学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR49話:禁断の永遠機関──吊るされた男

 ※※※

 

 

 

「……お断りします」

「口では何とでも言えるでおじゃる」

 

 ハングドマン商会ボス──ドン・バックーニョは卑しい笑みを浮かべた。

 

「……先輩が、私の仲間達が、貴方をきっと見つけますよ」

「うーむ、そなた。今が何年か分かるでおじゃるか?」

「……? 意味が分かりません。今は2018年です」

 

 そう答えると、大男は腹の脂肪を愉快そうに揺らした。

 

 

 

「今は、2079年でおじゃる」

「……はぁ!?」

 

 

 

 思わず紫月は目を見開いた。

 

「カーテンを開けるでおじゃるよ、ふーしゅるるるるるるー」

 

 窓から鈍い光が差し込んだ。

 紫月はベッドを乗り越えて、窓を覗く。

 そこに広がっていたのは──常夜灯の如き昏い光に照らされた都市。

 幾つもの建物が天井に向かって伸びている。

 そもそも、空と言うものが存在しない。

 

「此処は……何処なんですか……!?」

「ふーしゅるるるるるるー、見て分からないでおじゃるか? これが今の日本の姿でおじゃるよぉー」

「日本……!?」

「ふーしゅるるるるるー、混乱してるでおじゃるなあ。そなたはぁー、わらわの部下がタイムマシンで連れてきたのでおじゃるよぉー」

「タイムマシン、そんなものがあるんですか……!?」

「魔力と科学が組み合わされば不可能は無いでおじゃるー」

「……」

 

 百歩譲ってこの男の話を信じよう。

 外の光景は自分の全く知らないものだ。

 こんな町は見た事が無い。60年の間に日本はどうなってしまったのだろう。

 葉巻を吸いながら彼は脂肪を悦びに震わせた。

 

「世界は、クリーチャーによって一度滅んだでおじゃる。今、日本どころか世界の各地では人々が涙ぐましい努力でその日生きる分の日銭を稼ぐのが精一杯……うーん、感動でおじゃるなぁー」

「クリーチャーで滅んだって、どういうことですか!」

「さあ、知らないでおじゃる。でも、こんな状況ではエネルギーも物資も不足するばかり。人は飢えているでおじゃる」

 

 何も説得力を感じられない腹をバックーニョは揺らす。

 

「わらわはぁー、不足するエネルギー問題を解決するために一つの解決策を考えたでおじゃる」

「解決策?」

「無限にエネルギーを作れる炉心。それを機動させるのでおじゃるよ。それには、魔術師(マジシャン)のカードが必要でおじゃる」

「何故。仮にここが未来なら魔術師(マジシャン)のカードもあるはずです。もっとも、簡単に手に入れる事が出来るとは思えませんが」

「100%無理だから、わざわざそなたを連れてきたでおじゃるよぉー」

 

 60年後も変わらず自分がエリアフォースカードを手にしている自信はない。

 それでも、わざわざ過去へ行く理由にはならないはずだ。

 

 

 

魔術師(マジシャン)は、とっくの昔に滅びているでおじゃるよぉー、そなたも一緒に」

 

 

 

 自分と一緒に、という言葉に紫月は寒気がした。 

 反射的に問い返さねば気が済まなかった。

 

「どういう意味ですか」

「文字通りでおじゃる。この時代のそなたは、とっくにそなたは死んでいるのでおじゃるよ!」

「……私が、死ぬ……?」

「そうでおじゃる。あーでも、勿体ない。こんな抱き心地の良さそうなおなごが若くして死ぬなんて」

 

 紫月は何も考えられなかった。

 死ぬ? 自分が? どうして? とぐるぐると頭の中で回り続ける。

 

「そんなのは、ウソです──!」

「信じるか信じないかは個人の自由でおじゃる」

「……!」

「でも、それはそうと、そなた、まっこと抱き心地が良さそうでおじゃるなぁー、わざわざ攫って来た甲斐があったでおじゃる。こんな、副産物が手に入るなんて──!」

 

 紫月は後ずさった。

 バックーニョの視線は嘗め回すようだ。

 獲物を捕らえる前の獣でさえ、舌なめずりはしない。

 

