学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
そして、幾つもの矢が突き刺さり、呻き声を上げるシャークウガに相対した。
変わり果てた姿。機械と化した四肢。
それでも……自分の相棒には違いないと信じ、暗野紫月は今此処に立っている。
「UAAA……!!」
「
熱を帯びる2枚のエリアフォースカード。
それをシャークウガに向ける。
「──シャークウガ。私にもまだ……出来る事があるなら……!」
──貴方を、助けたいんです。
──昏かった私の視界をこじ開けてくれた、貴方を……!
※※※
そして、俺は彼女を背中で見送り、彼らと相対した。
「こっから先は通さねえぞ!」
「ねえねえねえ、イカルス。あいつら掛かって来るよ。可哀想、どっちが強いのか分かって無いんだね!」
「守護獣だけで抑えつけられる訳がないだろう!」
獅子のクリーチャーと天馬のクリーチャーが咆哮を上げ、飛び掛かって来る。
しかし──それらを二刀流が抑えつけた。
魔力は全開。
紫月がシャークウガを助け出すまでの時間を稼ぐ。
そのためには──本気で敵の守護獣を止めるしかない!
天馬と獅子。それを迎え撃つのは、サンダイオーだ。
「っ……守護獣が変化した。相当ヤり手みたいだね。経験豊富と言ったところか」
「ずーるーいーっ! アタシ達の守護獣も変身しないの、イカルス!」
「するわけないだろ? オレがありのままの君が好きなように、オレ達の守護獣もまたありのままで良いんだ」
「やーん、イカルスったらー、こんな所で口説かないでよーっ」
「何なんだこいつら……つーか、お前ら何処のどいつなんだ!? 時間Gメンか!?」
「時間ジーメン……? ああ、可哀想なシー・ジーが配属されてたところだ!」
「シー・ジーは可哀想だったねえ。彼は優秀に作られていただけに、本当に残念だ」
「お前らシー・ジーを知ってんのか!?」
「そりゃそうだとも。彼はオレ達と同じ場所で造られたからね」
「ねーっ」
「作られる?」
何言ってんだこいつら。
それじゃあまるでシー・ジーがロボットか何かみたいじゃないか。
ああでも、60年も先の未来だったらアレがアンドロイドか何かでもおかしくないか。
……待て、おかしくないか。そもそもアンドロイドって、魔力を扱うエリアフォースカードを扱えなくないか?
「オスの方。一つ教えてやるよ。世の中には二種類の人間がいる。高貴な人間と、下賤な人間。お前達は後者だ」
「でもでもでもー、アタシ達は違うんだよーっ?」
「高貴な人間に造られたオレ達も高貴である……当然の帰結じゃないか?」
そう言い放つと共にサンダイオーの身体が吹き飛ばされた。
獅子と天馬のクリーチャーの影が徐々に姿を象っていく。
こいつら……存外強い……!
「例えば……聖なる神の使いたる天使もまた、聖なる存在であるのと同じと言う訳だ」
「傲慢過ぎて一周回って清々しいなオイ……!」
「下賤な民に意見する権利はないと思うんだけどなーっ」
「お前らの物言い……すっげー、憶えがあるぜ……!」
こいつらがロボットなのかどうかは分からない。
だけど……人を見下したこの言動は、最近にも聞いた気がする。
マリーナだ。ペトロパブロフスキー重工トップの娘……!
「マリーナと言い、お前らと言い……トキワギ機関の連中ってよ、人を見下さなきゃ気が済まねえのか?」
「マリーナ? ねえねえねえ、このオス、マリーナ様も知ってるよ、イカルス」
「所在不明の
「あ、やっべ……マジかよ」
「完全に身バレしたでありますな……まあでも、我々あれだけ暴れてるんだから今更でありますか!」
態勢を立て直したサンダイオーが二刀を振り上げる。
しかし、イカルス達の興味は最早シャークウガではなく俺達に移ったのか、顔を見合わせるとケタケタ笑いながら言い放つ。
「そうかそうか! 廃墟に住み着いてる武装勢力か何かと思ってたんだけど、白銀耀かぁ!」
「ねえねえねえ! それなら君達、レジスタンスの仲間ってことだよねーっ」
直後。
彼らの守護獣が消え失せる。
? 何のつもりだ……?
