学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「お祭りムードって感じだな……」
「この催しはウィンターワンダーランド。毎年この時期になるとハイドパークにも寄店やイルミネーションが溢れかえるのさ」
「詳しいな」
「詳しいも何も此処は僕の故郷……まさか、こんなマシンで本当に帰って来ることになるなんてね」
歴史改変の匂いを嗅ぎつけたタイムダイバーが浮上したのはハイドパーク。
ロンドンに8つ存在する王立公園の一つだ。
王立だなんて聞くと、改めて此処がかつては王政によって統治されていたれっきとした王国であることを実感させられる。
だが、クリスマスの時期だからか厳かな雰囲気と言うよりは賑やかな人だかりが辺りに広がっている。
俺達はというと、ハイドパークの寄店で食べ物を調達しつつベンチで人の入り乱れる様を眺めていた。
「これ旨いな! ソーセージ滅茶苦茶デカいし」
「この時期のハイドパークはドイツグルメが人気なんだ。腹が減っては戦が出来ぬというし、たっぷり味わうといい」
「全部私の奢りですけどねー……」
アカリは色んな国の通貨を持っている。
活動中の資金にしているのだという。
──というか、お金無くしてタイムマシンを使った作戦なんて出来ませんよ!
とは彼女の科白である。どうやって調達したのだろうか。
「しかしアカリ君、大丈夫なのか? 僕達は違う時代から来ている訳で、此処で買い物をするのは不味いのだと思うんだが」
「この程度なら大丈夫です。私達がこの時代を離れれば、修正されるはずですよ。だから、余程の事をしない限りは歴史に悪影響は無いわけで」
「余程の事の境界線が曖昧だな」
「例えば──クリーチャーの力を人の目に付く範囲で行使する、とかでしょうか」
「それは確かにまずいな……でもこのホットドッグは本当にうめぇな! なあアカリ、もう一個買ってくれねえ?」
「孫にホットドッグをねだるお爺ちゃんがいますか! でも美味しいですねコレ!」
「君もドカ食いしてるじゃないか」
「普段が不味いご飯ばっかりなので! お爺ちゃん、もっといろいろ買いましょう!」
「おうよ!」
なんせ考えてみれば、直近の食事がロストシティの宿屋でのマズイ飯だったから仕方が無い。
タイムマシンの中では疲労のあまり寝るか飲み物しか飲んでいなかったし……そもそも軽食しか置いていない。
今だって食べているのはジャンクフードみたいなもんだし。旨いけど。
「なあ、ところで気になってたんだけど……アカリ君って、部長をしきりにお爺ちゃんお爺ちゃんって言うけど……部長、そんなに老けてる?」
「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
「確かお前、説明面倒臭いから伏せておけって」
「あ……えーと、白銀耀は私の祖父なんです」
「えっ」
ロードは驚愕の表情を浮かべた。
まあそりゃそうだろうな。
「ってことは君は、部長の孫だったのか!? 本当に!? 全然似てないじゃないか、信じられない。アレの子孫がコレなのか……」
「おい今若干馬鹿にするニュアンス入ったぞ」
「なあ、部長は誰と結婚したんだ!? すっごく気になるんだけど」
「あっ、それ俺も気になってた! アカリ、お前が居るってことは俺結婚してるって事だよな!?」
「お爺ちゃんは誰とも結婚してませんよ?」
え?
