学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
蒸気と――車輪をカラカラ回す火鼠を動力に、
それは戦車。
見紛うことなき、戦闘車両であった。巨大な主砲と回転式の砲塔を持つ、まさに万人が持つイメージの戦車だ。
「《スパイク
「ヒャッハー!! 兄貴、痺れるッス!!」
次の瞬間、空からもう2台の戦車が降ってくる。
そして、《チュチュリス》と《ホップ・チュリス》がそれに乗り込んだ。
「せ、戦車が3台に増えた――!!」
「その効果により、俺のクリーチャーの全員のパワーを+5000し、シールドのブレイク数を1枚増やす!!」
「なっ!?」
言い終わらぬ間に、3台の戦車が駆け回り、主砲から火を噴く。
あいつのクリーチャー全員のブレイク数が増えるってことは、元からW・ブレイカーの《スパイク
「砲撃せよ!! 《スパイク
ガラス状のシールドに徹甲弾が突き刺さり、内側から爆散させる。
体が吹き飛ばされそうになるも踏みとどまった。だが、破片が降りかかって突き刺さる。
「っぐううっ!! クソっ……!!」
「《チュチュリス》でシールドをW・ブレイク!!」
2台目の戦車が火を噴いた。
そして、俺の残る最後のシールドを打ち砕く。
肉に鋭い痛みがえぐりこんだ。
「ああああ!!」
「痛い? 痛いか? これが本当の戦闘というものだ。弾が当たれば人は死ぬし、頸動脈を切られても死ぬ。クリーチャーに直接攻撃されれば、同じ事が起こる。人間同士では死ぬ目には遭わんが、相手が相手だと、分からんぞ?」
「ぐっ……!!」
「更に俺達魔法使いというのは、ある程度クリーチャーの攻撃にも耐性がある。お前らより、強い。そうそう死ぬことは無いさ。だからこそ、ワイルドカードとの戦いは俺達影の人間に任せておくんだな」
轟!! と最後の戦車の主砲が火を噴く。
「――《ホップ・チュリス》でダイレクトアタック」
「おらぁ、くたばるッス!!」
砲弾が、俺の目の前で爆散する。
そこで俺の意識も、吹き飛ばされたのだった――
※※※
「――チェックメイト。我が軍の勝利だ」
幸い、意識は朦朧とはしているが、あった。
しかし――体が動かない。
「先輩!!」
紫月の声が聞こえる。
駄目だ、まだこっちに来るな――!!
「さて、残るはお前達、か」
くそっ、こいつ……紫月とブランにまで――!
駄目だ、口も動かねえ、声が出ねえ……!
「動かないでくだサイ! 撃ちマス!」
「何だ、そのオモチャは」
バチンッ!! とスリングショットが火花と共に手から離れた。
その指には、炎が灯っている。
まさか、これは此奴自身の力――
「君のような可憐な女性が武器を持つなんて、野蛮だ。俺は女性を嬲るのは趣味ではない。さっさと退け」
「うぅっ……!」
ギラリ、と冷徹な視線がブランを睨んでいる。
「シャークウガ、頼みます」
「おうよっ!!」
次に仕掛けたのは紫月だった。
激流と共に、シャークウガが飛び出していく。
が――
「ふんっ」
その一声で、彼女の切札は一蹴された。
巨大なバリアのようなものが、シャークウガの拳を通さない。
くそっ、これもダメなのか!!
「……悪いな。俺達に、そいつは通用しない」
「いよいよ何者ですか、貴方は――」
「
そう言うと、奴は廊下に散らばっていた俺のデッキのカード――その中にあったエリアフォースカードを――拾い上げた。
「……此奴は預からせて貰うよ。永遠にな」
皮肉めいた言葉を言い残すと、彼の周囲に炎が立ち込めた。
……何だ?
逃げるのか、あいつ――!?
