学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR58話:奪還作戦──突入、教皇のカード

「──此処って」

 

 振り向くと、既に神殿の扉は消えていた。

 周囲は見覚えしかない部室。

 しかし、空は暗く窓の先は一寸先も見えぬ闇。

 

 

 

「来客か」

 

 

 

 そんな声がした。

 振り向くと──机の向かい側に耀が座っている。

 

「……誰ですか」

 

 それが本人ではない事は分かっていた。 

 此処はエリアフォースカードの精神世界。

 本物の彼がいるはずはない。

 

「白銀先輩の姿を借りて、私を惑わすことが出来るとでも?」

「惑わす? とんでもない。これは歓迎の意……貴方が最も信頼し、思慕する少年の姿、そして最も安らぐ空間を貴方の記憶から借りたまでのこと」

「ッ……!?」

 

 紫月は顔を赤らめる。

 何もかもが見透かされている。

 この精神世界に入った瞬間から、自分は目の前の人物に頭の中を手に取るように見られていたのだと。

 

「何なんですか貴方は!」

教皇(ハイエロファント)。私は被造主メフィストから、そう命名された」

 

 耀のような何かはそう答えた。

 それに紫月は引っ掛かりを覚える。

 

「っ……!? 守護獣ではないのですか」

「現在の我の友……我が守護獣はシャークウガである。今此処にいる私はこのエリアフォースカードの主人格たる存在である」

「……一つ尋ねて良いでしょうか。エリアフォースカードは人間との直接の意思疎通ができないと聞いていました。貴方達の仮初の人格たる守護獣が、そもそものコミュニケーションツールではないのですか」

「基本設計はそうだった。しかし、私と女教皇(ハイプリエステス)はそうではなかった。そもそも女教皇のアルカナとは知識と知恵を司るアルカナ。そして我が教皇のアルカナとは人徳を司るアルカナだ。我々は同胞も持つ自我に加え、より人に近い思考回路、そして理性を備えている」

「だから、守護獣が無くとも意思の疎通が可能なのですね」

「我が友メフィストは言った。実験は成功であった、と。私の思考は人間そのものなのだという。だが、私は……そんなものは要らなかった」

「何故ですか?」

「我が友メフィストは私に様々な感情を教えてくれた。喜び、悲しみ、怒り、楽しみ……そして、孤独の寂しさ」

 

 白銀耀の姿を借りた教皇は目を閉じた。

 

「我が友は、ある日突然私の自我を封じ込めた。そして次に目が醒めた時には……私の周りには何も無かった。此処が何処なのかも分からない。我が友メフィストの姿も無い。そして同胞たち……他の全てのカードも無かった。そして、私は外の人間と会話する手段も失っていた」

「意思の疎通が出来なくなった?」

「そうだ。外を見る事が出来ても、外へ発信する手段を失ったのだ」

「……何があったんですか?」

「今でも分からない。主は言っていた。「お前に怖い思いはさせたくはない、しばらく眠っていてくれ」と。今でも……何があったか分からないまま、世界を彷徨い続けた」

「……その間もずっと一人だったんですか?」

「いや、守護獣が居た。エリアフォースカードが守護獣を作り出すのは己の身を護る為。そして人間と意思を疎通させるため……しかし、私はあくまでも守護獣を内なる私の孤独を癒す為に作り出した」

 

 長い長い年月。

 当てもない旅路。

 教皇(ハイエロファント)がどれほど彷徨っていたのかは紫月には想像出来なかった。

 そもそもアルカナ研究会(元)会長・ファウストの父であるメフィストが生きていた時代が何年前なのかも分からない。

 ファウストでさえ人体錬成の繰り返しでかなりの年月を生き延びているのだから。

 