「私とお爺ちゃんは血が繋がってないんです。私は”拾い子”だったので」
「……すまない、辛い事を思い出させたかもしれない」
「気にしてませんよ。私にとってはお爺ちゃんが親みたいなものですから。私、お爺ちゃんに拾われて良かったって思ってます」
「……でもお前、俺に初めて会った時に自分の事を孫って言ってなかった?」
「歳が離れすぎてるからでしょうか。お爺ちゃんは私の事を娘と呼ぶより孫娘と呼んだ方がしっくり来るみたいだったから」
そうか。アカリは、養子だったのか。
もしワイルドカードによって世界が滅んでなければ、彼女も真っ当に温かい家庭で育つ事が出来たのだろうか。
……俺もそういう家庭って言われてピンとこないんだけどな。
「でも、そんな事より腹ごしらえですお爺ちゃん、ロードさんっ。まだ沢山寄店ありますよ!」
「その通りであります! 武士は食わねど高楊枝であります!」
「その諺は違うと思います」
「とにかく、問題の時刻まではまだ時間があるんだろ?」
「ああ。あの日の事件は……丁度、夜だったからね」
ぎりっ、と彼は唇を噛み締める。
辛い事件を思い出しているのだろう。
「大丈夫ですっ。歴史がまだ変わってないなら、きっとロードさんとブランさんは見つかりますよっ」
「それなら良いんだけど。やっぱり不安だ。歴史なんて、簡単に変えられるんだろうか」
「変えてやる。いや、絶対に取り戻してやる」
「……そうだね。今不安な事を数えていても詮無き事か」
「……ああ。ブランが元気な歴史は、俺が一番知ってるからな」
そういう俺は3つ目のホットドッグに齧りついていた。
「でも、問題はシリウス……僕の相棒かもしれないね」
あのエンジェル・コマンドの辛そうな科白を思い出した。
ロードがこの時代にシリウスと出会ったなら、大分長い付き合いになる。
「君達に協力するのは、僕だけで決めてしまったようなものだからね。僕が消えればシリウスも消える」
「あっ……」
「それを彼女とちゃんと相談しなかったのは、心残りだからね」
彼は何処か切なそうに笑みを浮かべた。
「正直、良い感情ばかり抱いていたわけじゃないよ。僕はこの通り捻くれてるからさ、彼女に鬱屈したものをぶつけた事だってある」
「でもさ。それでも……大事な相棒なんだ。何年も一緒に戦っていればね」
※※※
「見つからないでありますな……」
「この時代のロード様とブラン様のお姿が見つかれば、話は簡単ですが……流石王立公園というべきでしょうか。あまりにも広大です」
空をふよふよと飛ぶチョートッQとシリウス。
地上の様子を観察しながら、問題の二人を探していた。
「でも、本当に良いのでしょうか、ロード様は……もし、この歴史を修正すればロード様は消える事になってしまいます」
「そ、それは……確かにそうでありますが」
「チョートッQ様。貴方たちは自分の歴史を正しいものと思っているようですが、私はそうとは思いません」
「……」
チョートッQは何も答えられなかった。
「例えこの歴史が偽りと言われても──ロード様と戦ってきた6年間は、私にとっては間違いなく本物です。いいえ、どうして偽物と言えましょう。貴方達の歴史が元に戻ったその時、私たちの軌跡は、間違いなく無かったことになってしまう」
正しい歴史と、そうでない歴史。
もし、耀と戦ってきた歴史が後者だと断じられればチョートッQは耐えられるだろうか。
いや、耐えられるわけがない。今がまさにその状態ではないか。
「それでも私は……ロード様の意思に従うしかありません。私は守護獣ですから」
「シリウス殿……」
「守護獣であるならば、先ず主の意思に従うべきだからです。でも、もしロード様が貴方達の歴史を良しとしなかったなら」
無念さを押し込めた声で天使が言った。
「──私は貴方達を容赦なく滅ぼしていたでしょう」
「っ……」
「……分かりますか? 正しい歴史なんて、貴方達や時間Gメンとやらの匙加減じゃないですか。ロード様が貴方達に従う義理等無い」
「……でも、そうはならなかったであります」
「ええ、そうです。そうはならなかった。そんなロード様だからこそ、私は付き従ったのですから」
「それだけじゃないはずであります。自分が消えたくないなら守護獣は主を何時だって見限ることが出来るであります。シリウス殿は、恨み節を叩きながらも敵対しない。どうして……我々に協力してくれるのでありますか?」
「……私は──」
シリウスが何か言おうとした時。
彼女は先に何かを感知したのか頭を上げた。
「──チョートッQ様! あれを見てください!」
「ん? ──いっ、あれって」
チョートッQは目を見開く。
眼前には黒い雲が広がっていた──
「──あらあら、オジャマムシ発見、ですわね」
※※※
ウィンター・ワンダーランド最大の名物。
それは即席とは思えない程に本格的なこの時期限定の移動遊園地だという。
観覧車にジェットコースター、サーカスにアイスショー。
これらすべてが期間限定で突如ハイドパークに現れると言うのだから驚きだ。
「はぁー、マジかよロンドン……規格外だぜ」
「この日の昼間はずっと遊園地で二人で遊んでいたはずだ。僕達は何処かに居るはずなんだが」
「チョートッQ達も空から探してるわけだし、好い加減見つかっても良いと思うんだけどよ」
「もしかしたらサーカスの中に居たとかじゃないですか?」
「ああ……建物の中に居たんじゃ分からないな」
ならば、今度は屋内を探すべきだろう。
しかし困ったことにサーカスは予約が必要らしい。
ひょっとしてサーカスが終わるまで入り口前に貼りついていなきゃいけない?
