学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR56話:奪還作戦──雨霰

 ※※※

 

 

 

「ひでぇことになってやがる……」

 

 シャークウガが魔力を放出しきったという報告が入ったのは、しばらくした後だった。

 俺達が地上へ這い出ると、そこは辺り一面焼け野原。

 辛うじて廃墟としての体を成していた海戸ニュータウンは、建物が皆崩れ去っており、焼き払われていた。

 

「此処は、何処なんですか……?」

「……海戸の街だ」

「海戸……これが、未来の……」

「しんみりしてる暇はねーぞ。俺達が、この未来を変えなきゃいけないんだからな」

「……そうですね。でも……いざ、実感すると立ち竦んでしまいます」

「その時は俺が支えてやる」

 

 驚いたような視線を彼女はこちらに向けた。

 そして──微笑んでみせた。

 それがとても柔らかく、俺にとっても安心できるもので──耳が熱くなった。

 

「……ええ。お願いします」

「ッ……それと紫月。シャークウガの反応は何処にいるか分かるか」

「いえ、全く……」

魔術師(マジシャン)と切り離されているからでありましょう。おまけに、エリアフォースカードの権能を持って行ってる所為で、本体であるカードの力も大きく衰えているであります」

「先輩。今の私に本当に出来る事があるんですか? 火廣金先輩が言ってたように……」

「あるさ! 俺がお前に出来る事がある、って信じて連れて来たんだからな!」

皇帝(エンペラー)の力はエリアフォースカードに干渉する力だと考えられるであります。以前、ブラン殿を助けた時のようにエリアフォースカードの精神世界に干渉する事が出来れば……」

「シャークウガを取り返せるかもしれない、と」

「問題は、件の電子資料の解読が終わってない事だ。これさえありゃあ、もう少しシャークウガの改造を元に戻すプランが出来たかもしれない」

 

 まあ、アテにしていた訳じゃないから、その場合はやる事は変わらないんだけどな。

 どの道賭けに近い事をやっているのは確かなのだから。

 サッヴァーク達の回復ももう少し掛かるみたいだし、援軍は望めないとみて良いだろう。

 さあて、どうしたものか……。

 

「……マスター。妙に暗くないでありますか?」

「曇ってんだろ?」

 

 俺は空を見上げる。

 そして──目を見開いた。

 雲の切れ間に──黒い球体が見え隠れしていた。

 それを見た途端、俺の中で嫌な予感が過り、紫月の手を引っ張った。

 

「紫月ッ! 掴まれ!! チョートッQ、ダンガスティックBだ、走れ!!」

「りょ、了解でありますッ!」

「な、何なんですか!?」

 

 俺がダンガスティックBの上に紫月を担ぎ上げた矢先──黒い球体から雨の如く黒い弾丸が降り降りる。

 ダンガスティックは凄まじい速度でその雨霰を躱していく──

 幸い範囲はそこまで広くはない。今は辛うじて雨を逃れている。

 だけど──黒い球体は、こちら目掛けてじりじりと迫って来る!

 

「マスター! あれってまさか……!」

「ロストシティに浮かんで街中を破壊し尽くした黒い太陽……! それがあの球体で間違いねえだろ! 当たったら蜂の巣になる! ダンガスティック、スピードを上げてくれ!」

 

 シャークウガの起こした破壊行為を一通り聞いていて助かった。 

 もし、黒い球体の出現に気付くのがもう少し遅かったなら今頃二人とも穴だらけだ。

 そして飛び乗ったのがダンガスティックBでなかったならば、きっと俺達は追いつかれていただろう。

 皇帝(エンペラー)が警告するように熱を帯びている。

 あの中に──シャークウガがいる!

