学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第4話:漆黒の美学─紫月の師匠

 隠れ家、と言うべきか。 

 普段は離れ離れの場所に住んでいる彼らは有事の際のみそれぞれが集まる拠点のようなものを幾つか有していた。

 と言っても、それでも同胞全員が揃う事は少ない。 

 現に、今此処にいるのはたったの3人であった。 

 1人はだぼだぼの白衣を纏った少女。もう1人は見上げる程の大巨漢。

 そして今、この場に足を踏み入れた『灼炎将軍(ジェネラル)』の異名を持つ少年・火廣金 緋色の3人だ。

 

「エリアフォースカードで間違いない。よくやったな、ヒイロ。こいつはお前が持っておけよ」

「ありがたい、トリス」

 

 少女が、火廣金に白紙のカードを手渡した。

 乱雑な言葉遣いが目に付く彼女だが、その瞳には豊かな経験と知識による落ち着きがあった。

 

「だが、このカードはハズレだ。俺に適合しない。まだ顕現こそしてないが、アルカナの種類が明らかに違う」

「だろうナ。しかし──何故、1枚しか回収しなかっタ?」

 

 大男が火廣金を睨み付ける。

 彼は肩を竦めた。

 

「単純に魔力不足だ。一度戦っただけでかなり持っていかれる。連戦は……不利と思って良いだろう」

「お前は持久戦には向いてないからな」

「だとしても、雑魚相手には大分持つだろウ。やはり、エリアフォースカードは魔導司に匹敵するだけのマナを保有しているのだナ」

「だからこそ、俺も万全を期すことにする。『灼炎将軍(ジェネラル)』に敗北は有り得ない」

「頼もしい限りダ、ヒイロ」

「今回の戦闘も念入りに練った下準備と調査の下の勝利。次も俺が勝ちとる」

 

 襟首を直すと、彼は言った。

 

 

 

「――”B・A・D(バッド・アクション・ダイナマイト)”な殲滅作戦……決行日は近い」

 

 

 ※※※

 

 

 

 火廣金にボコボコにされ、エリアフォースカードを奪われた次の日。

 俺は、紫月の言う特別なゲストとやらに迷惑をかけるわけにもいかないので出向く事にした。

 まだ敗北の傷は癒えない。しかし、あの紫月がわざわざ連れていくと言うのだ。只者ではない気がする。

 俺は期待半分、不安半分を胸に久々の遠出をすることになったのだった。

 というのも――

 

『隣の県までの電車代とデッキ、カードは用意していってください』

 

 とのことだったので、それなりの準備をしなければならず。

 肩掛け鞄にデッキは勿論だが、余裕を持った金銭を詰めた財布、その他遠出に役立ちそうなものを幾らか入れて家を出る。

 このように、バタバタした準備を終えた俺が抱いた疑問は1つ。

 紫月の奴、俺達を何処まで連れて行くつもりなんだ。

 そんな疑念を抱きながら、俺は駅のホームに着いたのだった。

 

「先輩、来ましたか」

「Good morning,アカル!」

「これで全員、揃ったな」

 

 おっと……どうやら本当に全員集合らしい。

 言い出しっぺの紫月は勿論の事、ブランに桑原先輩までもがプラットホームに立っていた。

 

「桑原先輩まで……すいません、今日は俺達に付き合わせちゃって……」

「構わねぇよ。後輩のピンチだ。少しくらい、先輩に恩返しさせてくれ」

 

 とのこと。本当に義理人情に厚い人だと思う。

 

「しかし遅かったですね、先輩」

「こうして間に合ったんだから良いだろーが。色々準備があったんだよ」

 

 ぶっきらぼうに返した俺。

 正直な所、少々かったるかったのもあるが。

 

「つか、ゲストとか言った割には俺らが訪ねに行く方向性なのな」

「仕方ないのですよ」

 

 言った彼女は呟くように言った。

 

「私の”師匠”は気難しい人なので」

「師匠、って……前にお前が言っていた、あの?」

「はい」

 

 そういえばこいつ、デュエマを教えて貰った人がいるって言ってたな。

 ただでさえ強い彼女にデュエマを教えたのだから、その師匠もとても強い人物なのだろう。

 

