学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「なあロード! 俺達今守護獣も何もいねぇけど大丈夫なのかな!?」
「さあ知らないね! とにかく、エリアフォースカードに従うしかないだろう!」
クリーチャーが棟梁跋扈する遊園地を走る、走る、走る。
人々が逃げていく方向を逆行していく。
頼れるのは、クリーチャーの存在を感知できるエリアフォースカードだけだ。
「っ……僕ならどうする? あの頃の僕なら、怪物たちから逃れるのに何処へ逃げる……?」
「はぁ!? 知ったこっちゃねえよ!」
「分かってるよ! だけど、推理するしかないじゃないか! このクリーチャーの群れは昔の僕にも見えているんだ。そうなれば、もう当時の僕は今の僕の記憶には無い行動をとっているはずだ!」
「だけど、それこそ雲をつかむような話だぞ!?」
「でも、やるしかないんだよ!」
唇をかみしめて、ロードは言った。
「これはブランを助けられる、千載一隅の機会だ。あの時助けられなかったブランをもう一度助けられるチャンスなんだ」
「ロード……」
「あの日以来、僕はずっと彼女の事を悔やんで生きてきた。忘れたことは無い。彼女の事を忘れた方が楽だと思ったこともあったさ。でも、忘れるのはもっと嫌だった。君だって、そうだろう?」
そうだ。
弱音を吐いてる場合じゃない。
例え、皆が俺やデュエマ部の事を忘れたとしても俺だけが覚えているんだ。
あいつらを助けられるのは、俺じゃないか。
だけど──
「っ危ない!!」
紫色の光線が視界を覆った。
すぐさま俺は地面に叩き伏せられる。
ロードが頭を抑えつけたのだ。
「っサンキュー、ロード……!」
「足を止めるなよ、追いつかれたらお終いだ」
違う。何もかもが違う。
ああ、クォーツライト家に染まらなかったロードは、こんなにも違ったのか。
もしクリスマスのあの日、ブランがロンドンで再会したロードが彼だったなら──どんなに良かっただろうか。
「なあ部長。どうしてそんな不安そうな顔をしているんだ」
「……まさか! 俺がどうして不安だって言うんだ」
「じゃあ、どうしてそんなに……悲しそうな顔をしているんだ」
「──っ」
見抜かれている。
伊達に一緒に部活はしていないってことか。
こっちのロードも──
「そういう時の君は、大抵何か酷い悩み方をしているだろう? それは誰にも言えない事だ」
「……誰にも言えない、か。いいや、お前だからこそ言えないんだ」
「僕としては言って欲しいけどね。どうせ僕は消えるんだろ? それなら後腐れなんて無い方が良い」
その顔は笑っていた。
まるで他人事のようだ。
「消えるとか自分で言うなよッ!!」
思わず声を荒げた。
「……俺は、後戻りはするつもりはねえよ。ブランを助ける──これは絶対だ。だけど、だけどなぁ……諦められねえんだよ。俺は出来るなら、お前だって助けてえのに!」
「部長……」
「簡単に自分の命を売り渡すとか言うんじゃねえ! 簡単に消えるとか言うんじゃねえ! こんなんじゃ、お前一人がバカを見ているみたいじゃないか!」
ああ、くそっ。
我ながら何て自分勝手なのだろう。
時間Gメンが歴史を弄る事に憤っていながら、俺は──何時の間にか、このロードがブランの隣にいる在りもしない、そしてあったかもしれない歴史を望んでいた。
「部長。やっぱり君は……他人の痛みに寄り添う事が出来る人間なんだね」
「くぅっ……」
「部長。一つ聞いておきたい──君達と一緒に居るブランは、笑顔だったかい?」
そうだ。
ブランは、何時だって部のムードメーカーだった。
俺は黙って頷くしかなかった。
「そうか。それなら──僕と一緒に居る時のブランは笑顔だった?」
「それはっ……」
「もっと言うなら、君の知っている僕は、どんな奴だったんだ?」
言えない。
言える訳がない。
だって、俺の知っているアイツは──ワンダータートルを殺してブランを生贄にサッヴァークを降臨させた。文字通りの最悪の敵だった。
「……良いんだよ、部長。それで良い。それが部長の知っている歴史だっていうなら、僕は喜んでブランを君に返すよ」
「そんな事、本気で思ってるのか……?」
「部長。さっき君は僕に言ったね。僕一人が馬鹿を見る……ってね。でもね、ブランが生きている未来を此処で諦めたら、僕は自分に嘘を吐くことになる」
「うぁ、うう……ああ」
全身の力が抜ける。
俺は今、人の命を握っている。
絶対に手放さなければならない命綱を握っている。
俺は今、人殺しをしようとしている。
「……諦め、られるかよ。どっちも、本当に助けられないのかって。じゃなきゃ俺は、俺じゃいられなくなっちまう!! どっちかを諦めるだなんて、そんなのは俺じゃねえ!!」
