学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR34話:鎧龍へ──マスターオーラ

 ※※※

 

 

 

 空間が閉じたのを見届けた黒鳥は重い身体を引きずり、教室から脱した。

 何が何だか分からないまま、彼はよろけるように廊下を走り出す。

 学園の地下にある宝物庫に大量のマナを感知していた。

 ──逃げる……? 助けを求める……ダメだ、そんな時間はとてもじゃないが……!

 黒鳥は朦朧とする頭で這うようにして敵がいるであろう場所へ向かっていた。

 

「この僕一人ででも……!」

 

 地下宝庫はかつて、クリーチャーの戦いの際に何度も訪れた場所。だから黒鳥も自由に出入りすることが出来る。

 校舎から渡り廊下を通って研究棟に向かった黒鳥はエレベーターにパスワードを入力し、倒れるようにして中に入った。

 息を切らしながら──黒鳥は自分の魔力が既に尽きかけていることを呪った。

 

 

 

 

「あーあ、この扉対魔力コーティングが施されていますわね」

 

 

 

 エレベーターから転がるように降り、長い廊下を駆ける。

 最奥には保管庫に繋がる大扉があるのだが、そこには銀髪の女とオレガ・オーラ達が囲うようにして身構えていた。

 直感した。

 少なくとも、味方ではない。

 それは、こちらを向いたクリーチャー達の向けた殺気で痛い程理解した。

 が、

 

 

 

「醜い」

 

 

 

 ──その一言で有象無象達は魔王の鎌に薙ぎ払われる。

 声を発したのはレン。彼の背後には既に地獄の魔王が実体化していた。

 先手必勝。数の利で劣る戦いではそれしかないと踏んでいた。

 エリアフォースカード無しにも関わらず規格外とも言える魔力、そして紙吹雪の如く消し飛ばされるオーラ達を横目に女は嘆息する。

 

「貴方、本当に人間でして?」

「質問に答えて貰おうか。貴様、どうやって此処に来た」

「この程度のパスワード、すぐに割ることが出来ましたわ。それよりも貴方、少し手伝ってくださる? この扉、頑丈でなかなか開かないんですの」

「馬鹿にしてるのか。貴様、今の自分の状況がどうなっているのか分かっているのか? 残りは貴様だけだぞ。地を這いつくばって投降しろ」

「まさか」

 

 ねちっこい笑みを浮かべ、女はカードを掲げる。

 

「この、マッルィィィナ・ペトロパブロフスキーは上級国民ですもの。這いつくばって靴を舐めるのは貴方の方ですわ!」

「貴様が何処の人間か知らんが、生憎今の僕は虫の居所が悪い。命は取らんがその性根諸共修正してやる」

 

 魔鎌が女目掛けて振り下ろされる。

 しかし──女にそれは届かなかった。

 

 

 

「──()()()()()()

 

 

 

 ピタリ。

 デスゴロスの身体はそこで静止した。

 黒鳥は目を見開く。 

 自分達以外の全てが静止してしまった。

 耳障りがノイズが耳を劈き、周囲の空間が歪んでいる。

 

「一体何が──」

「黒鳥レン。貴方こそ自分の置かれている状況が理解出来てないみたいですわね」

 

 マリーナは黒鳥ににじり寄る。

 もう一度女が指を鳴らすと──デスゴロスの魔鎌は誰も居ない虚空を裂き、大扉も両断してしまった。

 

「しまった──!?」

「ご苦労ですわね。文字通り、手伝っていただけるなんて」

「貴様──!!」

「その様子だと、身体を引きずって此処までやってきたんでしょう? ご足労いただき大変感謝いたしますわ。私の実験に付き合ってくださる?」

 

 ケケケケ、と笑う壺のようなオーラが女の手に真っ白なカードを手渡した。

 それが彼女の指に触れた途端──ビキビキと音を立てて絵と文字が刻まれていく。

 そこに描かれるは全てを抱擁する太陽。

 与えられた数字はⅩⅨ。

 即ち──タロットカードの19番、太陽(サン)のカードであった。

 

「なっ、馬鹿な、そのカード……! 奴らの持っていたタロットカードと本当に同じものだったのか……!?」

「貴方がこれが何か知る必要はないですわね」

 

