学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
外を羽ばたく巨大な翼。
既に、空は禍々しい黒に染まりつつあった。
目の前にいるのは無月の大罪を背負ったドルスザク──の、はずだったが……。
「な、何デスかコレ……!」
「怪物……!?」
前に見た時よりも、その姿はおどろおどろしく崩れ果てていた。
肥大した翼は腕のように太く、鍵爪を携えている。
極めつけはその頭部。
家を飛び出してきた俺達を、巨大な一つの眼球が覗き込んでいた。
怪物が咆哮する。
そして、突如──周囲の木々が、家が、まるで腐り落ちるようにして崩れていく。
「むっ!!」
刹那、サッヴァークが巨大な球体の障壁を貼った。
「サッヴァーク、今の攻撃は何なんだ!?」
「分からぬ……! だが、無作為にあらゆるものを崩壊させておるわ!」
「ど、どうするんだよ!? そんな奴近付けねえぞ!?」
「一先ず、空に逃げ──」
言うが早いか。
怪物の巨大な腕が迫りくる。
それがサッヴァークの障壁に一瞬で罅を入れてしまった──間もなく、砕け散る!
「部長ッ!!」
その時。
身体が浮いた。
ずううん、と巨大な墜落音が響き、怪物の巨椀が地面へ振り下ろされたことを確認する。
では、俺達を空中に連れ去ったのは──
「火廣金!?」
「それに”轟轟轟”ブランド!?」
「話は後だ! 嫌な予感して先に駆け付けた! サッヴァーク、彼らを頼む!」
「うむ。しかしヌシが挑むのか?」
「ヒイロ、此処は私に任せるデス!」
「いや、レディ。君はまだGRの力を手に入れていない。俺の見立てが正しければ、あの怪物がオレガ・オーラとやらなのだろう。ならばこちらもGRの力で挑むのが筋だ!」
「火廣金、お前……使えるのか!?」
「信じてやる。こんな荒唐無稽な話、これっきりにしてほしいがな!」
サッヴァークの腕に飛び乗った俺達を後目に、”轟轟轟”ブランドと火廣金が怪物目掛けて飛んで行く。
魔方陣が浮かび上がり──詠唱がはっきりと聞こえた。
「起動術式Ⅷ──
※※※
火廣金と怪物のデュエル。
龍になり損なった怪鳥のようなクリーチャーは、涎を滴らせ、濁った咆哮を辺り一面に轟かせる。
「グッギュルルルルァァァァァァァーッ!!」
「何ともまあ悍ましい怪物だ……!
おまけに、確認されているどのドルスザクとも姿が違う。本当に未来のクリーチャーと言う奴か!
火廣金は感心しつつも、不気味さを感じていた。
気色が悪い。その一言に尽きる。
「俺のターン、2マナで《一番隊 チュチュリス》を召喚! ターンエンド!」
「グ、グギュルルルルァァァァーッ……!! 《リンリ》、
現れるのは《幽具 リンリ》。
その能力で受話器型のオーラはターンの終わりに墓地を増やしてしまう。
「GRクリーチャーの上に重ねられた横向きのカード、あれがオレガ・オーラか……!」
「アニキィ、あんなカード見た事無いッスよ! やっぱりあのアカリって奴の言ってる事、本当だったッス!」
「ハッ、狼狽えるな。本当だったところで所詮オーラ等、クロスギアのまがい物だ。こっちは数で押す」
アカリに貰った超GRゾーンのカード。
それを宙に放る。
束に掛けられた電子錠が音を立てて解き放たれた──
「超GRゾーン、アンロック──情け無用、戦闘開始ッ!」
その声と共に白い裏面のカードが円を描いて大穴を造り出す。
同時に火廣金は素早く3枚のマナをタップしてみせた。
出すのは、超GRからクリーチャーを呼び出す種族、ワンダフォースのカードだ。
前髪を掻き分けた彼は巨大な怪物に人差し指を突き立てる。
狙いを定めるようにして──
