマブームの熱が今よりまだ熱かった時期でね。それに中てられて、このデュエマ部も競技路線だったんだ」

「そんな時期が」

「ああ。だけど……それが軋轢を生むことになった。そうとは知らずに入った今の2年、当時の1年の一部が所謂エンジョイ勢だったんだよ。それで上級生と激突してな……先代部長は止めたんだぜ? 何とか住み分け出来ないかって……」

 

 部長は当時の様子を語る。

 一部のグループ同士の対立は徐々に学年間の対立になっていったこと。

 威圧的な3年生、委縮したり反発する1年生……その間に挟まれる肩身の狭い2年生。そんな部の状態が健全なわけがなかった。

 

「まあダメだった。愛想を尽かした1年生は悉くやめていき、結局新入生は皆居なくなってしまった。それどころか、当時の2年も何人か辞めたね。これを機に、部の体質改善に加えて過度な競技路線への変更は取りやめになったんだが……結局、退部した部員は一人も戻ってこなかった」

 

 それどころか、この頃の悪評が原因でデュエマ部には次の年、殆ど人が入ってこなかったと言うのだ。

 ──俺と、ブランを除いて。

 

「あたしは先代に頼まれたのもあって、明るく楽しくをテーマに、この部活を盛り上げようと努力してきた。皆が喧嘩しないように、部のムードをずっと明るくしようとしてきた」

「部長……」

 

 

 

「だって──デュエマは誰が何と言っても只のカードゲームだ。皆で楽しく遊ぶためにあるもんだろ?」

 

 

 

 その一言で、はっと気付かされた。

 何時からだろう。唯の、純粋な遊びとしてのデュエマを忘れていたのは──

 

「……お前にとってのデュエマは何だ? デュエマを取り戻すってなら、何が正しいか正しくないか決めるよりも先に、それを決めてもバチは当たらないと思うぜ」

「俺の中の、デュエマ──」

 

 何度でも、その問いを繰り返す。

 誰かを守る為のモノ?

 誰かを打ち負かすためのモノ?  

 そもそも、何でデュエマを守らなきゃいけないんだ?

 だって、デュエマを守らなかったら……未来の人がトキワギ機関に対抗する術が無くなる。

 だけど、それは未来の人がデュエマを守りたい理由だ。

 

 

 

 俺の戦う理由じゃない。

 

 

 

 誰かから押し付けられたものじゃない。

 誰かのためでもない。

 俺の、俺の為の戦う理由。

 そんな事、最初から決まってたじゃないか。

 

「デュエマは……俺にとって、仲間との繋がりなんです」

「繋がり?」

「はい。それがタダの遊びのデュエマだったとしても、命懸けのデュエマだったとしても……俺は、それを通じて色んな人に会ってきました」

 

 そうだ。 

 エリアフォースカードとかワイルドカードの事件を通して知り合って、ぶつかり合って、繋がった人たちがいる。

 純粋な遊びとしてのデュエル・マスターズを通して競い合い、笑い合った人達がいる。 

 俺にとってのデュエマは……その思い出全部があった証なんだ。

 

「紫月も火廣金も……新しく入った二人は、ほんっっっとうに曲者で何回もぶつかり合いました。でもきっと、デュエマが無かったら出会う事すら出来て無かった」

「ほう、新しい部員か。どんな奴らなんだ?」

「後輩の紫月は寝てるか口を開けば毒舌ばかり、転校生の火廣金なんか……部室をプラモデルで占拠してるんですよ」

「或瀬のやつが放り出されてそうだ」

「ブランのやつ、この頃からじゃ信じられないくらい明るくなって……部長、腰を抜かしますよ。探偵の真似事なんか始めて、トラブルメーカーも良い所です。部室に本棚や冷蔵庫まで増設して」

「はははっ、そりゃ傑作じゃないか。あたしが居ない間にデュエマ部はどうなってんだ?」

「笑い事じゃないですよ! 折角、先輩が残してくれた部活なのに……あいつら全然俺の言う事なんか聞きやしないんです」

「そうだな。だけどあたしには……今のお前が凄く楽しそうに見える」

 

 ……そりゃそうだ。

 あいつらが居ない日なんて、考えられなかった。

 

