学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「……ゲイル。もう会えないのね」
事のあらましを聞いた翠月は拳を握り締めた。
ゲイルを失った桑原の苦痛は想像に難くない。
「そして桑原だが……今朝、こんなものを残して消えていた」
「えっ!?」
すっ、と黒鳥は封筒に入った手紙を翠月に手渡す。
彼女の額に嫌な汗が伝った。
まさか──相棒の死が自分の責任だと思い詰めて自分も後を追ったのでは?
そんな嫌な想像が頭をよぎる。
不安を堪え切れず、彼女は封を切った。
「えーと、何々……『修行に出ます、探さないでください』……修行!? 何処に!?」
「そうだ……探そうにもこれでは……」
「じゃなくって! あの人、前にも樹海に絵を描きに行って帰って来なくなったことあるのよ!? 放っておいて良いわけないじゃない! そもそもデュエマの修行って何!? 熊を伏せてターンエンドしたりするの!?」
「待て待て、続きを読め」
「……えーと、『俺はこれまで、絵以外にこんなに必死になったことが無かった。だけど、相棒が居なくなって初めて分かったんだ。俺はもっと本気でデュエマに取り組むべきだったんだ。今までだってナメてやってたわけじゃねえ、だけど……このままじゃ、俺は白銀の足元にも及ばねえままなんだ。翠月はこんな俺の事を好きになってくれたけど……俺は今のままの俺じゃ嫌だ。だから、強くなって戻って来る。絶対に』」
「……この通りだ」
「……馬鹿な人」
翠月は手紙を置いた。
滲み出る涙を拭い、彼女は吐き出すように言った。
「私だけ置いて行くこと……無いじゃない……」
「そっちか」
「だってそうよ! あったま来るわ! 私だって協力するのに、一人だけ突っ走って……」
「男には、一人になりたい時もあるものよ」
「オウ禍武斗……」
オウ禍武斗が腕を組みながら、小さい煙管を咥えた。
「相棒を喪って、誰にも合わせる顔が無いのだろう。そっとしてやるのが華だというものよ」
「で、でも、心配だわ!」
「……どうしようもない。こればかりは本人の問題だ。今あいつは誰とも会いたくない。そして一人で強くなることを選んだ。それだけの話だろう」
どうやって強くなるつもりなのかは知らんが、と黒鳥は付け加える。
翠月は押し黙るしかなかった。
これ以上、桑原について幾ら考えを揉んでも時間の無駄な気がした。
「……私もこんな所で泣いてる場合じゃないわ。桑原先輩がそのつもりなら、こっちにも考えがあります」
彼女はデッキケースを握り締める。
「師匠。もう一度私に稽古を付けてくれる?」
「……当たり前だ。この僕を誰だと思っている」
※※※
夜、寝る前の事。
俺は最近見る奇妙な夢についてチョートッQに尋ねた。
エリアフォースカードが気が付いたら枕元に移動していることも含めて説明すると、彼は唸った。
「……
「偽の思い出をでっち上げて伝えたい事があるってのかよ?」
「まさか、エリアフォースカードがこんな事で嘘を吐くはずはないであります」
「……あの夢は、もしもの夢だった」
「もしも、でありますか」
「もし、俺があの時チョートッQと出会ってなかったら? 商店街の裏にあるカードショップに行ってなかったら?」
その場合、誰が最初にエリアフォースカードを手に入れる?