 

 

『──太陽(サン)

 

 

 

 

 起動するエリアフォースカード。

 それを見て彼女はほくそ笑んだ。

 

「見なさいな。太陽(サン)のカードによって、新たなドラゴン・コードが産まれますわ!」

 

 女はもう1枚、カードを懐から取り出した。

 オレガ・オーラであるそのカードには名前も無ければ絵も描かれていない。

 しかし、空白のオレガ・オーラはどす黒い瘴気を放っており、見ただけで吐き気を催すような空気を纏っていた。

 

「決闘空間解──」

 

 

 

『Gメン懲罰開始(パニッシュモード)──(ザ・ムーン)、エンゲージ』

 

 

 

 

 突如、重力を無視して黒鳥の身体は壁に叩きつけらた。

 床に転がった彼は恨めしそうにマリーナを睨め付ける。

 

「無駄な抵抗はお止しなさいな。そんなに私のモルモットになるのが嫌ですの?」

「真っ平ごめんだ……!」

「そう。でも、貴方の意見は聞いていないですわ!」

 

 カードが黒鳥目掛けて押し付けられる。 

 オレガ・オーラの瘴気に気圧され、彼は目を瞑った。

 

 

 

 ──畜生!! 僕と言う奴は本当に──!!

 

 

 

 

「ぅ、あああああああああああ!!」

 

 

 

 黒鳥は目を見開いた。

 自責と後悔、無力感に飲み込まれた彼を現実に引き戻したのは──

 

 

 

「あ、ぁああ、ぐ──何、勝手に諦めてんだよ、お前──!!」

  

 

 

 ──他でもないライバルの悲鳴だった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 桑原とシー・ジーのデュエル。

 既にバトルゾーンには桑原の《デデカブラ》と《デスマッチ・ビートル》が睨みを利かせていた。

 一方、シー・ジーの場には《チュパカル》が《浸透 DS-10》の上に重なっている。

 ──つーか、GR召喚って《デスマッチ・ビートル》の踏み倒しメタに引っ掛からないのかよ! コストを支払ったことにして召喚ってズリーぞコラ!

 

「俺のターン、《ボント・プラントボ》でマナを2枚増やし、《デデカブラ》を更に場に出してターンエンドだ!」

「その様子だとキーカードを引けてないな? 桑原甲。場に並ぶのはパワーだけが大きいばかりの役立たずばかり。肝心のループ戦術が使えなければお前のデッキは無力だ」

「うっせぇ! だから何だってんだ! 紫月のやつを元に戻して貰うぜ!」

「紫月? 暗野紫月か」

「そうだ! どーせ、テメェらがあいつをどっかにやったんだろ? 違うか!」

 

 揺さぶりを掛ける桑原。

 彼らなら何か知っているだろうという期待を抱いていた。

 問いたださなければ気が済まなかった。

 紫月が居なくなった所為で──今朝の翠月は酷く憔悴しきっていた。

 

「何の事かさっぱりだな。彼女に関しては私達の方が居場所を知りたいくらいだ」

「ああ? 白銀から聞いた限り、テメェらは歴史を書き換えて好き勝手やってるみたいだからな。紫月がテメェの所為で消えたなら……覚悟しとけよ」

「桑原甲。何故そこまで暗野紫月に拘る?」

「そりゃあ、紫月が居なくなった所為で、うちの後輩がエラい事になってんだよ!」

「成程……ラーニング完了。つまるところ……姉の暗野翠月を助ける為か」

「そうだぜ。後輩のあんな顔、見てられねえからな」

 

 コキコキ、と首を鳴らしたシー・ジーは桑原の目を見据える。

 その手には分厚い本が何時の間にか握られていた。

 

 

 

『Gメン・取調開始(イントロゲーションモード)節制(テンパランス)、エンゲージ』

 

 

 

「暗野翠月か。彼女は、お前の後輩だったな」

「あ? ああ、そうだぜ」

「そうだ。そして彼女はお前に好意を寄せている──」

「ああ──ああ!? 何が言いたいんだテメェ!」

 

 いきなり思いも寄らなかった場所から話が飛んで来る。

 しかし。シー・ジーの瞳は惑わすようにして怪しい煌めきを放ち、自らの「尋問」に引きずり込んでいく。

 

