学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「クォーツライト家の真実?」
以前、そんな話をトリスから聞いたことがある。
あれは、ロードの事件の後からしばらくしてからのことだった。
いきなり俺だけがアルカナ研究会に呼び出されたので何事かと思えば、ロードの処遇について俺にだけ知らせるつもりだったらしい。
ブランを同伴させなかった理由は言うまでもない。彼女に嫌な事をぶり返させるのは俺だって嫌だった。
「奴らの正体は、魔導司の真似事をした人間だ」
「それは分かる。ロードは現に魔術とかを使ってたわけじゃないからな」
「そうだ。だけど、真似事には当然元手が居る。奴らが目を付けたのはエリアフォースカードだった」
元より、エリアフォースカードとは人間がクリーチャーに対抗する為に作られた魔力タンクだという。
彼らはそれを使って魔導司と同等の力を手にしようとしたのだ。
「一族郎党は当時欧州で流行っていた魔女狩りに加担する事でエリアフォースカードを集めていたんだ。あたしの家から盗まれたお宝がまさにそれだ」
「トリス・メギスの家がエリアフォースカードを持っていたのか!?」
「ああ。審判のアルカナの力がしこたま込められているんで”裁きの印”なんて親父は呼んでたんだ。今思えばあれが審判のエリアフォースカードだったんだろうな。まさか大魔導司メフィスト様の作ったとんでもない魔法道具だなんて親父も思いはしなかったんだろうが」
「……」
「だが、親父は人間に騙されてそれを奪われた挙句、魔女裁判に掛けられて殺された」
「じゃあ……その人間ってのはまさか」
「顔を見れば判ったよ。クォーツライトの人間……つまりロードの祖先だろうな。あたしの記憶にある顔とロードの顔はそっくりだったぜ」
トリスは怒気の籠った笑みを浮かべてみせる。
背中に百足が走る。
その場から離れたくなったが、席から立ったら殺されそうな勢いだった。
「奴らは、人口龍であるDGをエリアフォースカードで作ろうとした。そして、その器に自分達の後継者を選んだ」
「それがロードだった、ってわけか」
「ああ。奴は最初、”普通の子供”として育てられた。ある程度純真かつ真っ当に育てらないといけなかったらしい」
「どうして?」
「それが”器”に必要な条件だったからだ。人間を道具としてエリアフォースカードに組み込む為のな」
あまりにもぽんぽんと出て来る非人道的な話に俺は口を噤まざるを得ない。
クォーツライト家とやらは、狂信者の集まりか何かなのか?
「なあ、それで器とやらは普通のエリアフォースカードの使い手とどう違うんだ?」
「エリアフォースカードの使い手とエリアフォースカードの基本は対等な契約だ。しかし、奴らの行った実験は違う。DGの出力を最大限にするために──クリーチャーと主である人間を直接繋ぐ実験を行った」
「直接? どういうことだ?」
「つまり、エリアフォースカードと主が、脳の一部で繋がるんだ」
「っ……はぁ!?」
「だから、エリアフォースカードの力の一部を奴は行使することができる。言うなれば、魔導司に限りなく近い存在となるわけだ。だが、これには当然リスクがある」
勿論だ。
ただでさえ良く分からない魔法道具であるエリアフォースカードを人間に組み込むのだ。
リスクが無いわけがなかった。
「実際……ロードはぶっ壊れた。精神的に」
「……」
「奴らはDGの完成を急ぎ過ぎたんだろうな。幼いロードをDGに接続した結果……奴ら自身も想定していない結末が待っていた。暴走だ」
「……そう、か」
「結果、ロードは一族郎党を皆殺した挙句、今回の大事件を引き起こした。あいつの頭は既にDGでイカれてる。何年待っても戻らないね。精神系の魔術が得意なあたしが言うんだ、間違いない」