「……その場合、翠月さんが福引で最初にエリアフォースカードを手に入れるはずなんだ。そしてそれが紫月の手に渡る」
「確かにそうでありますな……」
「……チョートッQ。お前、「かぁどしょっぷ・れとろ」って名前は本当に憶えてないんだよな?」
「憶えてないでありますよ!」
俺が最初にジョーカーズのデッキを手に入れた場所。
あれが全ての始まりだ。だけど、後から探してもそんな店は商店街には無かった。
それがずっと気に掛かってたんだ。
もしも俺があのカードショップを見つけられてなかったら──夢のように紫月が先にエリアフォースカードを手にしていたのかもしれない。
「夢が連続しているモノならば……いずれ何なのか分かるはずであります」
夢、か。
見れれば良いよな。
……俺、ベッドをアカリに貸してる所為で床で寝てるんだけど。
「……なあチョートッQ、俺、夢見る前に風邪引くんでねーの?」
「……毛布だけ引っ剥がすでありますか?」
「うへへへへ、たべられないですよーう、そんなにー……」
「……可哀想だからやめておこう」
あんなに幸せそうに寝てたら邪魔出来ないだろ流石に。
※※※
「先輩」
「何だ? 紫月」
「白銀先輩は、やっぱり「皆の白銀先輩」ですか?」
「……やっぱそう見える?」
「そうですね。そしていつか、何処かへ消えていってしまいそうで怖いんです」
「……俺は、お前が消える方が怖いよ」
「何でですか」
「お前、今日も無茶して突っ込んだだろ」
「……気に掛けてくれるのは、私が後輩だからですか」
彼女は一度息を吐いた。
その瞳は不安げに俺を覗いている。
「……それとも、私が弱いからですか?」
「紫月……」
「……私はもう、先輩に迷惑を掛けたくないんです」
「……紫月。俺は──お前を弱いと思ってるわけじゃない。ただただ、お前を失うのが怖いんだ」
「え?」
「クールで愛想が無いのに……デュエマになったらムキになる紫月。そっけないふりをして、大事な人のためなら真っ直ぐに頑張れる紫月。たまに可愛い紫月」
「最後のは余計です」
「全部この1年で見てきたお前だ。お前、表情あんまり変わらないのにコロコロ感情が変わるのがすっげー面白くって……一緒に居て楽しいって思えたんだ。それと……一緒に居て安心できるってのかな。そんなお前を失うのが怖いんだ」
「……何が言いたいんですか」
そうだ。
御託をぐだぐだ並べるのは俺らしくない。
らしくないけど……すっげー恥ずかしい。
「俺はお前の事が──」
※※※
「お爺ちゃんっ、起きて下さい!?」
「どうなったんだ!?」
馬乗りで揺さぶられた所為で夢の内容全部吹っ飛んだじゃねえか畜生!
しかも、最後俺何て言おうとしたんだ!?
全く分かんねえ!
「俺はお前の事が何だって!?」
「何寝ぼけてるんですか! トリス団長から通信が入ったんです!」
「はぇえ!?」
今何時だ、と壁時計を見やる。
深夜の2時。
まだ皆寝てるってのに。そもそも睡眠ってのは7時間きっちり取って初めて効果を発揮するんだ。
どうせあのトリスの事だしロクでもないことなんだろ? 俺はもう5時間寝かせて貰うぜ。
「お爺ちゃん! 紫月さんの居場所が分かったかもしれないんです!」
「何でそれを早く言わないんださっさとカチコむぞ!!」
「ええ……」
深夜の2時が何だってんだ!
睡眠時間なんて知ったこっちゃねえぜ!
※※※
「トリス団長曰く、魔術師のカードは本来失われたはずのカードらしいんです」
「──失われたカード?」
「はい。エリアフォースカードも道具である以上、致命的なダメージを受けると消滅します。既にこの世に無いものとされているそうです」
「待てよ──そんな状況に追い込まれてるなら、使い手である紫月はどうなってんだ?」
……未来のトリスや俺は紫月について何か隠してる。
聞かなきゃ。あいつに何があったのかを。
「ともあれ、その2079年の海戸ロストシティに魔術師のカードが現れたということは紫月ちゃんがそこに居る可能性が高いってことだよね!」
すぐさまやってきた花梨が腕まくりする。
その通りだ。
エリアフォースカードの痕跡を辿れば、そのまま彼女に辿り着ける可能性が高い。
一体何の目的であいつを連れ去ったのか分からないけど……絶対に取り返す!
「アカルっ! 来たデスよ!」
「とうとう見つかったようだな」
「黒鳥さんは来てたか?」
「もうじき着く」
バタバタとタイムダイバーの中に駆け込んで来るブランと火廣金。
集合場所は学校と指定していた。
こんな時間に本当なら学校に来たくは無かっただろうけど、紫月の居場所が見つかったかもしれないという情報を受けて彼らも飛んでやって来た。
黒鳥さんを加えて、これで戦力は合計6人。
それで出発する予定だったのだが──
「あのっ、私も連れていってください!」
震えた声が聞こえて来る。
見ると、ハッチから翠月さんが乗り込んできた。
もう大丈夫なのだろうか。相当精神的にやられていたみたいだけど……。
「彼女なら大丈夫だ。僕の弟子だぞ」
「黒鳥さん……」
「翠月は甘ちゃんだが、覚悟が決まったら誰よりも強い」
「ちょっ、誰が甘ちゃんですか!」
「それは事実だろうが」
「むぅ! もう、師匠は意地悪です! ……白銀先輩も、そう思いますか?」
「いや、来てくれただけでありがたいよ翠月さん。一緒に紫月を助け出そう」
俺は彼女に手を差し出す。
翠月さんはその手を握り返す。
成程、黒鳥さんの言う通りだ。
もう、その目は覚悟が決まっているようだった。
そして俺の隣にいるアカリを見て、驚いたように目を丸くした。
「この人が白銀先輩のお孫さん……? そういえば白銀先輩、誰と結婚したの!?」
「誰とも結婚してねえってよ」
「……なーんだ」
「すっごい残念そうに言いますね……」
一体何を期待してたんだ翠月さん……。
※※※
「桑原先輩が修行に出たァ!?」
黒鳥さんから全てを聞いた俺は頭を抱える。
あの人マジで何をやってんだ!?