「ほう、紫月にそんな人物が居たのか」

「桑原先輩には初めて話すんでしたね」

「ああ。ゆっくり聞かせてくれ」

 

 そうこうしているうちに、電車がプラットホームへ走ってやってくる。

 

「どうやら、続きは電車の中……ってところだな」

 

 

 ※※※

 

 

 

 電車に揺られながら、俺達は紫月から師匠なる人物について聞いていた。彼女は何故か、その師匠の名前を出す事をしない。だが、その代わりに様々な情報を俺達に教えた。

 どうやら師匠という人物は今は美大に通っているらしく、そのために従妹の家に下宿させて貰っているとのことだった。

 そして、かつては凄腕デュエリストで、変わり者で美学を愛し、闇に愛された男だと言う。

 

「あまり触れられたくないようで、私も突っ込んで調べた事や聞いた事はないのですが……どうやら、元はデュエリスト養成学校に通っていたみたいなんです」

「デュエリスト養成学校?」

「はい」

「プロの競技プレイヤーを目指す生徒が通う学校、ですヨネ?」

 

 デュエル・マスターズの競技化は此処数年で進んできている。

 だからか、プロのデュエリストを目指している少年少女プレイヤーも多いという。

 最も、それは長い長い書類審査と実技審査を小学生の頃に通らなければならない中等一貫性の学校で、俺達にとって彼ら、彼女たちは雲の上の存在なのだ。

 

「なのに、何でデュエルの道を捨てて美術の道に……?」

「さあ? 人の過去を私はわざわざ詮索することはしないので」

 

 彼が何故、紫月の……ひいては俺達の住む町にやってきたのかは今となっては分からない。現に紫月も、彼がどういう人物だったのかはよく分からないと言うし、敢えてその過去は調べなかったらしい。

 その後も、彼女の口から師匠の話は続いた。

 紫月にとっては今の自分のデュエルを形成する相手であり、同時にいつかは超えるべき壁。一度も本気の師匠に、彼女は勝てなかったと言うのだった。

 それを彼女は悔しく思っている。それに加え――

 

「……全く、気障にも程があると思いませんか? 『貴様のデュエルは美しい』なんて訳の分からない事を言ってみづ姉を口説くんです、あの年下好き」

「いや、それは口説くとはちょっと違うような」

「口説いてます。みづ姉、愛読書が少女漫画ですから。……それもベタで古風な。だから、ホイホイ顔だけ良い男に着いて行かないか心配なんです」

「お前のシスコンも大概にしろよ」

『ははは、マスターのシスコンはもう持病みてーなもんだから、治そうと思って治せるもんじゃねーよ、ギャハハハ』

『何笑ってるでありますかコイツ』

 

 どうも感性が少々変わった人なのは否めない事実だ。

 美しいデュエルってどういうことなんだよ、本当。

 紫月曰く、顔は良いらしいけど、変人である可能性は高いっていうか確実だぞ。

 

「ちょっと顔が良くてデュエマが強いからって自己陶酔に浸りすぎなんですよ、師匠は」

「な、なあ、紫月よ。そろそろ、テメェの師匠ってのがどういうデュエルをするのか聞いておきたいのだが」

「基本は闇を使ってましたね。ただし、ゲームが終わる頃には相手の場も手札も全て破壊し尽くされていますけど」

 

 闇文明。

 カードを破壊し、破壊し、破壊することに長けた文明だ。

 クリーチャーのみならず手札を墓地に送る戦法は、相手の戦略そのものを破壊する。

 その一端は、ブランの墓地退化デッキにも表れてはいるが、純粋な闇デッキは更にそれらが研ぎ澄まされているのだ。

 

「恐ろしいな……何だその説明」

「だって文字通りですから本当に」

「でも、紫月は水使いになったんだな。何でだ?」

 

 俺が何となく投げかけた質問。

 それに彼女は俯いてしまった。

 

「……別に、深い意味はありませんけど」

『水だけに?』

「シャークウガ、フカヒレにしますよ」

『ヒエッ……』

 

