学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
崩れ落ちる機械の龍。
それと共に、背景も時計の針も元に戻っていく。
完全に時間は元に戻った。それにより──時間の改変も出来なくなったのか、空を覆う像がノイズと共に掻き消えていく。
「任務……失敗、だと? この私が……?」
失意に満ちた表情でシー・ジーはインカムに手を当てる。
「何処まで私の計算を狂わせるんだ……白銀耀……!!」
最早、抵抗する力は残っていなかったのだろう。
そのまま彼の姿は消えてしまい、同時に空に浮いていた時間Gメンのタイムマシンも何処かへ飛び去った。
それを、俺達は見届ける事しか出来なかった。
「これで終わったのか……?」
「やった! やりましたよ! 任務完了です! 私達、この時代の改変を止められました!」
せんすいカンちゃんから顔を出したアカリが嬉しそうに叫ぶ。
「……はぁーっ、やれやれとんだ茶番に付き合わされたよ」
ぺたん座りの先輩は完全に疲れ切っているようだった。
無理も無いか。目の前で実体化するクリーチャーのデュエルを見届けたのだから。
……我ながらとんでもないことに巻き込んでしまったんじゃないか?
「先輩、大丈夫ですか?」
「まずまずってところ。サイコーに刺激的な体験だったけど、これっきりにしてほしいね」
「あはは……ほんとスイマセンでした」
「それで? 元の時代に戻るのか。今ので、あのムカつく奴逃げてったけど良いの?」
「多分、大丈夫じゃないですかね」
「多分かよ」
まあいっか、と先輩は言って立ち上がる。
「先輩、今日の事は……誰にも内密で」
「わぁーってるよ。誰も信じちゃくれないよ、こんな事」
先輩は笑みを浮かべて俺の肩に手を置く。
「なあ白銀。色々言われたり、嫌な事もあるかもだけどさ……それでも、仲間を取り戻すために戦うお前は絶対に間違ってないって思う。お前がお前である限り、あたしは……お前を送り出せるのかもな」
「先輩……」
「あたしはお前から見りゃ過去の存在だ。そしてあたしから見たお前は未来の存在だ。それなら……お前を縛る理由は無い。だから、こっちのお前にも好き勝手にやらせるよ。だけどさ──」
くしゃり、と顔を歪ませて彼女は言った。
「ぜったい、死ぬなよ……白銀。あたし、お前に会えなくなるの……嫌だぞ……」
ああ、そうか。
きっと世界に嫌われたとしても、俺の帰りを待ってくれる人はやはりどこかに居てくれて──俺はその人たちの為に帰って来なきゃいけないんだ。
「……先輩。未来で会いましょう」
「ああ。……未来で」
タイムダイバーに乗り込み、俺は窓越しに先輩の顔を覗く。
彼女の顔は、また大胆不敵で、傲岸不遜で、唯我独尊に──笑っていた。
「お爺ちゃん、そろそろ出発しますよ」
「なあアカリ、最後……ちょっとだけ良いか?」
「……良いですよ。ちょっとだけ、ですからね」
俺はハッチから外を覗く。
先輩に思いっきり手を振る。
「じゃあなーっ、未来のデュエマ部部長ーっ!」
「……ありがとうございます、神楽坂先輩ッ!」
地面に出来た大穴に飛び込むせんすいカンちゃん。
先輩も、俺が見えなくなるまでずっと手を振っていた──
※※※
「なあアカリ」
「何ですか?」
「時間改変で消えたはずの俺のデッキを神楽坂先輩が持ってたんだ。何でだろうな?」
ソファに寝転がりながら、俺はアカリに問うた。
それだけがどうも腑に落ちなかったのだ。
「きっとそれは、縁によるものだと思います」
「エニシ?」
「はい。違う時代にいる、自分とつながりの深い人間と出会うと……エリアフォースカードを通じて歴史の修整力が強く働くんだとか」
「へーえ……だけど、俺が神楽坂先輩に会ったのは大丈夫なのか?」
「それはきっと大丈夫です。ダッシュポイントが消滅すると共に歴史の修整力で、神楽坂先輩も直に
「全世界がデュエマを忘れる事に比べれば、か」
だけど、ちょっと寂しい気もする。
あの出会いが無かった事になるなんて。
とはいえそれが歴史を歪めるくらいなら、それが正しかったのかもしれない。
「マスター、一先ずこれで2016年の改変は阻止出来たでありますな!」
「ああ。やっと皆に会える!」
「そうですね。そろそろ2018年に着くと思います。私は外で待機しておくので、部室を覗いてきては如何でしょうか?」
そうだ。
タイムダイバーが出発したのはあの日の朝だから……もし歴史が元に戻ってるなら、火廣金がプラモデルを組んでいるはずだ。
せんすいカンちゃんが校舎の近くに浮上する。
そこから逸る気持ちを抑えられない俺は、飛び出すともう駆け出していた。
ああ、どうか全部元に戻っていてくれ。
俺は、あいつらにもう一回会いたいんだ。
慌てるように部室へ駆け込み、扉を開ける──
「──何だ部長。そんなに慌てた顔をして」
──部室……いや、部室であるはずの場所は巨大ジオラマが占拠していた。
涼しい顔で徹夜明けの魔導司がパタパタと団扇でプラモデルの接着剤を乾かしている。
そして鼻の中をツンと突き刺すシンナーの匂い。こいつちゃんと換気してんのか。
嬉しさよりも先に──
「火廣金ェェェーッ!!」
「待て待て部長、ステイステイ」
「人が、人が、どんだけ苦労してっ、お前をっ……お前らを……心配したと思って……!」
「? どうした。怒ってるんじゃないのか、部長」
「るっせーよ……るっせーよ……火廣金……ほんっとお前は……お前ってやつは……」
ああ、良かった。
本当に良かった。
このバカが戻ってきてくれて。
やっぱり、嬉しいんだ俺。
目から色々溢れて止まらねえや。
「部長、泣いてるのか? すまない、ジオラマは模型部に寄贈するつもりだったのだが」
「ちげーよ、良かった……ブランと紫月もこの分なら……」
「ええい、離れろ部長。鼻水と涙が制服に付くだろう」
「こうしちゃ居られない、ブランと紫月にも会いに行かないと──」
「待て部長。何をそんなに急いでるんだ。急に聞き覚えの無い名前を言いだして」
「……今、なんて?」
「ちょっと、火廣金君……。また部室をこんなにして」
一難去ってまた一難。
取り戻したと思っていたはずの日常は何もかもがボロボロに欠け落ちていた。
そればかりか耳に入って来たその声は──
「こんなんじゃあ、部長が泣くよ? 早く元に戻した方が良い」
「やれやれ、君はもう少しプラモデルの美しさというものを学ぶべきだと思うんだがな」
「そんな事を言ってるのは君だけなモンだよ。此処に置くのはめいっぱいの本棚が相応しい」
──酷く耳障りなほどに──聞き覚えがあった。
「どうしたんだよ白銀君──顔が怖いよ?」
「部長。一体どうした。急に固まって」
「どの面下げて来た」
「え?」
俺は、思わず彼に掴み掛かっていた。
「どの面下げて、此処に来たんだ──