「ああでも、今は時間が無いでおじゃる。そなたは後でたっぷり抱いてやるでおじゃるよぉー、ふーしゅるるるるるるー」

 

 紫月は悲鳴すら漏らさなかった。

 怯えが胸の中に渦巻いていることは分かっていたが、それを見せるのは彼に屈しているようで嫌だった。

 

「今は、わらわと一緒に永遠の繁栄が訪れる瞬間を見届けるでおじゃる──そなたの守護獣も一緒でおじゃるよ」

「……シャークウガが?」

「そうでおじゃる。一緒に来るでおじゃるよ」

 

 抵抗は無意味であることは分かっていた。

 ボディーガードの男達、そしてバックーニョに連れていかれるようにして紫月はエレベーターへ乗せられる。

 この分だとシャークウガはまだ殺されていない。

 あわよくば魔術師(マジシャン)のカードに近付けば、まだ勝機はあるかもしれない。

 そんな期待を紫月は抱いていた。

 ……しばらくしただろうか。

 大分エレベーターを降りたその先に、幾重もの鉄の扉に閉ざされた部屋があった。

 どれもこれもガラの悪そうな男達が廊下で銃を構えている。

 ひりついた空気に眉を顰めながら彼女は開く鉄の扉を潜った。

 

「見るでおじゃるよ。我らが誇る、秘匿ラボ──上のビルはオマケ、本来は此処が本拠点でおじゃる!!」

「っ……何ですか、これ」

 

 ビルの遥か更に地底に建築されたフロアは巨大な研究施設であった。

 ハングドマン商会が自らの研究を隠匿する為に築いた巨大な施設。 

 街の自警団であるレジスタンスでさえ気付くことが出来なかった壮大なる野望の根源。

 そんな事情など紫月に知る由などは無かったが、入り口からでも見える程に巨大なマシーンには声を漏らさざるを得なかった。

 それは強化ガラスに囲われており、何かの機械で今もパーツが取り付けられている。

 彼女は自分の記憶の中から、それに当てはまる異形の姿を探り当てた。

 

 

 

「禁断機関 VV-8……!!」

 

 

 

 水文明の禁断のクリーチャー。

 その名を紫月は勿論知っていた。

 場に出た時に封印が付けられ、それが全て外れればエクストラターンを得る脅威のフィニッシャー。

 そして、背景ストーリーでは時間を組み替える禁断のクリーチャーとして君臨した。

 それが現実のものになっている。

 

「どうしてこんなものが……!」

「魔導司達が太古の大昔に作っていたみたいでおじゃるなぁー。でも、あまりにもヤバすぎるから封印されていたでおじゃる。それを我らがサルベージした」

「こんなもので何をするつもりですか!」

「VV-8が目覚めれば、無限にエネルギーを作ることが出来るでおじゃる! そして、我々がこれを独占し、新しいビジネスを作り上げるでおじゃるよぉー、ふーしゅるるるるるー」

 

 「ああそうだ」とバックーニョは続けた。

 

「あれを見るでおじゃる」

 

 彼は研究室の中央にある水槽を指差した。

 紫月はそこに目をやり、顔が蒼褪めた。

 そこにあったのは──幾つものチューブに繋がれた鮫の魚人。

 

「あれが、シャー……クウ、ガ?」

 

 しかし。

 その身体は既に黒く変質していた。

 全身には機械が取り付けられており、最早原型を留めていなかった。

 

「ああ、これがそなたの守護獣でおじゃるかぁー。今に凶悪な凶鬼に生まれ変わるでおじゃるよぉー。なんせ、わらわのエリアフォースカードで洗脳したでおじゃるからぁー」

「あ、う、ぁ」

 

 何時も陽気に笑っていた鮫の魚人の姿はもうそこには居ない。

 唯純然たる兵器に改造された怪物の目がくっきりと開かれている。

 彼はこれから生まれ変わるのだ。

 悪に堕ちたクリーチャーとして。

 

「ごめん、なさい」

 

 紫月の零した声は誰にも聞こえなかった。

 

 

 

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 シャークウガ。

 私──何も出来なかった。

 

 

 