出来ない事は分かっていた。
それは間違いなく、当初の目的である「俺の知っている歴史を取り戻す」ことと矛盾していたからだ。
俺は、ロードを切り捨てなければならないのだ。
「部長。さっき君は僕に言ったね。僕一人が馬鹿を見る……ってね。でもね、ブランの居る未来が存在し得る……でも、そこにきっと僕は居ないんだろう?」
「っ……だから何だってんだ!」
「本音を言うと悔しい……だけど、僕はブランが生きている未来を取るよ。もし、それが出来ないなら、それこそ僕はこの7年間に嘘を吐く事になる」
それはきっと、ずっとブランの死を背負ってきたロードが言える言葉だった。
「歴史なんて物は綺麗じゃないんだ。何処かの穴を埋めれば、きっと何処かに穴が出来る。そういうものなんだろうね」
「……」
「僕は今まで、もう戻りもしないブランの分まで生きていた。空っぽだった。クリーチャーを狩り続ける事だけが生き甲斐だった」
「……」
「でもね、部長がそれを変えてくれた。僕に新しい居場所をくれた。色々あったけどね、君達と居る時だけ復讐心を忘れられたんだ」
それは俺の知らない仮初の歴史だ。
それでも、俺の知らない俺がロードの中で確かに生きていた。
俺にとっては偽物でも、彼の中では本物だった。
いや、どうして偽物等と切って捨てられようか。
記憶は人の生き様を証明する絶対的な記録物だというのに。
「っ!」
その時。
皇帝のカードが熱を帯びた。
何か恐ろしいものを指し示すかのように、カードが飛び出して浮き上がる。
「こ、これって……!」
「なあ、部長。嫌な予感がする。オーラとやらが近づいているのかもしれない」
「マジかよ……速く過去のブランを探さねえと!」
「なあ部長。一つ憶測を語っていいか?」
「ああ? 何だよこんな時に」
「逃げてきた人や外に居た人の中に過去の僕達の姿は無かった」
「……ああ」
「だが、この騒ぎでは普通は逃げるのが自然だ。遊園地内を僕らが逃げ惑っているなら此処までの何処かで出会っていてもおかしくはない。しかし、屋内施設から僕らは出てこなかったし、屋外にもいない」
「……まさか、逃げられなかった、とか?」
「部長、勘が鋭い。現に遊具は停電状態。あのオーラたちが電気回路をダメにしたんだろうね」
つまり彼らは遊具に乗ったまま逃げられていない?
「考えられる場所は2つ。一つはジェットコースターだ。だけどジェットコースターは低い場所で止まっている。乗客は既に皆避難していた」
「……じゃあもう一つは?」
「あそこだよ」
俺は目を見開いた。
観覧車のゴンドラ。
それは人が乗ったまま、空中に宙吊りになって停止していた──!
「守護獣も居ないのに、空の上とかどうするんだよ!」
「それは……どうにかするしかないだろ! 君はブランを助けたいんじゃないのか!?」
ロードが俺の手を掴む。
その目は真っ直ぐに俺を見据えていた。
「俺は──」
「オーホッホッホッホ!!」
突如。
甲高い笑い声が虚空から響く。
そして──激突音と共に何かが地面に衝突した。
「っ……チョートッQ!?」
「シリウス!?」
クレーターの中央には、ボロボロの守護獣。
そして、視線の先には──漆黒のドルスザクが翼を広げて咆哮していた。
怪物を従えるのは女。
ロシア帽に白いコートを見に纏った銀髪の女だ。
「ようやく見つけましたわよ、特異点。予定よりも早かったですわね」
「お前は……なんなんだ?」
時間Gメンか?
それにしてもシー・ジーと容貌があまりにも違っていて困惑する。
だが、従えているのは《ガ・リュザーク》に酷似したオーラ。
間違いなく、敵だ。
「マスター……気を付けるであります……! そのオーラ、我々二人でも太刀打ちできなかったであります……!」
「おいチョートッQ、デュエルだ。あいつをデュエルで倒さねえと……!」
「申し訳ないでありますが、そんな余力、今は残ってないでありますよ!」
「なっ!?」
「私達、空中であのオーラと遭遇して……成す術も無く敗北しました。申し訳ありません、ロード様……!」
「素通りさせていればとんでもないことになっていたはずだ。ありがとう、シリウス」
だけど──守護獣が消耗してしまっている。
このままじゃ、強力なオーラ相手にデュエルを挑むことすら出来ない。
「貴方達に万に一つ勝ち目はありませんことよ? この時代の或瀬ブラン諸共、塵となって消えなさいな!」
「っ……やはりお前がブランを……何者なんだ!」
女は自信たっぷりに笑みを浮かべてみせた。
「ワタクシこそがトキワギ機関に出資する大企業、ペトロパブロフスキー重工の社長の一人娘。マッルィィィナ・ペトロパブロフスキーですわ!」
大企業……?
