学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
第1話:弾丸VS戦車─謎の転校生、火廣金緋色
「――ワイルドカードと関わるのをやめろ」
1対の眼が、俺の瞳の奥を握り潰すように睨んだ。
俺は、その場から動けなかった。服装はいたって普通の学園の制服だ。しかし、その首には赤いラインのサングラスが首にぶら下げられており、少年の瞳も紅に近い茶色。何処か冷徹さを感じさせる物言いと語り草からは、彼の人柄が察せられた。
だが、それよりも、何よりも今、此奴は確かにワイルドカードと言った。
その言葉に、紫月、ブランも只事ではないということを察したのだろうか。戦慄と驚きを隠せないようだった。
「ま、待ってくだサイ! いきなり何なんデスカ!?」
「そうですね。素性の分からない人間に、いきなりこんな事を言われて、はいそうですか、と言うとでも」
「ああ。何モンだ、お前は」
しかし、少年はそれに返答することをしない。
それどころか、俺に指を突き付けると言った。
「忠告だ。次に会う時までにエリアフォースカードを手放せ。さもなくば我々は攻撃も辞さない」
反駁しようとしたが喉につっかえた。
冷や汗が伝う。何だろう、この言いしれない威圧感は。
脅しで言っているとは思わせない、この気迫は――
「攻撃、だって――お前は誰だっつってんだよ、こっちは!」
言いかけた俺は、少年の胸倉をつかもうとする。いきなり出てきて、攻撃するだなんて堪ったもんじゃない。
だが、彼の姿はぐにゃりと揺らいだかと思うと、その姿は陽炎のように揺らぎ、霧散してしまったのだった。
「なっ……魔力の力で生み出された幻影だったでありますか!」
チョートッQの言葉に俺は頷く。今更驚く事ではない。
「……? アカル、足元に何か落ちてマスヨ?」
「何?」
俺は視線を足元にやった。
血のように赤いチェスの駒が1つ、落ちている。
思わず俺は拾う。さっきまで、こんなものは無かったのだが。
「何で、こんなものが――」
※※※
「うちの学校の生徒、で間違いないだろ……あの制服は」
「デモ、私のデータベースに載ってないデース」
「お前のガバガバデータバースにゃ、何も期待してねーけどな」
「むっ」
俺は白銀耀。
デュエマ部の部長をやっている少し普通じゃない高校2年生――だったのだが、実体化する能力を手に入れたクリーチャー・ワイルドカードの事件に関わってから、俺の日常は本当に普通ではなくなってしまった。
さらに、相棒のクリーチャーとして俺の所にやってきたチョートッQ曰く、この学園には、更にこの世界には、何らかの要因で実体化したクリーチャーが沢山いるという。
俺の部活仲間のブランや、後輩の紫月。そして、美術部の桑原先輩もワイルドカードに関わる事になっちまったし……事件を解決する中、どうなることやらと思っていたのだが――
「あの、スカしたグラサンヤロー……この学園の生徒だってのは、あの制服で分かったが……」
「まあ、こっちでも情報を集めておきマスネ」
「りょーかい」
そう返すと、俺は自分の教室へ足を踏み入れる。
いつものクラスメイトに手を振り、俺は席について荷物を整理し始めた。
向こうに座っている花梨に目をやる。どうも、浮かなそうな表情をしていた。いつもは、元気にクラスメイトとくっちゃべっていて、俺の姿を見たら飛びついてくるのだが。
妙だな……今日は元気が無いみたいだ。
「おー、白銀ェ。愛しの花梨嬢が気になるかあ?」
「ちげーよ馬鹿」
見ているのがバレたか、からかってくる友人を一蹴し、俺は花梨の席へ向かう。
ただの幼馴染だっての。ただ、ブランの影響か、最近のワイルドカードの事件からか、俺は周囲への異変に以前より気を配るようになった気がする。
「そういえば白銀知ってるかあ? 最近、学校でものを失くす奴が増えてるんだと」
「学校でものを失くす奴、ねえ……」
「興味なさげだな? ブランとかに言えば興味津々で食いついてくれるか?」
「ああ、一応伝えておくよ」
学校でものを失くす、か……一応クリーチャーの仕業ってことも考えておくか。
だけど、その前に――
「……おーい、花梨。大丈夫か?」
「ふぇっ!?」
サイドポニーが驚きで揺れた。
上の空になっていたらしい。
だが、俺の顔を見るなり花梨の表情は露骨に青白くなった。
「あ、耀……?」
心配になって声を掛ける。
具合が悪いのか。それとも、俺何かしたっけか。
いや、してねえな。それとも、昨日の肝試しが原因か?