 背中のコックピットをこじ開け、俺は紫月の手を取って辛うじて中に逃げ込んだ。

 良かった、ダンガスティックにもコクピットが備え付けられていたのか。

 目の前には前面、背面、そして左右斜めといった外の様子が見えるモニターが浮かび上がっている。

 外の様子も十分確認できる。

 

「と、取り合えず、吹き飛ばされる心配は無くなりましたね……」

「これで遠慮なく加速できるが……」

 

 だけど安心はできない。守護獣やクリーチャーの身体を貫く程の威力があることは、分かっている。

 被弾すれば中の俺達も無事じゃ済まない。

 

「シャークウガ、まだあんな魔力を隠し持っていたでありますか!?」

「さしずめエリアフォースカードが獲物に見えてんだろ! だから本気なんだ! 飢えた獣は怖いって言うからな!」

「シャークウガは鮫ですけどね!」

 

 相手は空中に陣取っている。

 建物を足場にしようにも、シャークウガが粗方破壊し尽くしてしまった所為で空中へ近づくことも出来ない。

 かと言って、ダンガンテイオーにもう一度変形させる暇は無い。

 今も後ろからは黒い雨が地面を穿ち続けている。追いつかれたら一巻の終わりだ。

 しかも、じりじりとその距離は縮まりつつある──!

 

「ダンガスティック、もっと速度を上げられないのか!?」

「これが限界でありますよーッ!! 数秒間だけ魔力全開でブーストを掛けられるでありますが、一回きりの切札であります!」

 

 どうするか、と手をこまねいていた矢先、通信機から音が鳴る。

 

『大変デス! アカル、電子資料のロック解除が終わったのデスけども……』

 

 ブランだ。

 何か情報が分かったのだろうか。

 淡い期待のままに俺は返事を返す。

 

「何か分かったのか! 今こっちはヤバイ事になってんだけど!」

『それはこっちからも見えてるデスよ! でも、何とかなるかもデスよ! 端的に言うと今のシャークウガを動かしてるのは教皇(ハイエロファント)のカードデス!』

「ハイエロ……教皇のアルカナか! それが例の商会に持ち込まれてたカードか! で、それはどんなカードなんだ!?」

教皇(ハイエロファント)の能力は束縛と支配デス! シャークウガをクリーチャー兵器に改造する為の制御装置には打ってつけなんデスよ!』

 

 曰く。

 教皇(ハイエロファント)の能力を使えば、エリアフォースカードから切り離した守護獣を強化しつつも「支配」と「束縛」によって言う事を聞かせることが出来る……という計画だったらしい。

 しかし、改造が半端なところで終わってしまった所為で本来命令を聞かせる相手が不在となり、シャークウガは見境なく暴れているのだという。

 また、トリスの推察では教皇(ハイエロファント)のカード自体も人間に好き勝手された怒りで暴走している可能性があり、シャークウガが暴れているのはそれが原因ではないかと考察しているのだ。

 

「ということは……主導権を握り返せばシャークウガを元に戻せるかもしれないということですか、先輩!?」

「そうみたいだけど──」

『それだけじゃないデス! 当然主導権を握り返すなら、耀の予想していた通り魔術師(マジシャン)のエリアフォースカードと使い手が必要デス!』

「そうか、それなら二人分の魔力であいつの精神世界をこじ開けて──」

『そ、それは無理デス! 私の時みたいに、他のエリアフォースカードの使い手が混じると、ガードが堅い教皇(ハイエロファント)は侵入者を拒絶するだろう、って』

 

 はぁーっ!?

 無茶を言うんじゃねえ!

 そうなると、実質紫月一人で教皇(ハイエロファント)の精神世界に潜り込めってのか!?

 

「先輩。私は一度、エリアフォースカードの精神世界に潜ったことがあります。一人でも大丈夫です!」

「お前はそうかもしれないが、一人だとそもそも侵入出来るかどうか……!」

「マスター、このまま直線加速し続けるのは無理があるであります! 正面に崩れたビルの瓦礫が──」

「……そもそも、それ以前の問題だ! この追いかけっこの主導権をひっくり返せでもしない限りは──」

 

 モニターからも視認出来る。

 かなり巨大なビルが折り重なって積み上がっている。

 待てよ。ひっくり返す? 追いかけっこの主導権……鬼と逃げる役を入れ替える方法。

 もしかしたら、出来るかもしれない!