「先ずは試し撃ちだ。《チュチュリス》でコストを軽減し、《HAJIKERO・バクチック》召喚!」
現れたのは爆竹の如き容貌のクリーチャー。
それに引き寄せられるようにしてGRゾーンからクリーチャーが飛び出した。
「《バクチック》が場に出た時にGR召喚する。《ロッキーロック》をGR召喚! さらにこいつはスピードアタッカーになっている!」
ヒッヒャァァァーッ、と甲高い笑い声と共にカートゥーン調の猿人が飛び出した。
その頭には爆弾が括りつけられており、慌ただしく駆け回っていた。
「そのままシールドをブレイク!」
「ギュリィッ……!! S・トリガー……《ケルベロック》、
「そして、《バクチック》の効果でGR召喚したクリーチャーはターンの終わりに破壊される。《ロッキーロック》を破壊」
爆弾が爆ぜ、粉微塵になる《ロッキーロック》の身体。
しかし──粉塵が晴れると、その場にはクリーチャーの影が残っていた。
「最も、《ロッキーロック》は場を離れた時にタップ状態でGR召喚する。《ドドド・ドーピードープ》……こいつは少し甘くないぞ。パワー7000のW・ブレイカーだ」
「アニキ、思うにタダで出て来るパワー7000のW・ブレイカーってヤバくねッスか?」
「これでビジュアルさえもう少し格好が付けば完璧だったが、カードパワーは及第点をくれてやる。嫌いじゃない」
「オラァーッ! アニキのお墨付きも貰った超GRの力はサイキョーッス! コーサンするなら今のうちッスよ!」
騒ぎ立てるホップ・チュリス。
しかし──火廣金は嫌なものを感じ取っていた。
まだ、油断するのは早い。確かに超GRの力はすさまじいものだ。
だが、相手はあのドルスザクのオーラ。嫌な予感がした。
「し、ぢょょ、ぅ、セ、イ、ハ、みぇ、で……い、いぃぃぃぃギュルルルルァァァァ」
『
空に刻まれていく星々。
それらが戦場に降り注ぎ──場にいた2体のクリーチャーを破壊した。
そして黒い渦が皆諸共に巻き込み、黒い翼、無数の瞳、そして凶悪な鍵爪を携えて──電子の龍となって顕現する。
「
黒い風が戦場を吹き荒らす。
その中に鎮座する最早龍とも鳥ともかけ離れた凶暴で醜悪な怪物。
崩れかかった身体はボコボコと泡立っており、ところどころがポリゴン崩壊を起こしていた。
その悍ましさに火廣金は口を噤む。
──これが……ドラゴンの、オレガ・オーラだと?
「冗談じゃ、ないッ……!!」
「ゴ、ギュルルルルァァァァァァァーッ!! 《ザーク卍ウィンガー》!!」
咆哮が轟いた。
怪物に取り込まれたのは大きな翼を生やしたチップ。
場を離れる代わりにオーラ2枚を山札の下に置くことで生き残るGRクリーチャーだ。
更に、《卍∞ ジ・エンデザーク ∞卍》を場に出す代償のために踏み壊された《シニガミ丁-二式》。その効果によって落とされたカードのうち1枚が浮かび上がる。
オレガ・オーラが──怪物の口に取り込まれていった。
「うじゅるるるるるるる、《卍魔刃 キ・ルジャック》……!」
取り込まれた壊刃のオーラ。
その刃が次々に火廣金の場を蹂躙していく。
《バクチック》も、《ドーピードープ》も諸共に破壊されてしまった。
「成程な、墓地を増やしながら相手のクリーチャーを排除していく……! これが闇のオーラとやらの戦い方か!」
「アニキ、確かあいつら、墓地が溜まったらヤバい奴らが出て来るんスよね!?」
「速攻で片付けたい。しかし、手札にある
「じゃあ、どうするんスか!? 他に有効そうなカードは無いんスよ!?」
叩き潰すしかない。
相手が大きく動き出す前に、速攻で片付ける。
さもなくば、食われる。
あの怪物に──
「部長は、こんなクリーチャーと戦っていたのか……!」
