学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
突如現れる《”轟轟轟”ブランド》。
ロケットの推進力をバネにした回し蹴りが《バツトラの父》、そして《ガヨンダム》に炸裂した。
何が起こったんだ……あいつ、タダで呪文を唱えたのかよ!?
「これがアルカナ研究会の秘奥義。G・G・Gのエッセンスを凝縮したマスター呪文だ。相手のパワー3000以下のクリーチャーをすべて破壊し、マナに火のカードがあればカードを1枚引ける!」
まずい。
これでブロッカーとなるカードは消滅してしまった。
「更に、手札が1枚以下の時──マスターG・G・G発動」
「まさか、引いたのか……!? 今ので……!?」
冗談だろ火廣金。
此処で出て来るカードなんて一つしか考えられないぞ……!?
「──
ロケットの発射音と共に、射出されたのは白き装甲に身を包んだ猿人。
一番、出て欲しくないタイミングでそれは現れた。
これは……まずいかもしれないな……!
「敗北の予感でもしたか?」
「全然……? これは武者震いだぜ火廣金……!」
「強がるな。この絶望的展開、ひっくり返すのは不可能に等しいだろう! 違うか!」
「っ……ばーか、このくらいの修羅場、潜り抜けてきたつもりだっての……!」
「お望みはミンチか。それとも黒焦げか……まあどちらでも同じことか!」
音速を超えた拳が俺の残るシールドを叩き割る。
「《”轟轟轟”ブランド》でW・ブレイク」
破砕されたシールドの破片が刃となって俺に襲い掛かる。
肩が、そして腹をすっと裂き、血飛沫が飛び散った。
「……」
腹に籠る熱。
それでも、俺は目の前の火廣金を睨み続ける。
「まだ立つのか白銀耀……!」
睨み付ける火廣金の顔は何処か悲しそうだった。
「諦めてないな? その目は……俺が一番嫌いな目だ! 這いつくばって、命を乞え! 情けない姿を俺に見せてみろ! 何故……此処まで痛めつけられても諦めない!」
「火廣金。この勝負はどっちが正しいとかそんなのは無いってさ、お前も分かってんだろ」
「……何が言いたい」
「互いに譲れない、後に退けない、だからぶつかり合うんだろ。お前が本気でぶつかってきたなら、俺は最後まで諦めない。正面から受け止める」
火廣金。分かってはいたんだ。
お前があいつの事好きだってことくらい。
だってバレバレなんだぜ、お前。普段、全然表情を変えないのに花梨の事になると急に動揺するのがよ。
だから、きっと悔しかったし無力感に苛まれていんだ。
花梨を助けられなかったのが──ずっとあいつの中で圧し掛かってるんだ。
俺だってきっと、その場に居たなら同じだったかもしれない。
だけど──
「……お前こそ胸を張って俺に掛かって来い火廣金──!」
そうだ。
それがこの街で学んだことだ。
手に届くものを守ろうとしても、守り切れないものだってある。
だからこそ……本当に守りたいって思ったもんは守り通したいんだ。
「俺も、全力で──譲れないものの為に戦う! お前と同じだ!」
砕け散ったシールドが収束する。
来た。
これであいつの攻撃を止められるかもしれない!
「S・トリガー、《松苔ラックス》!! 効果で《チュチュリス》を攻撃不能に!」
現れたのは巨大な水瓶のクリーチャー。
しかもこいつはブロッカーだ。
残っている《ソニーソニック》の攻撃もシャットダウン出来る。
「馬鹿を言え! 俺は魔導司としての使命を全うするために戦ってるだけだ──《ソニー・ソニック》でダイレクトアタック!」
「《松苔ラックス》でブロックする!」
《松苔ラックス》がすんでのところで《ソニーソニック》の攻撃を遮断した。
だけど、まだもう1体残ってる。
なあ火廣金。
さっきはああ言ったけど、お前がどんな葛藤や矛盾と戦ってきたのか、全部が全部俺に分かるわけじゃない。
俺は人の心を見透かせるわけじゃないからな。
だけど──
「君の言う通りだったとして──俺にはもう、彼女に近付く資格なんか……無い」
「誰かを守るのに資格が要るのかよ?」
「だから君は嫌いだ。知った風な口を利いて説教を垂れるだろう! これで終わりにしてやる──《ドーピードープ》でダイレクトアタック!!」
「ニンジャ・ストライク4、《光牙忍 ハヤブサマル》! ブロッカーにしてその攻撃を止める!」
──お前がどんな気持ちをぶつけてきても、受け止めてやる。
どうなっても火廣金は火廣金だ。
拒絶されても向き合うのが部長としての俺の役割だ!