「俺は貴婦人に手を出す趣味は持っていない。まあ、脅威になりえると判断したら、即刻叩き潰すが」
「っ……!!」
すぐに、彼の姿は消えてしまった。幸い、ブランと紫月は何もされなかった。
バリアも消え去り、シャークウガが悔しそうに廊下を叩く。
「ちっ、取り逃がしたか……!」
「やめておきましょう、シャークウガ。また、対策を練り直して万全を期して戦うまでです」
「……アカル!」
ブランがぐったりとしている俺に駆け寄った。
この後、俺が起き上がって喋れるようになるまで少し時間が掛かったが――幸い、外傷は無かったという。
だが――
「……くそっ……!!」
俺の最初の台詞は、悔しさと無念に塗れたこの一言だった。
「くっそおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
※※※
「……」
癪に障る。
何もかもが分からねえままだった。結局、あの後俺はぼんやりしたまま帰路につくことにした。
しかも、負けた。圧倒的な実力差、スピード、奇襲能力、奴は俺の上を行っていた。
あの余裕振りを見るに、俺が瞬殺されただけで、もっと強いカードを奴は隠しているだろう。
だけど、俺は奴を前に何も出来なかった。強すぎる。いや、違う――俺が、弱すぎたんだ。
ジョーカーズの速度を上回る、ビートジョッキーの速攻戦術。速すぎて、勝てる気がしない。
「クソっ……!!」
しかも、エリアフォースカードを奪われた俺は、あいつと再戦する権利すらない。
紫月とブランは何もされていないから、紫月からカードを借りれば俺は奴と再戦出来る。
だけど、そんな気分にはとてもじゃないがなれなかった。
「マスター……」
「くそっ!」
思わず、俺は怒鳴った。怒りの矛先は、弱い俺自身。
それが簡単に出来りゃ、苦労はしねえっつーの!!
あいつは強い。俺なんかが勝てるような相手じゃねえ!!
「……今の俺には、何も出来ねえよ」
負けるという経験には慣れっこだった。
だけど、今日ほど屈辱的な敗北があっただろうか。
こっちが何かをすることも許されない理不尽な速度で轢き殺される――その上、精神的にも肉体的にも叩きのめされたのだから。
ヒーローになったつもりだったのか。エリアフォースカードを手に入れて、皆を助けるヒーローになったつもりだったのか、俺は。
何も、出来ない。
カードがないと、俺は何も出来ない、無力な只の高校生に過ぎないんだ。
「……ダメだ」
俺は歯を食いしばる。俺はこの事件に出会った以上、もう、見た振りをすることが出来ない。
あの不気味な魔導司の連中が何を考えているのかも分からない以上、何もしないままなのは嫌だ。
それほどに、自分が如何にエリアフォースカードに頼っていたか、無力だったのかを思い知った。
もういい、今日は寝よう。明日から、またどうするか……明日土曜じゃん。鬱だ。
ブルーになりながら、俺はひたすら家を目指して歩いていた。悔しいが、体はもう動いていた。脚の一つでも欠けてりゃ、悔しさも湧かなかったんだろうが……そういうわけにはいかない。
「耀?」
声が聞こえた。
振り返ると、そこには花梨の姿があった。
どうやら、遅く部活が終わって今俺に追いついたらしい。
「やっぱ耀じゃん」
「……花梨」
サイドポニーが、寂しそうに揺れる。
此奴もデュエマを始めたんだっけか。此奴は、本当に楽しそうにデュエマをする。
勝っても、負けても――
そんな明るい彼女と話していれば、少しは今の気分も紛れるだろう、といつもなら思っただろう。
……どこか、様子がおかしい。目は伏せがちで、俺の顔を見ていない。
唇をきゅっ、と結んで、まるで言葉にしようとしている事を押し殺しているような……。
でも――
「わりぃ、花梨。今日は付き合えねえんだわ」
「……」
「俺、すぐ帰るから」
そう言って、俺はすぐさま立ち去ろうとしたが――
「待ってよ!!」
「……っ」
俺は足を止めた。
花梨がすぐに追ってくる。
「ねえ聞いて、耀……!」
「……」
必死そうな花梨の声。
誰も周りにはいない夕暮れ時の帰り道。
彼女は、声を振り絞り、言った。
「何があったのかは聞かないけど……あたしは、耀のやってることに間違いは無いと思うよ」
「っ……」
「何かあったら、あたしを頼ってよ! 幼馴染なんだからさ!」
俺に見せたのは、とびっきりの笑顔だった。そのまま、照れ隠しか俺を追い越して走り去ってしまう。
さっきまで、暗そうだったあの顔とは思えない。
「……やれやれ、いらん心配を掛けちまったな」
信じた道、か。
だけど、今の俺にはとてもそんな力は無い。
あいつ、俺が暗そうだったから無理して励ましてくれたんだろうけど――
「マスター、此処で挫けてる場合ではないでありますよ! マスターは、誰かを助けたい一心で此処まで頑張ってきたのに、それをあんないけ好かない奴に好き勝手されて黙っているでありますか!」
「そ、そうだが……ん」
その時だった。
ケータイに着信が入る。メールだ。
「誰からでありますか?」
「紫月からだ」
かったるげに、俺はざっと内容に目を通す。
するとそこには――
「――何だ? 『明日は土曜ですが、特訓のプランを考えました』……」
……特訓?