こいつら、戦うつもりじゃなかったのか?
「オイ! いきなり何なんだ?」
「武装解除だよ。お前に敵意は無いという表明さ」
「はぁ!? 今更何を──」
「だってだって、アタシ達
「……!?」
待て。
こいつら何言ってんだ?
ペトロパブロフスキー重工って、マリーナの所属してた組織だろ?
「ふざけんな! お前らトキワギ機関の仲間なんだろ! お前らが今まで俺達に何をして来たのか忘れたのか!」
「オレ達は何もしてないしなぁ、イカルス?」
「ねーっ。何もしてないよねえ、イカルス」
「そういうわけだから、冤罪を吹っ掛けるのは止め給え、人間のオス」
「……確かにそうだけど、お前らの所の技術顧問? が、色々やってくれたからな。信用できねえぜ」
「アタシ、マリーナ様嫌いなんだよねーっ」
「俺も嫌いだ。オレ達は大分苛められたからねえ」
「……あいつ、人望カッスカスなんだなあ……」
しかも全部自業自得だ。
まあ、あの性格なら無理も無いか。
「だから左遷されたようなもんだよ、技術力はあるけど二世の地位に胡坐掻いてたから、社内でも邪魔者扱いで飛ばされてたわけ。あ、でも一応トキワギの内部を探る密偵的な役割もあったんだぜ? 本人は自覚が無かったみたいだけど」
あいつなら、左遷も全部変な方向にポジティブシンキングしてもおかしくないか。
「それがまさか、物理的に首を吹っ飛ばされるとは思わなかったけどねーっ」
「……物理的に?」
「おや、知らないのかい? マリーナ様は死んだよ」
「トキワギ機関の
え?
あいつも殺されたのか!?
いやまあ、うん……シー・ジーの上司みたいなもんだったし、責任でも取らされたんだろうか。
「理由は無能だったから、の一言だったねえ。まあそれは認めるところだけど」
「でもでもでも、幾ら無能なマリーナ様でも、一応アタシ達のお母さん? みたいなもんだしー」
「まあそういうわけだから、社長は娘が殺されたという口実でトキワギ機関に攻め込もうとしてたんだけど」
「ビックリ! 向こうから攻めてきちゃったんだよ」
……成程な、やっとわかったぜ。
今の言い方だと、マリーナの人望はゼロ。
そして、トキワギ機関とペトロパブロフスキー重工は協力関係にありながらも大分ギスギスした関係だった。
更に空亡にマリーナが殺されたのがきっかけで、一触即発の関係は開戦という形で終わりを告げた……。
「つまり……戦争か。トキワギとペトロパブロフスキー重工の……!」
「下賤な民の割には理解が早くて助かるよ」
「それで俺達に協力しろってのか? 何だか煮え切らねえな……」
そもそもトキワギと繋がってた上に、きな臭さ満載のペトロパブロフスキー重工を信用する気にはなれないのだが、一応建前だけ告げておく。
「お前らはシャークウガを攻撃してきたわけだし」
「言っとくけど、むしろオレ達の方があの害獣に手を焼いてたんだけど? これから共闘を申し込む相手の近くにあんなクリーチャーが居たら、そりゃあ駆逐しないとね。オマケにエリアフォースカードまで取り込んでるじゃないか」
「あ、ああ? た、確かに、そう……なのか?」
それなら確かに筋は通る。
何も知らないこいつらは、シャークウガを攻撃してもおかしくない。
……話が通用しない連中だと思ってたけど、もしかしてもしかしなくても、
「……マスター、今何を考えているか分かるでありますよ。正気でありますか?」
「時間稼ぎだ馬鹿! そもそも、
小声でサンダイオーに囁くと俺は彼らに向き直った。
此処は和平路線でいこう。そうしよう。
「オーケー、分かった。すまなかったな。シャークウガは俺達が今どうにかしている、問題はねえよ。だからお前達は手を出さなくて良い」
「手を出さなくて良い?」
「手を出さなくて良いだってよ、イカルス」
「そうだねえイカルス」
「こいつはマフィアに改造された、俺達の仲間なんだ。すぐに元に戻る。だから攻撃しなくて良い」
「あー、そういうことかぁーっ。ねえねえねえイカルス、どうする?」
「そうだねえ、仲間を攻撃するのは良くないなあ。良くない事だ。仲間は恋人の次に大切だからねえ、仕方が無いかあ」
あれ? もしかして本当にいけそう?