「だがお前はどうだ。何故彼女にそこまで尽くそうとする」

「そりゃあ、あいつが俺の後輩だから──」

「違うな。お前の中にあるのは、後ろめたさだ」

「何が言いたいんだ!」

「お前は一度、暗野翠月を拒絶しているだろう」

「っ……!」

 

 思い起こされる過去。

 桑原の脳裏に映るのは──ワイルドカードに憑依されていた時の自分の姿。

 そして、自分を心配して近付いて来た後輩を拒絶して怒鳴り散らす光景。

 

「ワイルドカードの所為とはいえ、お前は彼女を傷つけた。今の今までその罪悪感と後ろめたさに苦しめられていたのではないか?」

「そ、それは……もう、昔の話だろーが!」

 

 

 

『マスター! マスター! 彼の話に耳を傾けてはダメだ!』

 

 

 

 ゲイルが叫ぶ。

 しかし、その声は桑原には届かない。

 シー・ジーが手に持つ本。そこから凄まじい精神操作系の魔法が垂れ流されているのだ。

 ゲイルはそれに気付いていたが──桑原は既に魔法に取り込まれてしまっていた。

 ──駄目だ、聞こえていない……! 節制(テンパランス)は調整を司るカード……特に精神操作系の術を得意とする……マスターの記憶をほじくり返して精神的なダメージを与えようとしているんだ! 

 加えて、(ストレングス)のカードは皇帝(エンペラー)と比較しても搦め手の魔術に対して弱い。

 更に感性が豊かな桑原は──モロに術の影響を受けてしまっていた。

 

「何故、お前は暗野翠月を助けようとする? 罪悪感、後ろめたさからだろう。自分が救われようとするための欺瞞的かつ偽善的行為だ。自分の償いの為にお前は自分が傷つけた後輩を自分の慰めの道具にしようとしている」

「お、俺が、あいつを慰めの道具に……!?」

 

 桑原は狼狽する。

 床には汗で染みが付いていた。

 

「お前は元来、一人で芸術を極めようとしていた。つまり独り善がりで自分の為の芸術だ。例外で病床の姉のためなら絵でも何でも描いただろうが……見ず知らずの後輩に時間を割くなんて以ての外だろう」

「ぐぅっ……!?」

 

 激しい頭痛が桑原を襲った。

 何かの術には違いないと彼自身も察しつつあった。話術だけじゃない。明確にこちらの精神に干渉しようとしている。

 シー・ジーの顔を最早まともに見る事はしなかった。

 とにかくこの状況を抜け出さなければ……!

 

「《チュパカル》で軽減し、《極幻空 ザハ・エルハ》を《DL-20》に更新(オーライド)。オーラを付けた時、カードを1枚引く。ターンエンド」

「クッソォ、好き放題言いやがって……! だけど、こんな事で敗けてられねえんだよ……!」

 

 巨大な瞳が自分を覗き込む。

 嫌な汗がぼたぼたと落ちていく。

 

「呪文、《ジャンボ・ラパダイス》! 効果で山札の上から4枚を表向きにし、パワー12000以上の《界王類咆哮目 ジュラノキル》と《コレンココ・タンク》、《天風のゲイル・ヴェスパー》を手札に加える!」

 

 アタリは3枚。

 十分だ。

 

「1マナで《ジュラノキル》を召喚! これでW・シンパシーで合計8コスト軽減だ!」

「己の罪がまだ分かってないのか?」

「うるせぇ! テメェにどうこう言われようが……俺にとっちゃ、翠月は掛け替えのない後輩だ! 最初は負い目からだったかもしれねえ、だけど……あいつに俺の持ってるモン全部預けたくなったのは紛れもない事実だ!」

 

 場にはパワー12000のクリーチャーが4体。 

 (ストレングス)のカードが光り輝き、マナが一気に手札へ集められていく。

 

「オーラは重ねられる度に力を増すが……パワーなら負けねえ! 押し潰してやらァ!」

 

 旋風が周囲を吹き荒らす。

 それが桑原を守るようにして障壁と化した──

 

 

 

 

