学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第八章:ロストシティ編
GR43話:奇妙な夢


 ※※※

 

 

 

 ──最初に目覚めたのは彼女だった。

 

 

 

(これは何だ?)

 

 

 

 ──俺は何も知らなかった。

 

 

 

(誰の見ている夢だ?)

 

 

 

 ──だから、俺がもっと早くに気付いていれば良かったんだ。

 

 

 

「──紫月ッ!!」

 

 

 

 血反吐を吐きながらも、よろめきながらも彼女は進み続ける。

 絶え間も無い不撓の意思をその瞳に燃やし、進み続ける。

 夕陽が差し込む廊下。

 それを俺は引き留めようとする。

 

「待てよ──死んじまうぞ、本当にっ……!」

「……先輩には関係ないじゃないですか」

「関係あるよッ!! お前はうちの部員で、俺は部長だ! 部員が怪我してたら、助けるのが部長の役目だッ! 救急車を呼ばないと……!」

 

 

 

「オオオアアアアアアアアア!!」

 

 

 

 咆哮が校庭から轟いた。

 窓からは、獅子に跨った人型が弩を握って弓を引き絞り、あちこちに乱射している。

 建物にもグラウンドにも弓矢が突き刺さっていき、そこから草木が無数に生い茂っていく。

 そしてこの緑化活動も褒められたものではなく、よく見るとどれもこれも怪しく蠢いており、怪物の類であることが理解出来た。

 

「う、ウソだろ、あんなのさっきは居なかったのに……! あの怪物は何なんだ!? クリーチャー……だよな?」

「……そう、です。クリーチャーです。でも、普通の人には……見えません。見えないまま、あれは災厄を振り撒きます」

「何でそんなものが……!」

 

 信じられなかった。

 アレは確かにデュエル・マスターズのクリーチャーだ。

 

「最後の力を振り絞って、先輩にも見えるようにさせました。……逃げてください。アレとは私がケジメを付けます」

「ふざけんな! お前も一緒に逃げるんだよ!」

「逃げられるわけ……無いじゃないですか」

 

 わなわなと震えながら彼女は身体を引きずる。

 

 

 

「あれは……みづ姉なんです」

 

 

 

 ハンマーで殴られたような気分だった。

 みづ姉? みづ姉って、紫月の双子の姉ちゃんだよな?

 

「……あのクリーチャー、お前の姉ちゃんなのか?」

「クリーチャーに憑依された人間は……最終的に、実体化したクリーチャーに取り込まれるんです……あれを止めないと、みづ姉が……!」

「待て! お前、さっき俺を助けた時に大怪我してんじゃねえか! その身体であんな怪物止めれるわけねえだろ!?」

「じゃあどうするんですか……! 先輩が代わりに戦うって言うんですか……!」

 

 

 

「ああ、そうだ。俺が代わりに戦う」

 

 

 

 だって、それしか選択肢はねぇだろ。

 このままじゃ、両方死なせてしまう。

 

「っ……待ってください。ダメです。それはダメです! そもそもどうやって……」

「お前が今、怪物と戦うのに使ってた白紙のカードがあるだろ。それを借りるぞ」

「でも、ダメです……ダメなんです……先輩をこんな事には巻き込めません」

「何でだ! こんな時でも、俺が信用できねえってのかよ! ……ああそうさ、知ってるよ! 俺は情けなくて頼りなくて強くない、ないないばっかりの部長だ! 部も万年同好会、ボランティアばっかりで酷い目に遇うし、挙句の果てにはカードが恋人って、お前にボロカス言われる始末だ!」

 

 それでもだ。

 俺にだって、見過ごせない事があるんだ。

 

「それでも──そんな見下げ果てた部長でも、部員だけは守らなきゃって思うだろ! こんな時くらい、年長者にカッコ付けさせろ!」

「違うんです……違うんです!」

 

 悲痛そうに紫月は言った。

 

「……私、感情を表に出すの得意じゃなくて、素直じゃないから……あんまり伝えられなかったけど、デュエマ部で過ごす時間、好きだったんです」

「紫月……」

「でも、それはきっと、白銀先輩が本気でデュエマが好きな人だからなんです……デュエマしてる時の白銀先輩、本当に楽しそうだから。そんな人に……デュエマを戦いの道具にするような世界に、どうして引きずり込めるんですか!!」

「引きずり込まれてやろうじゃねえか! 俺は知る人ぞ知る万年ボランティア野郎だぞ!」

 

 そうだ。

 デュエマは大好きだ。

 それで血だらけになって戦うなんて馬鹿らしい。

 だって、デュエマは唯のカードゲームなんだ。皆で楽しむためにやるものなんだ。

 だけど──

 

 

 

「──大好きなデュエマで人助け出来るなら……本望だぜ!!」

 

 

 

 ──カードゲームは、やる相手が居なきゃ成り立たないんだよ紫月!