ディストピアみたいな国だと思っていたが、やはり独裁政治の裏に金ありということなのだろうか。
いずれにせよ、かなりの権力者である匂いがしてきた。
「そんな大企業の一人娘が、随分と姑息な真似をしてくれるじゃねえか!」
「時間Gメンが手緩いのが悪いのですわよ? このワタクシ自らが指揮を執り、残りのエリアフォースカードを消失させる。そのためには、まず使い手から断つまでですわ」
「やっぱりお前がブランを……!」
「”まだ”殺してないですわ。あの観覧車の中に、或瀬ブランは居ますもの。手に掛けようと思えば、今からでもワタクシのオーラ兵器0000号で一掻きすれば良いだけですわ」
だが、彼女はそれをしていない。
苦々しい顔を浮かべてみせる。
「まあでも只殺すだけでは手緩かったようですわね。歴史のエラーが発生していますもの」
「ああそうだ。僕は──ブランを取り戻すために此処に来たんだからな!」
傷ついたシリウスに寄り添いながら、ロードが毅然と言って見せる。
そうだ。
そのために、俺たちはここに来たんだ。
「オーッホッホッホッホッホ! それはそれは、お笑いですわね!」
だが、それをマリーナは一笑に付してみせる。
冷酷な眼差しがロードを捉えた。
「或瀬ブランが生存する歴史──そこでは貴方、自分がどうなっているのかご存じなくて?」
ロードの瞳が動揺で震える。
「貴方はクォーツライト家の器として、順当に育つ」
「おいやめろッ!!」
「人が話している時に邪魔をするなんて、これだからゴミムシは──」
足が動いていた。
しかし。
一度ドルスザクのオーラが羽搏けば、俺の身体は容易く浮き上がり、吹き飛ばされてしまう。
「ぐぁあ!?」
「部長ッ!!」
身体がアスファルトに叩きつけられた。
ロードが駆けよってくる。
だが、意にも介さずマリーナはじりじりと詰め寄り、ロードに言い放った。
「あらあら、涙ぐましい友情ですのね。でも、貴方達は敵同士。あろうことか大切な幼馴染をDGに食わせて世界を滅ぼしかけたのだから!」
「っ……」
「でもその野望は白銀耀に阻止され、魔導司をDG完成の過程で虐殺し続けた貴方は大罪人として処刑された。これが正史ですわ」
ぎりっ、とロードが歯を食いしばった。
目は完全に伏せられている。
「部長。今の話は、本当なのか──?」
「本当なわけがないでしょう!? ロード様が、そんなことをするわけが──」
「そ、それは──」
「否定しなさい、白銀耀! 何故、否定しないのです!?」
シリウスが厳しく問い詰めても、俺は首を横に振れなかった。
俺はもう、なんと答えれば良いのか分からなかった。
チョートッQも悲痛そうな顔をしている。
「ロード・クォーツライト。あまりその男を信用しない方が良いですわよ。その男は都合のいいこと以外は口に出来ない大ウソつきの偽善者ですもの!」
そうだ。
言えなかった。
ついぞ俺の口からは言えるわけがなかったのだ。
ウソつきと糾弾されても、俺は何も言い返すことが出来ない。
「まあ──庶民のアレコレなんてワタクシには全く関係ないのですけども! ゴミは纏めてお掃除ですわ!」
直後。
ドルスザクのオーラの胸に大穴が開く。
とてつもない吸引力で──周囲諸共俺たちを吸い込もうとしている。
「っ何だコレェ!?」
「これって、ブラックホールでありますかァ!?」
「……」
引っ張られる。
じりじりと。
何かに掴まっていなければ、まとめて穴に吸い込まれてしまいそうだ。
せめて、守護獣の力が弱っていなければ、デュエルに持ち込めるのに!
肝心のロードは力なく頭をもたげており、シリウスもチョートッQも弱っている。
身体はゆっくりと周囲諸共に引きずり込まれている。空間も歪められているのか、空も背景もぐにゃぐにゃだ。
「もう、逃げられませんわよ! まとめて無に帰してさしあげますわ!」
最早、ありとあらゆる宇宙の摂理を捻じ曲げるブラックホールそのものだ。
「皆纏めて消せばエラーも発生しないですわね、オーッホッホッホッホ!」
「っ……!」
どうすればいい。
どうすれば良いんだ。
俺は結局、何もできてないじゃないか!
「マスター! もう持たないでありますよ! 空間諸共、あいつに喰われるであります!」
「く、くそっ、魔力はまだ回復しねえのか!?」
引きずり込まれていく身体。
飛んで来る瓦礫。
万事休すと思われたその時だった。
「──助けるさ。それでも」