学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
『マルヨンマルマル、第三階層ブラボー異常無し』
『チャールズ異常無し』
『ドナルド異常無し』
「エドワード──ん?」
隠語で各ポイントを示し合わせながらの退屈な哨戒任務の途中、それは突如として現れた。
全身が炎に包まれた男。
それが街にふらりと現れたのだ。
男達はそれに銃口を向ける。
見た所、焼死体には見えない。なぜならそれは、明確に意識をもってこちらへ進んで来るのだから。
「貴様! 止まれ! 撃つぞ!」
「……撃てるものなら撃ってみろ、素人が」
「素人だと!? 俺はこの道10年のベテランだ──!」
──何だこいつ?! 何で全身が燃えているんだ!?
「撃てェェェーッ!!」
が、しかし。
銃弾は炎の身体に吸い込まれてしまう。
「ヒッ、貴様……クリーチャーか!? 何でこんな所に!?」
「この街に魔法使いは老いぼれのレジスタンスのリーダーしかいないはず──!」
「クリーチャーでも魔法使いでも何でも良いだろう?」
次の瞬間、炎男の周囲から無数の火の玉が浮かび上がる。
それが男達の銃に触れると、一瞬で溶かしてしまった。
「ヒ、ヒイイイイ!?」
「ち、畜生! 何なんだお前はァ!?」
「来るものなら掛かって来い。一人一人、焼いてやる。魔導司が本気の戦闘形態で相手してやると言ってるのだ」
──さあて。向こうはどうだかな……!
炎の男、火廣金は滾っていた。
久々の戦闘。己の中に籠っていた熱を存分に振るうチャンスだ。
※※※
「オイオイ、ガキンチョ。こんな時に何出歩いてんだァ? 誰も街の中に出すなって命令なのによォ!!」
「ご、ごめんなさい、お母さんが病気で薬買わなきゃいけなくって──」
「こりゃあ、オペラ様の所に持って帰るか? 眼球と肺が不足してたみたいだし、丁度良いぜ」
「ヒィッ──」
小さな少年に詰め寄る兵士二人。
じりじりとにじり寄る彼らに、子供では成す術が無い。
「うぐっ!?」
しかし。
片方の土手っ腹に特殊警棒が突き刺さる。
呻き声を上げると、男は地面に倒れ落ちた。
相方の懐に潜り込んだ何者かに掴み掛かる兵士だったが──口の中に警棒がねじ込まれ、地面に倒れ伏せる。
「えっごぉげはぁっ!?」
そのまま再び喉に一突きを浴びせる。悶絶する男を後目に彼女は叫ぶ。
「君は逃げて!」
「う、うんっ!」
子供は慌てて逃げていった。
すぐさま騒ぎを聞きつけてやってきた兵士たちが銃口を向ける。
警棒を掲げた少女──刀堂花梨はそれらを流し見すると──地面を蹴った。
「エリアフォースカード使いだ! 撃てッ!!」
「何でこんな所にウロついてんだよ、しかもガキだぞ!」
「ガキでもなんでも殺せ! 殺してオペラ様に臓器を献上するんだ!」
銃弾は花梨目掛けて次々に飛んで行く。
次々に吸い込まれていく弾丸。
しかし──彼らは戦慄した。少女はそれでも突っ込んで来るのだ。
「は、はぁあ!? 何で倒れねえんだよ化物かぁ!?」
「たぁぁあーっ!!」
そのまま兵士の鳩尾を突き、蟀谷を的確に薙ぎ払う花梨。
最早銃器は無意味とナイフを取り出した彼らだったが、それすらも躱され、一人、また一人と警棒で脳天を叩かれて地面に伏せられる。
「ち、畜生、この女……弾丸も刃物も通らねえぞ!」
「通らねえっつーか、そもそも身のこなしが異常だ! 本当にガキか!?」
「組み伏せて無力化しろ! 全員で抑えつけるんだ!」
「あーあ、やっぱそうなるよね──!」
まあでも、負ける気はしないけど、と花梨は内心呟く。
刀堂花梨。
彼女に長物を持たせたが最後。
それに加え、
即ちこの戦場──花梨の独壇場だったのである。
※※※
あちこちで騒ぎが起こってるけど、皆そっちに向かっているからか俺達は比較的スムーズに拠点であろう建物に辿り着くことが出来た。
周囲に比べて一際異様な建築物。
金銀宝石の装飾が施されたビル。「ハングドマン商会本社」とご丁寧にでかでかと書かれているのだった。
あの中に──紫月が居る。
「門番は……いないようですね」
「このまま正面突入と行くか?」
「ミヅキ、大丈夫デス?」
「わわわわわ、わたしはへいきでででです」
「大丈夫そうじゃなさそうだな……世話が焼ける弟子だ」
「平気です! いっちゃってください!」
「了解! ジョルネード!」
すぐさまジョルネードが飛び出し、扉に何発も穴を開ける。
そして──彼を盾に、全員は一斉にビルの中へ飛び込んだ。
内部はホテルのようになっており、絢爛とした飾りで埋め尽くされている。
荒れ果てている街の中とは正反対だ。
だけど何故だろう。妙に静かだな。
「此処から先は二手に別れます。私とお爺ちゃん」
「僕と翠月、そして或瀬のチームだな」
一先ず、俺とアカリが上の階層。
