学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
部屋に上げられた黒鳥は出された紅茶に手を付ける。相も変わらず険しそうな顔で彼は切り出した。
「紫月の事も勿論心配だが、貴様の事も心配になったのでな。電車でわざわざ来てやったぞ」
「私は……別に大丈夫なのに。良い年して恥ずかしいじゃないですか」
「電話にロクに出もしないと或瀬が言っていたのでな」
「……眠れないから切ってたのよ」
翠月はぎゅう、とぬいぐるみを抱きしめる。
しかし、その目元に涙痕があるのを黒鳥は見抜いていた。
「師匠の方では、何か分かった事は無いんですか?」
「やはり
「……どうして。そんなの、この世界から消えてしまったみたいじゃない」
「そしてもう一つは紫月がエリアフォースカードと一緒に居なくなったのに、オウ禍武斗や貴様が無事だということだ」
「……そうよね」
「単にエリアフォースカード目当てで連れ去られただけにしては気になる点が多すぎる。そもそも考えてみろ、貴様の妹は黙って連れ去られる程ひ弱ではないだろう。何かしらのイレギュラーがあったに違いない」
「……しづ、今どうしてるのかしら。辛い思いしてないかしら。私が身代わりになってあげられたら良かったのに……」
「気持ちは分かるが貴様が身代わりでも同じことだ」
「どうして!? どうしてそんな事が言えるの!? 妹が無事なら私は──」
ヒステリックに翠月は叫んだ。
しかし──黒鳥の辛そうな顔を見て、すぐに押し黙る。
「それなら貴様と同じ思いを紫月が味わうだけの話だろう」
「……うぅ。ごめんなさい」
「……どうやら白銀がまた妙な事件に巻き込まれている。紫月の失踪は、それに関連しているのかもしれない」
「妙な事件?」
「そうだ。どうやら、未来から孫が来たんだそうだ」
「……何それ。面白くない冗談です」
「クリーチャーの力なら時間を超えられてもおかしくはない」
「……でもそんなのどうやって探し出すの」
「その孫とやらの力を借りるしかないだろうな。いずれにせよ絶望的ではない。猫の手も借りねばならない状況なのは確かだが」
いつもは朗らかな翠月だが、機嫌が悪くなると紫月に似て辛辣な言葉遣いが増えるのを黒鳥は知っていた。
現に──今の彼女は紫月が居ないストレスもあってか、語気が何時にも増して強くなっていた。
「……何よ。結局、しづの手掛かりは掴めず仕舞いじゃない」
「……悪かったな」
黒鳥は目を伏せた。
その時の翠月の顔は心の底から不安そうだった。
「……ごめんなさい」
「何故貴様が謝る。……謝るのはこっちだ。気が気で無くて来たのは良いが……いざとなれば、僕は気の利く言葉の一つ掛けられやしない」
※※※
──僕は何をやっているのだろう。
黒鳥は家の外で溜息を吐いた。
今の翠月は心の支柱を失って精神的に不安定だ。
結局……自分が来て何が出来た?
「……ダメだな、僕は。相変わらずだ」
黒鳥は目を伏せる。
だが、もしもという最悪のシナリオが頭をよぎる。
クリーチャーや超常の力が絡んでいる以上、「絶対」という言葉によって保証は出来ない。
彼は目を伏せる。
何も出来ない。
「さて」
黒鳥は電灯に照らされた路地を振り返る。
その視線の先には──黒い外套に身を包んだ人物の姿があった。
「……さっきからつけている貴様は何者だ?」
怪しいを絵で描いたような人物に黒鳥は尋ねる。
しかし何者かと問われて答える程相手も素直ではないらしい。
「黒鳥レン。ともかく貴様には時間が無い。来てもらおうか」
ノイズの掛かったダミ声が聞こえてきた。
「素性も知らない人物に来いと言われて来る奴があるか」
「歴史が改変され、このままでは貴様も消える。それは、誰も望まないエンディングだ」
「……鼻につく喋りだな。何のアルカナかは知らんが、貴様……エリアフォースカードの使い手だろう」
守護獣を失った今の黒鳥には相手の能力を察知する事は出来ない。
翠月を呼ぶか? と一瞬脳裏に過ったが、今の彼女の状態を考えれば選択肢から外さざるを得ない。
ならばこの状況、一人で切り抜けるしかない。
黒鳥は臨戦態勢を取る。その手にはアルカナ研究会から借り受けたエリアフォースカード──の模造品が握られていた。
曰く、「リスクが皆無な代わりに取り合えず戦う事しか出来ない正真正銘の劣化品」ではあったが無いよりはマシであった。
何より──黒鳥ならば魔力の差による補正もプレイングで補う事が出来た。
しかし、それも相手がワイルドカード程度の弱い敵であればの話。
目の前にいる敵の魔力量は桁違いであることをひしひしと感じ取っていた。
「……青いな、黒鳥レン」
<──
無機質な音声が響き渡った。
相手のエリアフォースカードの属性。
「なっ……、
「そうだ。貴様なら知っているだろう。このカードがどういうものなのか」
──暴走して守護獣が世界各地で暴れ散らした挙句、辛うじて火山に沈められたカードじゃないか……!