「止められた……俺の攻撃が、全部止められた……! 絶対に、通したと思ったのに……!」
「俺のターンだ火廣金! 行くぞ!」
ターンが返って来た。
7枚のマナをタップする。
ここで終わらせてみせる。
貯まりに貯まったこの手札で──
「これが俺達の、
──叩きつける。
目の前に刻まれるMASTER-Dの紋章。
そして浮かび上がる皇帝のⅣの数字。
無数の銃火器を備えた無限の龍、《ジョット・ガン・ジョラゴン》が参上した。
「《ジョラゴン》で攻撃するとき、カードを1枚引いて1枚捨てる! そして、ジョラゴン・ビッグ1発動!」
<【ジョラゴン・ビッグ1】:バレット・ローディング>
装填されていく《ジョリー・ザ・ジョルネード》。
それによって《バツトラの父》、《マシンガントーク》、《ゴッド・ガヨンダム》が超GRの大穴から飛び出す。
「《マシンガントーク》で《ジョラゴン》をアンタップ! そして《ガヨンダム》の効果で《アイアン・マンハッタン》を捨てる!」
<”マンハッタン”ローディング>
「大嵐の弾丸、マンハッタン・トランスファー! 相手のシールドを2枚選んで、それ以外を全てブレイクする!」
大嵐が吹き荒れた。
火廣金のシールドが3枚、纏めて吹き飛ぶ。
しかし──まだ彼も意地を見せるつもりなのか。
砕けたシールドが光となって収束した。
「……やらせはせん、やらせはせんぞ! S・トリガー、《爆殺!! 覇悪怒楽苦》! 効果で《ジョット・ガン・ジョラゴン》を破壊する──!」
巨大な破砕機が迫る。
それが《ジョラゴン》を噛み砕く──!
「くたばれ、《ジョット・ガン・ジョラゴン》! 理想を抱いて灰燼に消えろ!」
「っ……その、前にぃぃぃっ!! 手札の《ワイルド・シールド・クライマックス》を捨てて、効果発動!」
破砕機の刃はそこで止まった。
巨大なシールドが《ジョラゴン》の前に現れて守る。
「《ワイルド・シールド・クライマックス》の効果で、《ジョット・ガン・ジョラゴン》が破壊されるとき、代わりにこのカードを捨てる!」
「ば、馬鹿な……! そんな効果が……!」
シールドはジョラゴンの身体と合わさり、一心同体と化した。
「《ジョット・ガン・ジョラゴン》、クライマックスモード! 《ワイルド・シールド・クライマックス》の効果で、パワーを2倍にして相手のクリーチャー1体とバトルする! 《ドドド・ドーピードープ》を破壊だ!」
無数の銃弾が残る火廣金のシールド諸共《ドーピードープ》を蜂の巣にした。
しかも、《ジョラゴン》はアンタップしている。
まだ、戦えるんだ!
「……何度粉砕されても起き上がる根性こそ、君の強みだと思っていたが」
火廣金の視線は《ジョラゴン》に注がれていた。
そして、自らを嘲笑う。
「この程度では砕けてすらなかったのか……!」
「いや、砕けるところだったぜ。お前が本気でかかってきたもんだからな。だけど、俺だってもう止まれないんだ」
気持ちの強さが勝負を分けただなんて思ってはいない。
だけど……。
「《ジョット・ガン・ジョラゴン》で、ダイレクトアタック!!」
──誰に何と言われようと、俺は俺で決めたものだけは守り通すんだ! 火廣金!
