学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「うー、べとべとします……気持ち悪いです……」
「タオルで拭いておけ」
「ありがとうございます、ししょぉ……」
助けられた翠月は涙目、そして満身創痍だった。
何とか食われる前に黒鳥がクリーチャーを撃破したことで飲み込まれずには済んだものの、全身がヨダレ塗れになってしまったのである。
タオルで身体を拭きながら、諸悪の元凶を流し見る。
黒鳥が制裁を下す前に、ブランが怖い顔でオペラを睨み付けていた。
「シヅクが何処にいるのか……話して貰うデスよ!」
「う、ぎぃ……!」
闇医者はサッヴァークの能力により、首から下が水晶で埋められていた。
そして、エリアフォースカードもまた、弱った隙にサッヴァークによって結晶内に凍結されてしまったのだった。
しかし、此処まで追い詰められても彼にはまだ余裕があるらしく。
「シュージュツツツ、私が口を割ると思っているのかネ! 私はマフィアだヨォ! 上司の不利益になるような情報を言うとでも!?」
「サッヴァーク、顎の下までお願いしマス」
「ちょ、ちょぉーっ! ストップ! ストップ! 分かった! 分かったヨォ! 暗野紫月の居場所はネェ──」
「おい或瀬。そんな奴は放っておけ。どうせ虚言で時間稼ぎをされるのがオチだ」
黒鳥がさっきの壁の前に立っているのを見て、ブランも彼を追いかける。
「ちょ、ちょっと!? この状態で放置は大分キツいんだけどネェ!?」と声が聞こえてくるが、
「グッバイデース」
「さらばじゃ、闇医者」
「ほげぇーっ!? や、やめるんだヨォ! 動けない相手に、こんな事をやって恥ずかしくな──」
そこで喚き声は途切れた。闇医者とエリアフォースカードの水晶漬けが完全に出来上がったところで、ブランは再び壁に耳を当てる。
聞こえてくるのは──震動音。
何かが回転する音。
そして、ゴオオオ、と聞こえて来る空気の音。
「……ミヅキ、オウ禍武斗の力で此処を壊せマスか?」
「楽勝です! ガイアハザードですから!」
「OK、派手にやっちゃってくだサイ!」
「うむ、腕が鳴るぞ」
大きく振りかぶったオウ禍武斗の正拳突きが壁目掛けて放たれた。
見るも無残に木っ端微塵に砕け散る壁。
足元から吹き抜けて来る冷たい風。
そして、目の前にあったのは一寸先も見えない奈落であった。
「何処に繋がってるんだコレは……」
「何も無いじゃないですか。壁がハリボテだっただけ……?」
「……いや」
ブランは底抜けの穴となっている足元を見下ろす。
そして──筒抜けとなっている天井まで見上げる。
「これは──調べてみる甲斐があるデスよ」
※※※
「ドン・バックーニョ、57歳。ハングドマン商会のボスです」
「うわ、何だコイツ……」
顔写真を見せられた俺はゾッと背中に百足が走った。
異様な程に肥え太った身体に、弛んだ顔の脂肪。
派手な赤いスーツにちょんまげという奇抜な格好。
そして不気味だったのは両頬が見えない程大きなファスナーで縫われている事だった。
ファスナーを引っ張ったら口裂け女みたいに口が裂けるの? どうして?