「じゃあ、ロードは……どうなるんだ?」
あいつのやったことは俺達の倫理観や法律に照らし合わせても重罪だ。
魔導司から見ても、大量虐殺の犯人であることに変わりない。
大体結末は分かっていたが……。
「──ロードは存在しちゃいけない生き物だ」
……当然のことかもしれない。
それでも……いざ、真正面から告げられると胸が詰まるようだった。
「実際、審判のエリアフォースカードと奴は繋がれている。完全にリンクを断ち切るにはロードを殺すしかない」
※※※
──2010年12月24日。ロンドン。
イギリスの首都であるこの街は、日光にめっきり恵まれず曇っていることが多い。
日は暮れていたが、街は明るいイルミネーションによって彩られていた。
「──ロード……今日は楽しかったっ」
「いやあ、たまにはこういうのだって良いんじゃないか?」
何時もはくすりと笑いもしないブランだが、ウィンター・ワンダーランドの催しには目を輝かせていた。
ああ、彼女を誘って良かった、と当時10歳のロードは安堵する。
最近彼女は学校で嫌な思いをすることが多かったから、少しでも彼女にとって良い思い出を増やしたかったのだ。
「実際に行ったことはなかったの。お母さんとお父さん、忙しいから……」
「ブランが行きたいなら、何回でも連れていってあげるよ」
「ほんと? 嬉しいっ」
ああ、彼女が幸せなら僕も嬉しい。
いつも泣いてばかりいる彼女が見せる笑顔。これが見たかったんだ。
そっ、と彼女の手を握る。
「ロード?」
「僕が……僕がブランを守るよ」
「なにそれっ。今日のロード、ちょっとカッコいいよ?」
「からかうなよっ! 僕は本気だ!」
ああ、そうだ。決めたんだ。
僕がずっと傍に居てあげよう。彼女がずっと笑っていられるように。彼女がもう泣く事もないように──
『
何か、声がしたような気がした。
ブランが振り返ったその時。
手を引っ張っていれば、彼女は──今も僕の傍で笑っていたのだろうか。
僕と彼女の立っている位置が逆だったなら、彼女は僕にまた笑顔を見せてくれたのだろうか。
「──え?」
厚手のコートに覆われていた彼女の胸から、噴水のように鮮血が噴き出した。
「え、え、え──ブラン!?」
彼女は返事をしない。
アスファルトの上に赤い水たまりが出来ている。
触れば僕の手も真っ赤に染まった。
何が起こったのか分からなかった。
パニックになるまま僕は彼女を揺り動かす。こんな時どうすれば良いんだ。
救急車を呼ぶ? 応急処置?
いや──駄目だ。傷が深すぎる事は、コートを貫いてばっさりと刻まれた一文字の傷が物語っていた。
「あ、あ、ブランっ!? ブラン!! 駄目だよ、死んじゃ駄目だ!」
薄っすらとだが見える。
刃を携えた強大な怪物が見えていた。
そしてそれが今度は僕に殺意を向けている事も分かっていた。
「或瀬ブランとロードは此処で死ぬ。死因は子供を狙った通り魔的殺人。霧の都ロンドンにはピッタリな背景ですわね」
女の声が聞こえてくる。
それが誰の者かは分からなかった。
鮮血に染まるブランを抱え、見えない刃が迫るのを待つしかなかった──
──惨めな死を受け入れるのか? 片割れの仇討をせずに?
「──っ!?」
その時、何が起こったか分からない。気付けば、僕は白い部屋に立っていた。
何処からともなく声が聞こえてくる。
──我は世界の脅威に対する抑止力──汝は、自らの運命を売り渡す覚悟はあるか?
「そんなことより、ブランを! ブランを助けてくれ!」
──お前自身の未来を賭す覚悟はあるか?
「ああ、賭ける、ブランが助かるなら──」
──その言葉、想い人の為に自らを犠牲にする決意であるな?