※※※
倒れた火廣金を物陰に置く。
傷はそんな開いてないようだ。気絶してるけど、怪我の具合を見るにもう少し寝ていた方が本人の為なのかもしれない。
後ろで紫月が心配そうに問いかけてきた。
「……火廣金先輩、大丈夫でしょうか?」
「……あいつ、花梨の事で思い悩んでたのかもしれない。んで、責任感も強いから自分を追い詰めちまったんだろうな……」
「しかも、幾ら回復力があるといっても、あれだけの怪我で出ていくなんて正直無茶です。でも……気持ちは分かる気がします」
「俺だって同じ立場だったら同じことしてただろうけど」
人間の気持ちってのは、色んな矛盾した思いで構成されている。
ダブルスタンダードだなんて言うけれど、きっとそれが普通なんだろう。
「でも、決めたんだ。俺は全員で現代に帰るから。お前が気を病むこと無い」
「……白銀先輩。火廣金先輩の事、どう思ってますか?」
「心配しなくても嫌いになんかならねーよ。あいつがどう思ってるかは別だけど……」
ぎくしゃくしなければ良いけどな。
これがきっかけで……。
それに、部長としてもっと良い方法があったんじゃないかとも思う。
だけど……俺としては、これしかなかったんじゃないかって思うんだ。
気晴らしに、アカリから貰ったレジスタンス製の小型タブレットのモニターを見ると、シャークウガが魔力を放出しきるまでまだ時間が大分あるようだった。
今外に出ていくのは自殺行為だし、もう少し待つか。
そう思っていた矢先──持っていた通信機が鳴った。
「誰からですか?」
「ブランみたいだ。そういやあいつら、まだ帰ってきてなかったな……」
そう言って、それを手に取る。
一体何をしてたんだろう。無事ならそれで良いんだが……。
「ブラン、俺だ。無事か?」
『こっちも全員無事デスよ! さっき、帰ってきたところデス! シヅクも無事そうで良かったデス!』
「ああ、声を早く聞かせてやりたいよ。だけど、今はそれどころじゃないからな。それで、何の用だ?」
『実は地下施設を探索してたのデス』
「え?」
地下施設ってあの地下施設?
そう思って聞き返すと、隠しエレベーターの話と行き帰りだけで大分時間が掛かってしまった話をされた。
……それだけダンガンテイオーの速度が凄まじかったという事か。本当にギリギリだったんだな。
でも、後から彼女達が
「で? 何か収穫があったのか」
『勿論デス! 実は、シャークウガの改造に関する資料を持ち帰ったのデスよ!』
「マジか! それが分かったら、シャークウガを助ける糸口になるかもしれない! 大手柄じゃないか!」
『デモ、肝心の事が書いてある電子資料の方に厳重なプロテクトが掛かってて……紙の資料には概要しか無かったデス』
「マジか……」
曰く。
守護獣を別のエリアフォースカードで強化することにより、完全な兵器と化すという計画だったらしい。
実質、エリアフォースカード2枚からの支援を受ける事になるため、改造を受けたクリーチャーは強大な力を手にするんだそうだ。
理性と、記憶を引き換えにして。
本当に許せない。何でシャークウガがこんな目に遇わなきゃいけないんだ……!
『だから、そっちは頼むデス! こっちは、長時間実体化させてたサッヴァーク達の回復がまだ終わってないデスから……』
「分かった。ありがとよ」
『それと──まだ、時間があるみたいだから……お説教の時間デス』
「説教?」
次の瞬間。
俺は耳が割れたかと思った。
イヤホンを付けて会話していたので、音漏れしていないのが幸いだろうか。
『何でヒイロと喧嘩してるデース!?』
「ヒェッ……」
『モニターを見た時ビックリしたデス! 二人がデュエルしてるから……カリンは大怪我、シャークウガは改造されてるし、何やってるんデスか! Why!?』
「……色々あったんだよ」
俺も俺でこれまでのあらましを話す。
彼女は、俺と火廣金が争っていたことについては納得していなかったみたいだが、だんだん声色は落ち着いて来た。
『そういうことだったデスか……』
「花梨を守れなかった自分が許せなかったのかもな。だから、責任に殉じたように見える。でも、それ以上に……俺に激しい敵意を向けてきた」
『……ヒイロ、カリンの事が好きデスから。デモ……その中で苦しんでたんじゃないデスか?』
