学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR60話:奪還作戦──俺は覇王、シャークウガ

 ※※※

 

 

 

「キャハ、キャハハハハハハ、キャハハハハハ、オイデェ……オイデェ……!」

 

 

 

 向かい合い、相対するだけで息が苦しくなる。

 気持ちが悪く、吐き気が込み上げて来る。 

 空間には酷く暗い靄が掛かっていた。

 ──紫月と謎の影のデュエル。

 手札を見るなり、紫月は違和感に気付く。レジスタンス拠点で借りたデッキとは明らかに中身が違う。

 手札は青一色。

 もっと言えば──サイバーオンリーであった。

 

「聞こえるか、暗野紫月」

「っ……教皇(ハイエロファント)!?」

「奴を封じ込めるのに相応しいデッキだ。私は貴方がどういうデュエリストかを見ている。故に──貴方なら扱えると信じて託そう」

「信じるも、何も……」

「そして──己の中の信じたいものを、手放すな。奴の狂気に……呑まれるなよ」

 

 そこで声は途切れた。

 デッキはムートピアや墓地ソースですらない。

 手札にあるのは種族に「サイバー」とあるカードばかり。

 ──この手のデッキは扱ったことはないわけではありませんが……久々過ぎて上手く扱えるかどうか……! そもそも何故、サイバーなのでしょう……?

 手札にあるカードは重量級のサイバー・コマンドばかり。

 《サイバー・I・チョイス》や《サイバー・G・ホーガン》といったカードだ。

 軽減、踏み倒し無しでこれらのカードを出すのは今の環境では難しい。

 とすれば考えられるデッキは一つしかない。

 

(──恐らく切札は《超電磁トワイライトΣ》……! 場のサイバーとある種族のカードを好きな数手札に戻し、その数だけサイバーを踏み倒すカード……!)

 

 それを使えば、サイバーを使ったコンボはほぼ無限に作ることが出来る。

 ──しかし、どうやって勝つ? デッキの中身も分からないのに?

 そんな不安がよぎった。それによって、手札の取捨選択も難しくなってくる。

 

(随分と無茶な指示……! 初手の手札だけで、サイバーデッキの勝ち筋、構築を推理して、勝て……!? 私が回した事の無いデッキだったらどうするつもりだったんですか……!)

 

 いやでも、と彼女はそれを否定する。

 

教皇(ハイエロファント)は私の記憶を見たといった……私に出来ない事はさせないということ……はっ、そこまでお見通しですか。良いでしょう。それは私への挑戦と受け取りますよ!)

 

 手札を見やる。

 正直、自分の記憶にある限りトワイライトΣはかなり前のめりの構築だ。

 大型サイバーと小型サイバーのコスト差が極端で、しかも走り出しが遅い。

 

(そもそも初動である《アストラル・リーフ》こそあるものの、肝心の進化元である《マリン・フラワー》は無い以上、手札補充が出来ません……耐え凌げるだけの耐久力はあるんでしょうか……!?)

 

 そもそも、サイバー自体あまり使った事の無いデッキだ。

 種族がムートピアですらないので、シャークウガを手に入れてからは猶更使ったことが無い。

 ──考えなさい、考えるんです暗野紫月……! 落ち着いて考えれば、必ず活路は開けるはず……!

 

「オモシロイオモシロイオモシロイ!」

 

 互いにドローゴーしていたものの、遂に3ターン目。後攻の黒い影が大きな口を開けると、クリーチャーが現れた。

 

「キャハハハハハ、キャハ……キャハハハハ……!」

 

 紫月の額に汗が伝う。現れたのは人形のガンマン。《単騎連射(ショートショット) マグナム》だ。

 トリガー頼みだったこの状況で、よりによってトリガーを禁止するカードだ。

 

(このままでは、まずいのは確かですが……!)

