学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR52話:魔術師(マジシャン)の悲劇

「──結論から言おうか。シャークウガは街を破壊しながら、現在も逃走中だ」

  

 レジスタンス本拠点に何とか退避した俺達は、逃亡したシャークウガの行方を管制室でトリスに知らされて絶句した。

 改造は最早理性を完全に破壊してしまったのだろうか。

 街の被害は尋常ではないらしく、彼の放った雨のようなエネルギー弾が物的のみならず建物を貫通して人的被害も大量に出しているのだという。

 

「こんな事になるなんて……」

 

 紫月を別の部屋で休ませておいて正解だった。

 こんな事、あいつが聞いたらショッキングで耐えられないだろう。

 最も彼女は賢い。もう、大体察しているかもしれないが……。

 

「お爺ちゃん。どうやってシャークウガを助け出すつもりですか」

「そ、それは……いつも通り、デュエルで倒せば……」

 

 

 

「そんな事が出来ると思ってるのか」

 

 

 

 俺とアカリ、そして

 ぜぇぜぇ、と息も絶え絶えに現れたのは──全身に包帯を巻いた火廣金だった。

 

「火廣金!? どうしたんだよ、その傷!」

「俺は良い。だが、シャークウガの攻撃を喰らった刀堂花梨が瀕死の重態だ」

 

 俺の背中に──嫌な汗が伝った。

 

「っ……花梨が!? 花梨は今何処にいるんだ!?」

 

 火廣金は質問には答えなかった。

 何処か憎悪に満ちた表情で火廣金はにじり寄って来る。

 そして──いきなり俺の胸倉を掴んだ。

 

「アレは最早、守護獣ではない……ただのケダモノだ。見境なく敵味方問わず破壊する殺戮マシーンだ。既に住民にも、街にも大きな被害が出ている、それでも尚、奴を()()()と言うのか!?」

「火廣金……お前、何が言いてえんだよ」

「シャークウガはもう助からない。守護獣とエリアフォースカードのリンクが断ち切られて、奴は完全に別のクリーチャーへと改造されている」

「……何が言いてえんだよ!」

「シャークウガは処分する」

 

 待てよ。

 それとこれとはまた、別問題だろ!?

 背筋に嫌な汗がまた伝った。

 

「ざっけんな! 誰一人欠けるのを望まないって言ったのはお前だろうが、火廣金!」

「そうでありますよ! 我は大反対であります!」

 

 チョートッQも飛び出してきて反対する。

 そりゃそうだ。何でまたそんな短絡的な──!

 

「部長。君は直接見ていないかもしれないが、あれはもう街に出てきた野生のクマ同然だ。()()()()が殺すのを見送らせた所為で、街の人に被害が出てからでは遅いだろう?」

「そ、それは──でも、あいつを野生動物と一緒にするんじゃねえ!」

「同じだ! もう何もかもが遅い! 死傷者が出てるんだぞ! だから、これ以上被害を出す前に……俺が終わらせる」

「そんな事は我がさせないでありますよ!」

「ならば力づくで黙らせる」

 

 本気だ。

 火廣金は本気でシャークウガを殺すつもりなんだ。

 

「……待て、待ってくれないか、火廣金。そう簡単に割り切れる問題じゃないだろ!?」

「部長よ。君は刀堂花梨が大事じゃないのか? 君は……幼馴染だろうが。傷つけられて何とも思わないのか?」

「それは──」

 

 何とも思わない訳無いだろ。

 今だって心配で、すぐに駆け付けたいくらいだ。

 

「何故言い淀む? 何故素直に頷けない?」

 

 怪我をしているとは思えないくらい強い力で火廣金は俺を引き上げた。

 

「君の甘さで、次は他の誰かが傷つくんだぞ! 君の甘さが君の大事な仲間を殺すんだぞ! 何故分からないんだ君は!」

 

 答えられなかった。

 シャークウガも、花梨も、どっちかを天秤にかけるなんて出来ない。

 皇帝(エンペラー)のカードを通じて聞こえてきたもう1つの声。あれはきっとシャークウガのものだ。

 あいつは今も──苦しんでいる!!