既に地中深くにある為、回収は現時点では不可能。下手に刺激すれば地球が危ない。
魔導司どころか鎧龍の関係者からも散々伝えられていたカードだ。
それがその手にあるということは──
「そんなものを……どうやって回収した、答えろ!」
「安心しろ黒鳥レン。この時代の
「……時間を超えて来たというのか?」
「何処から来たかは問題ではないだろう?
気が付けば、目の前から相手の姿は消えていた。
「……しかもこちらには時間を書き換える権限もある」
「ッ……!」
気が付けば、それは塀の上に座っていた。
瞬間移動?
違う。
この人物の言葉が本当ならば、今の間に時間を止めでもしたのだろう、と黒鳥は自らを納得させた。
後輩から白銀の孫を名乗る少女の話を聞いていた以上──今更疑うだけ時間の無駄だ。
「……何が目的だ」
「安心しろ。抵抗しなければ危害を加えるつもりはない。単刀直入に言おう。一緒に来てもらおうか、黒鳥レン」
「この僕に何処に行けというのだ」
「説明するよりも見た方が早い」
「僕は連行でもされるのか」
「どうだろうな。だが考えてみてほしい、人間とは誰しも運命という名の鎖に繋がれた囚人だろう」
「……嫌な言い方をするな、貴様は」
「監獄から脱したければ、戦うしかあるまい。いずれにせよ、貴様達の未来はこのままでは──監獄どころか地獄そのものだ」
「何だと?」
「近々この世界は滅びるからだよ」
そう言うと、彼は1枚のカードをレンに向かって放り投げた。
白紙のカード。
しかし、それを手に取ると──ビキビキと音を立てて罅割れていく。
その下からは絵柄と数字が表れた。
刻まれた数字はⅩⅨ。太陽のカードだった。
「複製……!?」
「魔力の半分を使ったコピーだとも。守護獣は精製出来んが、短時間のクリーチャーの実体化程度ならば可能だ。足りぬ部分も、
「何故僕に施す? 今の言葉が本当なら、魔力量は互角。貴様を此処で倒す事も出来る」
「どうするかは黒鳥レン、貴様次第だ。そもそも貴様は戦意の無い相手を一方的に攻撃する程薄情ではないだろう」
「……」
「こちらは貴様の事をよく知っている。全部お見通しだ」
「気色が悪いな」
「そう言っていられるのも今のうちさ」
黒鳥の背後には──何時の間にか巨大な屍龍の姿があった。
「来い。
※※※
教室に駆け付けた俺達は血塗れの桑原先輩を見て絶句した。
一応、応急処置を火廣金が行ってはいるが、この状態では何時目覚めるかも分からないという。
アカリ曰く、タイムダイバーの内部に医療スペースがあるので先輩はこれからそこに保護するつもりらしい。
俺達は飛び散った桑原先輩のデッキを片付けている途中……ある事に気付いた。
「……デッキの枚数、足りなくないデスか? 《ゲイル・ヴェスパー》のカード、1枚だけ無いんデスけど……」
デッキを拾い集めていたブランが不安そうに言葉を漏らす。
エリアフォースカードが奪われた以上、守護獣であるゲイルも一緒に連れ去られたのは想像に難くない。
だけど……何だろう。胸騒ぎがする。
「……残り1枚は守護獣の本体のカードじゃろうが……嫌な予感がするのう」
「……大丈夫。ゲイルもきっと戻って来るさ」
「本当にそうだろうか。奴らがエリアフォースカードを支配下に置きたい場合、真っ先に邪魔になるのは守護獣だ」
「火廣金」
「分かっている。俺だって無いとは思いたいさ。言っただろう。俺は──この中の誰も欠ける事は良しとはしない。例え守護獣であってもだ」
彼は向き直ると言った。
「いずれにせよ……報復はせねばなるまい」
「……」
静かな怒りがそこには籠っていた。
怒っている。
確かに険悪なように見える桑原先輩と火廣金。
だけど──本当は素直になれないだけなんだろう。
※※※
「──すまねぇ、白銀」
タイムダイバーに戻るなり、目を覚ました桑原先輩は自嘲気味に言った。
「桑原先輩。誰にやられたんですか」
「……時間Gメンってヤローだ。
「シー・ジーか……!」
「そいつに
「……ということは、ゲイル・ヴェスパーも時間Gメンとやらに捕らえられているのか」
「……」
そこで桑原先輩は押し黙ってしまった。
「……ゲイルは消されたかもしれねえ」
「え?」
「な、何でデス……?」
「そのシー・ジーって奴、言ってたんだ……
壁に拳が叩きつけられる。
今までにない程に桑原先輩の顔は歪んでいた。