「天に描け、俺の芸術! 一世一代の大作だ――《天風のゲイル・ヴェスパー》!!」 

 

 

 

 深紅のマフラーを首に巻いた蜂の騎士《ゲイル・ヴェスパー》が戦場へ舞い降りた。

 その瞳は──自らのマスターを侮辱された怒りで赤く燃えていた。

 

「君は絶対に許せない。マスターを戯言で誑かして苦しめた事、後悔するが良い!」

「ゲイル……」

「あんな奴の言う事に耳を貸すな! 桑原甲、誰かの為に筆を振るう君は……紛れもないヒーローじゃないか!」

「ああ、分かってらァ! W・シンパシーを付与して、《コレンココ・タンク》召喚! 効果で捲れたカードを全部タップしてマナゾーンに!」

 

 マナゾーンに落とされたのは《ジーク・ナハトファルター》と《水上第九院 シャコガイル》。

 この2枚が《ゲイル・ヴェスパー》と合わされば、自らの山札が薄くなるまで《ナハトファルター》でマナブーストと回収による無限展開が可能だ。

 そして、自分の山札が無くなった時にゲームに勝利する能力を持つ《シャコガイル》を場に出すことでEXウィン。これを桑原は狙っていた。

 

「次のターンでテメェは終わりだ!」

「守護獣の甘言に気分を良くしているようでは……お前も所詮、都合の良い事しか見る事の出来ない幻想主義者だ」

「僕が嘘を吐いていると言うのか? 悪いけど、君が思っている以上に桑原甲は──」

「守護獣はエリアフォースカードが生み出した仮想のクリーチャーだ。主を庇護する為、そして他でもないカード自身を守る為。だから、守護獣も主に協力する。()()()()()()()()()、な」

 

 シー・ジーは4枚のマナをタップする。

 その目はずっと桑原を見つめていた。

 

「そのゲイル・ヴェスパーも、お前に戦って貰わなければ困る。だから、そうやって励ましているだけに過ぎない。守護獣は主を担ぎ上げるために、そうやって主を励ましてやってるだけだ」

「テメェにゲイルの何が分かるってんだ!」

「そうだ! 僕はマスターの心意気に惚れて着いて来たんだ! 使命とか役目とかそんなのは関係ない!」

「この命題は真だ。なぜなら、エリアフォースカードの守護獣は所詮、オリジナルとは違う。カードに人格を作られたペルソナに過ぎないからな」

 

 4枚のマナがタップされる。

 今度は《ザハ・エルハ》の上に《ギャ・ザール》が重ねられた。

 そして──そのまま、大猿のオーラは桑原目掛けて飛び掛かる。

 

「来るぞマスター!」

「あ、ああ! こんな攻撃、受けきってやらぁ!」

「──実に哀れだ。お前、まだ私に勝てると思っているのか?」

節制(テンパランス)……インベードモード、【暴走更新(ランナウェイ)】エンゲージ!』

 

 大猿の像がぶれる。

 そこに、2つのディスクが挿入され──巨大な虫となって襲い掛かった。

 

 

 

Γ(ガンマ)! Λ(ラムダ)! Χ(カイ)!』

「証明完了──《ΓΛΧ(ガラムカイ)ヴィトラガッタ》、2枚同時更新(オーライズ)だ!」

 

 

 

 桑原は目を見開く。

 カブト虫の如き形容のオーラ。

 自分がよく知るグランセクトのクリーチャー達によく似ている。

 しかし、その身体はポリゴンで構成されており、最早生物とは言えない姿だった。

 それが桑原の怒りを買った。

 

「テメェ、美しくねえモン使いやがってーッ!!」

「ならばすぐ違う姿に書き換えてやろう。《ギャ・ザール》の効果発動。攻撃時にカードを1枚引き、コスト6以下の呪文を唱えるかオレガ・オーラを場に出す」

 

 重ねられ続けたオーラ達の頂上にそれは叩きつけられた。

 刻まれるMASTERの紋章。

 広げられる翼、そして──悪意を秘めた赤い瞳。

 戦場に地上絵のようにしてラインが広がる。

 

 

 

「──それは魂貫く星の弓矢と定義する。超天更新(マスターオーライド)、《ア・ストラ・ゼーレ》!」

 

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