学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第15話:戦慄の旋律─耀の夢

 ※※※

 

 

 

「何だろう、これ――」

 

 ブランから話を聞いた後から、嫌な感じはしていた。

 だけど、剣道の練習まで手につかなくなるなんて。

 キャプテンに一言断りを入れたあたしは、突き動かされるような衝動に従って、ある場所に立ち寄っていた。

 旧校舎――その1階の窓から、まぶしい程に光が溢れている。

 思わず、そこから部屋の中を覗き込んだ。生い茂っている草木で胴着が汚れることも厭わず――

 

「何、あれ……」

 

 あたしは、思わず食い入るように見入っていた。 

 何で、デュエマのクリーチャーが音神君の近くにいるの――!?

 何で、耀の近くにもクリーチャーがいるの――!?

 

 

 キァァァァァ!!

 

 

 

 甲高い声が聞こえた。

 はっ、と振り返ると――巨大な何かが、あたしの後ろに立っていた。

 心臓が、止まったかと思った。

 純白の龍の異形が、あたしを睨んで咆哮した。

 

「な、なにこれ──」

 

 振り上げられる槍。

 あたしを、殺す気だ。

 一気に身体中が冷え上がる。

 やばい。死――

 

 

「そこをどけ」

 

 

 

 目を瞑った時。低い声が聞こえた。

 そして、怪物が吹き飛ばされる。

 誰――!?

 誰なの!? 

 これって、一体――!?

 

 ※※※

 

 

 

 俺と音神のデュエル。

 早速、先攻の2ターン目から仕掛けてきたのは音神だった。

 

「《タイム1 ドレミ》召喚」

 

 現れたのは、星型の蝶ネクタイを付けたドレミ団のクリーチャー。

 その効果で、カードが音神の手に渡っていく。

 

「俺のターン。呪文、《ピクシー・ライフ》で山札の上から1枚をマナゾーンへ!」

 

 これで俺のマナは3枚。

 何とか間に合えば良いが……。

 

「僕のターン《ドレミ》で攻撃するとき、革命チェンジ発動」

 

 言った音神の手札から、光と共にクリーチャーが降り立つ。

 そして、《ドレミ》と空中でハイタッチを交わし――天高く、降り立った。

 

「《音精 ラフルル》を召喚! その効果で、このターン君は呪文を唱えることは出来ない。さあ、まずは前奏曲! シールドをブレイクだ!」

 

 割れるシールド。

 S・トリガーはよりによって呪文の《タイム・ストップン》――唱えたいのはやまやまだが、呪文を唱えることを禁止されてしまったので唱えられない。

 これは、1ターン目に《クルト》こそ来なかったけど、成長ミラダンテの亜種みたいなものか!? 超次元カードは無いが……早いうちに《ミラダンテ》はやっぱりきついな……!

 

「マスター、どうするでありますか!?」

「慌てんなよ。3マナで《フェアリー・クリスタル》! その効果で、山札の上から1枚をマナゾーンへ。そして、それが無色の《戦慄のプレリュード》だったから、もう1枚マナゾーンに!」

 

 フェアリー・クリスタルは、山札の上から1枚をマナゾーンに置き、それが無色カードならば追加でブーストできる強力なカード。

 これで俺のマナゾーンは6枚だ。

 しかし――どっちにしたって、まずいなコレは。

 

「僕のターン。3マナで《コアクアンのおつかい》を唱えて、山札の上から3枚を表向きに。その中から光か闇のカードを手札へ」

 

 裏返ったカードは《静寂の精霊龍 カーネル》、《タイム3 シド》、《アクロパッド》の3枚だ。

 全て光のカードだから、手札に加えられる。

 まずい。手札が相手も増えちまった。そんでもって――

 

「《ラフルル》で攻撃――するとき、革命チェンジ発動!」

 

 彼が高らかに言うと共に、早速それは姿を現した。

 天高く舞い上った天使龍は、戦場に舞い降りる。

 時さえも超越する奇跡の龍が、俺に絶対的な敗北を齎す為に。

 

 

 

「――それは、数多の先駆者に告げる鎮魂歌。《時の法皇 ミラダンテ(トゥエルブ)》!!」

 

 

 

 天使の羽が落ちると共に、何処からともなくバイオリンの音が響き渡る。

 そして、俺の体に茨が生い茂り、縛っていく。

 

「止まれ時間よ。ファイナル革命発動!!」

 

 く、苦しい!!

 これじゃあ身動きが取れない!!

 まるで、俺の時間が止まってしまったかのように硬直している!!