「いや、屋内こそ守護獣に捜索を任すべきだろう」
「そ、そうだな。人からは見えねえし……じゃあ、あいつら呼び戻すか」
俺が《チョートッQ》のカードを掲げたその時だった。
「? 雨でも降るのか?」
視界にちらり、と黒い雲が映った。
もくもく、と入道雲が地平線の彼方から湧き出てくる。
しかし雨雲にしては妙にどす黒い。
「スモッグ──!?」
ロードが目の色を変えて叫んだ。
人々もそれを指差して口々に何か言っている。それに恐れをなしているようだ。
「スモッグって、工場の排気ガスが原因で起こるアレか!?」
「特に有名なのはロンドンスモッグ、1952年に発生した大公害だ!」
曰く。
ロンドンが霧の街と呼ばれるのは、決して白い霧や日光に恵まれないことが原因ではない。
文字通り、1万人以上の人々の命を奪った黒い霧によるものだという。
だけど、今のロンドンの環境でそんな公害が起きるのはほぼ有り得ない。
「スモッグならまだよかったかもしれません」
険しい顔でアカリが言った。
黒い霧はすさまじい速度で空を隠してしまう。
そして──次々に何かが落ちてきた。
ケタケタと笑う小瓶にキャンドルといった小道具。
こいつらには見覚えがありすぎる。
「魔導具──ドルスザクか!?」
「ドルスザク……闇の怪物じゃないか。となるとワイルドカードか?」
「いいえ、ワイルドカードは基本的にカードとして存在しないクリーチャーは実体化し得ません。あの魔導具たちはオレガ・オーラ、そしてそれを統べているのもまたオレガ・オーラのドルスザクです」
「そしてオーラを使ってるのは、当然時間Gメンってわけか!」
魔導具だけじゃない。
マフィ・ギャングの姿を模したオーラ達がじりじりとサーカスの建物を取り囲むようにしてにじり寄ってくる。
人々にもそれが見えているのか、ぎょっと目の色を変えて逃げ惑っている。
そればかりか、雪崩れるようにして人々がサーカスの出口から飛び出してきた。
見ると──それを追い回すようにして魔導具のオーラ達が浮かんでいる。
更に遊園地の遊具は皆ピタリ、と止まってしまった。
辺りから電気が迸っており全てオーラへ吸い取られているようだ。
「あいつら何を考えてるんですか! 時間停止無しにオーラを実体化させるなんて──!」
「オーラって普通の人にも視認できるのか!?」
「は、はい、だから未来では普通に対人兵器として使われるんです。でも、過去でオーラ兵器を使用するなんて、あまりにも杜撰すぎます……歴史に歪みが起こってしまいます!」
「どちらにせよ、こいつらを片付けないといけないということは分かったよ」
パチン、とロードが指を鳴らす。
「
しかし──来ない。
呼び戻したらすぐにやってくるはずの守護獣が、なかなか帰ってこないのだ。
嫌な予感がした。俺も
「な、何で戻ってこないんだシリウス──まさか、彼女たちも遭遇したのか!?」
「そうなると不味いかもしれません。二人とも、この時代のロードさんとブランさんを探してください!」
彼女がエリアフォースカードを掲げる。
すると──背後にジョルネードが現れて三つ又の槍を振り回す。
光線が辺りに散らばるオーラ達を撃ち抜いていった。
守護獣の姿は普通の人には視認できない。
逃げ惑う人々には、怪物たちが突然砕け散ったようにしか見えないだろう。
「っまだ、何かいます……!?」
しかし、アカリの顔は晴れない。
魔導具達を従えるようにして一際巨大な影が渦巻いていた。
亀の如き容貌のクリーチャー。鋭い棘に包まれた装甲を携えた闇文明の怪物・ドルスザクだ。
「あの大物は流石にデュエルじゃないと片付きませんね……!」
「何なら俺が食い止めるっきゃねえな!」
「馬鹿言わないでください! 肝心の守護獣が居ないじゃないですか!」
「あっ……それもそうか」
「此処は私に任せてください!」
デバイスにセットされたエリアフォースカードが煌く。
そして、一際大きなドルスザクのオーラ目掛けて彼女は空間を展開した。
「カンちゃん、お願いしますっ!」
「はいよっ、マスター! アゲアゲで、やっつけちゃうぞーっ!」
『レジスタンス・