「これもまたドクター・オペラの人体改造? 何でこんな事になってんだ……」
「彼のセンスはよく分かりませんが、意味の無いものを付けないという話は聞きました」
「意味あんの? お口チャックが?」
「知りません」
商会全体が動いている以上、この男の意思が絡んでいるのだが、ろくでもないのは確かだ。
人は見かけによらないというけど、残念ながら今回ばかりは見掛けで判断させてもらうぞ。
「こんなバカ殿紛いのマフィア会長なんて漫画でも見た事ねえよ! 絶対語尾に「おじゃる~」とか付けてそうだぞ!」
「彼はここ数年急速に街の中で権力を持ち始めました。恐らく、エリアフォースカードを手にしたのもその時期と言われています」
「だろうな、成金野郎の匂いがプンプンするぜ」
「所持カードは
「ドクター・オペラのカードとは違うのか?」
「はい。彼の親も闇医者をこの街でやっていて、先代から
「ってことたぁ別のカードか」
エリアフォースカードは1枚だけでも戦略的兵器には違いない。
無理矢理その力を引き出せば、魔導司が真っ青になるような魔力の引き上げ方をすることも出来るのだという。
多大なリスクと守護獣の犠牲を引き換えにしてではあるが。
その例がロードのサッヴァークだ。世界を覆う水晶を生み出す仕組みは、使い手である人間とエリアフォースカードを脳で直結させて出力を最大限にし、更に別のエリアフォースカードで制御をするというものだった。その代償で、完全に力を発動し終えた時──使い手は死ぬ。
もし紫月がロードと同じ細工を受けたなら──俺はこの男を生かしておけないかもしれない。
「お爺ちゃん。顔が怖くなってますよ」
「……気が気じゃねえんだよ。紫月にもし何かあったなら……」
「お爺ちゃん。紫月さんが
「それが見つからねえから困ってるんだろうが」
普通ならそういった研究室は明るみに出ないように地下室にでも作りそうなものだが、この街自体が地下だしなあ……そもそもこの建物に地下室があるという情報は無いらしい。
扉を破りながら2階の建物を見て回るが、結界の所為か
この建物の何処かに居るということだけは分かるのだが、正確な位置が掴めない。
「それにしても、妙に静かだな……敵地だってのによ。街の中を封鎖するのに人を裂きすぎたのか?」
ホテルの個室のような部屋が続くばかりで、事務所のような場所も見当たらない。
そもそも人が居た痕跡すら無い?
もう何年も使っていないみたいだ。
「2階はこうなってたんですね……いつもは警備兵が居て何処にも入れないので」
「……なんか、妙に殺風景じゃねえか?」
「そうですか?」
「1階とかは見栄張って凄い装飾で飾り付けてた……だけど、このオッサン見るからに派手好きなのに……何で、こんなに装飾が少ないんだ?」
「お金が足りなかったんじゃないですか?」
「ヤクザって舐められたらお終いなんだよ。「ナメられたら殺す!」の世界だ」
「何でそんなに詳しいんですか」
「ブランが読んでたマンガでそういうセリフがあった」
「ええ……何でそんなの読んでるんですかブランさん……」
「ヤクザモノだったんだけどよ、敵の事務所に乗り込む時に、相手のボスが金にモノを言わせて事務所に細工して、主人公をハメるのよな」
次の瞬間──俺達の背後、階段へ繋がる通路がシャッターが何重にも閉ざされる。
そうそう、確かこんな感じだった。
「あれ? これ閉じ込められました?」
「……そうみたいだな。まあ前に進めば──」
と言いかけたその時。目の前に廊下丸ごと塞ぐ巨大なシュレッダーが天井から降って来る。
刃を何重にもギラつかせた人間破砕機だ。
それが音を立てて──迫ってくる!
「お爺ちゃんが余計なことを言うからぁーっ!」
「知らねえよ!」
後ろは行き止まり。
前からは巨大なシュレッダーが音を立てて迫って来た。
万事休すだ。ジョルネードが幾つも弾丸を撃ち放つが、魔法が効かないのか障壁に阻まれて弾は消えてしまう。
もう考えている暇は無い。
パッと思いついたことを試すしかない──!
「ダンガスティック
「無理無理無理、アレは無理でありますよ! あの刃、魔力を発してるからクリーチャーも余裕で殺せるであります! おまけに後ろの壁も分厚過ぎて、壊す前にこっちが追い付かれるであります!」
「ちげえよ! 狙うのはあっちだ! アカリ、掴まれ!」
「も、もうやけくそですーっ!!」
ダンガスティックBに掴まる俺達。
破砕機が俺達を食い破らんとしたその瞬間だ。
「外へ飛び出せ!!」
その叫びに応え、鋼の獣は側面の壁に突貫して突き貫く。
流石の突進力。一呼吸だ。
後ろからはバリバリバリィッッッ!! と破砕機の音が聞こえてきた。
俺達はダンガスティックに掴まったまま建物の外に放り出されて地面に着地したのだった。
「あ、あぶねぇ……助かった……」
「……ダンガスティックの突破力でなければ、あの壁も破るのは難しかったかもです」
「でも振り出しに戻っちまった! 助かったのは良いけど、結局外に追い出されちまったじゃねえか!」
「中を探索するのも危険ですし……どうすれば良いんでしょう?」
「そもそも、
このビルは10階建て。
さっきみたいなアクシデントも考慮すると、上を順々に探索していくのはかなり骨が折れる。
考えろ、考えるんだ。
こうしている間にも、紫月は──
──たす──けて
「……?」
何だろう。
囁くような声が聞こえて来る。
デッキケースからだ。
「お爺ちゃん、どうしたんですか?」
「声が……」
「声? ……向こうでの戦闘の喧噪しか聞こえませんけど」
「いや、我にも聞こえたでありますよ。
「
俺は慌ててデッキケースから
それは薄っすらとだが熱を帯びていた。
そして、触れただけで感じ取れる。
──白銀先輩……たすけて……!!
