学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR27話:消えた紫月──新たなる陰謀

 ※※※

 

 

 

 ハンマーで殴られたような衝撃。

 手がわなわな震えて来る。

 

「いなくなったって……どういうことっすか?」

「そうデス! 一体何が……」

「分かんねえ。俺の所には翠月からの連絡しか入ってねえからな。ショックで学校を休む、という連絡だが」

「まあ、ミヅキなら仕方ないデス……」

「捜索届は出したらしい……だが、嫌な予感がするぜ。いつもデッキケースの中に入ってる魔術師(マジシャン)のエリアフォースカードも、シャークウガも居ないっつー話だからよ」

「……どうもきな臭くなってきたな。クリーチャーが絡んでいる事件の可能性が高い」

「つか、攫われたとかだったらシャークウガが何もしていないわけがないもんな。あいつ自身の意思で何処かに……?」

「それなら私達にも何か言えばいいのに……おかしいデス」

 

 何が起こってるんだ?

 紫月が攫われただけじゃなく、自分の意思で何処かに向かった可能性も考えられてくる。

 いや、それだけじゃない。

 もう一つ考えられる可能性。何か、致命的な何かがズレ始めている──!?

 

 

 

「──時間Gメン」

 

 

 

 ぽつり、と俺の口からはそんな言葉が漏れていた。

 

「じかん、じーめん? 何言ってるんデスか、アカル」

「寝惚けているのか?」

「寝惚けてねぇよ! あーくそ、どうやって説明するかな……」

「おいコラ、頭ぶつけたショックでどうにかなっちまったのかよ」

 

 

 

「冗談? いいえ、違いますよ。時間Gメンという組織による歴史改変、それは今確かに起こっている事です」

 

 

 

 全員の視線が再び部室の扉に注がれる。

 アカリがそこに立っていた。

 

「おお! 来てくれたか!」

「誰だ貴様? 何か知っているのか」

「待て待て、そうやってすぐに臨戦態勢取るな! この子は……」

「アカルの知り合いデス?」

「そんな感じっていうか、何というか」

 

 火廣金を押さえつけながら俺は彼女に「早く説明してやってくれ」と促す。

 

 

 

「私は白銀朱莉。耀お爺ちゃんの孫です!」

 

 

 

 その場が凍り付く。

 そして──

 

 

 

「「「えええええええ!?」」」

 

 

 

 至極当然の反応が部室に反響する。

 アカリ。取り合えず今度から何も知らない相手にどう説明するか俺と話し合おうか。

 このままじゃ何時かショックで心臓麻痺する奴出て来るぞ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「未来からやってきた、アカルの孫……?」

「白銀が、お爺ちゃん……?」

「ワイルドカードで世界が滅ぶ? 眉唾だな」

「まあそうすぐに信じては貰えないでしょうけど」

 

 破壊されたジオラマを退け、机を囲って彼らはアカリの説明を受ける事になった。

 が、そう簡単に受け入れられるわけないよな。

 

「本当であります! ウソじゃないでありますよ!」

「まあ守護獣の君が言うならまだ良い。さもなくば部長が悪いクリーチャーに頭を侵されているかと思ったぞ」

「取り合えずお前が俺の事をどう思っていたかは分かった、そこに居直れ」

「でも、実際何があったんだよ? 歴史改変って言われてもピンと来ねえぞ? 白銀テメェ、何か知ってそうだな」

「……なあ……今朝、起きたらデュエマ部が無かった、って言ったら信じるか?」

「──!」

 

 3人は凍り付く。

 そして俺は、今まで何があったかを全て話した。

 俺からすれば数日間、彼らからすれば全く知覚出来なかった歴史の裏の出来事。

 勿論、ブランが居るのでショックを控えめにするために、「過去に殺された」とかロードに関係する箇所は省いたが……。

 

「歴史改変……そんなことが本当にあったってのかよ」

「その前にエリアフォースカードを22枚全て揃えて破滅の日に備える。この日さえ避けられればトキワギ機関は壊滅し、イタチごっこも無くなります」

「不可能だな」

 

 火廣金が言ってのけた。

 

