学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「お爺ちゃん、大丈夫なんでしょうか……!」
せんすいカンちゃんの座席でアカリは不安な顔を浮かべていた。
時間Gメンが放つ洗脳周波を妨害するためのアンテナ。これをせんすいカンちゃんが高々と上げている。
それには目玉が付いており、「ブーンブーンブーンブーン……」と奇妙な鳴き声を発しており、傍から見ればただ奇怪なサムシングであった。
「全能ゼンノー、お願いします……!」
「YES、マイ・マスター」
「ゼンノーの妨害電波なら十分打ち消しできるよマスター! この調子なら改変を妨害出来る!」
「はい、このまま上手く行けば良いのですが」
歴史修正の時間をずらしてしまえば、もう二度と改変は出来なくなる。それまで耐え続けるしかない。
だが、問題はあの場でシー・ジーの相手を任せた耀だ。
──時間Gメンの隊長をお爺ちゃんに任せ、こっちが敵の時間改変を止める……ただし、それが成立するのはお爺ちゃんが勝った場合のみです。
「てゆーか、白銀耀に何にも言わないで囮任せたんじゃないよね、マスター?」
「失礼な! 今回はちゃんと事前に打ち合わせました!」
「あっそー、おっちょこちょいなマスターの事だしまた肝心な事だけ言ってないパターンかと思ったよー、あだだだだ! レバーを変な方向に捻じるのやめてよマスター!」
「……はぁーあ、一人で大丈夫なんでしょうかお爺ちゃん」
「マスターッ、止めて、止めてってばー!」
彼がそう簡単に負けるとは思いたくないが──
「──ッ!?」
心臓が飛び出るかと錯覚した。
アカリはレバーを思い切り掴む。
いきなり船体が揺れたのだ。強い衝撃。何者かによる攻撃だ。
姿を光学迷彩で消していたのに発見できるような相手など、一つしかいない。
「マスターっ、時間Gメンだ! 時間Gメンが来ちゃったよ!」
「もう見つけられたんですか!?」
ガラスの窓から外を見やる。
羽を広げ、そこに立っていたのは──隊長格のシー・ジー。
まさに耀に任せた強敵であった。
「そ、そんなっ!?」
「まさか白銀耀、やられちゃったんじゃないのマスター!」
「ど、どうしましょう、こうなったら……力づくで!!」
1枚のカードを掲げ、アカリはハッチから顔を出した。
彼女に応えるようにして大洋のガンマンが実体化し、シー・ジーに向かっていった。
「ジョルネード! こちらに近づけないで!」
「──やれやれ、無駄だと言っているのだが」
直後。
シー・ジーの手に持ったカードが不気味に輝く。
アカリは戦慄した。全身が機械で構成され、青白い炎に包まれた怪物。
何もかもが今までのオレガ・オーラとは桁違いだ。
「レジスタンスの白銀朱莉。長きに渡る大捕り物、此処で終わりにしないか?」
「こ、これって……貴方達は、何てものを作ってるんですか!」
これは──ドラゴンだ。
空想上の生物の中で、最も力強く賢き怪物。
それを彼らはあろうことか、データだけで再現して見せたと言うのか。
「オレガ・オーラはクリーチャーのデータをチップで実体化したもの……でも、ドラゴンはクリーチャーとしての格があまりにも高過ぎて実現不可能だったんじゃないですか!?」
「実現不可能? いや、人類の科学に不可能は無い。魔法も合わされば猶更だ。ドラゴン・コードは全てを歪める。時間諸共な」
「時間諸共……!?」
シー・ジーは笑み一つ浮かべず、耳のインカムに手を当てた。
「……
ドラゴンのオーラが吼えた。
シー・ジーの命令に従い、それは大口を開けて進撃する。
巨体目掛けてジョルネードは果敢に立ち向かい、何発も何発も銃弾を放つが、全て吸い込まれるようにして消えてしまう。
「だ、ダメ、全然通用しない……どうなってるの!?」
吼える
龍の咆哮が背景を揺さぶる。
木の葉が落ち、校舎が歪む。
そして衝撃波によって全能ゼンノーの姿も掻き消えてしまった。
「しまった──ッ!?」
「マスター! このままじゃヤバいよ! 並大抵のカードじゃ、こいつの攻撃に耐えられない!」
「お前たちは時間改変のタイミングをずらせば、ダッシュポイントが消滅すると考えているのかもしれない」
それまでの仮説はシー・ジーの言う通りだ。
だからこそ、アカリ達は今まで時間稼ぎに徹してきた。
しかし。
「最も……
「そんなのインチキだー! とんだ時間延ばしじゃないかー!」
「そんなことをしたら時間が歪んで歴史に異常が起きます!」
「故に多用は出来ない。だが、使わせたのはお前達だ」
学校の壁時計の長針と短針が異様な速度で回り始めた。
無理矢理時間が歪められ、放課後前までに時計の針が戻りつつある──