「どうした花梨。顔色悪いぞ」
「い、いや、何でもないの! 何でも……」
いや、何でもあるだろ、その顔と言いぶりは。
「どうした? 具合が悪いのか?」
「ち、違うよ! そ、そうだ、そういえば耀! 今日、転校生が来るらしいよ?」
「はあ? この時期に? そんなこと、誰も言ってなかったが、何処情報だ」
「あ、いや、そのね……その……」
しどろもどろになりながら弁明しようとする花梨。
一体、どこで誰からそんなことを聞いたのだろう。
おまけに、始業式からたったの1か月しか経っていないこの時期に転校生と言うのもおかしい話だ。
「……嘘やジョークも大概にしとけよ?」
「そ、そういうわけじゃ……」
次の瞬間。
始業のチャイムが鳴る。まあ、嘘かどうかはすぐに分かるだろう。
先生がそれに合わせて、教室へ入ってきた。
「よーし席に着けー。早速朝のHRを始めるぞ――とその前に、今日は皆に驚きのニュースがある。入ってきなさい」
ん? と俺は訝し気に廊下の方に目をやって驚愕した。
教室がざわつく。
「転校生だ。皆、仲良くしてやってくれ」
何よりも度肝を抜かれたのは俺だった。
花梨の言っていた転校生は、本当だった。
しかし何よりも――首からぶら下げられたサングラスに、燃えるような瞳、清廉な顔つきに凍てつくような視線。
「
細い指でチョークを握り、黒板に漢字と、律儀にふりがなを振りながら彼は言った。
見紛う事無き、昨日部室に押しかけてきた少年のそれであった。
俺の背中に冷や汗が伝う。
ブランのデータベースがガバガバな事には変わりないが、道理で情報が無かった訳だ。
昨日、うちの制服を着ていたのは、そして今まで見たことが無かったのは、転校生だったから――
「いや、いやいやいやいや……ちょっと待てや」
それじゃあ、お前は空いてる向こうの席なー、と先生が言って転校生、もとい火廣金が指定された机に向かうのを目で追いながら、俺はぶつぶつと呟いていた。
花梨は、情報が嘘じゃなかったのをドヤ顔でこっちに自慢しているかと思いきや、そうではなく――
「……」
相変わらず、不安そうな表情を浮かべていたのだった。
※※※
放課後。
刀堂花梨は1人、剣道部の部室に向かっていた。
昨日起こった出来事がまだ幻や夢なのではないか、と彼女は思っている。
しかし。現に自分はクリーチャーに襲われ、危うかったところを――
「まさか、本当に……転校してくるなんて」
「おい、君」
呼び止められた花梨は足を止める。
振り向くと、そこには――昨日、自分が危うかったところを助けられたあの少年が居た。
「やあ、久しいな。昨日振りだ」
「……」
助けては貰ったが、イマイチ警戒を解けないまま、花梨は疑惑の視線を彼に向けた。
しかし、思い切って問い掛ける。
「ねえ、耀が危ない事をしてるのって本当?」
「本当だ。それは、君自身が見てるだろう?」
「まだ、信じられない」
「相変わらず、この国の人間は宗教観が薄いな。ぺらっぺらだ。自分の常識を越える物を認められない」
小馬鹿にされているようだったが、花梨はきゅっと悔しそうに口を結ぶ。
「……そうだな。俺が今日、あいつに少し”説得”をしてやろう。それで白銀耀は今後、ワイルドカードに関わらずに済む」
「……あたし、あんたの事、あんまり信用できない」
「そうであろうが、無かろうが。俺は俺の目的を果たすがな」
そう言って踵を返すと、既に彼は居なかった。
……彼女は飲み込めないわけではなかった。
僅かであるが、花梨にも記憶があったのだ。
あの異形に取り付かれていた頃の日々を――
「耀……」
放課後のデュエマ部。
早速緊迫した空気に包まれていたのは言うまでもない。
