学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「──成程。そして、これがワンダフォース……GRクリーチャーを呼び出す種族のカードか」
「はい。レジスタンスが保持しているのは、ジョーカーズ、ビートジョッキー、メタリカのカードです」
タイムダイバーの中に火廣金を呼んだアカリは、机の上にGRクリーチャーを並べてそれらの解説をしてみせる。
オレガ・オーラのこと、GRクリーチャーのこと。
それら全てを事細かに説明し終わった後、疑問の声を上げたのは桑原だった。
「あ? てェこたぁ、グランセクトはねぇのかよ」
「先程言った、オレガ・オーラのカードにグランセクトのカードは存在しますが……」
「ちっ……恩恵を受けるのは、白銀と火廣金、或瀬の3人ってことじゃねえか」
「ループしか芸の無い脳筋ゴリラにGRは扱いきれないというわけでしょう」
「あんだとコラ」
「というか、桑原先輩。何故貴方も着いてくるんですか」
「理由が無きゃ来たらいけねえのかよ? まあ、タイムマシンなんて科学の芸術の極みみてーなもん、死ぬ前に拝んどかなきゃ損ってもんだしよ」
「そこに芸術を挟む意味はあるのか……」
「ともかく、これは後程ブランさんにも教えておかないといけないことです。GRは知っていなければ初見殺し。何も分からないまま敗けます」
「ま、だろうな。しかしタダでクリーチャーがポンポン出て来るとは、これが未来のデュエマか……ひょっとして今と大して変わらないか?」
「展開力は大幅強化されましたよ。ビートジョッキーのね」
カードを手に取り、火廣金はその1枚を吟味する。
《KAMASE-BURN》。GR召喚する火の呪文だ。
(確かに本物のデュエマのカード……これをそのまま今の魔法で使う事も出来る。だが、GRゾーンのカードが無ければ紙切れ同然か)
火廣金は白い紙束に目を遣る。
その中から1枚1枚カードを取り出していくと、眉を顰めた。
「む……何だコレは? ふざけているのか?」
「ふ、ふざけてなんかいませんよ! 普通のクリーチャーが超GRの力を得る事で、GRクリーチャーの力を得る事があるんです」
「おい、ふざけてるって何だよ。今日の火廣金、レディに厳しすぎるんじゃねーか?」
「これを見てもふざけてないとでも?」
火廣金は苛立った様子でカードの1枚を見せる。
そこに描かれていたのは──カートゥーン調で描かれた見覚えしかない猿人の姿。
「《ドドド・ドーピードープ》! この薬を決めたような名前に、カートゥーンなイラスト! 何をどうしたらこうなった!?」
「お前は部屋で万年接着剤のシンナー吸ってる癖に何を今更」
「人聞きの悪い言い方をするな! 換気には気を使っている……つもりだ! それより、ビートジョッキーがどうしてこんな事に! こいつは何処からどう見ても我が切札の一角、《ドープ”DBL”ボーダー》だろう!」
「ビートジョッキーのクリーチャーが超GRの力を得ると、爆発とコミックの力を身に着けたみたいで……」
「馬鹿な! 兵器とメカの力ではなく!?」
「それはジョーカーズですね」
「普通に考えて逆だろう逆! 三枚目は部長とジョーカーズのポジションだろうが! チェンジだチェンジ!」
「でーきーまーせーんー! 揺らさないでくださいー!」
「ハハハハハハ、ザマァ見ろ! 年中年柄爆発しまくってる速攻脳筋単細胞野郎にはマンガがお似合いだぜ! まあこれで一つビートジョッキーも芸術に近付いた訳だ!」
「何だと貴様ッ……!」
笑い転げている桑原。完全に火廣金は愚弄された気分だった。
GRクリーチャーと言われてお出しされたものは、自分の知る姿とはかけ離れたビートジョッキーの姿だったからだ。
しかもそことなく元になったクリーチャーの面影が見える分タチが悪い。