 

「ダンガスティック、ブーストとやらの加速は何処までいける!?」

「えーと……多分、魔法によって音速も超える事が出来るであります! でも、今の我の魔力だと本当に一回っきりでありますよ!」

「……そうか。十分だぜ! ダンガスティック、ブラスターで瓦礫の前の地面を吹き飛ばせるか!?」

「え、ええ!? 何言ってるでありますか!?」

「先輩、何を考えてるんですか!?」

 

 走りながらもダンガスティックが両肩のキヤノン砲を轟轟と稼働させる。 

 後ろからは黒い雨の地面を穿つ音が絶え間なく止まずに近付いて来た。

 

「撃てッッッ!!」

 

 放たれる号砲。

 それと共に、瓦礫が吹き飛び、空へ散りばめられた──

 

「今だダンガスティック!! ブーストだ!!」

「っ……そういうことでありますな!!」

 

 轟音が鳴り響き──終わる前に。 

 ダンガスティックの速度がその瞬間、音さえも超えた。

 コックピットの中の俺達の時間も加速されているのだろうか、時間はまるで止まったようだった。

 加速し、地面を蹴ったダンガスティックは浮かび上がった瓦礫を足場にして空へ駆け上がっていく。

 そして、身体を捻じり、黒い球体目掛けて両肩のキャノン砲を向けた──その時。

 時は再び元通りに動き出した。

 

 

 

 

「ファイヤァァァーッ!!」

 

 

 

 再び轟く号砲。

 それが黒い球体目掛けて一直線に飛んで行く。

 地面からは狙えなくても、飛び上がった状態で平行に並べば──実弾じゃないビーム砲なら一瞬で狙い撃てる!

 

「いっけぇぇぇーっ!!!」

 

 不測の事態だったからか、避ける間も無かったのか。

 それは物の見事に黒い球体目掛けて真っ直ぐ飛び──粉々に打ち砕いた。

 自由落下するダンガスティックB。着地の震動が遅れて機体内に伝わって来た。

 げんなりした表情の紫月が恨めしそうな視線を投げかけて来る。いや本当悪かったって。これしか思いつかなかったんだから。

 

「イカれてますよ、何を食べたら咄嗟に吹き飛ばした瓦礫を足場にジャンプだなんて思いつくんですか……まあ、そんな人に着いて来た私もイカれてますけど」

「悪かったってば……」

「帰ったらスイーツバイキングたらふく奢らせますよ」

 

 財布の中身はしっかり確かめておこう。

 こいつ本当に遠慮とか無いからな……うん。

 

「マスター、よくもまあ、こんな事が出来るって思ったでありますな!」

「そっちこそ、使った事も無いブースト機能なんて、どっから沸いて出てきたんだよ」

「えー? そりゃあ、使ったことが……あれ? 確かに、何処で使ったのでありますか?」

「……先輩! 言ってる場合ですか! シャークウガが!」

 

 煙が晴れる。

 地面に落下した黒い球体は崩れ落ち、その中から鮫の魚人が姿を現した。

 その頭は鋼鉄に覆われており、目の部分が不気味に光っている。

 左腕はサイボーグと化しており、胸には紫色の球体が埋め込まれていた。

 

「WUU……?」

 

 唸るような声が聞こえて来る。

 次の瞬間。

 鋼鉄の頭部に赤いラインが迸った。

 そこがパカリ、と口のように割れると──魚人の顔が不気味な眼光と貼り付けたような笑顔を伴って現れたのだった。

 

「シャークウガ……!」

「WUU……AH……」

「まだ堪えてねえのかよ!」

 

 ダンガスティックBが身構える。

 これ以上はシャークウガを傷つけたくはない。

 だけど……!

