学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
ナスカの地上絵のハチドリの如きラインは浮かび上がり、巨大な剣を掲げた怪鳥となって実体化した。
「これでお前の敗北は証明された──穿て、ア・ストラホライゾンッ!」
怪鳥が吼えると共に──剣が桑原の場のクリーチャーを全て撫で切ってしまった。
あまりの衝撃に桑原は呆然とするしかなかった。
一瞬の間に──全てのクリーチャーが電子の粒となって消失してしまったのだ。
「ゲイル……ゲイル!?」
「《ア・ストラ・ゼーレ》の効果で、付けたクリーチャーよりもパワーの低いクリーチャーは全て持ち主の手札に戻る。現在、《DS-10》のパワーは25000」
「は、はぁ!? そんなにデカくなるのかよ……!?」
「パワーでは負けない。押しつぶしてやる。そんな言葉が聞こえた気がしたが……気の所為だったか」
「あ、う……!」
「お前の掲げるパワーだの芸術だの、所詮はその程度に過ぎなかったということだ。白銀耀の足元にも及ばない」
「白銀の足元にも……? 俺が……?」
剣は、次は桑原を狙っている。
大量のオーラを取り込んだことによる極大の一閃が放たれた。
「パワード・オール・ブレイク──薙ぎ払え」
一瞬で桑原は全てのシールドが消し飛ばされる。
降りかかる破片、衝撃、それらがズタズタに彼を引き裂いていく。
だがそんな中──まだ彼は勝利への算段を捨ててはいなかった。
──ま、だだァ──! 次のターンが回って来れば、展開からのW・シンパシーで……!
朦朧とした頭で次のターンが来るのを待つ。
場にはあのクリーチャー1体だけ。攻撃はこれで終わり──そう思っていた。
「《浸透 DS-10》でダイレクトアタック」
次のターンは来なかった。
巨大な怪鳥は再び桑原に剣を振るう。
「う、ウソだろ、俺のターンは──」
「《ア・ストラ・ゼーレ》の効果発動。相手のクリーチャーを6体以上手札に戻したため、もう1度私のターンだ。よって──ダイレクトアタックが成立する」
冷酷無比な一閃が桑原の身体を弾き飛ばす。
空間が崩れ落ち、彼の身体は塵のように吹き飛ばされ──床に叩きつけられたのだった。
「戦闘終了。私の勝利は証明された」
※※※
周囲は赤く染まっていた。
「……ぐぁ、あ……」
もう、抵抗する気力など残っていない。
周囲はズタズタの桑原を中心に赤く染まっており、デッキのカードは周囲に散らばり、その中に
それだけは守ろうと手を伸ばそうとするが──その指はシー・ジーに踏みつぶされた。
「あっぎぃっ……!?」
「お前にこれを持つ資格はない。お前は余りにも弱すぎる。言っただろう、何もかもが白銀耀未満のお前に私が倒せるものか」
刷り込むように、ねっとりとシー・ジーは敗北感を植え付けていく。
節制のカードも合わせて、桑原の精神を完膚なきまでに叩きのめすためだ。
そうでなければまた起き上がって来る。白銀耀のように。
『マ、マスター……!』
「見てみろ、自らの守護獣の目を。こいつはお前の弱さを恨んでいるぞ。全部、負けてはいけない場面でお前が負けた所為だ」
『勝手な事を……!』
そして──自らの持つデバイスにそれを近付けた。
「っ……何するんだ!? 返せよォ!」
「これは私が使う。その為に守護獣は邪魔だ。リセットする」
「り、リセットって──ふ、ふざけ──がぁ!?」
桑原の鳩尾に踵が叩き込まれた。
一度咳き込むと──彼の首は力無く横たわり、動かなくなった。
邪魔者が無くなったシー・ジーは
「
『僕を消しても……無駄な事さ』
息も絶え絶えにゲイルは言った。
「お前の主人が弱い所為でお前は消えるんだぞ。恨み言の一つでも垂れてみろ」
『は、ははははは! 見当違いも甚だしい! マスターはいつか絶対に立ち上がる……だってマスターは……僕のヒーローだ……出会った時から、今の今までずっとそうだ……!』
「五月蠅いぞ虫けら」
ブツリ、という音が無機質に響く。
苦痛に満ちた断末魔の叫びが教室に響き渡る。
……しばらくしただろうか。
デバイスにセットされたエリアフォースカードは光を失い──そして、床に落ちていた《ゲイル・ヴェスパー》のカードの1枚が色を失って灰化していた。
教室のカーテンが舞い上がると、風に吹かれてカードは塵のように何処かへ消えていった。
「大したことなかったな。
※※※
ヒナタさんによって、簡単に保管庫に入る許可を得ることは出来た。
クリーチャーと戦った頃、調査の為に何度も保管庫に出入りしていたらしく、黒鳥さんが一緒ならという条件付きで許可を取ることが出来たらしい。
そして俺達が先回りして
そのはずだったのに──学園に入るとオーラ達が俺達を出迎えていた。
次々襲い掛かる敵を排除しつつ、桑原先輩をブランが追い、残る俺達が保管庫へ向かうことを取り決めた。
ヒナタさんは酷く心配そうな表情で俺達の先へ先へと走っていく。
そして長廊下の先に辿り着いた俺達が目にしたのは──マリーナと、壁にもたれかかる黒鳥さんの姿だった。
「やめろォォォーッ!!」