 

「これで君は次のターン、コスト7以下のクリーチャーを召喚出来ない」

「コスト7以下、か……!!」

「君。ジョーカーズを使うようだけど、そのジョーカーズ……記憶が正しければ、コストが7以下のクリーチャーが殆どだったはず。君の時間を止めたよ。そして、《ミラダンテ》の効果でコスト5以下の光か水の呪文を唱えるか、カードを1枚引ける。今回はドローするよ」

 

 時間を止めた、か……。

 確かにクリーチャーの召喚が出来ない状態じゃあ、時間を止められたも同然か。

 だけど――

 

「時止めなんて、インチキも大概にしろよ」

 

 俺の表情は――笑っていた。

 

「俺のターン。3マナで《戦慄のプレリュード》。その効果で、コストを5下げて――4マナをタップ」

 

 ジョーカーズのマークが燃え上がる。

 その鼓動に応えるかのように。そして、俺に絡みついていた茨が、千切れとんだ。

 

「《燃えるデット・ソード》召喚!!」

 

 バトルゾーンに浮かび上がるジョーカーズのマーク。 

 そして、そこから燃え上る炎の鋏が飛び出した。

 此奴が今回のデッキのコンセプト……小型をちまちま並べるイメージのあるジョーカーズだが、デカい奴も居るんだぜ。

 《ミラダンテ》が止められるのは、コスト7以下のクリーチャーの召喚だけ。いつものデッキなら詰んでいたけど――

 

「《デット・ソード》の効果で、バトルゾーンとマナゾーンにジョーカーズが合計4枚以上あれば、お前はバトルゾーン、マナゾーン、手札からカードを合計3枚選んで山札の一番下に置く!!」

「くうっ!!」

 

 当然、音神の場には今、《ミラダンテ》しか居ない。

 天使龍の体は、一瞬で《デット・ソード》によって両断されることになる。

 それだけじゃない。

 燃える鋏は、音神のマナ、手札さえも切り刻んでいった。

 

「どんなもんだ!! 《デット・ソード》の最後の効果で、3枚ドロー。ターンエンドだぜ!」

「おのれ……邪魔をするなよ!!」

 

 絶叫する音神。

 そのまま、マナを3枚タップした。

 

「《タイム3 シド》召喚! その効果で、呪文のコストをプラス2する。ターンエンドだ」

 

 現れたのは、呪文のコストを増加させる《シド》。

 これで、プレリュードとかのコストを上げるつもりか。

 だけど――

 

「俺のターン。8マナで《バイナラドア》召喚! その効果で、《シド》を山札の一番下に送って、1枚ドローだ!」

「っ……!!」

「そして、《デット・ソード》でシールドをT・ブレイク!!」

 

 飛び出した凶悪鋏は、一瞬で音神のシールドを3枚切り刻んだ。

 割れた破片が飛び散る。

 いける。このままなら、次のターンにリーサルを――

 

「S・トリガー、《静寂の精霊龍 カーネル》!! 《カーネル》の効果で《デット・ソード》をロック! 次のターン、攻撃もブロックも出来ない!」

「っ……!!」

 

 そのまま、音神にターンが渡る。

 カードを引いた彼は、そのまま昏い目を俺に向けた。

 

「《予言者クルト》召喚。更に2体目の《シド》も召喚。そして、《カーネル》で攻撃――するとき、革命チェンジ!!」

 

 再び、天空から天使の羽を広げて精霊の龍が姿を現す。

 時間を越えた奇跡の龍が、姿を現した。

 

「出てこい、2体目の《時の法皇 ミラダンテ(トゥエルブ)》!! ファイナル革命で君は次のターン、コスト7以下のクリーチャーを出せない。更に、《ミラダンテ》の効果で《ドラゴンズ・サイン》を唱える! その効果で、《カーネル》を出し、《バイナラドア》もロックだ!! シールドをブレイク!!」

 

 これで、俺はシールドが残り0枚。

 完全に逆転されてしまった。俺のクリーチャーの時間は、《カーネル》の効果で止められている。

 しかも、次のターンにコスト7以下のクリーチャーの召喚は出来ない。

 よりによって、最後に来たシールドのカードは、《戦慄のプレリュード》。

 一方のあいつの場には、3体のクリーチャー。次のターンを渡せば、俺の負けだ。

 

「マスター、大ピンチでありますよ……まだ相手には、シールドが2枚も……!!」

「分かってるけど……!!」

 