よもや、昨日脅迫めいた事をしてきた相手が、此処に転校してくるという事態になってしまったからだ。
俺だけではない。ブランと紫月も、神妙な顔をしていた。
「……まさか転校してくるとは」
「道理で私のデータベースに載ってないはずデス……」
「おめーのデータベースがガバガバなのはいつも通りだがな」
少年の名は、火廣金 緋色。
どうやら話を間接的に聞いた事には、どうやら各地の学校を転々としているらしく、転勤の多い両親らしい。
……どうもそれだけではないんじゃないか、と思うのは俺の気の所為だろうか。
「良いでありますか? 今から、第一回デュエマ部超会議を始めるでありますよ!」
「何でおめーが仕切ってんだ」
ブルーに言った俺だったが、シャークウガは乗り気のようだ。
つか、その超会議ってネーミングはやめろ。怒られる。
「まあ良いじゃねえか。取り合えず、あの火廣金 緋色って奴の話だろ? っても、最初に俺達の前に出てきた時は唯の幻影だったしなあ、ギャハハハハ」
「何笑ってんだシャークウガ、テメェ、フカヒレにするぞ」
「火文明は火、熱を操る事に長けているので、陽炎、蜃気楼のようなものだと思われるでありますよ」
「まさか、あいつクリーチャーなのか?」
「いやぁー……それは……違うでありますが」
あの火廣金緋色自体は、人間な気がする。
現にチョートッQ。お前もそれは見ているはずだ。
……いや、そうなれば猶更おかしい。何で只の人間があんな力を使えるんだ。
悪いが俺は、エリアフォースカードを使えるようになってから、そんな異能力が開眼したことは無いぞ。
つかそもそも待てよ。このチョートッQ、折角実体化するクリーチャーなのに、何の役にも立ってねえような……。
「ですが先輩。ワイルドカードの事を知っているという事は、やはり……クリーチャーの力を私や先輩のように借りている可能性がありますが。または、ワイルドカードが取り付いているとか」
「……ワイルドカードか……」
確かにいずれ、その線でも考えなければならないかもしれない。
ともかく、火廣金が一体何者なのか。それを探らなければならないのだ。
しかし、そんなことを言っても俺達にどうすれば良いのやら……。
「そういえば先輩。昨日、火廣金先輩は私たちがこれ以上ワイルドカードに踏み込むなら、攻撃するって言ってましたよね」
「ああ」
「望むところです」
「……ああ……あ?」
変な声が出た。
見ると、魔女のような凍てつく瞳で今其処に居ないはずの敵を睨み、紫月は唸るように言った。
ちょっと待て、望むところってどういうことだ。
お前何考えてんの? ちょっと?
「ワイルドカードがみづ姉に危害を齎すかもしれないのに、その事件の捜査を止めろ? ふざけていますね」
「あ、あの、ちょっと?」
「海底に沈めてやりましょう。返り討ち上等、冷たい海の底へ――」
「ストップストップ!! 何か怖い、危ない感じになってるぜ、マスター!!」
シャークウガと俺が止めたので紫月の暴走はどうにかなったが、このままでは拉致が開かない。
「そうだ! 桑原先輩にもこの話をしようぜ!」
「桑原先パイ、デスカ?」
「確かに。此処は、情報を共有してみるのも良いでしょう」
あまり部活や勉強の邪魔をしてはいけないと思っていたが、もしかしたら彼も火廣金に会っているかもしれない。
一先ず、話を聞いてみる価値はあるだろう。
それに、先輩は俺達に協力してくれるって言ってたしな。
……でも、あの人エリアフォースカードを持ってないんよなあ……。
「それじゃあ早速美術室に突撃デスネ!」
「おい待てやコラ!」
流石に今美術室に行くのは邪魔になるだろう!! しかもこいつ、もういつもの鹿追帽被ってるし!!