「エリアフォースカードの中には、地形的な問題で現在回収不可能と言われているものもある。例えば──太陽(ザ・サン)なんかが良い例だ。2年前、暴走事例を起こして以降火山に沈んでいる。アレを回収するには次に奴が復活するのを待つしかない」

「そんな事してたら、アカリの言ってる破滅の日がすぐに来ちゃうんじゃないデスか!?」

「そもそも俺から言わせれば破滅の日とやらが疑わしい。ワイルドカードと言えどそこまで被害を拡大させるとは思えない。アカリ君と言ったか。俺達にエリアフォースカードを集めさせて全部横取りするつもりなんじゃないか──」

「おい」

「っ……!」

 

 俺が凄むと火廣金は舌打ちした。

 

「嘘? そんな訳ねぇだろ。未来は本当に大変な事になっていたんだ」

「……悪かったよ、部長。だが、証拠も無しにこんな壮大な話、いきなり信じられるわけがないだろう」

「俺の話じゃ信用に値しねえってのか」

 

 いや、分かり切っていた。

 火廣金の中じゃ俺の信用は既に揺らぎつつあるのだろう。

 改変された歴史でも、あいつはそうだった。

 だけど……こんなやるせない事、あるか?

 

「それとこれとでは話が違う」

「違わねえよ。何が違うんだ言ってみやがれ!」

「テメェら、喧嘩なんざしてる場合かボケッ!」

 

 桑原先輩が割って入る。

 その表情は何時にも増して険しかった。

 それで俺は我に返る。

 そうだ。紫月が居なくなってるのに、こんな所で喧嘩してる場合じゃない。

 

「……すみません」

「だが俺は納得できない。桑原甲。いきなりこんな与太話を君は信じろと?」

「そりゃ……そうだが」

「証拠……かは分かりませんけど、これはどうですか?」

 

 アカリは火廣金の前に何かを投げた。

 それを手に取った彼は目を丸くする。

 

「……馬鹿な! (スター)のエリアフォースカードを何故君が持っているんだ!」

 

 そう。現代では星のカードはアルカナ研究会に保管されているはずなのだ。

 

「同じ時代に同じカードの存在は当然あり得ません。信じていただけたでしょうか?」

「……一応、アルカナ研究会に問い合わせる」

 

 しばらく経っただろうか。

 火廣金は納得出来なさそうな顔で言った。

 

「確かに(スター)は保管されている。そして、目の前にあるそれも……恐らく本物だ」

「じゃあ信じていただけるんですね?」

「不承不承だがな」

「では協力していただきます。時間Gメンがダッシュポイントに干渉すれば何が起こってもおかしくないので」

「それで? 俺達は何をすればいい」

「もし、紫月さんがこの時代にまだ居るのなら、この時代のアルカナ研究会に探せばすぐ見つかると思います。主に何かあっては、エリアフォースカードと守護獣が黙っていられないと思うので」

「その案は検討しよう。こちらから連絡を掛ける。だが、エリアフォースカードを全て集めなければ破滅の日が訪れる……これに関しては、下手な連絡を入れれば魔導司界隈を混乱させかねん」

「あ、そうか……確かに。いきなり全員に信用してもらえるわけねえもんな……」

「あのー、それで」

 

 ブランがおずおずと言った。

 

「……もし、シヅクがこの時代に居なかったらどうすればいいのデス?」

 

 ……沈黙がその場を包み込む。

 そうだ。今回の件は明らかに今までとは違う。

 居なくなった紫月のことを誰もが覚えている。

 だけど、唯の失踪事件にしては妙だ。シャークウガもエリアフォースカードも消えており、彼女も着の身着のまま家を出た形跡があるのだという。

 歴史改変ではない。しかし、唯の失踪事件ではないのはマスターの危機にシャークウガが何もしないとは考えられない事を踏まえれば確かなのだ。

 今までの事態と照らし合わせても、どうすれば良いのか全く分からない。

 

「見つけないと──何が何でも……っ」

 

 立ち上がった途端、眩暈がした。

 火廣金とブランが慌てて俺の身体を支える。

 