「仕方ない、兵士は使えるものは何でも使う。此処は一旦飲み込もう」
「へえ、随分と割り切りが良いじゃねえか」
「後輩の安否が掛かっているのだ。戦力増強が出来るなら、それに越した事は無い。これが信用に足りるものか否かは……実戦で判断するが」
「ほう、実戦でか。そりゃまた思い切ったな火廣金」
「火廣金さん……お爺ちゃんから聞いていた通りの人です。実直で、ストイックな軍人気質の……プラモデルオタクだと」
「最後で台無しだ」
「事実だろうが」
「ともかく、GRの力をお気に召していただいて有難い限りです」
「一言もそんな事は言っていないが、そういう事にしておいてやる」
「取り合えず、通信準備を整えるので。もう少ししたらお知らせしますね」
どうやらレジスタンスの団長とやらと、違う時代に居ても通信が出来るらしい。
彼女を見れば全部信じてくれますよ、とアカリは言う。
だが火廣金はどうも腑に落ちなかった。
なぜかあの少女……信用ならない。理由は分からない。まだこの目で歴史改変や時間Gメンとやらを見たわけではないからかもしれない。
それでも──何か、引っ掛かるものがあった。
カンと言ってしまえばそれまでだったが、カンと切り捨ててしまうのも違う気がした。
「なあ火廣金。一つ聞いて良いか?」
「何ですか」
「テメェ、普段はもうちょい女の子に優しいだろ。レディファーストがお前の信条だろ」
「……」
「今日のお前、機嫌悪いのか? まあ機嫌如きで揺らぐフェミニズムなんざ大した事は──」
「それが、俺にも分かりません」
「え?」
桑原は目を丸くした。
いつも神妙な顔をして眉に皺が寄っている火廣金だが、今日は一際何か思い当たるものがあった。
魔導司なりのカンなのだろうか。
「何故だか分からないが、彼女を見ると胸騒ぎがするんですよ」
「アカリが悪い事を考えてるってのかよ? まだ疑ってんのか」
「そこまでは言ってない。言っていないですが……何処か底知れないんです。物腰柔らかいくせに、妙に強かだ」
「そうかぁ? 普通にお人好しの女の子って感じだけどよ」
「エリアフォースカードの使い手は多けれど、彼女はやはり何か特異なものを隠している気がするんです」
「そうには見えねえが」
「……一つ、講義を先輩にしましょう。タロットカードを魔術で学問するアルカナ学に於いて、
「天体のアルカナ? いきなり何の話だ」
「そう。世界のアルカナから、3つの天体のアルカナが分岐し、そこから残る18のアルカナに分岐した……これが魔術の始まりです」
「だが、何で世界が天体を従える? 普通逆じゃねえか? 天が地を従えるって感じでよ」
「天体……星も月も太陽も、世界が定義しなければ唯の球体。世界があり、初めて彼らは名のある星として権能を発揮するからです」
故に、
照らす大地があって、初めて星は星であることが出来る。照らす世界無くして太陽は太陽足り得ず、月もまた月足り得ない。
故に、天体が帰る場所は全ての礎である世界。
文明と大地の行き着く先である包括的な意味を持つ
「よく分かんねーな。もっと分かりやすい例えは無いのか?」
「例えば幾らアイドルと言えど、ファンが一人も居なければアイドルと言えない。教師と言えど生徒無くして教師と言えない。国は民無くして国と言えない。……そして星のまた世界無くして星とは言えない。星の名を定義できる文明も無ければ、照らす大地も無いからです」
「……そう言う事なら理解出来たぜ。で、何が言いたい?」
「つまるところ、
「……てこたぁ、あのアカリって子……只者じゃねえってことか」
「はい。恐らく、
「あの子が
とすれば、彼女はレジスタンスにとっても希望の星であることは間違いない。
しかし同時に火廣金は底知れなさも感じていた。
あれだけの年齢の少女が一人、エリアフォースカードで戦っていた?