「お前達が抵抗をしなければ、お前達が無駄に足掻きさえしなければ、こんな事にはならなかった。結果的に、お前たちが時の運行を歪めたのだ。よって──
「ぐ、う……とんだ責任転嫁ですよ……!」
「違う。勝者が正しい時の流れを紡ぐ。敗者は賊軍に成り下がる。それが、歴史編纂というものと定義されている」
「……!」
「像は無限にコピーされている。このまま全世界の座標目掛けて飛んで行くぞ。もう、何をしても無駄だ」
無数の像に覆われていく空。
デュエル・マスターズを消去する波長が世界を覆っていく。
実像無き龍に弾丸は通用しない。
不規則に乱れた映像のように龍の姿が揺らぐ。
だが、ぐにゃぐにゃと揺れているようで、それは確かに標的目掛けて迫り近付いており──次の瞬間には大顎がジョルネードを捉え、しっかりと挟んでいた。
「そんな、ジョルネードが……!」
「ヤバいよ! ジョルネードが負けちゃうよマスター!」
「無駄だから──無駄と言っている」
シー・ジーは、冷ややかな目で言い放つ。
「お前たちの軌跡は、塗り替えられる。トキワギの名の下に」
「無駄なんかじゃ、ねぇよッ!!」
その時。
龍の首に何かが食らいつく。
呻くような音と共にジョルネードを挟んでいた大顎が解き放たれた。
「そして塗り替えさせもしねえ! 俺達の歩んできた道は、俺達のモンだ!!」
「お爺ちゃん……来てくれたんですね!」
アカリは目を見開く。
まがい物の龍に食らいつく鋼の獣。
そしてそれに飛び乗った少年の姿を確かに捉えた。
そのまま首のコードを何本か食い破り、ダンガスティックBは地面に降り立つ。
「──白銀耀……貴様……あの程度では折れなかったか」
「へっ、何べん負けても立ち上がる。それが白銀耀って男だ!」
白銀耀は──今、再び戦場に降り立った。
※※※
「白銀耀って言います! よろしくお願いします!」
「はい硬ーい」
「あだっ!?」
「此処は運動部じゃねーぞ? 陰キャ共の集まり、紙をシバく場所、オケィ?」
「初っ端から後輩をシバいてどうするんだ神楽坂」
「あだっ!? ちょっとコラ! 部長に手を挙げるなや、副部長の癖に!」
「お前がそんなだから前部長が不安がってたんだろうが!」
「あんだとコラァ、表出ろ! デュエルで決着付けようぜ、いだだだだだ暴力反対!」
「えーと、これってどう収集付ければ……」
「大丈夫だ1年、割かし何時もの事だから」
「えぇ……」
今でもあの日の事が忘れられない。
あの頃のお前は、ちょっと不安げで……何をするのも覚束なくて。
何ならデュエマだってそうだった。
中学の最初に買ったらしいデッキ相手に睨めっこしててさ。
「お前さあ……ちゃんとデュエマ楽しめてる?」
「え?」
「何かさあ、硬いんだよな……やっぱお前。勉強ばっかやってただろ絶対」
「そ、そんな事は無いですよ!?」
「いやあたしのカン外れた事無いから。こういうのはさ、戦績伸ばすんじゃなくってもっと馬鹿みたいなことやるのも良いと思うんだが」
「馬鹿みたいなこと?」
「うーん負けそうじゃ、とかかな」
「えっ……今、何て?」
ああそうそうこんな事もあったわ、こんなノリでネタデッキばっか組ませたんだっけか。
後で他のやつに金欠の後輩にネタデッキ買わせてどうすんだって怒られたな、うんうん。
「……はいはーい皆注目ーっ! 新入部員の、或瀬ブランちゃんでーす!」
「え、えと、よろしく……お願いします?」
「えー、今年の1年揃いも揃って真面目ちゃんかよー。こんな可愛いんだから、もっと自分を押し出さなきゃ駄目だよ君」
「ちょっと神楽坂先輩、あんまり或瀬にぐいぐい行かないでくださいよ……」
「ア、アカル、私は……大丈夫だから」
「ところでさブランちゃん、探偵って興味ある? あたしと一緒に現代のシャーロック・ホームズになってみない?」
「現代の、シャーロック・ホームズ、ですか?」
「そう、具体的にはうるさいお上を黙らす為に隠密的な撮影を行ったり、証拠を集めたりとか」
「神楽坂先輩ィ!? ブランに変な事吹き込まないでくださいよ!?」
白銀のやつ、すっげぇ可愛い子連れてきたんだよなあ。
あの子にはまだ色々教えたりないし……今度は何を吹き込んでやろっかなあ。
どれもこれも白銀のおかげだよね、うん……。
「……ダメだぜ、白銀……」
お前が居なくなるのは、駄目だ。
だってよ……あんなに楽しかった部活がさ、どうしてそんな事になっちまうのさ。
「あたしは、見てるだけなのか!! あたしはあいつの先輩だぞ!!」
あたしに出来ることは無いのか。
もう嫌なんだよ。
部員が居なくなるのは──もう、嫌なんだ。
だってそんなの、楽しくないじゃないか!!