「……俺、あいつらのおかげで頑張ってこれたから。あいつらと居るの……楽しかったから」

 

 だから、辛い。苦しい。

 3人が居ない俺一人だけが取り残された今の状況が、堪らなく嫌だ。

 

「会いたい」

 

 ぼそり、と零したら止まらなくなった。

 ああ、ダメだ。

 どうしようもない。

 どうしようもなさすぎる。

 不思議と拳に力が入った。話し出すと止まらない。

 目頭が熱くなってくる。

 そうだ。皆、勝手だ。

 あんなに部室を好き放題にして散々俺の事を振り回しておいて──

 

 

 

 ──いきなり、居なくなるなんて。

 

 

 

「会いたい……あいつらに、今、一番会いたい……!」

「白銀……」

 

 

 

 決壊した。

 熱いものが零れて止まらなかった。

 

「なあ、白銀」

「……」

「あたしは先輩失格だな──お前に面倒なモン全部背負わせて……」

「そんなっ……俺は……」

 

 先輩の顔も辛そうだった。

 そうだ──分かるわけない。

 こんな事になるなんて、先輩は知らなかったんだから。

 だけど、分かって欲しい。

 俺にとっては神楽坂先輩だって──

 

 

 

 

「キィイイイイイイイアアアアアアア──」

 

 

 

 甲高い声が部屋の中を劈いた。

 涙をぬぐい、俺は窓から外を見やる。

 

「なっ……ドラゴン!?」

 

 ドラゴンだ。

 全身が青い炎に包まれた巨大なドラゴンがグラウンドに降り立っている。

 大きく目を見開いた先輩も、異様な光景に言葉を失っていた。

 アレは一体誰が呼び出したんだ?

 まさか──時間Gメンが!?

 

「マスターッ、大変であります!」

 

 チョートッQが慌てた様子で飛び出して来る。

 

「おい、お前大丈夫なのか!?」

「何とか回復は出来たでありますが……それより、あのドラゴンを見るでありますよ! あいつの所為で、時間が歪められているであります!」

「放っておいたら不味いってことは理解出来たぜ……!」

「待てよ白銀!」

 

 怯えた様子の先輩が言った。

 

「まさか、行くってのか。お前らは、あんなデカい怪物と何時も戦ってたのか!? なあ!?」

「……先輩」

「死んじまうぞ、白銀。あんなのと戦ったら、お前は──」

「ゴメンなさい先輩。でも俺──思い出せたんです」

 

 そうだ。

 俺が戦うべき理由。

 俺が戦わなければならない理由。

 それを思い出させてくれたのは──先輩じゃないか。

 

「俺がやらなきゃ、誰がやる。仲間を助けられるのも、今此処であいつに立ち向かえるのも、結局は……俺がやらなきゃいけないんだ」

「待てよ……戦う? お前が? そうやって、今までも無茶してたってのか? あたしの知らない所で?」

「……この命を懸けるに値する仲間が待ってるんです。行かなきゃ一生後悔する。それは死ぬより嫌な事なんだ」

「やっぱダメだよ白銀。あたしは……こんなの、間違ってるって思ってしまうんだ。よりによってあんな化物と戦うなんて」

「あいつらが居なきゃ、あいつらと俺を繋いでくれたデュエマが無きゃ、俺は──俺は、この世界に、生きてる意味を見出せない」

「……」

 

 先輩は膝を突く。

 ごめんなさい、先輩。

 それが俺が選んだ道なんです。

 誰の為でもない、俺の為の戦う理由なんです。

 

皇帝(エンペラー)起動。ダンガスティックB(ビースト)!」

『了解でありますッ!』

 

 鋼の獣がグラウンドに降り立った。

 それに飛び乗り──最後に俺は振り返る。

 不安そうな顔の先輩を見やった。

 

「それでも、お前は……行くんだな。そうだよな。そっちの方が、お前らしいよ白銀」

「行ってきます、先輩」

 

 彼女は力なく頷いたようだった。

 そして、ふっと笑みを浮かべると──

 

 

 

「……あれが──未来のデュエマ部部長か」

 

 

 

 確かに、そう言ったのが俺の耳にも届いたのだった。

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