 

「何とも思ってない訳無いだろ」

「なら──」

「だけど、それはシャークウガも同じだ! シャークウガは紫月の守護獣ってだけじゃない、今まで俺達と一緒に戦ってくれた仲間なんだぞ! お前こそ何とも思わないのか!?」

 

 

 

 

「ぉらっ、そこまでにしろ、馬鹿共!」

 

 

 

 カコン、カコン!!

 

 杖が俺達の頭を小突いた。

 

「今はそんな不毛な事で言い争ってる場合じゃないだろーが」

「トリス……しかし」

「お前もその身体で勝てると思ってるのか? 火廣金、その程度の傷は寝てれば治るだろ。……おいお前ら、連れて行け」

「ちょっと待てトリス、俺の話を──」

 

 レジスタンスの隊員2人が彼の両脇を掴み、管制室から引きずり出していった。

 流石の火廣金も今の状態では抵抗できないのだろう。

 それにしても……あいつ、あの体でどうやって此処まで来たんだよ。

 

「あいつの身体、大丈夫なのか?」

「魔法使いの自然治癒力は人間より断然速いから問題ないな」

「そうか……」

「んでもって、刀堂花梨は付近の病院で治療を受けている。対魔法設備が整っているから、シャークウガの無差別破壊は受け付けないだろう」

「……無事なら良いんだが……」

「問題は、シャークウガ自体の処遇だ。助けるとなると、唯殺すよりも時間や手間が掛かる案件なのは確かだ。火廣金はそれで被害が拡大するのを恐れている……表向きはな」

 

 きっと、それだけじゃない。あいつは花梨が傷つけられてかなり怒っているんだ。

 ガラにも無く火廣金はかなり熱くなっていた。 

 そして、タチの悪い事にアイツの考えはかなり合理的だ。

 元に戻せる見込みが無く、これ以上被害を抑えたいならば──シャークウガを殺すのが手っ取り早い。

 

 

 

「そんなの絶対ダメだ!!」

 

 

 

 分かってないな、火廣金のやつ!

 それじゃあどうしてこの時代にやってきたのか分からない!

 紫月を助けて、シャークウガも助けなきゃ……意味が無いじゃないか!

 

「……お爺ちゃん、どうするんですか」

「……俺のやる事はそれでも決まっている」

「無駄に被害を拡大させるのに終わるかもしれないんだぞ。お前の仲間が流れ弾でまた傷つくかもしれない。もしかしたら──死ぬかもな」

「やってみなきゃ分からない。どっちみちシャークウガに挑む事になるのは変わらないんだからな」

「頑固だなお前も……」

「約束したからな。紫月と」

「……約束、か」

 

 そうだ。

 交わしてしまったんだから仕方が無い。

 あの時、紫月と──シャークウガを絶対に助けるって言ってしまったんだから。

 

「状況から見れば、あたしはあの鮫をさっさと処分するべきだと思う」

「うっ……お前までそんな事を」

「だけどな、それは大局的、マクロな視点で見た場合の話だ」

 

 トリスは俺を杖で指す。

 危ないからやめろよマジで。

 

「……白銀耀。少なくとも……お前は仲間殺しをするべきじゃないし、させるべきじゃない」

「……何故俺にはそう言うんだ?」

「知りたがってたよな。何で魔術師(マジシャン)のカードがロストしたのかを。ワイルドカードの氾濫の時、お前達に……そしてあたし達に何があったのかを」

「え?」

「つっても、殆ど未来のお前からの伝聞でしかないんだが……」

「……知りたい。教えてくれ。紫月に何があったんだ?」

「団長、あたしも知りたいです」

「……覚悟して聞けよ」

 

 目を瞑ったトリスは椅子に座り込む。

 そして、唸るように語り出した。

 

「空に三日間、消えない彗星が掛かった。その間に……地球上の人口は、10分の1にまで減少した」

「……たったの三日間で」

「大惨事も良い所だ。空からは大量のクリーチャーが降り注ぎ、人々を蹂躙、ないし憑依して一人、また一人とクリーチャーにしていったんだからな」

 

 空に掛かった消えない彗星……宇宙からクリーチャーが降って来たっていうのか?