「さあて。これで、そなたもわらわに屈服する気になったでおじゃるか?」

 

 

 

 醜い声が後ろから近付いてくる。

 背筋が凍る思いだった。

 しかし、それでも答えは決まっていた。

 

 

 

「嫌です」

 

 

 

 いきなり痛みが側頭部を襲った。

 計器に背中が叩きつけられる。

 頭から血が流れている。

 蹴り飛ばされたことを遅れて紫月は理解した。

 

 

 

「お前さぁぁぁ、守護獣もエリアフォースカードも屈服したのにさぁぁぁ、何で俺のモノにならないんだ? ええ?」

 

 

 

 昏倒しかける意識の中、紫月は相手の目を睨み付ける。

 

 

 

「嫌なモノは、嫌です」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 俺は後、何人殺せば良い?

 そんな自問自答を何度しただろう。

 

 

 

「──何で、こんな事になっちまったんだよ──!」

 

 

 

 ある日流れ落ちた流星は三日間、空を駆け巡った。

 そこから無数の異形が降り落ちた。

 ワイルドカードという名の悪意は、人々を瞬く間に覆った。

 それらは次々に人間の身体に憑依していき、そして今までとは桁違いの速度で侵食していった。

 仲間は何処だ?

 あいつらは何処へ居る?

 紫月は──何処だ?

 

 

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

 

 

 

 ビルの窓を割る程に大きな咆哮が響き渡る。

 空を見上げると、そこには──鯨が辺り一面を覆っていた。

 

「今度はコイツかよ──!」

 

 鯨の化け物はやたらめったらと強かった。

 何から何まで手の内が読まれているようで、まるで紫月と対戦してる時みたいだった。

 空間が崩壊する頃には、俺もボロボロの傷だらけだった。

 おかしいだろ。

 何でこんな事をしなきゃいけないんだ。

 俺は、俺は──後、何人、顔も知らない相手を殺さなきゃいけないんだ。

 デュエマは人殺しの道具じゃなかったはずなのに。

 俺達の戦いは今まで、誰かを助ける為のものだったはずなのに。

 膝を突いた俺は崩れ落ちていく鯨を眺めながら「ああ、でも」と呟いた。

 別れるちょっと前に彼女は言った。

 「罪悪感に苛まれるなら、私も共犯者です」って言ってくれた。

 余計なモン背負わせちまったかな。

 でも、俺は進まなきゃいけない。

 俺は生きてみせる。

 生きて紫月にもう1回会うんだ。

 何が何でも生き残らなきゃ、いけないんだ……!

 

 

 

 ──そうだ。

 

 

 

 ──俺は、もう一度会わなきゃいけない。

 

 

 

 ──紫月に──会わなきゃいけないんだ──!

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「お爺ちゃん?」

「助け、ないと──!」

 

 嫌な汗が伝っている。

 これは夢? 違う。現実だ。

 アカリが不安な顔で俺を覗き込んでいる。

 どうやら彼女が物陰に避難させてくれたらしい。

 火廣金や花梨が大方片付けてくれたのだろうか。もう、外の兵士はこっちに来なかった。

 

「ずっとうなされてました。大丈夫ですか?」

「もう何とか……夢の内容は酷かったけどな」

「どんな夢でしたか?」

「……」

 

 思い出したくもない。

 クリーチャーになった人々相手に戦うだなんて。

 まさか、これがワイルドカードの氾濫だっていうのか……?

 

「それより、今は紫月を助けるのが先だろ! 禁断の永久機関について何か分かったか!?」

「は、はいっ! あれは……やはり、この街の更に下の下の階層にあるみたいです! でも、そこには何も無いはずだってトリス団長は言ってました。封印された禁断機関だけがそこにある、と」

「……でも奴らは確かに言ったんだ」

「はい。それを伝えたんです。そしたら、禁断の永久機関なるものはある魔導司の一族が造ったものらしいんです」

「マジかよ!」

 

 そして、手が付けられなくなって封印したらしい。

 ロストシティよりもさらに地下の果てに。

 何ともまあ、責任感があるのか無責任なのか。

 そんなものを海戸の近くに埋めないでほしいものだ。

 