それだけではない。
メールの文面はまだ続いていた。
「『特別に、先輩にゲストを紹介します』……え?」
※※※
「……ふむ、美しい」
彼は感嘆とした様子で言った。
キャンバスには、艶めかしい肢体を白昼に晒した白いドレスに金髪碧眼の女性が舞っていた。
滑らかな曲線が月の光に当てられて白く光るようだった。
絵筆を手元に置いた青年は何処か満足げに絵の前で頷く。
「まだ絵書いてんの?」
「むっ」
ガチャリ、と部屋の扉が唐突に開いた。
自分に似た黒いショートボブの少女。彼女は口うるさく言った。
「本当、飽きないわね。全くもう」
「美大生だからな。課題の絵は勿論だが、たまに好きな絵にも手を付けてストレスの発散と言う奴だ」
「女の子の絵を? ……ふーん」
「おい、何故そんなやましいものを見る目で見る」
彼の名誉の為に記しておくが、そういった類の絵ではない。
「てか、もう晩御飯出来たんだけど。お母さん、待ってるよ?」
「フン、すぐ行くよ」
不機嫌そうに彼は立ち上がる。
「それと、絵終わったんならあたしともう1回デュエルで勝負してよね! 絶対次は勝つんだから!」
「貴様の自信は一体、何処から沸いてくるんだ? 何度やっても結果は同じ、貴様が僕に勝つのは万に一つ有り得ない」
「ムッキーッ! 何よ、その言い草!!」
怒った様子の彼女は、地団太を踏む。
この少女、この青年とのデュエルで一度も勝ったことが無い。
彼が只の美大生になる前は、どういう人物だったのかも知ってはいるが……負けたままなのは、彼女の負けず嫌いが許さなかった。
「遍く物事には美学というものが必要だ。貴様が僕に勝てないのは、美学が無いからだ。美しくないデュエルでは、美しいデュエルに勝つ事は出来ない。では、美学とは何か? 美しさとは何か? 要はそれを突き詰め、追い求める姿勢がまずは大事なのであって――」
「長い長い! 10文字でまとめなさいよ! 何であんたみたいなのがあたしの従兄!? そして、うちに下宿に来ちゃうのよ、やんなっちゃう!」
「そして貴様には美学が無い、美学が足りない。貴様より”あいつ”の方がよっぽど強いわ、この痴れ者め」
「何よ、昔の男の話ばっかり!!」
「昔の男とは何だ、人聞きの悪い。というか気持ちが悪い」
はぁ、と溜息をつくと青年は言った。
「どっちにしたって今度こそあたしが勝つんだからね!!」
「無理だ無理、やめておけ」
そつなく言うと、彼はさっさと部屋を出て階段を降りていってしまった。
「あーもう腹立つんだから! そもそもあいつがあたしの家にいるのが気に食わないっての!」
そう言うと、追いかけるように少女も階段を降りていこうとしたが――その時、机の上に置かれていたスマートフォンに着信が入る。
「ねえ! 着信入ってるけど! あんた当ての電話じゃないの!?」
「何?」
すぐさま、青年は階段を駆け上がっていった。
普段、交友関係が乏しい彼は電話がかかってくることなど殆ど無いので、電源を切り忘れていたのだ。
だが、律儀な彼は居留守電が出来ない。
急いで誰からの着信かをチェックもせずに電話を取った。
「はい、もしもし――」
『あ、師匠ですか』
その時、過去最大級に彼の表情は凍ったのだった――