 でも、ワイルドカードは模造品。本物のクリーチャーじゃないみたいだし……。

 

「鍵を握っていたのは世界(ザ・ワールド)のエリアフォースカード。最強最大のカードを求めて、お前達は散り散りになった。一方、暗野紫月は──鶺鴒に残って街を守り続けた」

「えっ!? ま、待てよ! 何で紫月がそんな事を……!?」

「何でって……あいつが一番戦い慣れてるからだ」

「戦い慣れてる……?」

「そうだ。一番最初にエリアフォースカードを手にしたあいつが一番経験も積んでて強かったからな」

「……それはおかしい。ちょっとおかしいぞ。だって、最初にエリアフォースカードを手に入れたのは俺だ」

「えっ!?」

 

 アカリも、そしてトリスも目を見開き、顔を見合わせた。

 二人が言っている話は……まるで、俺が此処最近立て続けに見ている夢の話みたいだ。

 

「……何故だ? 何故エリアフォースカードを手にする順番が違ってるんだ?」

「私は凡そ、その認識だったと思うんですが」

「でもおかしいぞ。時間Gメンの歴史改変なら、特異点である白銀耀は受け付けないはずだ」

 

 分からない。

 どうして今になってこんな事が起こってるんだ?

 この時代のトリス達が知っている歴史と、俺の知っている歴史が食い違っている……?

 

「仮に歴史が改変されたのなら、その余波がこの時代に来ていないのは……まだ改変の影響が出ていないからだと思いますが」

「この件は保留だ! こんな所でイレギュラーが出て来るなんて」

「なあ、トリス。先にワイルドカードの氾濫の時、何があったか教えてくれないか?」

「……そうだな。それで、何処まで話したっけか……クソ、この脳もいい加減にボケてきやがった」

「紫月さんが鶺鴒を守ってるところまででしたよね?」

「ああ、そうだ。それで、鶺鴒の街にクリーチャーの群れが大挙してるって聞いて、お前は急いで鶺鴒に戻ったんだ」

 

 歴史は変わっていても此処は変わらない。 

 もし紫月が窮地に陥ってるなら……俺は助けに行こうとするだろう。

 

「だが、既に鶺鴒は巨大な鯨のクリーチャー……あのサイズは恐らく《インテリエイル》だろうな。そいつに占拠されていた」

「街はクリーチャーだらけだった?」

「ほぼ全滅と言っていい。生き残りは既に退去していた。そんなことは知らず、お前は街の中で暗野紫月を助けに行った」

「……そりゃそうだ。俺ならきっとそうする」

「そして、何で生き残りが街を放棄しなければいけなかったのかを考えてられないくらい、頭が回って無かったんだろうな」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「オオオオオオオオオン」

 

 

 

 鯨は断末魔の叫びと共に崩壊していく。

 今までのワイルドカードもそうだった。

 悲痛な叫びをあげて消えていった。

 クリーチャーになった人は、元に戻らない。

 この手で介錯するしかない。

 それほどまでに今回の侵食はあまりにも速過ぎる。

 以前、翠月さんがプチョヘンザに変貌した時でさえ助かったのに……!

 

「ああ、くそ」

 

 無力感に苛まれながら俺は呟いた。

 助けたい。助けたいに決まってるだろ。

 だけど、この手は殺すばかりで誰一人助けられない。

 俺は、後何人、顔も分からない人を殺せば良いんだよ……!

 俺は何か嫌な予感がして、怪物の落ちた場所へ駆け寄った。

 強い魔力を感じ取ったのだ。

 何だろう。エリアフォースカードでも取り込んでいたのだろうか。

 直感のままに駆け寄る。

 そこには──案の定、魔力を帯びたタロットカードが落ちていた。

 それを取り上げた時。

 俺はそれを取り落とし、再び拾い上げた。

 

「嘘だろ、Ⅰ番──」

 

 刻まれた文字を一つ一つ、睨み付ける。

 

 M

 

 A

 

 G

 

 I

 

 C

 

 I

 

 A

 

 N

 

 そんな事が、あるはずがない。

 

 

 

「し、づ、く……?」

 

 

 

 エリアフォースカードを手に取った時。

 俺はようやく自分のしでかしたことに気付いた。

 視線の遠く先には──後輩が横たわっていた。

 走って、走って、走って。

 彼女の身体を抱き上げる。

 酷く、彼女の身体は冷えていた。そして、今までにないくらい重さを感じられなかった。

 だらんとぶら下がる手足。

 傷だらけの肢体──

 

「なあ、返事してくれよ、紫月」

 

 だって、こんな事あるか?