逆に人数を多く裂いた黒鳥さんチームは下の階層を攻める事になった。
それぞれ、コンバット慣れしているアカリとジョルネード、罠を探知でき防御力に長けたサッヴァークを連れたブランが居るので、施設内でも問題なく探索できる。
「白銀先輩っ……私、頑張りますから! しづを……頼みます!」
そう言った翠月さんの声は震えていた。
でも、目は完全に本気だった。多分、こうなると連れ帰ろうと思っても連れ帰れない。
俺達は2階へ。
一方の黒鳥さんたちは1階の部屋を攻めることになったのだった。
※※※
「嫌に静かだな……」
黒鳥達は部屋を一つ一つ回っていた。
だが、奇妙なことにビル内部を守っているであろう私兵達の姿が無い。
最早察知されても問題はないので、出てくれば守護獣で応戦することが出来る。
しかし──奇妙な不気味さを黒鳥は感じていた。
「此処に来るまでにエレベーターが3つ。いずれも作動していないな……」
「音が全くしないデス。多分、意図的に止めたんじゃないデショウか?」
「……うぅ」
くいっ、と袖を引っ張られる感覚を覚えて黒鳥は振り返る。
大きな瞳に涙を貯めた翠月が袖を握っていた。
「……ごめんなさい、師匠……」
「離れるなよ」
「はい……」
「怖いのはまだ大丈夫デス。怖い事を怖くないって見栄を張るのが一番怖いデスから」
「……私、足手纏いにならないように頑張ります」
そう言った翠月の頭を黒鳥はポンポン、と撫でる。
子ども扱いしないで、と翠月は彼に目で訴えるが──黒鳥の顔は相変わらず険しかった。
「無理はしないようにな。まずそうになったら、真っ先に逃げろ」
「逃げるなんて……」
「前にも言っただろう。生存こそが勝利に直結するのだ。生きてこその物種だ」
「つまり、黒鳥サンはミヅキの事、大切に思ってるってことデス!」
「変な言い方をするんじゃない」
とはいえ、押しかけ捜査はあまり順調とは言えなかった。
……その後も何か所か部屋を調べたがいずれももぬけの殻。
オウ禍武斗の力で無理矢理鍵を壊し、扉の中に入っていくが何もない。
それどころか警備兵すら誰も入って来ない。
──
「ねえ、この壁から妙な音が聞こえるデスよ! 空洞になってるデス」
「何?」
先に進んでいたブランが柱に耳をくっつけて言った。指でコンコン弾くと音が違うのだと言う。
そこは通路の突き当たり。
何もないただの壁だと思っていたが──中が空洞となると話は変わって来る。
「他にも通路の突き当たりの壁はあった……そこだけが違うのか?」
「ハイ!」
『どうもたまに生命反応が通過するのう……』
──生命反応?
黒鳥は少し思案した。
そして一つの仮説を探り当てる。
「何かあるんでしょうか、師匠」
「よし、或瀬。そこを動くな。僕もそっちに向か──」
黒鳥がそう言いかけた時だった。
ブランの足元に──黒い手が伸びた。
彼女はそれに気付いていない。
サッヴァークも反応出来ていない。
黒鳥は慌てて一歩踏み出した──
「オウ禍武斗!!」
その時。
オウ禍武斗の拳がマッハで黒鳥の頬を掠めた。
それはブランの足元に突き刺さり──そして何かを廊下から引きずり出した。
「シュー……ジュツツツ……やってくれたネェ……私の手がペシャンコじゃあないかネ……」
廊下から引きずり出たのは──大男。
しかも、背中から腕を更に4本生やした異形だった。
手のうちの一つは完全に握りつぶされて血が噴き出していたが、痛覚は無いのかケラケラ男は笑ってみせた。
一瞬クリーチャーを疑った黒鳥だったが、すぐにそうではないと悟る。
人間だ。しかも、エリアフォースカード使いだ。
「でかした翠月──」
「キャアアア!?」
黒鳥は振り向くと目を見開いた。
悲鳴。そして、翠月の身体は浮き上がっている。
そして、その胴体は巨大な何かに絡め取られているようだった。
「翠月ーッ!?」
「ご、ごめんなさい、師匠……!」
『主ッ!?』
オウ禍武斗が組み掛かろうとする。
しかし、大男は手で制した。
「おっと、動くなよ虫ケラ。動いたらお前の主人はバクリ、だヨォ。上手くいけば、そこの黒鳥レンと小娘の身体、両方頂けるチャンス、逃しはしないからネェ」
「き、貴様……! 人の身体を何だと……!」
「これで5:5ダヨォ……生き残りたいなら、勝ってみせな、侵入者ドモォ」
ブランが鹿追帽子を深く被った。エリアフォースカードを掲げ、大男と相対する。
一方の黒鳥も化物と向かい合った。
距離的に、大男はブランに任せるしかない。
「黒鳥サンはミヅキを!」
「ああ、頼むッ……!」
「サア、天才外科医・ドクター・オペラの手術の時間だヨォ!!」
その声と共にエリアフォースカードの音声が廊下に木霊する。
<Wild……DrawⅩⅢ……DEATH!! HYAHAHAHAHAHAHAHAHA!!>