前からたまに突拍子もない事をする人だと思ってたけど、ここにきてとんでもない事をしでかすなんて。
だって一人で失踪だぞ? あの人前にも絵を描くとか言って樹海に行って俺達探す羽目になったんだぞ?
「万が一の時に探す俺達の身にもなってくれよ……しかもあの人、もうじき卒業式だぞ!?」
「それよりもゲイルの件でケジメを取る方があいつには大事なんだろう。だからそれで終わりだ。僕らに出来ることは無い」
「……そうですね。今は紫月を探す方が大事ですから」
「そうです! あんな人放って、しづが何処に居るのか突き止めましょう!」
「……翠月さん、もしかしなくても怒ってる?」
「察してやってくれ」
だってあの人、さっきからずっと家から持って来たらしい煎餅をバリバリ食べてるよ。甘い物が好きじゃないから菓子の好みもそっちなのか。
完全に鬱憤晴らしってか、ストレス発散だよ。当てつけだよ。
「紫月さんが海戸ロストシティに居るのは確実です」
「ロストシティ? 失われた街ってことデス?」
「クリーチャーに滅ぼされた海戸の地下に築き上げられた地下都市だ」
街は荒れ果てており、犯罪の温床。
しかも取り仕切っているのはマフィアで治安は最悪。
自警団代わりのレジスタンスと小競り合いが続いているという状況だ。
「成程……どんな街なんデショウか? 地震が来たらアウトなんじゃないデスか?」
「魔法で補強してあるので、そうそう崩れはしないですけど……見てくれは摩天楼というより魔天楼ですね」
「違法建築物の匂いがプンプンするな……」
実際、崩れそうな建物が幾つも地上に向かって伸びている姿は異様だ。
万が一のことがあったら大変な事になるぞ。
「でも、後学のために見ておきたいわね」
「翠月さん? まさか、彫刻の題材にするんじゃ……」
「そんな事無いわよ! 白銀先輩は私を何だと思ってるんですか……確かに思いましたけど。一瞬だけど」
「僕も一筆描けそうな気がして来たぞ」
「この師弟は!!」
思ったんじゃないか……めっちゃ白状したぞ。
「まあまあアカル、良いじゃないデスか。未来都市なんて見ようと思って見られるものじゃないデスよ?」
「まあ確かにそうだが……」
「ところで、膝が痺れてきたのでアカリをそろそろ降ろして良いデス?」
「貴女も貴女であたしを何だと思ってるんですかーっ!」
「妹デス?」
「ううっ、お爺ちゃん助けてぇ……恥ずかしいです……」
「そうですよ或瀬先輩。嫌がってるのにそう言うのは良くないと思います」
コホン、と一度咳払いすると翠月さんはアカリに優しく語り掛ける。
「アカリさん、こちらに。大変な身の上だったのよね? こっちに来なさい? 私をお姉ちゃんだと思って!」
「アカリ、翠月さんの間合いに入るなーっ!!」
翠月さんのお姉ちゃん力は凶悪だ。
あの紫月がズブズブ依存し、ブランの先輩面が茶番に思えるくらいに。
「お爺ちゃん助けてください……でも抗えないこの包容力……」
「あら結構スタイル良いのね、貴女……うふふ」
「どさくさに紛れて何処を触ってるんだ貴様」
「そんな事よりデッキとかGRクリーチャーとかの確認を改めてしておいた方が良いんじゃないか」
「あたしは”そんな事”なんですねっ!!」
泣きそうな顔でアカリが言った。
だけどダメです。今回ばかりは助けてやりません。
「今まで散々俺を雑に扱ってきた癖に厚かましいぞ! お前はそこでずっと可愛がられてろ!」
「お爺ちゃんの人でなし! ロクでなし! 女ったらし!」
「何だとこの馬鹿孫!」
※※※
「──火廣金。そんな所に居たんだ」
タイムダイバー内のベッドに寝転がり、火廣金はひたすら天井を眺めていた。
「……何の用だ?」
「張り合う相手が居なくなって暇してるんでしょ」
「……清々してるの間違いだろう」
ごろり、と彼は寝転がった。