「……守護獣は皆、気前が良かった。気さくだった。我が友として私の孤独を埋めた。当然だ。私がそう作ったのだから」

「……」

「しかし、それは永遠ではない。守護獣は脆い。クリーチャーとの戦いで傷つき、消える。そして同じものは作れないのだ」

「……何度も、別れを繰り返してきたんですね」

「そうだ。それが、人間で言う死別というものだ。だが、その度に出会いがあった。しばらく守護獣は作っていなかったのだが……()のようなものは初めてだ。なんせ話がどれもこれも面白い」

 

 パチン、と教皇が指を鳴らす。

 次の瞬間──部室の椅子に現れたのは、

 

 

 

「オーイ、教皇(ハイエロファント)さんよォーッ、来客ってやらとの話はもう終わったのかよ? うちのマスターが大恥かいた話はまだ他にもあんだぜ、思い出しただけで笑えてきやがった、ギャーハハハハハハ!!」

 

 

 

 鮫であった。

 見覚えしかない鮫の魚人であった。

 彼はこちらの苦労も知らずにギャハギャハと笑い立てている。

 紫月は拳を握り締め、大上段に振り上げ──

 

「こんのっ……フカヒレーッ!!」

「へぶぅっ!?」

 

 ──渾身の一撃を頬に見舞う。

 哀れ深海の覇王。

 再会の挨拶は紫月渾身の一撃で〆られたのであった。

 

「何やってるんですか! 何やってんですか貴方は! 人がどれだけ心配して、このよく分からない空間まで追いかけてきたと思ってるんですか! サイテーです! クソ雑魚ナメクジコバン鮫です! そもそも私の大恥かいた話って何ですか!」

「マスター!? マスターナンデ!? 何でこんな所に居るんだアンタ!?」

「シャークウガ……貴方、自分が今どうなってるのか分かってるんですか!?」

「いやぁー、マフィアの連中に色々改造されて、意識がなくなった所までは覚えてるんだけどよ、気が付いたら此処に居た。コイツ、教皇(ハイエロファント)の主人格なんだろ? 話は分かるけど事情は分からないってんで、しゃーねえからしばらく此処に居させて貰う事にしたんだわ!」

「じゃないですよ!」

 

 紫月は今までの事を話す。

 何故か2079年の未来に連れ去られた事。

 そして耀達が未来まで追いかけてきたこと。

 加えて──改造されたシャークウガが暴走して暴れていることだ。

 

「はぁぁぁ!? 何で!? 何で俺暴れてんの!?」

「今のシャークウガは、プラスの思念のみが私の手元に置かれている状態だ。残っているのは苦痛を基軸にしたマイナスの情動。それだけが守護獣の身体に残っているのだろう」

「そんな事一言でも教えてくれなかったよなアンタ!!」

「聞かれなかったものでな。私とて、この精神世界より外の領域のごたごたにはあまり関与したくないのだ。静かに、植物のように過ごしたいものでな」

「ということは、教皇(ハイエロファント)が暴走しているわけでは……」

「ない」

「……では、暴走しているのはやはり守護獣としてのシャークウガなんですね……」

「つまり、俺がマスターの所に戻れば、俺の暴走も止まるってか」

「そうだ。だが……私としてはあまり好ましくないな」

 

 白銀耀の姿をした教皇(ハイエロファント)はすっくと立ちあがる。

 

「シャークウガが居なくなれば、私はまた一人。私とてまた孤独に戻るのは惜しい」

「……ごめんなさい。シャークウガが私の主なので」

「我が能力は支配と束縛。主に命じられれば、どんなものでも屈服させることが出来る。この世界の法律は私だけだからだ」

「っ……シャークウガ! 来ます!」

「お、おう!」

 

 思わず紫月は身構える。 

 部室を模した空間が崩れ去った。

 魔術師(マジシャン)を握り締め、デッキを取り出す──

 

 

 

「──だが、許す」

 

 

 

 教皇の言葉で、紫月は言葉を失った。

 

「……え?」

「幾ら私と言えど、他者の守護獣を縛り続けたままなのは己の理念に反するとしたまでのこと。私に「シャークウガの自我を掌握せよ」という命令をした主が死亡した今、本来の持ち主さえやってくれば彼は何時でも返すつもりだった」