良かった。後は紫月が戻って来るまで待つだけだ。
「あー、でも……一応、シャークウガを始末しろ、ってのは社長から飛んできた命令なんだよなあ」
……え?
まあ、そりゃあ命令だろうな。
「そうだよねえ、命令だったよねーっ、イカルス」
「命令は守らないとなあ、それが社長に対するオレ達の奉仕だからなあ」
「命令は絶対だからねーっ、仕方ないかなーっ」
「それって、お前らの上司からの命令なんだろ? もう一回、こっちに敵意は無いって連絡してくれないか? そしたら、向こうの気も変わるかもしれないし……」
ピシッ。
彼らの表情が凍り付いた。
まるで汚いものでも見るような眼。
それで俺を一瞥すると、
「……オイ。下賤な民。さっきからオレ達に命令しすぎだ」
「……え? ……あ」
沸き立つ天馬と獅子。
あろうことか、またもや守護獣を顕現させてきたのである。
やっべぇ、地雷踏んだかもしれない。
こいつらプライド高過ぎて……こっちの言う事に聞く耳持つ気ねえな!?
「ねえ、こんな無礼な奴、やっぱり殺しちゃおうよ、イカルスーっ」
「そうだなあ、無礼だよなあ、よし殺しちゃおうか、イカルス」
「八つ裂きにしようか」
「八つ裂きにしようよ」
「マスター、どうするのでありますか!? 不用意に発言するからーっ!」
「俺の責任だ、本当にすまねえッ!」
獅子と天馬が放つエネルギー弾。
それを撃ち落とすサンダイオー。
駄目だ! 結局元通りじゃないか──
ドシュッ
何かが突き刺さる音。
腹に衝撃が響き渡る。
そして──鈍い痛みがじん、と滲んだ。
「死んじゃえよ」
「死んじゃいなよ」
──深紅の弓矢が、俺の腹を深々と刺し抉っていた──
※※※
「っ……!」
気が付くと。
そこは辺り一面が真っ白な空間だった。
目の前には白い大理石の柱が規則正しく歓迎するかのように立ち並んでいる。
しばらく、導かれるままに進むと、目の前には巨大な神殿が立っていた。
「これが、
──パルテノン神殿、ってこんな感じでしたよね……。
何となく、柱を見やる。
特に理由は無かった。感心するような気持ちで、見回していただけだ。
ふと、その模様に違和感を感じた。
妙に不規則だったからだ。
しばらく凝視した後──彼女は己の行いを後悔した。
無数のクリーチャーの顔が、埋め込まれているかのように浮かんでいる。
思わず目を逸らした。
──人柱じゃないですか! 文字通りの!
そして、無数の目に見られているような気分になり──神殿の入り口まで駆け抜けた。
重そうな扉は、押すと思いの外簡単に開く。
「お邪魔、します……」
おずおずと頭を出す。
そこにあったのは──
「えっ……何で……!?」
──デュエマ部の部室であった。