「あんな腰抜けはさっさと音を上げて戻って来るに決まっているだろう」
「……素直じゃないなあ」
「部長の方がまだマシだ。もう僕らよりも長い事戦っている。疲労も蓄積しているのに休む間もない。それなのに弱音も吐いてないだろう。少しはあの人もうちの部長を見習ったらどうなんだ」
「だから、逆にあんたもあいつに勝負吹っ掛けたりしないんでしょ。いつもなら耀に理由付けてデュエマ挑みに行くのにねー」
火廣金は目を伏せた。
図星だった。
何時もならば、それが戦闘前のデッキ調整になっていたのである。
「黒鳥さんとかに頼めば良いじゃん」
「……あの人はどうも苦手だ」
「そうなの?」
「相対しただけで俺の考えている事を全て見透かされている気分になる」
「じゃあじゃあ、あたしは? あたしはどうなの?」
「……君のデッキもあまり速攻には強くなかったと思うのだが」
「そーんな事言ってて良いのかなー? 乙女三日会わざれば刮目して見よ! って言うでしょ?」
男子だろそれは、と言いかけた火廣金だが敢えて言わなかった。
そこまで言うならばチューンし直したデッキをぶつけてやろう、とデッキを広げる。
良い調整相手が見つからずに困っていたし、何より──花梨が居るだけで気晴らしになった。
──最もデュエルの結果は、花梨がマナを貯め切る前に火廣金があっさり勝ってしまったのであるが。
「……そのデッキ、GR? ってのを使いだしてから大分殺意が高くなったよね」
「前からだと思うぞ」
「前もだったけど……《メガ・マグマ》で焼いたかと思ったらまた展開し直すし……耀のデッキもそうだったけど、やっぱあたしのデッキじゃ相手にならないや」
確かに、と火廣金は顎に手を置く。
低コストのGR召喚クリーチャーからGR召喚するだけで、《”罰怒”ブランド》へ連鎖出来る今の赤単ビートジョッキーはかなり立て直しが効くようになった。
展開力も以前までの比ではない。
「そっちは《ミステリー・キューブ》でも入れれば良いじゃないか」
「えー、アレ運任せのカードでしょ?」
「運任せだがデッキトップから何が出て来るか分からん。場合によっては防御札にもなり得る。《キューブ》から出て強いカードを考えてチューニングしてみたらどうだ。何なら俺も付き合おうか」
「……うーん、あたし一人で良いや」
「何?」
「本当は火廣金も調整したいんでしょ? 火廣金ってプロ意識高いし……あんまり迷惑掛けられないよ」
「迷惑等と思ってない。君の相手をするくらいで俺の勝率は落ちない」
「そうだけど……あたしもあんたに頼ってばっかりだとダメだと思ってさ。もう、泣いてばっかりのあたしは居ないかんねっ! じゃないと、耀に笑われちゃうもん」
「……」
火廣金は頭を抱えた。
むしゃくしゃとした思いは募るばかりだった。
結局、彼女は何事に於いても耀に帰結するのだ。
「どうしたの、火廣金」
「君の言う通りだ。俺一人で調整をする」
「あっ、火廣金!」
──どうして事ある毎に部長を持ち出す? 刀堂花梨。
それがどうも気に食わなかった。
彼女が見ているのは、結局自分ではなく──耀だ。
それに苛立つ自分も気に食わなかった。
──ああ畜生、イライラが続く。そもそもどうして俺は何苛立っている? 別に刀堂花梨が誰を見ようが俺には関係の無い事だ。
此処はやはり部長を叩きのめして鬱憤を晴らすか、と一瞬頭に過った。
そしてすぐさま馬鹿らしいと一蹴した。彼は度重なるデュエルで疲れている。文字通り、デュエマ部の切札たる彼を消耗させるのは愚策中の愚策だ。
──俺は何をやっている。俺は
そうやって押し殺す。火廣金のモヤモヤは行き場が無く塞がっていた。
どうやって晴らすべきか。いっそ、このままずっと抱えたままの方が良いか。
乱暴に部屋の扉を開けた。
「あのー、火廣金さん。ちょっといいですか?」