 シールドが割られたダメージが、もろに体に来ている。

 ロック能力を持つ《ミラダンテⅫ》は、余り俺のデッキには刺さらなかったとはいえ、《ドギラゴン》よりもたちが悪いクリーチャーだ。

 おまけに、カウンターの機会をいつでも狙っているし、ジョーカーズではこの状況をひっくり返せない。

 

「白銀君。僕は、僕の音楽を理解できる奴とだけ一緒に居たいんだ。だから、コレで良いんだ」

 

 だが、それでも――俺は反駁した。

 

「音神……諦めちまって、良いのかよ……!」

「何がさ」

「世界中の人に、お前の音楽を届けるんだろ……!? なのに、こんなところに引き籠ってていいのかよ!!」

「引き籠る……!?」

 

 俺は畳みかけるように言った。

 追い詰められてるから、すっげーカッコ悪いけど、これだけは言いたかった。

 

「そんなんだったら、何でバイオリン始めたんだよ……お前の夢は何処に落っことしちまったんだよ、音神ィ!!」

 

 俺は、許せなかった。

 あんなに大きな夢を語っていた音神が、今はとてもちっぽけに見えたからだ。

 

「――お前は、俺みたいに何にも決まってねえ奴が羨ましいって言ったな!! ああ、決まってねえよ。人生お先真っ白だ!! だから何だ。これから幾らでも、俺の色に染めるだけだ!! それが、俺の人生だ!! お前も、お前の人生はお前で染めるべきじゃねえのか!? お前のやりたいようにやるべきなんじゃねえか!? 勝手にクリーチャーなんぞに、決められてんじゃねえよ!!」

 

 ぐっ、と拳を握りしめた。

 山札を引く。

 そうだ。お前達の未来を、クリーチャーなんかに壊させやしない!!

 

「3マナを、タップ……奏でろ、前奏曲……《戦慄のプレリュード》!!」

 

 流れる戦慄の前奏曲。

 そして、俺は震える手でマナゾーンの全てのカードをタップした。

 

 

 

「お前の運命は、お前が決めろ!! 《「修羅」の頂 VAN・ベートーベン》!!」

 

 

 

 純白の鎧が、バイオリンの戦慄と共に現れた。

 ベートーベンのバイオリン協奏曲だ。

 そして――虹色のラインが入った巨大な槍を掲げ、戦慄の王龍は戦場に立った。

 だけど、その瞳は――不思議と、悲しそうに淀んでいた。

 

「そのカードは……僕が君に渡したカード――!!」

「俺がビマナ気味にデッキを組んでたのは、お前の渡してくれたカードのおかげだぜ、音神。此奴が召喚してバトルゾーンに出た時、お前の場のクリーチャーを全て手札に戻す」

「あっ、そ、そんな――」

 

 《VAN・ベートーベン》はコスト11のパワー14000、T・ブレイカーを持つキング・コマンド・ドラゴンでアンノウン/ゼニスの無色クリーチャー。

 ジョーカーズじゃないが、その効果に慈悲は無い。全ての龍を制圧する王龍の支配。

 旋律が鳴り響くと共に、時の法皇も、その眷属たちも手札へ送還される。

 

「となれば皮肉だな、ミラダンテ。てめぇの首を絞めたのは、てめぇの宿主だったようだな。《VAN・ベートーベン》が居る限り、ドラゴンかコマンドが場に出る時、代わりに墓地へ置かれる」

「そんな、こんなことが――!!」

 

 カードを引く音神。

 既に、戦意を喪失してしまっているのか、がくりと膝をつく。

 クリーチャーを出せたとしても、もうこの盤面から逆転することは出来ないからだ。

 

「じゃあ行くぜ。俺のターン――」

 

 《カーネル》の拘束が解けた《デットソード》と《バイナラドア》が起き上がる。

 これで、一斉攻撃態勢だ。

 

「《デットソード》でシールドをW・ブレイク」

 

 切り刻まれたシールドには、トリガーは無い。

 もう、後は叩き込むだけだ。

 

 

 

「――《「修羅」の頂 VAN・ベートーベン》でダイレクトアタック!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 思い出した。

 昔見たオーケストラのコンサート……それがとても印象に残っていて。

 バイオリンをかっこいいだなんて子供心に言い出して――それが、いつの間にかオーケストラで演奏する自分の理想像を象っていったんだ。

 そんなちっぽけな理由だったけど、僕の中では初めてのやりたいことだったんだ――

 

 

 

※※※

 

 

 

「……白銀君」

 