『Wild……DrawⅩⅠ……
──ならば我は──汝に天使の福音を与えよう。
「──!」
目をもう一度開ける。
迫る凶刃、そしてさっきよりもはっきりと見える怪物の像。
だけど──手にいつの間にか握られていたカードを振るえば、それは跳ね返されてしまった。
背中を包む暖かい光。
そこには眩い光を放つ天使が舞い降りていた。
※※※
「それが、あの夜起こった全てだ。シリウスのおかげで、僕は生き延びることが出来た」
「でもブランさんを助ける事は……私には出来ませんでした。もう、息は無かったんです」
タイムダイバーの中でロードが話した過去を聞いて、俺は居た堪れなかった。
12月24日の夜。ロードと一緒に帰る途中に刃の怪物に襲われたブランは命を落とした。
明確に命を奪うと言う方法で歴史改変をしてきた時間Gメンには怒りがこみあげてくる。
そして気にかかるのはロードが手にしたエリアフォースカード。
俺が知っている限り、あいつが使っていたのは
しかし、彼が持っているのは
「恐らく、歴史が改変されたカウンターなのでしょう。ブランさんを補完する為、別の誰かが彼女の役割を負わなければならなかった」
「だから別のエリアフォースカードが宛がわれて、クォーツライト家も早々に滅亡した……」
「君達の歴史ではどうなんだ?」
「それは……」
言えなかった。
元々、ロードはクォーツライト家の方針で最初は庶民として育て、世界を見る器を築くという名目で別の家に預けられていたのだという。
俺達の知っているロードはデュエリスト養成学校の爆発事故を隠れ蓑にしてクォーツライト家に再び引き取られた。そして、DGの実験が原因でロードは狂った……と、俺はアルカナ研究会の魔導司から聞いている。
だけど、そんな事を今真っ当に生きている本人に言えるわけがない。
この歴史ではエリアフォースカードを手にしたロードとイギリスの魔導司がクォーツライト家を退けたのだという。
それによって、DGの実験はちゃんとした形になる前に暴発し、悲劇が起こる前にその元凶となった一族郎党はロードを狂気に巻き込む事無く皆死に絶えた……ということだ。
だから、これがロードの本当の素なのだろう。
「そんなことよりロード。こっちのブランの事とか知りたくないか?」
「あ、それすっごい気になる。教えてくれないかなっ」
かなり無理矢理話を変えたが、それでもロードは食いついた。
「多分びっくりするぜ? 鹿追帽子被って探偵を気取るアイツの姿なんて想像できるか?」
「言っちゃ悪いが誰か別の人間と勘違いしてないか?」
「その……確かに最初は引っ込み思案だったんだけど、悪い先輩の影響受けちゃって……『事件デス!? この私の出番デスね! 極上のヤマがこの私を呼んでるのデース!』とか言い出して」
「何があったんだ!?」
大体神楽坂先輩の所為なんだけどな。
あの人がブランに日本の文化と称して変なキャラを植え付けたあの人が全部悪い。
「面白い冗談だねぇ……高校生になったブランに、明るく皆を振り回すブランか。一度で良いから……見てみたいものだ」
「……ああ、そうだな」
「そのためにも、絶対にこの歴史は書き換えないといけない」
「ロードさん、本当に良いんですか?」
「何故? 僕に気を使っているなら、そんなものは要らない。ブランを助けたいという思いは、他の誰に強制されたものじゃない。ブランを助ける為なら、僕は喜んで自分の人生を悪魔に売り渡すよ」
確かにそうかもしれない。
彼の歴史を犠牲にしなければ、ブランは戻って来ない。助けられない。
だけど──このロードには、元気なブランの姿を見て欲しいと思ってしまうのは果たして俺のエゴなのだろうか?
いや、きっとそうなのだろう。
だけど……それでも胸につっかえたものは取れなかった。
「それでは着きますよ──2010年12月24日、ロンドン・ハイドパークに!」