「っ……!!」
今度ははっきりと聞こえて来る。
間違いない。
紫月の声だ。
──イタイ、クルシイ、キモチガワルイ──
今度は不明瞭なノイズの掛かった低い声だ。
──早く、早く、逃げないと──
──オレガ、オレジャ、ナクナッテ、イク──
紫月の声。
そしてノイズの混じった声。
それが繰り返される。
他のエリアフォースカードの声が、叫びが響き渡って来る……!
「まだ、間に合うよな……
頷くようにして
「でもお爺ちゃん、紫月さんの場所は……!」
「……いや、もっとだ。エリアフォースカードの声が聴ける
「マスター、無茶でありますよ! 人間に取り扱える魔力量ではないであります!」
「うるせぇ!! 紫月は……俺が絶対に、見つけ出す!」
声だけじゃ足りねえ。
もっと。
もっとだ!
もっと寄越せ、
声だけじゃない、あいつの居る場所を見せてくれ!
一目だけで良い。
一瞬だけで良い。
紫月を、俺の後輩の居場所を教えてくれ!
もう1回、あいつに会いたいんだ、
──進行は徐々に進んでいる。
──内部の警備を手薄にしても良かったのか?
──見つけられる訳がないさ。
何だ?
雑音?
他の男の声?
違う、
──禁断の永久機関、最終チェック完了。
!?
待てよ。
こいつ、今何て言った──!?
「マスターッ!」
「いだっ!?」
ガツン、と何かが俺にぶつかった。
それと共にどっと疲労感が襲い掛かって来る。
「──!? 何だ、これ……!」
「何やってるでありますか! もう少しで魔力全部使い果たして、最悪死ぬところだったでありますよ!?」
「だけど! 紫月が!」
「マスターが死んだらどうにもならないでありますよ!」
「ッ……す、すまん」
「やれやれ、大事なものを守るとなると自分の事を全く勘定に入れないのはマスターの悪い所であります」
すまんチョートッQ。
お前が言うんだ。本当に危なかったんだろう。
現に身体中から力が抜けている。
何十分も全力疾走で走り続けた後のようだ。
心臓が異様な程に音を立てていた。
「っ……何か、分かったんですか、お爺ちゃん」
「あいつの場所ははっきりとは分かんなかった。だけど──アカリ、禁断の永久機関って何か知らないか?」
「禁断の……永久機関?」
紫月の居場所は直接的には分からなかった。
だけど、途中で雑音の如く割り込んできた男達の話が気になる。
なんせ、禁断って言葉にデュエマプレイヤーは敏感に反応せざるを得ない。
「え、えと、何か随分前に造られていたモノで……計画が凍結されて以来、海戸の地下に封印されていたんだそうです」
「何だって!? それは大体どの場所か分かるのか!?」
「あたしもトリス団長に聞いた話しか知りませんよう! でも……地下といっても、少なくとも此処よりも深い階層であることは確かです。そんな危ないものがある場所に街は作らないので」
「トリスに聞いたら何か分かるかもしれない」
何だろう。
ダウンロード完了って言ってたな。凄く嫌な予感がする──!
通信機を、取らない、と──
「っ……ぁ」
「お爺ちゃん!?」
「マスター、しっかりするでありますよ!」
何だろう。
まさか、さっきの反動か?
急に頭がぐわんぐわんしてきた。
今のを使った時点で大分ヤバかったけど……そろそろ限界だってのか?
嘘だろ。
俺は、まだ──倒れる訳には──!