「部長! フラフラじゃないか!」

「目に隈が出来てるデース!」

「駄目だよ、紫月が一人で辛い思いしてたら……酷い目に遇ってたらと思うと……助けに行かねえと……!」

「無茶であります! マスターは今まで、激しいデュエルを何度も繰り返して消耗しているでありますよ! 幾ら休息を挟んでも、一度のデュエルであれだけダメージを受けていれば、次はどうなるか……!」

「テメェ、そうやってずっと今まで一人で戦ってたのかよ!? 無理を押し通してか!?」

「無茶でも何でも……!」

「いいえ、いずれにせよ事態を静観するしかないようです」

 

 淡々とした調子でアカリは言う。

 どうして、と食ってかかろうと睨んだが──彼女も辛そうな表情をしていた。

 

「先ず、度重なる時間移動でカンちゃんが既に疲弊しきってます。数時間のインターバルが必要です。そして何より、まだ紫月さんの異常の原因が分かってないんです」

「……そう、だよな」

「部長。もしただの失踪ならば、アルカナ研究会が全力で捜索して見つけてくれるだろう」

「もし、それで見つからなかったら……?」

「原因は別にあるんでしょうね……歴史改変ではない、何かが。それについては、私も2079年に連絡するので」

「その連絡とやら、この俺も立ち会って良いか? 疚しいことがないなら……構わないな?」

 

 火廣金の提案にアカリは頷く。

 そうだよな、やはり彼の事だ。何としてでもタイムダイバー、そして異なる時代の存在をその目で確かめたいのだろう。

 まだ信用しきっては居ないようだった。

 

「アカル。今日はもう授業休んだ方が良いデス。ノートは私が執っておくデスから」

「そうか? 悪いな」

「悪いな、だなんて言わないでくだサイ! デュエマ部も、私も……アカルは守ってくれたんデショ?」

「テメェは日頃から無茶苦茶し過ぎだからな」

「……ああ、じゃあお言葉に甘えて」

「お爺ちゃん。続報が来次第、連絡を飛ばします」

「こちらも何かあったら、すぐに伝える」

 

 こうして──紫月の失踪という靄を残したまま、俺は学校を出る事になった。

 確かに、もう今日は真面目に授業を受ける気力なんて無かった。

 それにじれったくて仕方が無い。紫月に何かがあったのは確かなんだ。だというのに……俺には何も出来ないだなんて。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──毎度ー」

 

 

 

 結局そんな気持ちもあってか、家に真っ直ぐ帰ることも出来ず、俺はカードショップでジョラゴンのデッキに必要なパーツを一通り揃えていた。

 ジョラゴンで捨てると強いカード、アカリのデッキに入っていたような初動を固める自然のジョーカーズ等。

 そしてカードを全て机の上に並べていると──不思議と、死神の事件の際、紫月がふらふらになってデッキを組んでいた時のことを思い出す。

 あいつ、夢中でカードに向き合ってて徹夜続きになってぶっ倒れたんだっけ。あの時は黒鳥さんが入院していたから必死になっていたんだよな。

 あの時俺は、悪い事ばかり考えるなって言って無理矢理休ませたけど……。

 

「なあ、チョートッQ」

「何でありますか?」

「俺さ。やっぱ紫月の事ばっかり考えちまうんだ。あいつが今どうしているのか分からないのが……すっげぇ不安なんだ」

 

 ──紫月は、初めての後輩だった。

 特に部活というものをしていなかった中学時代を経験していたのもあり、後輩という存在は新鮮だった。

 なのに、ちょっとは慕ってくれるかと思ったらすぐに寝るわ口を開けば毒ばかり吐くわ、おまけにブランと一緒になって好き放題やるわ……どうなるかと思ったよな。

 だけど……あいつはちょっと素直じゃなかっただけで、俺が全力をぶつければ100%であいつも全力で答えてくれた。

 譲れないものには全力なあいつを、俺が信頼するようになって……あいつも、俺の事を信用してくれるようになって。

 顔には出ないけど、紫月も熱いやつだって分かったんだ。

 