 

 出来る事が少ない現状は、相手の戦力を削ぐことに注力するしかない。

 4枚のマナをタップする。

 

「──ならば、サイバー最強のカードを教えてあげましょう。《パクリオ》召喚」

 

 《パクリオ》の持つ巨大な鍵が影の手札に突き刺さる。

 紫月の手札にはこのカードが2枚握られている。

 相手がビートダウンならば、これでテンポを奪うしかない。

 

「相手の手札を見て、そのうちの1枚をシールドゾーンへ送り込みます。封じ込めますよ、貴方の戦略を」

「ミルノォ? ワタシノ、キオク──」

 

 手札が表を向く。

 その瞬間だった。

 黒い靄が紫月の視界を覆う。

 何が起こったのか彼女には分からなかった。

 気持ち悪さが込み上げて来る。何かが脳裏に迸るようにして駆け巡る。

 

「んッ、ああ……!? こ、れ、はぁ……!?」

 

 身体が崩れ落ちた。

 

 ブラクラのように何度も光が消えては着いてが繰り返す。

 

 

 それは、常軌を逸した何かだった。

 

 人間には理解できない何かだった。

 

 見た事もない星々。宇宙の光景。

 

 ずっと、ずっと、ずっと。永遠にそれは──孤独であった。

 奴の見てきた長い長い歴史のほんの一端。

 享楽的で、破滅的な狂気の歴史。

 ありとあらゆるもの全てを焼き払う、脳裏に浮かぶ狂気。

 

 言うなれば。CDドライバーに巨大なレコードを挿し込んだ、と形容するのが相応しい。

 

 少なくとも、人の精神で直視に耐えるものではない。

 

 

 冒涜的なナニカが紫月の中に入り込もうとする。

 

 

 

「おっ、えぇえ……!!」

 

 

 

 びしゃびしゃ、と腹の奥から込み上げてきた何かを手で押さえた。

 口の中が苦く、酸っぱい。

 正気を保つので精一杯だ。

 

「あっ、ぐう……! ひきょう、もの……!」

「キャハハハハハ、キャハ、キャハハハハ、コレハ……記憶……アタシノ、記憶、ダカラネェ……!」

「ふざける……なっ!」

 

 開示された手札を見るため、紫月は口を拭うと顔を上げた。

 

「落ち着け……落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け……私……!!」

 

 時分に言い聞かせるように紫月は呟き続ける。

 

「手札を……ッ!!」

 

 表向きになった手札は3枚。

 《ジャック・アルカディアス》に《龍装者 バルチュリス》、そして《龍装チュリス》の3枚。

 ──カードからして、相手が赤単革命チェンジであることは明白ですが……!

 問題は、チェンジ元であるドラゴンギルドのビートジョッキーが2体、相手の手札に握られている事だ。

 どちらを落としても、チェンジ先を引かれたら相手は襲い掛かって来る──

 

(一見、チェンジ元を落とすのが最適には見えます。《龍装チュリス》が出てくれば、相手はすぐさま走って来る──)

 

 だけど、と彼女は続けた。

 それは普通のデッキであればの話だ。

 

(相手には《ジャック・アルカディアス》を出して、私のサイバーを破壊するという選択肢がある……!)

 

 《バルチュリス》と《龍装チュリス》のどちらを選んでも、マナが溜まれば相手は革命チェンジしてくることは間違いない。

 ならば、彼女のやることは決まっていた。

 

「《ジャック・アルカディアス》をシールドへ」

(どうせ、この状態で《ドギラゴン剣》でも出てくれば私は終わりです)

 

 ならば、場のサイバーが生き残る方向に舵を切る。

 やり直しがきかない。負けられない戦い。

 故に──彼女は、己の退路を断つ。

 

(覚悟とは、逃げない事……! 逃げた先が良いとは限らない。ならば、より勝利に近い方をリスクが高くともとるまで……!)