 フカヒレという言葉に過剰に反応するシャークウガ。

 デュエルの外では有能な彼が、ヘタレる数少ない瞬間であった。

 

「そしてもう1つ……先輩、あのカードをデッキに入れてないでしょう」

「あのカード?」

「はい。《ナッシング・ゼロ》まであるのに、なぜ入ってないんですか?」

「……あー」

 

 俺は全てそれで察した。

 そして同時にそれは、俺にとっても如何ともし難い問題だったのである。

 

 

 

「ジョーカーズのマスターカード、《ジョリー・ザ・ジョニー》ですよ」

 

 

 

 俺は頭を抱えた。トップレア、マスターカード。同時に、《ジョリー・ザ・ジョニー》は言うまでもなく最強クラスのジョーカーズだ。

 しかし、俺は色々あってそれを持っていない。手元に1枚も、だ。

 頼む。それを言ってくれるな。

 俺だって好きで入れてないわけじゃないんだ。

 

「……手に入らねえんだよ」

「え? ですが、あのカードは箱を買えば2枚、確実に手に入る代物……」

 

 確かに封入率は改善され、レアカードが手に入りやすくなったという。

 箱とは、要するにパック1BOX分。大体30パック分入っているセットの事だ。

 今期ではマスターカード2枚は箱を買えば確実に手に入るというのだ。

 しかし――

 

「――入ってなかったんだよ」

「え」

「それって、どういうことデスカ?」

「そもそも俺、レアカード運が壊滅的にねえんだよ。当たっても大抵ハズレアか持ってるカードにミスマッチなカードだし……俺去年何回《D2G ゴッドファーザー》当てたと思ってんの?」

「……で、でも、それと今回の件は――」

「ああ、関係ない。関係と思いたかったよ」

 

 悪いが俺は、「デュエマにいらないカードなんかない! 1枚1枚すべてが大切なカードだ!」と、笑顔で笑って言えるほど聖人ではないぞ。

 現実問題で言えば、このように擁護しようのないスペックのカードがあること、そしてそれが大量に当たった俺の心境はお察しだ。売ろうと思っても1枚10円、酷けりゃ1円くらいでしか引き取ってもらえないのでよっぽどである。

 

「そんなレアカード運の無い俺だけど、箱買ったらトップレアが確実に手に入ってるっていうじゃん。しかも2枚。だから今回は買ったんだ。そしたら――」

 

 剥いた30パックに、《ジョリー・ザ・ジョニー》の姿は無かった。

 俺はどうしようかと頭を抱えた。販売元かカードショップにクレームでも入れてやろうかと思ったが、もうそんな気力もなく、運が悪かったということで済ませたのである。

 

「だって……証拠も何も無いのに、そんなこと言ったら悪質なクレーマー呼ばわりされそうじゃん……ただでさえ俺、色々問題抱えてるのに、もうこれ以上は無理だったから……仕方なく泣き寝入りすることにしたんだよ……」

「でも《デットソード》はその時に当ててるんですね」

「それはもう、運が悪いって問題じゃないデスヨ……」

「災難だったな……白銀」

「その割には《シャークウガ》は山ほど当たらなかったんですね」

『おい待てやマスター、どういう意味だ』

「まあ、切札、エースが足りないというのは1つの問題ですね。後はそれを手に入れる為の運」

 

 俺は溜息をついた。

 あまり物事を運で片付けるのは嫌いなので、避けているのだが……諦めて泣き寝入りした俺も悪いし。

 それに、レアカード云々の問題ではないと俺は思っている。というのも――

 

「それになあ、幾らデッキを強化しても、また3ターンキルされたらって思うと……」

「さあ? それも単純に運が悪いだけな気もしますけどね」

「運が悪い?」

「そもそも、幾ら速攻デッキと言えど毎回毎回3ターンキルを決める事が出来るわけではありません。事故る事もありますし。その点から言っても運が悪かったというべきでしょう」

「……釈然としねえ……」

 

 とはいえ、紫月の言う事には一理あった。

 3ターン目にあのムーブをするには、《ダチッコ・チュリス》や《スパイク7K》を3ターン目に出して、尚且つ1ターン目2ターン目にクリーチャーを出していないといけないから……正直、そんなに成功しないと思うな。