あの白銀耀でさえ、エリアフォースカードを持つ仲間が居なければ此処まで戦い抜けることは出来なかったはずなのに。
「まあ考えすぎかもしれませんが」
「……そうだろうよ。現に、白銀はあの子に助けられてるんだから……」
「あ、二人とも! 繋がりましたよ! 特に火廣金さんには会ってほしいんです!」
部屋に入って来たアカリがモニターを映し出す。
現れた顔を見て桑原も、そして何より火廣金は驚愕の表情を浮かべた。
無理も無い。そこにあるのは、老いたトリス・メギスだったのだから。
確かに一瞬戸惑った。
しかし、何度も行動を共にしている事と姿に面影があったからだろうか。
思わず火廣金は言葉を漏らす。
「トリス!? トリス……なのか?」
「おーう、繋がったか。久しぶりに顔を見ることができたな、ヒイロ」
「嘘だろ!? このしわくちゃの婆ちゃんがトリス・メギスか!?」
「魔術回路の一部がぶっ壊されて、義体を交換出来なくなった。この身体が最後の一個だ」
「……そうか」
「だが、60年ぶりにお前の顔を見れて良かったよ」
「お前は未来のトリス……間違いないんだな?」
彼女はこくり、と頷く。
しゃがれてはいるが、はっきりと現代の彼女を思わせる声でトリスは言った。
「ならば教えてくれ。ワイルドカードが……本当に世界を滅ぼすのか?」
「滅ぼす。いや、現に一度世界は滅んだ」
「……!」
「ワイルドカードによる破局は、信じたくねえが本当みてえだな……!」
火廣金は一度目を瞑る。
そして──覚悟を決めたように問うた。
「教えてくれ。何があったのかを事細かく。俺は──お前の話なら、信じられるかもしれない」
「良いぜ。お前達から見た1か月後、世界に何が起こるかを、たっぷり教えてやる」
※※※
──最初に目覚めたのは彼女だった。
──彼女が絶望し、傷つき、俺の所にやってくるまで俺は何も知らなかった。
──俺は……何も持っていなかった。
──それでも、あらゆる手を尽くすしかないじゃないか。
──だって──たった一人で戦う後輩を、どうして放っておけるだろう。
ブツリッ
電源コードが抜けたような音が頭蓋骨の内側に反響する。
飛び起き、背中がびしょびしょになっていることに気付く。
今のは……
分からない。
断片的で、抽象的で、中学生のクソったれたポエムのようだ。
はっきりと見えたのは、後輩の顔だけ。
だけど──何故だろう。今の夢に、妙な異物感を感じるのだ。
俺じゃない誰かが見た夢を映像のように見せられたような……そんな気分だ。
……病気だな、我ながら。こんなに恋焦がれるように、あいつの夢を見るなんて。
見ると、机の上の
「まさかな」
そう言って、俺は再び机に向かう。
……寝起きだからか、やる気が出てこない。
昼飯を適当に済ませた俺はデッキを組んだまま突っ伏して寝ていたらしい。
「アカルー? 起きたデス?」
「あー、起きた起きた。あんまり気持ちの良い目覚めじゃないけど……」
「……」
「……」
あのう、ブランさん。
何で貴女、男の部屋に入っているんデス?
「おいブラン。何で俺の部屋入ってきてんの」
「我が案内したでありますよ!」
「俺が起きるまで鍵開けるなよ! せめて起こしてからにしてくれ!」
「アカルの寝顔、ばっちりシャッターに収めたデス!」
「人の間抜けな寝顔を勝手に撮るなーっ!」
「ふむ、成程これは確かに間抜け面じゃのう。ふぁーあ」
「サッヴァークのもあるデスよ!」
「待てい探偵、何でそんなものがあるんじゃ!?」
慌てふためくレアなサッヴァークが見られた瞬間だった。
デジカメの画面には、情けなく大口を開けて縁側で寝るサッヴァークが映っている。
どうやら火廣金に頼んでクリーチャーも映るようにしてもらったらしい。
「ふーむ成程確かにこれは間抜け面。裁きの真龍が聞いて呆れるぜ」
「むぐぐぐ……これは一本取られたぞ」
「写真だけに、でありますな!」
しょうもない事を言ってると、分解されるぞ新幹線。
「って、そうじゃなくて! 何しに来たんだよ! 授業は!?」
「とっくに終わったデス。ノート取ってあるから、写しておくデスよ」
「お、おう……悪かったな」
「でもでも、そんなの後回しデースよ! ケーキも買ってきたのデース! 一緒に食べマショ? 疲れた体には、甘いモノデスよっ。アカル」
「……ああ、お前には本当に頭が上がらないよ、ブラン」