「アソボウ? ネエ、アソボウヨォ、アタシトイッショニ、アソボウ……!!」

 

 3枚のマナがタップされた。

 《龍装チュリス》か? と疑った彼女だったが──違う。

 呪文の詠唱だ。

 突き刺さる三本の槍。

 それが炎に包まれた──

 

 

 

「──焼キ、ハラエェェェ、《瞬閃と疾駆と双撃の決断(パーフェクトファイア)》!」

 

 

 

 二又の槍が《マグナム》を突き貫く。

 紫月にとっても見た事の無い呪文だ。

 

「っ……何ですか、それ……!」

「キャハハハハ、キャハハハハハ……!」

 

 早撃ちの弾丸。

 それが彼女のシールドを砕き割った。

 更に──《マグナム》が再び起き上がり、銃口を向ける。

 

「アンタップした!? クリーチャーを2度攻撃させる呪文ですか!」

 

 言い終わらない間に二度目の弾丸がシールドを貫いた。

 砕け散る盾を横目に、彼女は更なる追撃を前にして腕で顔を覆う。

 

「デテキテェ……《バルチュリス》……!」

 

 S・トリガーは無い。

 あっても、恐らく発動できない。

 これでシールドは残り2枚。

 《単騎》のプレッシャーに加え、何時革命チェンジが来るか分からないという恐怖が襲い掛かる。

 ──革命チェンジを発動させたら終わり……ゲームオーバー……!

 そうでなくとも、相手の手札にはまだスピードアタッカーが残っている。

 

「私のターン、《パクリオ》を召喚! 《龍装チュリス》をシールドに埋め込みます!」

 

 不安。

 焦り。

 それが心の中に募っていく。 

 相手の戦略は順々に封じている。

 しかし──今のままだと、いずれ押し切られてしまいそうな気がした。

 

「キャハハハハハハ! タノシイ! タノシイ! タノシイ!」

 

 三匹のネズミの龍装者がシールドを打ち壊す。

 破片が降りかかり、彼女の身体を刺した。

 肉体は無いはずなのに、激痛が襲い掛かる。

 恐らくは──精神に直接ダメージを負っているのだろう、と紫月は分析する。

 だとすれば、いつものデュエルよりもタチが悪いかもしれない。

 

「は、はぁ……!」

 

 痛い。

 苦しい。

 そんな感覚がずっと付き纏っているようだ。

 ずっと生きている心地がしない。

 それどころか、脳裏にはずっと先程の光景がチカチカしていた。

 誰か分からない無数の人の顔が、ずっとフラッシュバックする。

 

「キャハハハハハハァーッ!」

 

 更に──《マグナム》の弾丸が彼女のシールドを破壊した。

 

「トリガーっ……!」

 

 降りかかるシールドの破片を浴びた時。

 手に光が収束する。

 そこにあったカードは──

 

「えっ、シャークウガ!?」

 

 しかし、それは彼女の知るものではない。

 上は水文明。

 下は闇文明の呪文。

 つまり、ツインパクトのカードだった。

 イラストは、マフィアに改造されたシャークウガの姿そのものだった。

 

「シャークウガ、大丈夫ですか……!?」

「やっべぇな……どうやら外で暴れてる俺の姿が、此処にいる俺にも反映されてやがるみてえだ……!」

「じゃあ、暴走を!?」

「かもな……俺を出したらヤベェことになるかもしれねえ……!」

 

 シャークウガはそんな不安を漏らす。

 しかし、紫月は首を振った。

 

「その時は、私も一緒に地獄に落ちますよシャークウガ」

「……マスター、だけどよ……!」

「正直、貴方を次のターンに出すしか勝ち目はないように思えるんです」

「そしたらアンタもヤベェ!! 俺は、それを望まねえんだよ!!」

「シャークウガ。何時も一緒に居てくれてありがとうございます」

「っ……」

「貴方が私の周りを賑やかにしてくれたこと、感謝してるんですよ」

「馬鹿野郎ォ! 冥土の土産みてぇに言うんじゃねえよ! 縁起でもねえ!」

「……貴方も、白銀先輩と同じことを言うんですね」

「……当然だろ。俺だって……あいつの影響、大分受けちまったもんよ。マスターがあいつに惚れるの、分かる気がするぜ」

 

