学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「《ジョリー・ザ・ジョルネード》でシールドをW・ブレイク!」
握られた槍から大渦が巻き起こり、怪物のシールドを叩き割る。
それに続くようにして、ずんぐりとした潜水艦が浮上した。
「《せんすいカンちゃん》で攻撃する時、J・トルネード発動! 《ジョルネード》を手札に戻して、戻したクリーチャーが場に出た時の効果を使用します!」
「キィ、サァ、マァ、ラァ……!!」
呻き声を上げる怪物。
しかし、最早猛攻は止まることは無い。
《カンちゃん》が《ジョルネード》の能力を使用したことで更にGRクリーチャーを引き連れてきたのである。
「出てきてください、《ツタンメカーネン》、《ジョラゴン・ガンマスター》、《ゴッド・ガヨンダム》!」
一気に増える手札。
そして──彼女の背後から強大な影が飛び出した。
「さあ、まだ行きますよ! 私の切札──《超
「いっけぇー! 押し潰しちゃえ、マイ・マスター!」
「パワード・W・ブレイク、ですっ!」
巨大な客船にアームが付いたロボットが突貫する。
ドルスザクの残るシールドは全て破壊されてしまった。
そこから新たなオーラが飛び出してくるが……。
「S・トリガァ……《幽影 モンス・ピエール》!」
「ふふんっ、《ジョルネード》がいなくなったからって、ブロッカーではもう止まりません! 《ガンマスター》の超天フィーバーは既に達成されています!」
『
最早、ジョーカーズの猛攻は止められない。
アカリが手札を捨てれば、その数だけ《ジョラゴン》の弾丸は敵軍を溶かす雨となる。
「弾丸の雨嵐──”ガンマスター・アサルトレイン”、ですっ!」
空から無数の弾丸が場のオーラ諸共に、怪物を撃ち貫く。
銃弾の雨に撃ち抜かれ、ハチの巣となって崩れ去るドルスザク。
空間も砕け散り、視界には暗雲とオーラたちが舞う遊園地が広がっていた。
アカリは嘆息すると、一際大きな黒い雲の渦を見やる。
「マスター! あの大きな反応って!?」
「大罪のオーラ……でしょう。ドラゴンを模した贋作にして、ドラゴン・コードの試作品です」
「じゃ、じゃああれも時空間を歪める力があるってこと……? ヤバいじゃん! 助けに行かないと!」
「はい、お爺ちゃんたちが心配です……!」
※※※
「ドルスザクのオレガ・オーラ……!」
「だけどマスター! あいつのパワーは0でありますよ!」
電気を帯びた漆黒の翼が《ギャン》から更新された。
その胸にはぽっかりと大穴が開いている。
巨大な手のように歪曲した羽根、龍のように鋭い眼光。
全てが威圧的に俺を見下ろしている。
パワーは確かに無いかもしれない。だが、龍の贋作にしては底知れない力を感じる……!
「パワーだけでオーラを判断するなんて、随分とお粗末ですのねぇ。《ド・ラガンザーク》を付けた時、墓地からコスト8以下のオレガ・オーラを2枚まで
「2枚もかよ!? パワーがねぇのはそもそも他のオーラを踏み倒すためのカードだったからか!」
「庶民にしては頭が冴えていますわね! では、墓地からコスト8以下のオーラである《エダマ・フーマ》、そして──」
墓地から溢れ出る膨大な電流。
またもや刻まれるMASTERの文字。
これはまさか──!
『
「さあ、お逝きなさい!
またもや目にすることとなった、機械龍の《Code:1059》。
それが今度は贋作龍の翼に捕らえられたかのように取り込まれている。
こいつは確か、殴る度にGRクリーチャーの上を乗り移る効果を持っていたはずだ。
しかも、付けたGRクリーチャーにパワード・ブレイカーを付与する……!
「だけど、こっちには《バツトラ》がいるぜ! デカいクリーチャー1体だけなら怖かねぇ!」
「もしかして何か勘違いしていらっしゃる? 《ド・ラガンザーク》のオーラを蘇らせる効果は攻撃時にも発動するのですわよ!」
「なぁっ!?」
またもや墓地からオーラが現れ、蜘蛛の巣に繋ぎ止められるかのように《ド・ラガンザーク》の羽根へ取り込まれていく。
「《ド・ラガンザーク》を付けた《ダラク丙ー二式》で攻撃するとき、その効果で、コスト8以下のオーラである《ケルべロック》と《
「《ケルべロック》だと!? もう一回攻撃できるじゃねえか!」
《ケルべロック》が付いたGRクリーチャーはアンタップする。
いずれにせよこの攻撃が通るのは不味い。次の攻撃でこちらの盤面を処理するオーラを貼り付けてくる可能性がある。
ならば、一撃目は止めた方が良いと判断したのだが──
「オーッホッホッホ、その前に《ジェ霊ニー》の効果発動! 相手の手札を見て、その中から1枚を捨てさせますわ! 厄介な《サンダイオー》を墓地へ!」
「っ……マ、マジかよ……」
「脆いですわね! 切札なんて、手札から捨てれば無力化したも同然ですわー!」
「だけど攻撃は通さねえ! 《バツトラの父》で止めてやらァ!」
シールドへの攻撃は何とか防ぐ。
しかし──《ド・ラガンザーク》はまだ攻撃できる……!