 まるで、今目覚めたかのような様子で、音神は俺を呼び掛けた。

 その足元には、《ミラダンテⅫ》のカードが落ちていたが、既に俺が回収している。

 不思議と、音神の口元には薄っすらと笑みが浮かんでいた。

 

「大丈夫か? 音神。練習していて、疲れて寝ちまってたんじゃねえか?」

「ありがとう。でも、とても不思議な夢を見ていた気がするよ」

 

 愉快そうに彼は言った。

 

「君と、デュエマする夢だ。そして、大事な夢を諦めかけている僕に、君が叱責してくれてね。どうしてだろう。君とは、この間会ったばかりなのにね」

「あんまり、根を詰めすぎるなよ?」

「ああ。そうするよ。おかげさまで、夢の中で《ベートーベン》に怒られてしまった」

 

 気を付ける、と音神は苦笑交じりに言う。

 良かった。どうやら、完全にクリーチャーの影響は抜けたようだ。

 そして、ミラダンテに取り付かれていた頃の事もあまり覚えていないらしい。何であれ、一件落着か。

 

「……最近、自信が無かったんだ。自分に。だけど、吹っ切れた気がするよ。夢の中で、君に”お前の運命はお前で決めろ”、だなんて言われちゃったからね」

「そんなこと言ったのか? 俺」

「ああ。だから、僕の運命は、僕で決める。誇れるだけの練習をしてくるよ。向こうでね。憧れの、オーケストラに入る為に。それが、僕がバイオリンを始めた理由だからね」

「大丈夫さ。音神ならな」

 

 どうやら、本当に留学を決意出来たらしい。

 此奴も、前に進めたってことで良いのかな。

 

「ところでよ、音神。返しておきたいものがあってな」

 

 俺は、音神に《VAN・ベートーベン》のカードを見せた。

 これは、元々此奴のものだからな。俺は、やっぱり音神が持っておくべきだと思った。

 びっくりしたように、彼はそれを手に取る。

 

「何で……?」

「お守り代わりに持っておいてくれよ。で、日本に帰ってきたら、またデュエマしようや。音神」

 

 ぽかん、と呆気に取られていた音神だったが――ははは、と大きく笑い出すと言った。

 

「はははっ、今度は現実で、かい? 君もセンスがあるね。良いよ、そうしよう。日本に帰ったら、デュエマしようよ。約束だ」

「ああ――約束だぜ」

 

 ぐっ、と互いの手を取る俺達。

 話した時間は少ないし、殆どの事は音神は忘れている。

 それでも、俺の未来は空白なんかじゃないってことは分かった。

 1つ、大事な約束が出来た。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……しかし良かったです。音神先輩が夢を決意できて」

「ああ。出発は2週間後。もうすぐだな」

 

 次の日。俺達は、一件落着ということで疲れを部室で癒していた。本日の活動は、だらだらとデュエマするだけにしておいたので問題は無い。音神は、今夜から、旅の準備を本格的に進めていくらしい。すぐに、家に帰ってしまった。だけど、あの表情にもう憂いや迷いは見当たらなかった。

 

「ところで、昨日のアカル……妙にBurningしてた気がしマスケド、どうしたんデスカ?」

「別に」

 

 ブランの質問の答えだけど、俺は夢を持ってる奴は応援したい。

 そして、できれば諦めてほしくない。

 それだけの話だっただけだ。恥ずかしいから、絶対他の誰かには言ってやんねーけど。

 俺も、将来の夢を持つ日が来るのかは分からない。全くの未知数だ。

 

「ま、でも私も一流の探偵になれるように頑張らないと、デスネ!」

「ブラン先輩は夢を見る前に現実を見た方が良いかと」

「……ま、人生お先真っ白だからな。本当に何があるのか分からねえもんだよ」

 

 だけど、俺は未来の事より今の事に目を向けていきたい。

 ワイルドカードにデュエマ部の事……問題は山積みだ。

 

「だから、人生は面白いんですけどね」

「耀も、焦る事は無いデスヨ!」

「そうだな。まず、俺は目の前の事を片付けていかねえと」

 

 やれやれ、普通じゃねえ高校生は大変だ。

 クリーチャーと戦ったり、デュエマしたり、約束が出来たり――

 

「――オイ、デュエマ部は居るか?」

 

 いきなり、部室の扉が開いた。

 そして、誰かが応対する間もなく飛び込んできたのは――

 

 

 

「一言言わせて貰う。ワイルドカードに関わるのを、やめろ」

 

 

 

 突き刺すような、声と言葉だった。

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