 紫月はもう、否定しなかった。

 微笑み、頷く。

 

「シャークウガ。貴方と私は一心同体です。貴方が苦しむなら、私も一緒に苦しみたいんです」

「……マスター」

「私も一緒に戦います……シャークウガ!」

 

 目を開けば、そこには相変わらず黒い靄とそのシールドがあった。

 場には2体のクリーチャー。

 こちらのシールドはゼロ。次の攻撃を通すことは許されない。

 

「キャハハハハハッ! ネエ、モット、アソボウ? アソボウ? コッチニ、オイデェ──!」

「……悪いですが、そっちにはいけませんよ」

 

 彼女は決めていた。

 どんなに進む先が困難に覆われていたとしても。

 引き返さないと決めたのだ。

 

「私は……大事な人と、未来を変えます!」

 

 6枚のマナをタップする。

 今まで灰色だった魔術師(マジシャン)が色を取り戻す。

 

「っ……いきますよ。6マナで《パクリオ》進化──《超電磁トワイライトΣ》!」

 

 その能力は、場の「種族にサイバーとあるクリーチャー」を手札に戻し、その数だけサイバーを手札から場に出す能力。

 しかし、今の紫月が持つカードにこの場を打開できるカードは無い。

 ──リスク特大のただ1枚を除いて!

 

「《パクリオ》を手札に戻し、手札から──このカードを──!」

 

 シャークウガのカードをバトルゾーンへ投げ入れる。

 実体化する鮫の魚人。

 そこから、黒い靄が一気に噴き出す。

 それが紫月を飲み込んだ。

 脳裏に焼き付いた光景が浮かび上がる。

 見た事の無い宇宙。

 そして、それは迫りに迫り──青き地球に辿り着く。

 

「こ、れはぁっ……!」

「奴の、頭ン中の光景かよ……!」

 

 痛みと苦しみを引き金に、それは現れる。

 次々に現れて消えるのは人の顔。

 しかし、それはどれもこれも怖くて──目を瞑ってもまた浮かんでくる。

 

「は、あ、あ……ぐっ……ぅっ……!」

 

 頭を抑え、膝を突く。

 助けてほしい。

 誰かに助けてもらいたい。

 

 ──みづ姉?

 

 気付いたその時。

 脳裏には──翠月の背中が浮かんでいた。

 呼ぶと振り返りそうな程に、後ろ姿は似ていた。

 しかし、呼ばない。

 紫月自身も振り返らない。

 そこに──翠月は居ないと知っているのだから。

 

「みづ姉はずっと前から、あの人なりの道を進むって決めていた……昔の私はみづ姉の脚を引っ張るだけだった……!」

 

 でも、今は違う。

 紫月には、見なければならない道がある。

 一緒に進まなければいけない人がいる。

 

「私にも……進むべき道がある……! どんなに苦しくても、辛くても……! 守らなきゃいけない人がいる……!」

 

 一歩。

 そして、また一歩進む。

 黒い靄を噴き出し続ける鮫の魚人を──抱擁した。

 

 

 

「一緒に、一緒に前へ……シャークウガ、貴方は私、私は貴方……一心同体なんです!」

「U、UUU……ウォオオオオオオオオオオオオオオオーッ!!」

 

 

 

 叫び声が、黒い靄を吹き飛ばした。

 シャークウガの瞳が赤く、強く光る──

 

 

 

「俺は……暗野紫月の守護獣……深海の覇王、シャークウガ様だァァァーッ!!」

 

 

 

 その声を合図に。

 彼女は魔術師(マジシャン)のカードを握り締めた。

 タロットカードのイラストに、闇文明のマークが小さく刻まれていく。

 

「シャークウガ。水が形を変えても本質は同じように……姿を変えても──貴方は貴方ですから!」

 

 バトルゾーン一面は海と化す。

 濁り落ちる水面。

 その中央にその魚人は降り立つ。

 

 

 

「昏き底より始まりの海へと還しましょう──統べるのは貴方、《堕悪の覇王 シャークウガ》ッ!」

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