 

 意外にも話が分かる教皇に、紫月は拍子抜けしてしまった。

 てっきり一戦交えるくらいの覚悟はして来たつもりではあったのだが。

 

「えと、良いんですか? 本当に……いや、こっちとしても有り難いんですけども」

「なんつーか俺、あんたに色々よくしてもらったから、お礼したいくらいだぜ」

「構わぬ。そもそも私の意思ではない。私に命令できるのは私の持ち主のみ。それが死んだ今、私は自由にして孤独の身だ」

「……本当にありがとうございます」

「お前達は……良いコンビだ。互いに信頼というものが手に取るようにして分かる。お前達を引き離そうと思った私が恥ずかしいくらいだよ」

「褒めんなよー、何にも出ねーぜ」

「シャークウガ、フカヒレ」

「ヒエッ……調子乗ったのは悪かったって」

「まあ、無理も無い。守護獣とは主の影響を受けて成長していくもの。例えば、主が最も信頼する人物の影響だとかな」

「……あー、成程。マスターもスミに置けねえなぁ」

「や、やめてください! 何で皆、そこをほじくるんですか!」

「へぶぅ!!」

 

 いじるシャークウガ、今度は張り手を見舞う紫月。

 やはり鮫の魚人はどうやっても一言多いのであった。

 

「一つ……シャークウガが戻すのに条件がある」

「条件? 何ですか」

「さっきも言っただろう。守護獣は決して永遠ではなかったと。現れたクリーチャーとの戦いや経年劣化……理由はそれだけではない。私自身の暴走だ」

「!」

 

 紫月は目を見開いた。

 こんな理知的なエリアフォースカードにも暴走があるというのか。

 信じられなかった。

 

「私の中には……()()()()()

「何か?」

「そうだ。我が友メフィストが私の自我を一時的に封じめる前と後で決定的に変わったことがある。私はそれを()と呼んでいる。魔術では解明できない怪物だ」

「それが貴方を暴走させるんですか?」

「そうだ。時折、暗闇にこの空間が覆われることがある。私の意識はその時、完全に()に呑まれる。次に目が醒めた時……守護獣は消滅してしまっている」

「マジかよ! 守護獣も巻き込む暴走だってのか!?」

()について、まだ分かる事はありますか?」

 

 紫月には思い当たることがあった。

 エリアフォースカードの汚染と自分達が呼んでいた暴走現象だ。

 

「それは、外からの人間の悪意がエリアフォースカードを汚染しているからではないのですか?」

「我々にそんな機能は無い。あるとすれば……()が外から人々の負の念、悪意を吸収し、無際限にクリーチャーを生み出す」

 

 それはさながら、宿主の腹の中から外へ卵を生み出し続ける寄生虫のようであった。

 ひょっとすれば──これまでエリアフォースカードが起こしてきた暴走も、同じものが原因だったというのだろうか、と推察せざるを得ない。

 

「……我が友メフィストが()と戦っていたのは間違いない。近くにいた私は姿を直接見ていないにも関わらず、恐ろしい気配を感じ取っていた。あれは……そもそもクリーチャーだったのか? それすらも疑わしい」

「では、()は今、貴方の中にあるんですか?」

「私だけではない。暗野紫月、お前の持っている魔術師(マジシャン)からも同じ気配を感じる」

「一体、何が居るって言うんですか?」

「勿体ぶらずに教えろよ! 魔術師(マジシャン)はそんなモンが居るって言った事ねえぜ!」

「だろうな。それはエリアフォースカードの深層も深層に封じ込められているのだから、普通ならば守護獣では知り得ない」

「そうなのか!?」

「今調べた限りだがな。他の同胞(エリアフォースカード)の設計は全て頭に入っている。軽く見通せば何処に()()が居るかだけでも分かる」

 