「おっと、攻撃を止めただけで安心しているのかしら?」
「来るんだろ、二回目の攻撃が……!」
「はっ、それじゃあシー・ジーはこの能力を見せる前に敗北したのですね。つくづく残念ですわ」
次の瞬間、俺の墓地からカードが浮き上がる。
それは、《ド・ラガンザーク》の翼である《Code:1059》の大口へと吸い込まれていき──
『
「
嘘だろ、相手の呪文を奪う能力まで持っているのかよ!
よりによって、《行燈どろん》はパワー6000になるように相手のクリーチャーを破壊する呪文だ!
「その効果で《ヤッタレマン》、《ドンドド・ドラ息子》、《バツトラ》の3体を破壊しますわ! 更に《バクシュ丙ー二式》をGR召喚しますわよ!」
機械椅子に座ったまま、マリーナは俺の盤面を蹂躙していく。
俺の場と相手の場の差は広がるばかりじゃないか!
「さらにさらに、《ド・ラガンザーク》で攻撃──する時の効果発動ですわ! 《
「また、デカいオーラが2枚も出てきやがった……!」
「《
鳳の翼が開く時──地獄の業火が俺を包み込む。
「シールドを、オール・ブレイク、ですわ!」
焼かれる。
熱が、炎が、俺を焼いていく。
「終わりですわ。歴史のエラーは犬死。貴方も犬死。そして、或瀬ブランもロードの歴史も消しますわよ」
き、える?
ブランの歴史が、ロードの歴史が消えたら、今までの事全部無かったことになっちまうのか?
全部、無かったことに──
※※※
──1年の5月の頭。
デュエマ部に勧誘しようとしたら、まだ引っ込み思案だったブランに逃げられた後日の事。
推理小説に興味を持った俺は、ばたりとブランと鉢合わせして言い訳に困っていた。
そんな時、咄嗟に零してしまったのは──
「──シャーロック?」
「そ、そう! 俺、カードゲームやってるんだけどさ、そのゲームに探偵の名前のカードとか出て来るんだよ!」
「……」
「はは、ゲンキンだよな、こんな理由で図書館に足を運んだりしてさ」
「……私も、そう思う」
意外とずかずか言うな、この子。
そこは否定してくれないのか。
「でも──本は平等。開けば、誰に対しても物語をくれるでしょ? だから、別に構わない」
「お、おう」
「この本、借りようと思ったけど……どうせ、読んだことあるし。君が借りたら?」
「え? 良いのか」
本を渡しながら、彼女は言った。
「それで、カードゲームって?」
「デュエル・マスターズ。世界で一番アツいカードゲームだ」
「……そう」
「なあ、もし良かったら体験入部だけでも──」
「……ごめんっ」
ぴしゃり。
そんな音がしたかと思った。
「そういうの……私は別に、良い」
きっぱり断られてしまった。
そして彼女は踵を返すと、図書館から出て行ってしまう。
完全に勧誘目的だったの引かれちまったかなあ。
※※※
(──と、思ってたんだがなぁ……)
「なあ白銀よ、さっきから窓から覗いている女の子は……アレか? お前のストーカーとかじゃないよな?」
「ち、違うと思いますよ?」
神楽坂先輩が怪訝に思うのも無理はない。
俺もちらちら後ろを振り返ってはいるが……幻覚ではないようだ。
或瀬ブランは演劇部で使いそうな「茂み」の小道具を両手に、窓からこっそりこちらを覗いていた。
いやマジで何やってんの、あの子?