止めようとしたが遅かった。
気付いた時にはヒナタさんはマリーナと黒鳥さんの間に割り込んでいた。
「ヒナタ……何やってるんだ……どうして、どうしてこんな事を──!」
「バッカ野郎──理由なんてねーよ……身体が、勝手に動いちまうんだからよ──」
罅割れるような音を立て、手から鍵爪が、目は金色に輝く。
彼の身体は異形へと作り替えられていく。
なのに──彼は苦しそうに笑みを浮かべた。
「そうか……それなら、これで良かった。お前ばっか貧乏くじ引いてたら、不公平ってもんだしよ──」
その身体が膨れ上がろうとしたその時。
「黒鳥さん逃げて!!」
俺は黒鳥さんの手を引っ張る。そして、ダンガスティックBの背中に彼を乗せ、一気にその場から離脱する。
ヒナタさんの身体からは恐ろしいエネルギーが放たれようとしていた。
巻き込まれればタダでは済まないとチョートッQは言う。
だが、その手を取った少年の顔など見る間もない。
──声にならない咆哮が地下通路に響き渡る。
爆発と見紛う衝撃がその場に広がった。
「ヒナタァァァーッ!!」
黒鳥の絶叫は届きはしない。
仲間を鼓舞し続けた太陽の少年をどす黒いオーラは飲み込んだ。
あろうことか、彼が掲げていた希望と勝利の龍の姿を借りて。
大分離れたはずなのに──その恐ろしい姿は此処からでもはっきり見えた。
「ドギラゴン……!?」
俺は思わずその名を呼ぶ。
ドラゴン・コードは文字通り鎧龍の伝説を踏み躙って顕現していた。
「ゴオオオオオオオオオオッッッッッッ!!」
嵐の如き咆哮がその場を揺らす。
龍の口には鎌が咥えられ、そのまま──地上目掛けて天井を突き抜けて飛び出した。
※※※
ドギラゴンのオーラが居なくなった後、保管庫の前をもう一度訪れた。
しかし、もうマリーナの姿も無かった。
「奴らは、人間をオレガ・オーラに変えることも出来るのか……!?」
戦々恐々といった様子で火廣金が呟いた。
しかも、ドラゴンはドラゴンでもただのドラゴンじゃない。
鎧龍で開発され、鎧龍決闘学園の象徴でもあったドギラゴンだ。
それが……オーラになってしまうなんて!
「恐らくは新しい兵器でしょう。あの女──マリーナ・ペトロパブロフスキーは世界的に有名な技術者です」
「とにかく、ヒナタさんを助けに行かないと……! アカリ、あれって元に戻せるのか!?」
「も、元に戻せるかどうかは……ただ、もしもヒナタさんに何かあった場合、現代の彼に影響が及ぶ可能性があります。その前に元に戻さないと!」
「貴様等が付いていながら」
よろよろ、と黒鳥さんが立ち上がる。
その目は殺意と怒りに満ち溢れていた。
やるせなさと悔しさ、そして憎悪を内包したその目で、彼は俺を睨み付けた。
「貴様等が付いていながら……何故こうなった! ヒナタは戦えないんだ! 敵がいると分かっていたなら、どうして連れて来た!」
「そ、それは……!」
「貴様等の所為で……貴様等さえ居なければ……こんな、事には……っ」
黒鳥さんの言葉がぶつ切りになっていく。
そのまま彼は頭を抑え、ふらりと倒れてしまった。
それを火廣金が受け止める。
「何だ? 魔力がスカスカじゃないか。どうやってこんな状態で戦っていたんだこの人は……!?」
「あの女とのデュエルに敗けたわけではないでありますな。単に……ガス欠であります」
「じゃあ黒鳥さんはそもそもマリーナのヤツと戦えなかった?」
「この分では満足にデュエルを仕掛ける事すら出来なかっただろう」
「……」
どうして。
どうしてこんなことになってしまったんだ。
黒鳥さんの言う通りだ。
俺達が居ながら、ヒナタさんはオーラになってしまった上に
『アカルーッ! 大変デース!』
突如、通信機からブランの声がけたたましく響く。
「何だ!? どうしたブラン……!?」
通信機の奥からは息を切らせた彼女の声が聞こえて来る。
余程切羽詰まった状況と見て間違いない。
『桑原先パイが倒れてて……しかも、
※※※
──現代、暗野宅。
暗野翠月はずっとベッドに突っ伏していた。
罪悪感。後悔。
姉である自分が居ながら紫月が失踪してしまった事実を前に彼女は打ちのめされていた。
「……しづ」
『主よ。うぬの気持ちは分からんでもないが……』
「分かってるわよ……でも、どうしたら良いのか分からなくて……」
オウ禍武斗の言葉に彼女は首を横に振るしかない。
ただただ焦燥と不安が募るばかり。
先輩達とも何時の間にか連絡が付かなくなっていた。
アルカナ研究会からも何も伝達は入って来ない。
「それに寂しいの。寂しくて……辛くて仕方ないの」
『我では……うぬの心を埋めることは出来ぬか』
「……ごめんなさい」
『無理も無いか。血を分けた姉妹ならば猶更。すまぬ』
「いいの。オウ禍武斗は……何も悪くないわ」
涙を拭く。
じわじわと溢れて止まらなかった。
このまま孤独を抱えたまま何日過ごすのだろう。
そんな事を考えていた。
その時。
「翠月ーっ! 黒鳥さんが来たわよ!」
階段の奥から母親の声が飛んで来る。
思わず寝間着のまま翠月は玄関に駆け込んだ。
そこには──黒鳥の姿があった。
「師匠……!」