 仲間を助けずに……何がデュエマ部部長だ!

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──現代に戻り、太陽(サン)のカードをアカリに預けた後、家に帰った俺は死んだように眠っていた。

 今日の夢は──より鮮明だった。

 何故か、まだ夢の内容を覚えている。

 ありもしない思い出をでっち上げたような夢だ。

 

「ばっかじゃねーの……」

 

 俺は俺に向かって吐き捨てた。

 幾ら紫月としばらく会えてないからって、こんな夢を見るか普通。

 そもそも紫月がエリアフォースカードを手にした時、俺はとっくに戦ってただろうが。

 これじゃあ順序が逆じゃないか。

 見ると、枕元に置いてあった皇帝(エンペラー)のカードが薄っすら熱を帯びていた。

 

「……ん?」

 

 ちょっと待てや。 

 俺、デッキケースにこいつを仕舞ったよな?

 こんなもんわざわざ枕元に置いてねえぞ。

 ……まさか、独りでに動いたのか? いや、驚くのはそこじゃない。エリアフォースカードは勝手に動くもんだし。

 でも何で俺の頭の近くに? 何の為に?

 

「どうにか答えろよ……」

 

 エリアフォースカードの意思は人間に理解出来ない。

 だからこそ、守護獣という仮初の人格を持ったクリーチャーが意思疎通の媒介となる。

 だけど、その守護獣でさえ主であるエリアフォースカードの考えていることが分からない。

 そしてその行動の真意も。

 

「……ほんっとお前、何考えてるか分かんねーよな……」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 結局、休む間もなく俺は戦い続けている。

 一息吐けるのはタイムダイバーの中か、家の中くらいなものだ。

 堅苦しい制服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びて私服に着替えると少しだけスッキリした。

 ああでも、これも全部洗わなきゃいけないな。

 ……というか、もうボロボロで学校じゃ着れないかもしれない。

 貯えだけは沢山あるけど、こんなんに金使ってたんじゃきりが無いな。

 

「お爺ちゃん、洗濯物洗っておきますね」

「サンキュ」

 

 何の気も無く返したところで──俺は違和感に気付いた。

 ちょっと待て。今のは誰だ。

 

「下着とかも洗っちゃって良いですかね?」

「待て待て待て待て!!」

 

 脱衣所に居る孫。

 それを全力で止める。

 何で此処にいるんだアカリ。

 

「それはダメだろ! じゃなくって、何でお前此処に!?」

「いやー、実は度重なるタイムダイブでカンちゃんが大分バテちゃって……だから、しばらくこの家に居候しようかなーと」

「おやつ感覚で人の家に住み込まないで!?」

「お願いします! 後生なんです! お金も無いし何ならこの時代の食べ物美味しいし! 何でもしますから許して!」

「ちょ、土下座やめて! 俺なんか悪い人みたいになってっから! 取り合えず家の事は俺がやるから気にしなくて良い!」

「そんな! 折角タダで住むのになにもしないなんて……! お爺ちゃんの介護と思えば、家事なんて何てことはないです!」

「未来に帰れ、この馬鹿孫ーッ!!」

 

 まだ俺はそんなに老けてねえ。

 つーか、自分の周りの事くらい自分で出来るわ。

 そんな事より、お前の面倒を見ないといけない方が大変だ。

 

「良いかアカリ、これはヒジョーにマズい事なんだぞ、幾ら未来から来た孫っつっても俺もお前も年頃の男女! しかも血の繋がりねーんだろ! 万が一他のやつに見つかったりなんかしたらどうするんだ!?」

「? お爺ちゃんに限って間違いはないと思いますけど。僧ですし」

「馬鹿にしてんのかーっ!?」

「だってお爺ちゃん、あれだけ部活で女の子に囲まれてて」

「囲まれてはねーよ!」

「一人も手を出してないじゃないですか。衆道を疑われても仕方ないレベルです」

「そっちの気もねぇよ! だからマズいんだろ!」

「だからきっと大丈夫なんじゃないですか」

「大丈夫じゃねえ! つーかアカリ、お前もうちょっと警戒心とか抵抗とかそういうのをだな! あんまり、男に不用心に近付くと……」

 

 ガバッ、と俺は壁に彼女を追い込み──ドラマであったアレ、アレ、えーと、何だっけ……。

 

「こうやって壁DOOONされちまうぞ、良いんだな?」

「ジョルネードが守ってくれるんでお気遣い無く。相手の眉間をDOOONしますからっ!」

「え、うそ、俺の孫のボディーガード強過ぎ……」

 

 全く動じていない。

 この子警戒心云々っつーより、武力行使すればどうとでもなるって考えてるぞ逞しいなあ。

 にしても未来の孫を過去の祖父が壁ドンしてるってなかなか背徳的な絵面だな。

 どうせ誰にも見られやしないけど、俺の方が慣れない事やって罪悪感が沸いてきたのでさっさとやめないと──

 

 

 

「耀ーっ! 未来から孫がやってきたんだって!? 何でそんな面白い事あたしに言ってくれなか──え?」

 

 

 

 ──アカリさん。もしかして家の鍵掛け忘れた?