 お前、あんなに元気だったんだぜ。

 寝てばっかだったけど、起きてる時は色々ブランとやらかしてくれたよな。

 俺もお前に大分振り回されたよ。

 あーいやこう言うしさ。

 何で、ずっと黙ってんだよ?

 

「なあ、目を覚ませよ紫月」

 

 仏頂面のくせに、怒ってる時も悲しんでる時も分かりやすいよな、お前。

 そんでもって、恥ずかしがってる時も分かりやすかった。

 お前に思いを伝えたあの時も、そうだった。

 お前、顔を真っ赤にして「考えさせてください!」なんて普段なら上げない声で叫んでさ。

 悪いことしちゃったかな、やっぱり嫌われてたかな、なんて思ってたら、次の日いきなり抱き着いてきてさ。

 「これが返事の代わりです」だなんて言ってさ。

 お前、体温高いよな。くっついたら、すごく温かいんだよ。

 何で、こんなに冷たいんだよ。

 今、やっと外が暖かくなったのにさ、何で──鉄みたいに冷たいんだよ、紫月。

 

「紫月」

 

 彼女は返事をしない。

 

「紫月」

 

 俺の所為だ。

 

「紫月」

 

 彼女はもう目を覚まさない。

 

 

 

 

 俺が──紫月を殺したんだ。

 

 

 

「あ、ああ、あ──」

 

 

 

 何で、こんな事をさせるんだよ。

 分かんなかったぞ。

 紫月だって知ってたら、俺は、いつまでも待ったのに。

 クリーチャーになった人を元に戻す方法が見つかるまで待ってたのに。

 

「俺は、俺は俺は俺は、俺は──」

 

 ああ、違う。

 同じことだ。

 同じことを俺は繰り返していたのに、大事な人を自分で手に掛けて初めて気付いたのだ。

 

 

 

 白銀耀は──人殺しだということだ。

 

 

 

 役目を終えたかのように魔術師(マジシャン)のカードは砕け散り、灰になって消えた──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──そんな」

「……お前は懺悔するようにあたしに話していたな。結果的に、お前は暗野紫月を手に掛ける形になってしまった」

 

 インテリエイルは紫月が変貌したクリーチャーだった。

 それを知らなかった俺は、彼女を倒してしまった。

 何だよそれ。

 こんな事ってあるのか。

 ……でも、俺だから俺の気持ちは一番分かる。

 もしそうなったら──戦うのが本当に怖くなるかもしれない。

 

「結論から言えば、この時のトラウマでお前は前みたいに戦えなくなったと言っていた。その後、お前がどうなったのかあたしは知らなかったんだが……お前の孫を名乗るアカリが出てきて話は変わってきた。どうやら各地を転々としていたようだな」

「……その間の俺は一体、何をしていたんだろう」

「そこまでは分からない。だが、これがあたし達の知っているお前達の歴史だ」

 

 それにしても──何処で、そしていつ歴史が変わったのだろう。

 俺と紫月のエリアフォースカードを手にした順番が違う。

 それだけが気掛かりだ。

 でも、それ以外は大方同じ……アルカナ研究会との戦いも、ロードとの戦いも、そしてドルスザクとの戦いも全部俺が知っているものと齟齬は無かった。

 ただ、紫月が先に戦っていたという歴史だけが気掛かりだったのだ。

 そしてこれを俺は見た事がある。

 

「最近……夢を見るんだ」

「何?」

「お前達の言ってる歴史とやらと同じことが起こってる夢を見たんだ。そして、その時に限って決まって皇帝(エンペラー)のカードが枕元にあるんだよ」

 

 俺は偶然は2つまでは信じるようにしている。

 だけど、トリスが言った歴史と俺の夢は一致する。

 これはもう、何かがあるんじゃないか?

 

皇帝(エンペラー)のカードが何かを伝えようとしているのであります。でも、守護獣の我にも詳しい事は何も……」

「ふーむ。差支えが無ければ、一度皇帝(エンペラー)のカードを調べることも出来るが、今はそれどころじゃない」

 

 彼女は俺の肩を杖で指す。

 まるで警告するように。 

 

 

 

「だから、お前にはこう言っておく。暗野紫月と守護獣は何が何でも守れ。魔術師(マジシャン)のカードもだ」

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