「苦しんでた、か。俺は恋愛の事はさっぱりだからな……花梨は火廣金と特訓するのは大分楽しそうにしてたけど」
『そんなんだから万年カードが恋人なんデスよ』
「放っておけ! こんな時にこんな話題出すお前もどうなんだ!」
『大問題デス! 私を誰だと思ってるデス? 名探偵ブランちゃんデスよ!? 部内の不和は、この恋愛問題にあると思うのデスよ!』
部内の不和……花梨は部員ではないのだが、この際細かい事は良いだろう。部員でなくても仲間には変わりないし。
俺は後ろに居る紫月に目をやった。
やはり火廣金に思う所があるのか、まだ彼の顔を眺めている。
俺は小声でブランに問うた。
「俺はお前が面白がってるようにしか見えないんだが?」
『大真面目だよ、アカル』
「急にマジトーンで話すのやめろ、いつもので良い」
『多分、ヒイロの片思いデスよ。カリンの方に、ヒイロがLOVEな気持ちは無いんじゃないかなって思うデス』
「……マジか」
『……それで、ヒイロが真っ先に嫉妬するのは……カリンが事ある毎に名前を出すアカルだったんじゃないデスか?』
彼女は少し言葉を選んだようだった。
何だろう、もしかしてまだ俺の知らない何かを知ってるんじゃないだろうか。
まあ、どっちにしたってだ。
「なあブラン。俺にとっちゃ恋が何だとかそういうのもまだよく分かんねえんだけど……誰か一人を特別扱いにするのって、他の誰かを切り捨てる気がするんだよな。浮気とか肯定するわけじゃないけどさ」
『もしかしてアカルはハーレム派デスか?』
「そうじゃねえよ!? ただ、難しいなって……」
『急にどうしたデスか?』
「……今回、色んな所で色んな事が起こってさ。どれを最優先にすれば良いのか分かんなくなっちまったんだ。多分、ブランも知らないだろうけど紫月も大変な事になってる。シャークウガの件とは別件で、あいつと俺の未来に関わる問題だ」
『そう、デスか』
「俺にとっちゃ仲間は皆大事だぜ。大事だけど……分かんねーんだよな。こんな大変な時に、例えば「誰か一人だけを守る」だなんて俺が言い出したら……お前は怒るか?」
『……アカルは気にし過ぎデスよ。リーダーとしての役割に囚われすぎデス』
「囚われてる? 俺が?」
『そうデス。アカルはもっと、自分に正直になるべきデスよ。気になる子がいるなら、好きな子がいるなら……その子の為に頑張ったって、バチは当たらないデス。だって、それで他の誰かを蔑ろにしてるわけじゃないし、アカルはそんな事できないデショ?』
「……」
『大方、そういう子がいるから、迷ってるんデショ? 相手は大体分かるデスけど。言い当てて良いデス?』
「それはやめてくれ!」
贔屓目。
特別視。
それが嫌で、俺は恋愛なんて興味が無かった。
誰かを選ぶという事は、それ以外を切り捨てるということもあるということだ。
自分に限ってそんな話が来るとは思ってなかったけど……今、何が何でも守り通したい子がいる。
『きっと、私みたいに裏切られるよりは、よっぽど良いデス』
「そうならないように頑張らねえとな」
『うん……迷って、その子を裏切るよりはよっぽど良いと思う。アカルは、真っ直ぐに突っ走った方がアカルらしいから!』
「……ああ、そうするよ」
『カリンの事は私達に任せるデス。それに、自分の身ぐらいは自分で守るのがエリアフォースカード使いデスから!』
「……サンキュ、ブラン。やっぱお前は頼れる探偵だわ」
『カウンセリング料も取らないとデスねー』
「オチを付けるなよ……」
そうだ。
俺が見るべきは、今やるべき事だけだ。
俺は──紫月の笑顔を守りたい。
そう決めたんだ。
「白銀先輩……何の話してたんですか?」
「シャークウガの改造についての資料が見つかったらしい」
「本当ですか!?」
紫月は食い気味に迫って来た。
「きっと、突破口になるはずだ。3人がやってくれた」
「みづ姉……ブラン先輩……師匠……!」
「俺達も頑張らねえとな」
地上を俺は見上げる。
シャークウガは間もなく全ての魔力を放出しきる。
それまでに……資料が解読されれば良いのだが。
……ま、やってみるっきゃねえな。此処まで来たんだ。引き下がらねえよ。
待ってろよ──シャークウガ!