「にひひっ」
はにかんだ笑みを浮かべるブラン。
本当に、彼女にも助けられてばかりだ。
甘い物は癒しだ。身体と脳に活力をくれる。
「美味しいデス?」
「ああ。いつもの所だろ? 奮発したな」
「アカル、頑張ってたみたいデスから」
「気遣わせたか?」
「全然。アカルが無茶しすぎなのは何時もの事デスけど……ちょっとは自分の身体を労わってほしい」
ケーキも一通り食べ終わった後。
ブランは何時になく神妙な顔で俺に問いかける。
「……アカル。さっきの話、隠してる所あるデショ?」
「何故そう思う?」
「私の話をするとき、明らかに辛そうだったデス。デュエマが消された手口は分かったデスけど……私は歴史改変されてどうなったのか、意図的に伏せたデスよね?」
「……流石、神楽坂先輩から受け継いだ探偵術だ。やっぱ敵わねえよ」
「ブラン殿! マスターはブラン殿に気を使って……」
「気を使う必要なんてないデス! 私達、仲間デショ!?」
「っ……」
「時間Gメンがどれだけ大きな存在でも、私は……アカルの味方デス。じゃなきゃ、今までの私に嘘を吐くことになるデスから」
「……分かった」
俺は一呼吸置いた。
そして──言った。
「あいつらは、人の歴史を書き換える為なら人殺しだってやる連中だ」
「……!」
警戒するようにブランの目が見開いた。
「それも、小さい子供でもお構いなしだ。あいつは、小さい頃のお前を狙った」
「……そうだったんデスか」
「でも、俺が阻止した! だからお前は今、此処にいるんだ」
「でもそれって、すっごくscaryデス……子供の頃を狙ってくるなんて、不可避じゃないデスか!」
「改変出来るのはダッシュポイントの時代だけだ。今度は絶対に先回りして阻止してやる」
「……そう、デスね。耀は……特異点デスから!」
「やっぱ……いざ伝えられると、不安だよな。だから教えたくなかったんだけど」
それでも俺はあの時後悔した。
覚悟が出来ずに伝えることが出来ず、ロードを逆に傷つけた。
今度の事件は、誰もが傷つかずにはいられない。
俺も、そして皆もだ。
「でも、それだけじゃないんデショ? アカル、まだ何か隠してるデス」
「……悪い。これだけは、言えないんだ。本当に、ごめん」
そう、もう一つの歴史のロードの事。
それは今、彼女の前に出すべき事ではないと思った。
話そうと思っても、これだけは──喋れなかった。
「……俺は、都合の良い事だけしか話せねえ嘘つきだ。こんなんだから、お前を不安にしちまうんだろうな」
「確かにそれは嘘吐きかもしれないデス。でも……誰かを不幸にしないための嘘なら、何より、アカルがそこまで言うなら、わざわざこれ以上追及する必要もないデス」
「ブラン……」
「だって、アカルは私の親友デスから!」
そうか。
それでもお前は信じてくれるのか、俺の事を。
俺は……改めてブランとの結びつきの強さを実感する。
ああ、こいつは文字通りの「親友」だったな、と。
「それに、探偵は依頼人の秘密を守るのは当然デスから! 覚悟は出来てるデスよ。この特大のヤマに挑む覚悟!」
「そうだったな。お前なら……そう言うよな」
「当たり前デス! この事件、絶対に解決してみせるデスよ! この私に出来る事なら何でもやるデス!」
良かった。
ブランは……何時も通りだ。
「私はアカルと友達になって、今此処にいるデス。アカルが居たから、此処まで来れたんデス。なりたい自分になる勇気、その最初の一歩をくれたのはアカルだヨ?」
「……ブラン」
「My best friend……アカル。一緒に、シヅクを助けだそう?」
「ああ」
差し出された手を取る。
Best friend。これ以上ない賞賛の言葉じゃないか。
そうだ。それなら存分に彼女の力を借りよう。
「そうと決まれば、じっとしてられねえ! ブラン、組んだデッキの調整に付き合ってくれ!」
「りょーかい、デス!」
「グギュルルルァァァァァァァァァーッ!!」
束の間の平穏とは、えてして一瞬で崩れ去る。
デッキを取り出した途端、外から聞こえて来る耳を劈くような金切り声。
それは、招かれざる客の来訪を示していた。
「な、何デスか……!」
「まさか……!」
鳥のような鳴き声。
聞くだけで粟立つ背中。
イヤな予感は──往々にして当たるものだ。
「マスター! ドルスザクの気配でありますよ!」