「ノゾム兄が倒れた時も……あいつ、わざわざデュエマで俺の性根を叩き直しに来たもんな。人は見かけによらないっていうか」

「スパルタでありますな……」

「ああ。だけど、そんなあいつだから……俺も一緒に居て欲しいって思えたのかもな。あいつは、俺に期待してくれてる。あいつのおかげで──俺は部長であることに誇りを持てるんだ」

 

 普段は気だるげだけど、全力な時は誰よりも必死で。

 鉄面を気取っているくせにすぐに照れたり、素直じゃなかったり……かと思えばストレートに思いを伝えてくるような女の子らしいところもあって。

 そして──誰よりも真剣にデュエマを追いかけてきたあいつとデュエマするのが大好きで、一緒に戦ってくれるのが俺もすごく頼もしかった。

 そうだ、俺が戦えて来れたのは……先輩としての使命があったからだ。

 

「悪い事ばっかり考えるなってあいつには言ってたけど、俺、全然……人の事言えねえよ」

 

 俺が先輩で、あいつが後輩で──俺を奮い立たせてくれる存在。

 「これからもよろしくお願いします」ってあいつは言ってくれたのに。

 まだ、ちゃんとその答えも言えてなかったのに!

 

 

 

「──紫月……!!」

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

「それで、如何されますか? ”お嬢様”」

 

 自信満々に出て行ったはずが、任務を失敗して帰って来たマリーナ。

 当然彼女の失態をシー・ジーが見逃すはずは無かった。嘲笑うように嫌味たっぷりにシー・ジーは言い放つ。

 

「まあ、今回の件で分かったでしょう。幾ら貴女が技術顧問と言えど、任務をこなすのには向いていない。聞けば、私の部下を起用せずオーラ兵器に頼り切っていたと聞きました」

「あーら、言ってくれるじゃない。それなら、もっとダミーエリアフォースカードの性能を上げるべきですわね。貴方達の部下、エリアフォースカード使いとまともに対等に戦えないじゃない」

 

 だからこそデバイスで出力を極限まで上げる戦法が確立されたのだけども、とマリーナは付け加えた。

 やはり、それほどまでにエリアフォースカードの魔力と言うものは膨大なのだ。

 

「まあ良いですわ。今回の件で、ドラゴンのデータが新たに採取出来ましたものー、オーッホッホッホッホ!」

「採取?」

「そうですわ。白銀耀がエリアフォースカードの力で《ジョット・ガン・ジョラゴン》を覚醒させましたの。そのデータを使い、《ドラガンザーク》をドラゴン・コードにする計画が前倒しになりましたわぁ。任務が失敗しても、新兵器の開発が進むなら何も問題ないですわね」

「ふ、ふざけるな! 貴女は任務を何だと思っているんだ! 歴史はあんたの実験場じゃあないんだぞ!」

 

 

 

『Gメン懲罰開始(パニッシュモード)! (ザ・ムーン)、エンゲージ!』

 

 

 

 その音声が無機質に響き渡ると共に、重力を無視してシー・ジーの身体が天井へ叩きつけられた。

 

「ぐえええええっ!?」

「あーやかましいですわね。そんなに仕事が欲しいなら、貴方にもあげますわぁ」

 

 パチンッ、とマリーナが指を鳴らす。

 今度はシー・ジーの身体が天井から床へ勢いよく落下する。

 炸裂音と聞き違う程の音を立て、彼の身体は跳ね跳んだ。

 

「あ、う、い、いだだ──」

「上層部からの次の任務──それは、黒鳥レンの歴史の改竄、ですわ」

「うっ、ぐぐ、ぅう……!」

 

 彼を踏み躙りながら──マリーナは冷酷な笑みを浮かべてみせた。

 

「何故、今になって黒鳥レンの歴史を……!」

「東亜列島の何処かに潜伏しているマフィア組織”ハングドマン商会”。彼らの所持する死神(デス)のエリアフォースカードは早期に機能停止させておかなければいけない代物ですわ。そこで、貴方にも仕事をあげると言っているんですのよ?」

「何?」

 

 

 

「まあ、期待しておいてくださいな。オーッホッホッホッホ!!」

 

 

 

 ──この女……!!

 ギリッ、とシー・ジーは歯を食いしばったまま、地に伏すしか出来なかった。

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