 

 

 

 

「WUUAAAAAA!?」

 

 

 

 直後。

 空から何かが降り注ぐ。

 幾つもの弓矢が──シャークウガの身体を貫いた。

 

「シャークウガ!?」

 

 蒼褪めた紫月がハッチを開き、外に出た。

 危ないだろ、と俺も追いかけるようにして彼女を追う。

 空を見上げた。

 そこには──

 

 

 

「ねえねえねえ可哀想可哀想!! こんなズタズタボロボロのサイボーグにされちゃって、生きてるなんて可哀想だよねーっ? ねぇーっ」

「そんな本当のことを言うなよ。一発でイかせてやるのが、海よりも慈悲深くて天よりも心の広いオレ達のせめてもの情けってもんだろう?」

「ねーっ鮫さん、何でまだ生きてるのーっ? 何でまだ死なないのーっ? ねぇーっ!」

 

 

 危うく、それを天使と見紛うところであった。

 それは間違っても天の使いなどではないことはすぐに分かったのだから。

 機械仕掛けの翼を生やし、二人で一つの弓矢を構えた少年と少女が地上に降り立つ。

 そして、彼女達の間には──強烈に()()魔力を放つエリアフォースカードが光り輝いていた。

 

「やめなさい! シャークウガは……私の相棒です!」

「そうだこの野郎! いきなり出て来やがって何処のどいつだ!」

「これ以上の狼藉は許さないでありますよ!」

「うーん? ねえねえねえ、()()()()。すっごく薄汚い人間が二人いるよーっ?」

「そうだなぁー、()()()()。目が穢れる。こんな掃き溜めみたいな場所に住み着いてる非・合理的な人間がいたなんてビックリだよ」

「じゃあさ、じゃあさっ、かわいそうだからぁーっ」

 

 少女の目がこちらを向く。

 凡そ、感情と言うものを瞳から感じ取ることが出来ない。

 べったりとした笑顔だけが少女の顔に貼りついている。

 

「さっさと、殺しちゃおうよ!」

「っ……!」

 

 無邪気な語り口で少女は俺達に弓矢を射かける。

 しかし、それをもう片方の少年が静止した。

 

「待ちなってイカルス。君は相変わらず辛抱が出来ないな。こいつら、オレ達と同じだ。エリアフォースカードの気配を感じる。片方は哀れで、惨めなほどに弱ってるけど……問題はその種類だ」

「そうだね、イカルス。見た事の無いカード! ねえねえ、アタシ達のモノにしても良いのかな?」

「それは社長の命令次第だ。焦らすようで悪いけど、もう少し我慢してくれ」

 

 不気味で、底が知れない。

 互いに自分達を「イカルス」という名前で呼び合っている。

 

「なあ、お前。そう、そこの不潔で汚らわしいオスの人間」

「ああ!? 何だ!」

「何処の時代から来た? 魔術師(マジシャン)皇帝(エンペラー)もこの時代には無いはずだろう?」

「……マスター、言葉選びに気を付けるでありますよ! 不用意に情報を与えるのは危険であります!」

「分かってる……!」

 

 ダンガスティックが小声で囁く。

 ああ、こっちこそ奴らのエリアフォースカードは一度も見た事が無い。

 あのエリアフォースカード、何のアルカナなんだ?

 そもそも奴らは何者だ……!?

 

「答えないならぁーっ」

「二人仲良く、バラバラにしちゃおうかなぁーっ!」

 

 浮かび上がる影。

 天馬の如き容貌のクリーチャーの影。

 そして、獅子の如き容貌のクリーチャーの影が天に向かって咆哮を轟かせている。

 恐らくあれが守護獣だろうけど……1枚のカードから2体のクリーチャーが出てる……!?

 

「紫月。俺とダンガスティックであいつらを引き付ける……!」

「えっ!?」

「その間に……お前一人で、この皇帝(エンペラー)を使って、シャークウガの精神世界に入ってくれないか……!」

 

 紫月は一瞬だけ不安な顔を浮かべた。

 そうだ。このままだと俺はお前を守ることが出来ない。

 シャークウガへ紫月一人で行かせることになる。

 

「万が一の事があったら、って思うけど……一緒に戦おうって言った矢先なのに……!」

「……先輩」

 

 ふと。

 彼女は小指を絡めてきた。

 

「……指切りです。どっちも無事で戻るって約束をしてください。それがあれば、私は一人じゃないですから」

 

 ──そうだ。

 例え、呪いでも構わない。

 

 

 

「……ああ。行くぞ、紫月」

「……はい、白銀先輩!」

 

 

 

 彼女との約束なら、俺は──絶対に生き延びて果たしてやる。

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