「そして、バックーニョの経歴を洗い直してみたのですが……その魔導司の一族の末裔だったようなんです」

「……ビンゴだな」

 

 ハングドマン商会のボスは、自分の一族が造ったものを復活させようとしている。

 

「はい。此処までの材料が揃ってしまうと、ハングドマン商会は地下に研究施設を作っている可能性が高いとのことです」

「……アカリ。タイムダイバーで地下までいけないか?」

「いけます! 潜航状態になれば、そこまで到達出来ます! でも、時間が掛かるかも──」

「……それなら」

 

 俺は皇帝(エンペラー)のカードを見やる。

 

「アカリ。ジョルネードって撃った弾をすり抜けさせることが出来るよな」

「はい。前に宿でやったみたいに、ですかね?」

「ああ。それって、ジョルネードのブロックされない能力に由来するのか?」

「そうだと思いますよ」

 

 あれはあんまり思い出したくないけど……あの時、扉越しに射撃が出来たのはジョルネードの能力によるものだ。

 そしてこれがクリーチャーの能力由来のものならば?

 

「その貫通弾って、もしかして他のクリーチャーにも効果を付与出来たりするか?」

「え?」

「だってよ、《ジョリー・ザ・ジョルネード》の能力は味方のジョーカーズ全員に付与されるだろ」

「ま、待つでありますよマスター、何をするつもりでありますか?」

 

 決まってんだろ。

 

 

 

「超超超可及的速やかに、紫月を助けるんだよ!!」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……嫌に決まってるじゃないですか。貴方のモノだなんて、死んでもごめんです」

「何だと?」

「私も、人一倍欲望は強いですが……他の誰かを傷つける満たし方は、虚しいだけです」

「ほざけよぉ、阿婆擦れがぁぁぁーっ!! 俺のモノにならねえやつは、無理やりにでも俺のモノにしてやるんだよ!! ふーしゅるるるるるぅぅぅー!!」

 

 今までにない凄んだ声色でバックーニョは近付いてくる。

 そして、頬を繋ぎとめていたチャックを彼は思いっきり引っ張った。

 がぱぁ、と裂けた口が露になる。

 そこには無数の牙が生えていた。

 

吊るされた男(ハングドマン)の魔導司は……肉体変化形の魔術が得意でな……()()()()()()()()()()()()()

「……?」

 

 周囲がざわめきだす。

 彼に怯えるようにして。

 鈍重な外見に会わない動きで彼はスーツを、そしてシャツを脱ぎ去る。

 露になった彼の胴体を見て紫月は戦慄した。

 

 

 

「こうやって、()()()()()()()()俺に取り込むことだって、できるんだよ……ふーしゅるるるるるるー」

 

 

 

 そこにあったのは、無数の女の顔だった。

 紫月は再び命の危険を感じ取る。

 

「こうすれば、一生俺と一緒だ……抱くより1000倍も気持ちが良いぜ、ふーしゅるるるるるー!!」

「……貴方は私をモノになんて出来ない。私は貴方を拒絶するから。肉体を手に入れても、心は手に入らないんです」

「ほざけよォ!! お前ら、手ェ出すなよ!! マフィアはナメられたら殺す!! マフィアにナメた口利くやつは殺す!! 例え女でも!! 子供でも!!」

 

 がぱぁっとバックーニョの口が大きく開く。

 嗚呼、此処までか、と紫月は目を瞑った。

 

 

 ──でも──シャークウガ。貴方の分は抵抗したつもりですよ。

 

 無数の牙が彼女を噛み砕かんとしたその時。

 

 

 

「どりゃああああーっ!!」

 

 

 

 何かが、天井をすり抜けて飛んできた。

 巨大な脚がバックーニョを蹴り飛ばし──強化ガラスへ叩きつける。

 紫月は目を見開いた。 

 信じられない思いだった。

 

「……先輩?」

 

 本当に時を超えてやってくるとは思わなかった。

 鋼の巨人、ダンガンテイオー。

 そして、そのハッチが開き、中から手を差し伸べる少年は太陽よりも、星よりもずっと輝かしく、眩しかった。

 

 

 

「悪い、遅くなったな──紫月」

「……本当に、本当に来てくれたんですね──白銀先輩」

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