「しかもあの子、全く気付かれてるって思ってないぞ? たまに、「ふんすー」ってどや顔してるぞ」
「何で気付かれないって思ったんでしょうね……?」
「さあな。自信は無かったけど、急ごしらえで作った小道具を使って隠れてみたら、思ったよりもサマになってるから得意気になってるんだろ」
「……」
「あ、でも可愛いわ、あの子。見た感じ金髪自毛っぽいし……」
「分かるんすか、変態ですね」
「え? もしかしてハーフ? こんなド陰キャの溜まり場に? ちょっとお持ち帰りしてくる」
「先輩、犯罪ですよ!」
「セーフ! 同性ならセーフだから! ちょっとあたし好みに調教するだけ──ぐへぼぁっ!?」
凡そ、女子とは思えない台詞を吐いていた先輩が凡そ女子とは思えない断末魔を上げて床に倒れ伏せる。
側頭部にはスリッパが刺さっていた。
「おい……お前が下品な面をブラ下げて涎を飛ばすモンだからループが途切れただろうが、どうしてくれるんだ、ええ?」
「ひーん、大の副部長が暴力を振るうー、よくないんだー、犯罪だぞー! 緑単ループと女子への暴力は死刑なんだぞー!」
「小学生かお前は!」
「ぐえええ、関節決めるのやめてぇ!!」
この身内ノリに付いて来られる奴だけがこの部室に残れるんだろうなぁ……と俺は諦観しながら眺める。
窓を見ると──もうブランは居なかった。
勘付いているって、気付かれてしまっただろうか。
……しかしまあ、神楽坂先輩も罪深いよなあ。こんな純朴な子をこんな部室にぶち込むなんて真似、俺には出来ねえや。
最終下校の時間になり、俺達は取っ組み合っている部長と副部長を捨て置き、部屋から出ていく。
「また明日ー」「おつかれー」の声が飛び交うと、すっごい部活に所属してるって実感が沸くな。教室の中から「まだ」チンパンジーの如き怒声が聞こえて来る以外は。
「おっつ、耀」
背後から声を掛けられる。
見ると、花梨が疲れた様子でそこに立っていた。
「おう花梨、妙に疲れた顔してんな」
「練習キツいわ、絡んで来るのはいるわで、大変なの。土日は合宿まであるしねー」
「新人シゴきか」
「そうなるかなあ。って、そうじゃなくて! あのブランって子いるじゃん、ちょっとした話題になっててさ」
「ブランが?」
「うん……」
こくり、と花梨は頷く。
正直突っつくのが怖かった。
女子がブランについて噂しているのは知っている。
俺も女友達が花梨くらいしかいないので、よく分からなかったが……髪が金色だし、少し浮いているしイジメの対象になっているのではないかと心配しているのだ。
「実はね……」
※※※
「……ここが分かったんだ」
「何となくだけどな」
次の日の昼休み。
図書室は図書委員の会議で閉まっており、彼女は人気のない屋上の上で本を読んでいた。
顔を合わせる機会が多いからか、だんだん彼女も俺を警戒しなくなっていった。
「鬱陶しいなら追っ払ってくれて良いんだけどよ」
「別に。でも、出来るだけ静かにして」
「りょーかい」
距離は離れたままだ。
俺は柵から身体を乗り出しており、ブランは寝転がって本を読んでいる。
それでも、逃げられないだけ進歩したんじゃないかと思う。
「……退屈じゃないの? 君、もっと賑やかなのが好きだと思ってたんだけど」
「周りが勝手に騒がしいだけだっての」
俺はもっと静かにカードゲームしたかったんだけどなあ。
あの空気も慣れると悪くは無いんだが、こんな事を言っている時点で初心者にはおススメ出来ない。
しばらく、沈黙が続いた。
そして──口火を切ったのは、俺の方からだった。
「……前から気になってたんだけどよ、何で推理小説が好きなんだ?」
問いかけの答えは思ったよりすぐ帰って来た。
「Hero」
彼女は、か細くもはっきり聞き取れる声でそう言った。
「ホームズは……私のHeroだから。アコガレ、っていうのかな。身近だけど、遠い場所に居る人」
彼女は頷く。
今日のブランは、妙に饒舌だった。
「私が絶対に……なれない人」
ぎゅう、と彼女は本を握り締める。
その言葉は──妙に重苦しかった。
「部活、やってるんだよね……? 楽しいの?」
「楽しいぞ。好きなモンが同じ人同士で集まるとな。つっても、中学までは部活とか入って無かったから初めてだったんだけど」
「そう……なんだ」
「でも、初めてみたら結構馴染めてさ。正直、クセの強い人達だけど悪い人じゃないし」
「そっか。でも、私にはきっと無理」
彼女は力無く笑う。
「無理? 何で決めつけるんだよ」
「私……人が怖い」
「……俺も怖い?」
「怖かったよ。怖かったけど……君は大丈夫だから。でも、怖いんだ。人の中に入るのが、とても怖い」