掛ける言葉も無かった。
俺達は……先輩と顔を合わせるべきではなかったかもしれない。
「……悪いのは俺だ。俺が弱かったから……ゲイルが犠牲になっちまったんだ」
「そんな……」
「いーや、その通りだよ。そのシー・ジーって奴言ってたんだ。俺はお前の足元にも及ばねえってよ、白銀」
目を伏せた彼は──無理に笑ってみせると言った。
「……行ってきてくれ。ゲイルの仇……って言ったら私情を挟んじまうかもだけどよ。でも……取ってきてくれ」
「……ったりめーっすよ、先輩。任せて下さい」
※※※
「サッヴァーク、反応はどうデスか!?」
「いかんのう……学園上空に
待てよ。飛んでるってことは、ひょっとしてあいつらまだ
だって、
「……もしかしてあいつらでもなかなか手が付けられない代物なんじゃないか、
「どういうことだ部長」
「だって、現代にドルスザクが出た時もいつもなら時間Gメンが近くにいるのに居なかった。しかも
「……俺なら何としてでも制御するな」
「もしかして、現代に出てきたドルスザクって……この時代で誕生したモノが時を超えて逃げ出したってことは無いデスよね?」
「まさか、流石にそこまで連中は無能ではないだろう」
「いや有り得る」
「何だと?」
「ドラゴン・コードって時間を歪める力があるらしいんだ」
「……まずいな。となればあの怪物、下手をすれば自分から時渡りをする可能性があるのか」
「可能性なんて上げてけばキリがねえけど……そうなったら俺達にとっても手が付けられなくなる」
ただでさえ相手は不死身の怪物だ。
しかもすでにエリアフォースカードを取り込んでしまっているのだ。
倒すのも下手したら困難かもしれない。
……だけど。
「黙ってられねえよ」
このままじゃ終われない。
絶対に。
「俺、自分が馬鹿にされるのは別に良いんだ。だけど──仲間を傷つけられたままなのは絶対に嫌だ」
「それだけじゃない。そのシー・ジーという奴は桑原甲に許し難い侮辱をしている」
「え?」
「君達は魔導司じゃないから知らないのも無理はないが、
曰く。
ある程度熟達した魔導司になると、自身の属性と違うアルカナの魔法も扱えるようになるのだという。
「……桑原甲の身体から微量だが、その類の魔法を受けた痕跡を確認した。魔力が残っていた。シャークウガが居れば一発で看破出来ただろうな」
「マジかよ……でも、それって具体的にはどんな魔法なんだ?」
「ハマればタチの悪い部類には違いない。掛けた相手を精神的に深く追い込む魔法だからな。自分が問われた疑問に引きずり込まれ、思考の視野が恐ろしく狭くなるだろう。デュエルで言えば普段なら絶対にしないようなプレイングミスをしでかしたり、
「そんな事あるんデスか!?」
「部長。そのシー・ジーとやらと戦ったことはあるか?」
「あるけど……」
「その時。相手に何か口先で惑わされたりしなかったか?」
「惑わしていたでありますよ! シー・ジーは、マスターに散々「偽善者」だのなんだのとデュエルの途中にごちゃごちゃ言ってたであります!」
「それは恐らく自身の術に引き込む為の話術、即ち催眠術の導入と同類だ。しかも、相手が魔導司でもない限り看破はされにくい。未来ではただでさえ少ない魔導司の数が更に激減しているという。成程、対人ではこれ以上ない有効な手立てというわけだ」
「つまり、奴はデュエル中に相手を精神操作で惑わせていたってことでありますか……! じゃあ、
「ッッッの野郎、バッカにしてんのかよ!!」
思わず俺は怒鳴った。
あの野郎、そんなズルをしてたのか!
となれば、桑原先輩も全力を出せなかった可能性が高いってことか。
沸々と怒りが湧いてくる。
「何が「白銀耀の足元にも及ばねえ」だ! 自分の魔法が通用する相手に勝ってドヤ顔してるだけじゃねえか! 卑怯な手段で勝ったくせに桑原先輩を弱いって言いやがって……ぜってーに許さねえ……!」
「落ち着くデスよ、アカル!」
「これが落ち着いてられるか!」
「私だって許せないデスよ。許せないデスけど……タダでさえ今回は難関なmissionデスよ? 冷静にならなきゃダメデス」
「うっ……すまん」
ブランに窘められてしまった。
本当に気丈だよな、お前は。一度守護獣を失ってるのに……。
そうだ。こんな所で我を失ってたらダメだ。
今は──どうにかして2枚のエリアフォースカードを取り返す方法を考えないと。