 紫月は軽く恐怖を覚えた。

 エリアフォースカードの精神世界は踏み込んだが最後、本当に相手の土俵だったのである。

 そこではありとあらゆる隠し事は通用しない。

 人間や守護獣だけでなく、エリアフォースカードでさえも。

 

「……奴の詳細はやはり分からない。魔術で解明できるレベルのものではない。唯一つ言えるのは……それを封じ込める為に我が友メフィストは私の自我を一時的に封印したのかもしれない」

魔術師(マジシャン)にも同じものが封じられていると?」

魔術師(マジシャン)どころか……これだけ大きなものならば、他のカードにも奴は封印されているのだろう。恐らくエリアフォースカードに22分割しなければ手に負えない、悪意の塊だ」

「……それと、シャークウガを元に戻す事とどうつながるんですか?」

「何、簡単な事。貴方程のデュエリストならば──私を覆う黒い影を抑え込むことは出来るはず」

「え?」

 

 次の瞬間──そこには巨大な扉が現れていた。

 扉には幾重にも鎖が巻き付けられており、それがみしみしと軋んでいた。

 

「……奴は不定期に力が増す。その前に、先にこちらから叩くのだ。そうすれば、私は再び穏やかに過ごすことが出来る。……やれるか?」

「マスター。どうする? 結構無茶苦茶な要求だとは思うけどな」

「どうするもこうするも──私は貴方と一緒に帰りますよ、シャークウガ」

「……ヘッ、そう言うと思ったぜ」

 

 紫月は既にやる気だった。

 その手には、魔術師(マジシャン)のエリアフォースカードが握られている。

 最初からそのつもりだ。

 相棒と一緒ならば──今は何でも出来る気がした。

 

「シャークウガ。私は……貴方を助けますから」

「じゃあ俺は、その分マスターを守るぜ! どっちかが背負いっぱなしとか、ぜってーにナシだからよッ!」

「では──開くぞ」

 

 教皇の姿が消えた。

 その時、鎖が全て解き放たれる。

 扉が開いて、黒い靄が隙間から噴き出す。

 シャークウガは一目見てそれを「まずい」ものだと感じ取った。

 

「何ですか、これ──!?」

「分かんねえ! 俺の分析に全く引っ掛からねえ! こいつ、クリーチャーなんてもんじゃねえ──」

 

 その時。

 シャークウガの身体に黒い靄が圧し掛かる。

 思わず紫月は手を伸ばす。

 

「シャークウガ!」

「う、ぐおおおお、き、きもちがわりぃ、胸焼けする……!!」

 

 胸の中をぐるぐると渦巻く黒い感情。

 憎悪。嫉妬。そして怒り。

 ありとあらゆる負の念がシャークウガを絡め取っていた。

 しかし──

 

「マスター! 迷わずデュエルを挑め! 俺は──どうなっても、あんたを助けっからよ!」

「っ……でも!」

「進め、マスター! 勝つぞ、この戦い!」

 

 その叫びは、心なしか耀に重なって見えていた。

 ああ、そうだ。

 彼もまた──自分を逆境の中で鼓舞してくれる存在なのだ、と彼女は自覚する。

 扉の奥深く底で怨嗟を込めたような悲鳴が精神世界全部に木霊した。

 紫月の胸も息苦しくなっていく。

 

 

 

 アア、マサカソッチカラ、アイニクルナンテ……!

 

 

 

 コッチニ、オイデェ……

 

 

 

 ニドトカエリタクナクナル、ゴクラクジョウドダ……

 

 

 

 フンヌ、ゾウオ、ヒアイ、スベテ……ワスレテシマオウカ──!!

 

 

 

 

「……それでも、私は──帰るんです! みんなと一緒に! 白銀先輩の元に!」

 

 色を失っていたはずのエリアフォースカードが強く煌いた。

 それを高く掲げる──

 

 

 

魔術師(マジシャン)、起動!」

<Wild……DrawⅠ……MAGICIAN!!>

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