ブランは──人と目を合わせない。
いつも、下を向いているか本を見ている。
俺の顔も、まともに見ようとしない。
それはきっと人見知りだからとか、そういうのなんじゃないかと俺は思ってた。
「まあでも、頑張ればきっと直せ──」
そう言いかけた時だった。
ガヤガヤと声が聞こえて来る。
甲高い女子生徒の声だ。
こちらに──迫って来る。
「ヒッ」
思わず、彼女の顔を見やる。
「或瀬さん!?」
ブランの顔は──死人のように蒼褪めていた。
俺は思わず、彼女の腕を引っ張り──誰も来そうにない物陰にまで連れて行く。
唇が震えており、歯がカチカチ鳴っていた。
※※※
「……落ち着いたか?」
「……うん」
女子生徒達が来る前に、ブランを引っ張って物陰へ連れていった。
過呼吸を繰り返していた彼女だったが、ようやく落ち着きを取り戻すと、気まずそうに眼を背けた。
「……ごめん」
「何言ってんだよ、当たり前の事をしただけだぜ」
「……今の見て分かったでしょ? 私は人の輪の中に入れない」
「……何かあったのか?」
彼女はこくり、と頷いた。
「私……ずっと虐められてた」
「なっ──」
「髪の色の事。日本人との混血の事。イギリスに居ても日本に居ても、私は爪弾き者だった」
「……」
「中学の頃は日本に居たの。でも、皆……金色の髪なんて、調子に乗るなって言ってた」
「……そんな」
「もっと前はイギリスに居た。だけど皆、私を日本人の血が混じってると知ると冷たくした。嫌がらせもされた」
「……」
「……高校生になったら、何か変わると思ってた。だけど……もう、人が怖くて近付けなくなって、学校に通うのも……辛い」
吐き出すように彼女は言った。
何処に行っても彼女に安心できるような居場所は無かった。
コミュニティはこいつにとって恐怖の象徴でしかなくって、苦痛でしかなかったはずだ。
「だから、無理だよ。私は……皆の中に入れない。私は混血。ハーフだから。この間だって、女子達がウワサしてたし……だから、ごめんね。私の味方は……本だけなんだ」
「すげえよ、或瀬さんは」
「え?」
「そうやってずっとイジメと戦って、耐えてきたんだろ? それでも負けないで、学校だけは行ってたんだろ?」
「そ、それは……」
「或瀬さんは……強い人だ。人を外見や血で差別するような奴らより、よっぽど強い人だよ」
「……私は、弱いよ。人が……怖い。怖いから、友達も作れない」
「俺が居るだろ」
彼女は、はっと目を見開いた。
「辛い事とか、怖い事とか吐き出してくれただろ? だから──今度は俺があんたに何かしてあげたいんだよ」
「私、迷惑を掛けるよ? 人が怖くて、面と向かって喋れないよ?」
「迷惑が何だってんだ。喜んで被るぜ。伊達に万年ボランティア野郎って呼ばれてない! 俺を頼れよ!」
しばらく、沈黙が漂った。
マズい。もしかして押しが強過ぎて、引かれたんじゃないだろうか。
そう思っていたのだが──
「っ……君って変。君みたいな人、初めて見た」
──彼女は少しだけ、おかしそうに笑ってみせたのだった。
「コホン。それと或瀬さん。今は無理でも、意外と上手く行くかもしれねえぞ」
「え?」
「女子達の噂話なんだがな……あれ、あんたが可愛くて友達になりたいのに、すぐに逃げてしまうからどうしようかって話だったらしいぜ」
「ふぇえっ!?」
真っ赤になる顔。
「私が、可愛い? ウソ……?」とブツブツ言っている彼女を見るに、余程褒めらるのに耐性が無いようだった。
「だからさ、或瀬さん。あんたが友達が欲しいって言うなら、俺は幾らでも協力するんだけど……」
「……それでも、私、怖い。馴染めなかったらって思うと……」
「その時は俺が味方になってやるよ」
「……本当?」
「ああ、本当だ。俺が──或瀬さんの友達、第一号だ!」
「っ……良いの?」
「ああ!」
「……じゃあ、ちょっとだけ……期待してみようかな」
控えめに彼女は笑ってみせた。
「よろしくな。或瀬さん」
「……うん」
手を差し伸べると、目が合った。
すると、彼女はびくりと肩を震わせて目を背けてしまう。
「……ごめん。まだ、人と目を合わせられない」
どうやら、根本的に対人コミュニケーションに苦手意識を持ってしまっているようだ。
どうにかできないか、と思案し──俺は一つ、妙案を思いつく。
「なあ或瀬さん」
「何?」
「……或瀬さんが良かったら、なんだけど」
──これが、彼女を変えるきっかけになったら。
無理は承知で、俺は申し出た。
「対人コミュニケーションの訓練に……デュエマとかどうかな、って」
──これが、彼女と俺の出会いだ。
ブランはこの後、デュエマにハマり、デュエマ部に入部することになる──