 

「あ、この家電子錠じゃないんですね」

 

 とは我が孫の台詞。現代日本ではまだ電子ロックは普及してません!

 リビングに飛び込んできた突然の来訪客。

 俺の幼馴染・刀堂花梨はこの異様な光景を前に立ち竦んでいる。

 

「あ、あ、耀……誰、その女の子……!?」

「おお花梨殿、これは未来から来たマスターの孫のアカリ殿でありますよ。今マスターは、男に不用意に近付いたらどうなるか、アカリ殿に教えていたであります!」

 

 寸分違わぬ説明だけど十分誤解を招きそうな説明やめろチョートッQ-ッ!!

 もう臨戦態勢じゃねえか、この子!

 特殊警棒伸ばしてこっちに向けて来たよ!

 

 

 

「自分の孫に乱暴しちゃダメでしょ、このお馬鹿ァァァーッ!!」

「誤解だぁぁぁーっ!?」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「成程ね! 本当に紛らわしいんだから! もう!」

「マスターが倫理に悖る行為をすれば流石に止めるでありますよ」

「俺が警棒でぶたれるのは倫理に悖る行為ではないと?」

 

 全ての誤解が解かれたのは俺が警棒で叩かれる寸前であった。

 マジで危なかったぞ。これ最悪骨が折れるから、良い子の皆は振り回したりしないようにね。

 どうやら花梨は黒鳥さんや火廣金に諸々の事情を聴いて俺の家に飛んでやってきたらしい。

 俺、そして事件を持って来た張本人であるアカリに話を聞く為に。

 一応事のあらましを全部話したが、彼女は──

 

「大体分かったよ!」

「ほんとか? ダッシュポイントとか意味分かったのか?」

「分からないね!」

「ええ……」

「何でも良いけど紫月ちゃん助けて、エリアフォースカード全部集めれば良いんでしょ?」

 

 こいつの単純さは頼りになるのやら頼りにならないのやらだな。

 

「お前、ほんっと悩みとか無さそうだよな……」

「にゃはは、褒められた!」

「多分褒めてないと思います……」

「まあアカリ。花梨はこんなんだけど、戦闘力だけは大したモンだし頼れる仲間だと思うぜ」

「だけって何!?」

 

 だってお前、剣術以外はポンコツじゃねえか……。

 せっかちだし、早とちりだし、変なところで臆病だし……。

 

「それで、紫月ちゃんの居場所とか分かったことはあんの? あたしがカチコミに行ってやるからね!」

「分かってたらとっくに俺がカチコんでるっつーの。ただ、気になることがあってな……」

「なぁに?」

 

 後から知ったのだが、太陽(サン)のカードを持っていた辺り、黒鳥さんを2014年に連れて来た黒い外套の不審者は空亡で間違いないだろう。

 シー・ジーを抹殺して俺達の敵であると宣言した彼(彼女?)だが、黒鳥さんを手助けしてヒントを与えている辺りその真意は掴めない。

 

「既に紫月さんは居なくなっているんです。それをトキワギ機関が探している……もしトキワギ機関が紫月さんを攫ったのなら順序があべこべです」

「犯人はトキワギ機関じゃないってことなのかな?」

「そうなるんじゃねえか……? でもレジスタンスとトキワギ機関以外にタイムマシンを持ってる組織って他に居るのか?」

「いますけど……下手にタイムマシンで時間移動したらそれこそトキワギ機関に捕まるんですよ?」

「それもそうか……」

 

 ……ダメだ。

 決定的な糸が掴めない。

 紫月が何処に行ったのかさえ分かれば……。

 

「耀。ずっと皺寄ってる」

「うっ!?」

 

 いきなり花梨が俺の眉間を掴む。

 

「……そんなに紫月ちゃんが心配なんだ」

 

 後輩だから?

 本当にそうか?

 最近、気が付いたら紫月の事ばっかり考えてるのはそれだけか?

 あんな変な夢を見るくらいに?

 馬鹿言え。ブランの時だってそうだっただろ。

 俺は──誰かを特別扱いしてるわけじゃない。そのはずなのに。

 

「……ったりめーだろ」

 

 こんなに胸がざわつくのは、何故なんだろう。

 やっぱり、あの変な夢の所為だ。きっと。

 それにまだ──俺はあいつに、チョコレートのお返しすら出来てないんだ。

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