彼を一瞬でも疑っていた自分が恥ずかしくなる。
そうだ。あのアカリという少女が信じられなくとも、自分が信じられる
奮い立たせるように火廣金は目の前の醜悪な敵を睨む。
「無月の大罪ァァァァイ、
「っ……!」
今度は《チュチュリス》が破壊されてしまった。
これで彼の場は全滅。
更に手札は残り2枚。
赤単の速攻デッキには絶体絶命とも言える状況だった。
「無月の大罪……!? オーラ版のB・A・Dみたいなものか! おのれ、ビートジョッキーの専売特許をよくも……!」
ターン終了時に無月の大罪の代償で《デ殺パイダー》が破壊されたので相手の場数は増えなかったものの、GRクリーチャーの《補充 CL-20》が破壊されたので手札を引かれてしまった。
手札も、場も、完全に差を付けられてしまった。
「ホップ、勝負を付ける。このターンで、だ」
「アニキ。大丈夫なんすか? あの未来のトリスから話聞いた時、大分動揺してたみたいッスけど……焦って、失敗とかしねえッスよね!?」
ホップの言う通りであることは百も承知だった。
火廣金はタイムダイバーの中で未来のトリスに全てを聞いた。
ワイルドカードの大氾濫、アルカナ研究会の末路。
そして自分の生死すら不明だという事実──それは、少なからず火廣金の冷静さを乱していた。
それでも──
「兵士は、何時か死ぬ。死ぬつもりの覚悟を以て戦場へ赴くのだ」
「で、でも──」
「俺は死ぬ。命ある以上、何時かは死ぬ。ひょっとすれば、それはワイルドカードの大氾濫とやらの日かもしれないな」
ホップが心配そうに彼の顔を覗き込む。
しかし、杞憂であったことに気付いた。
「だが俺の命が尽きるのは今日でも、ましてこんな所でもない!」
火廣金緋色は──諦めていない。
「この程度の敵、簡単に粉砕出来ずして何が
山札に手を翳す。
このカードが全てだ。
それを──引き切った時。
火廣金緋色は博打を打つ覚悟を決めた。
「俺のターン。B・A・D・Sでコストを軽減し、手札を捨てて《“必駆”蛮触礼亞》を唱える!」
「ア、アニキィィィーッ! 良いんスか!? 本当に!?」
「確かに何時ものデッキならば無謀な賭けだ。しかし、GRがある今……決して無謀な策ではない! 《龍星装者 ”B-我”ライザ》をバトルゾーンへ!」
現れたのは全身を青い鎧に包んだ猿人。
龍を呼ぶ侍龍の化石を身に着け、その刀を振るう──
「総員待機! フォーメーション、
強大な怪物へ駆ける《ライザ》。
このままでは無謀な単騎突撃だ。しかし──
「そして俺のクリーチャーが攻撃するとき、《ライザ》の効果で山札の上から1枚を表向きにし、攻撃したクリーチャーのコスト以下のクリーチャーを場に出す」
──《ライザ》は援軍を呼ぶ能力を持つ。その能力は自身だけではなく、味方全員に付与される。
しかし、これも賭けに等しかった。それこそ《”末法”チュリス》でも引かない限り、呼び出すクリーチャーのコストは先細りしていき、失敗する確率も高くなるのだ。
「最もそれは、
「ぐぎゅるるるぁぁぁ?」
「怪物。教えてやる。君の時代、どのようなデュエリストが居るのか知らんが……この俺、火廣金緋色に出会ったのが運の尽き。君には何もさせない」
一閃が虚空を薙ぎ払う。
そこから現れたのは──ドローンのようなクリーチャーだ。
「来い、《
灼熱が周囲を包み込む。
来る。
自らの身体を流れる
背後から飛び出す《”轟轟轟”ブランド》。
彼が超GRの大穴へ飛び込んでいく──
「轟き怒るは灼炎の魔神。全軍突撃の準備をせよ!」
MASTER。
その紋章が焼きつけられる時。
火文明の王者が勝利の雄叫びを上げた──
「