ブランを止めようと、廊下に出たその時だった――
「イギーッ!!」
何かの声が聞こえた。
それと共に、妙な影が横切り、ブランの帽子をかっさらっていく。
しばらく俺達はその場に突っ立っていたが――すぐさま、ブランの目の色が変わった。
「Oh,my Gooooooood!! 待ちなサイ、帽子泥棒ォー!!」
響き渡るブランの絶叫。
余り人が居ない旧校舎にそれは木霊していくが、俺達の視線はむしろ、帽子をかっさらっていった何かに集中していた。
一方のブランは、鬼のような形相でそれを追いかけていく。
「ありゃ何だ、クリーチャーか!?」
「全く、同意でありますよ! ブラン殿、実はクリーチャーだったのでは?」
「ちげーよ!! 女の子にクリーチャーとか言ってやるなよ、本当の事でもさあ!」
実際鬼神の如く、だが俺が聞きたいのはそうではない。
「じゃなくて、浮いてるアレだよ!」
「勿論、ワイルドカードであります!! 恐らく、もう力を蓄えて実体化した後でありますよ!!」
やっぱりそうか! 何ならさっさと捕まえて――いや、待て……よ?
こいつ今何て言った? あのワイルドカードがもう力を蓄えたって言わなかったか?
「お、おい、なあ? チョートッQ……それじゃあ、宿主は――」
「心配はそこまで要らないと思うであります。ワイルドカードが実体化するのに必要な魔力は、いわゆるゲームで言う”コスト”に比例するでありますよ! 花梨殿の命が危なかったのは、ドギラゴンのコスト――即ち、ドギラゴンが強力なクリーチャーだったからなのに対し、実体化するほど魔力を吸い取っていたのに桑原殿が無事だったのは――」
「成程、ステップルが左程強力なクリーチャーではなかったから、ですか」
ああ、そういうことか。
ドギラゴンのコストは8、対してステップルのコストは2……まだ実体化していなかったのに、やつれていた花梨に対して、ステップルが実体化してもあまり体に負担がかかっていないように見えた桑原先輩……。
となれば、ミラダンテに取り付かれていた音神って相当ヤバい状態だったのかもしれないな……。
で、パクリオのコストは4。宿主からさっさと魔力を吸い取って実体化して好き勝手始めたってことか。
「って、どうするんだよ、それじゃあ!!」
「追いかけるしかないでありますよ!!」
「やれやれ……走るのはあまり好きではないのですが」
浮遊して飛び回るクリーチャーを追いかける俺達。
となれば、俺達が今やるべきことは、あのクリーチャーを倒すだけという事か。
シルエットからして、恐らくサイバーロードの《パクリオ》だろう。
アームの付いた乗り物に乗っており、こちらを翻弄するかのように不規則な動きで飛び回る。
成程な。此処最近起こっていた、学校でものが無くなる事件の犯人はあいつだったってことも考えられる。
というか濃厚だ。”パクリ”オだけに。
「待つデース! このドロボー!」
スリングショットを取り出し、パクリオ目掛けて鉛玉を飛ばすブランだが、相手が動き回っているのでさっぱり当たらない。
まずいな。このままでは取り逃してしまうぞ。
「こるァ、そこまでッス!!」
刹那、ぎゅぎゅん、と車輪が回る音。
それが火を噴いて、何かがパクリオの乗り物目掛けて飛んで行った。
「んああ!? 何だアレ!?」
「分かりません、ですが――クリーチャーでしょうか」
どうもそれはクリーチャーのようだった。
スケボーのようなものに乗り、バイザーを掛けたネズミのようなクリーチャーだ。
それがパクリオへ思いっきり体当たりし、床へ取り押さえる。
俺達はその光景を前に呆気に取られるばかりだったが――
「よくやった」
「うぇっ!? 何だ!?」
次の瞬間、人影が俺達の間をすり抜ける。
そいつの後ろ姿には見覚えがあった。だが、程なくして光が廊下全体を包み込み、消失した。