コトン
音がした。
そこには──
「え?」
──見た事の無い、デッキケースが転がっていた。
※※※
「マスター、相手は先程負けた相手。何かしら対策はあるのでありますか!?」
「無い!!」
「ノープランでありますか!?」
そうだ。
勢いで飛び出してきてしまったが、あの侵略みたいな挙動をするオーラに対する戦略は何も考えられていない。
そして何より対策をする時間も無い。
あの機械龍のオーラがどんなヤバい効果を秘めているかも分からないのに……!
「消え失せろ、白銀耀」
「どわぁぁぁい!?」
電撃が次々に地面へ落とされる。
まずい。このままではまともにデュエマを挑む事すらできない。
「どうするでありますか、マスター! 最早これではデュエルに持ち込む以前の大問題でありましょう!」
「問題が幾つあったって、関係ねえよ! それでも、戦うしかないだろ!」
「こんのバカ後輩ーッ!!」
え?
振り向くと、先輩が凄い剣幕で走って来る。
その手には──デッキケースが握られていた。
「デッキも無しでどうやって戦うつもりだ、この馬鹿ーッ!」
「ちょっ、先輩ィ!?」
え? 何やってんの。
マジで何やってんの先輩!?
しかも投げてきた。なんだコレ──
「受け取れ!!」
ひゅん、と電撃の間を縫って投げられたそれを何とか受け取る。
え? これって──
「無くなった俺のデッキ!?」
「馬鹿! 大事な戦いの前に忘れ物するやつがいるか──うわぁっ!?」
駄目だ先輩。
此処は相手の射程圏内。
雷撃が彼女を狙って撃ち放たれる。
しかし──その前に割り込むようにしてジョルネードが滑り込んだ。
「わぁぁっ!? な、何だこのイケメンッ!?」
先輩を抱きかかえたジョルネードが飛んでくる。
本当に何やってるんだよ!
「先輩、気を付けてください! 何で来たんですか!」
「帽子にロボ顔……サイコー……」
「先輩!?」
「どわぁ、白銀! い、いや、何かな、あはは」
「何でこんな所に生身で来たんですか!」
「だって部室に、見たことのないデッキケースがあって……中には見た事無いカードが入ってたから、てっきりお前のモノかと……」
中身は確かに無くなった俺のデッキだ。
見間違う事も無い。火のジョーカーズのデッキじゃないか。
何でこんなところにあるんだ!? 時間改変で消えたはずじゃ──
「あー、もうとにかくだ! 準備くらい万端にしていけよ、部長!」
「……はい、先輩!」
何で俺のデッキを先輩が持ってたのかは分からない。
だけど──やっぱりこれが一番手に馴染む!
意気込んでダンガスティックBにもう一度飛び乗った。後は、シー・ジーのもとにまで辿り着かなきゃいけない。
……あれ? 何だろう。ポケットに入れている
「マスター!
「……これって」
デッキケースに吸い込まれていく光。
更に、アカリの渡してくれた超GRゾーンのカードと俺のデッキが磁石のように惹かれ合っている。
「つまり、一緒に使えってことか! よーし……負ける気がしねえぜ!」
ダンガスティックBが俺を乗せたまま、機械龍の腕を足場に跳んだ。
空に浮かぶシー・ジー目掛けてエリアフォースカードを向ける。
これで──捉えた!
「愚かな事……今度こそ、この命題の答えを確立させてやる……!」
「勝負だシー・ジー、デュエマを返してもらうぞ!」
さあ、
『Wild……DrawⅣ……EMPEROR!!』