 1コストクリーチャー引けなかったら、その時点で3ターンキルは無いわけだし。

 

「それを頭に置き、尚且つ対処法さえ抑えていけば勝ち目はまだあります。《ダンガンオー》による最速キルターンは4ターン。更に、《チョートッQ》と《ナッシング・ゼロ》を組み合わせれば、最短3ターンでキルすることも可能ですし」

「成程な。相手よりも速くこちらも撃破しに行くということか」

「まあ、手札にパーツが全部揃わないと微妙ですが、こちらには手札補充の手段として《ニヤリー・ゲット》があるのでまだマシです。そして、コレは相手にも言えることで、先輩の話では、相手は《スパイク7K》を切り札にしたビートジョッキー速攻ですが……」

「そうだな」

「《ニヤリー・ゲット》のような高速手札補充のある先輩と違い、ビートジョッキーにはそういったものが少ないので、イカサマでもしなければそう何度も3ターンキルは決められるものではないのです。8枚シールドトリガーを積んでいる先輩のデッキなら、どれか1つが発動する可能性もあります」

「!」

 

 成程。

 それを考えると、まだ勝機はある。

 速攻は1ターン目からクリーチャーを出す以上、手札切れも激しいしな。

 

「マスターは今までのデュエルを見るに、勝負運はそこまで悪くないのでありますよ」

「今回ばっかりは、本当に運が悪かったとしか。だから、そこは前向きに捉えるしかないですよ」

「あ、ああ……」

 

 そして、と付け加えるように紫月は言った。

 

「そして先輩にもう1つ足りないのは、経験です。強い人とのデュエマで、プレイヤーの腕は磨かれます。恐らく、師匠は長年の私にとっての壁ですが、先輩にとっても大きな壁に成り得るでしょう」

「私達もシヅクの師匠と戦ってみたいデス!」

「そうだな。俺も同感だ」

「……そんなもんかねえ……」

 

 まあ、そんなこんなで電車が目的地に着く頃には、もう昼になっていた。

 近いとはいえ、電車で隣の県まで来たのだ。ブランがくかー、と電車の中で寝てしまっていたり、桑原先輩が紫月にデュエルで負かされて凹んでいたりと色々あったが……一度駅のホームに降りてしまうといつもとは違う街並みにブランは目を輝かせてたり、桑原先輩は絵の題材になりそうな場所は無いかとか好き勝手に言ってたり、テンションが上がっているのが目に見えて分かった。

 

「あんたら今回の目的分かってるよな!?」

「いやあ、すまない。こうして出掛ける事自体が少ないものでな……だが、見たことのない景色を見ると、俺の中の芸術が騒ぐ」

 

 芸術が騒ぐって何だよ、本日のパワーワードだよ。

 

Sight seeing(観光)?」

 

 おめーのはもっとダメだろ、何しにやってきたんだコイツ。

 

「ちげーよ迷探偵」

「ともかく、師匠が下宿している家に行くとしましょう」

 

 そういった途端、紫月の腹がきゅう、と可愛らしい音を鳴らした。

 流石の彼女も仏頂面のままではあるものの、耳が真っ赤になっていた。

 

「……」

『その前に腹ごしらえだな、マスター』

「シャークウガ、フカヒレ」

『俺悪くないよな!?』

「まあ、お昼ですし何処か近くにお店が無いか調べてみマスネ」

「此処は街中なので幾らでもあると思いますよ」

「賛成。いい加減俺も腹減ったぜ」

「そうだな。何処かに良い店があれば良いんだが」

 

 

 ※※※

 

 

 

 昼飯を近くの手頃そうなファミレスで軽く済ませた後、俺達は紫月が師匠に送って貰った地図を元に目的の家に向かっていた。

 

「……で、此処ですね」

 

 見上げると、そこには2階建ての一軒家があった。

 どうやら、この家の長男が就職するのに家を出たので部屋が空いていたらしく、紫月の師匠はそこを貸して貰っているとのことだ。

 表札には『小鳥遊』とあった。

 

「コトリ……ユウ?」

小鳥遊(たかなし)、ですよブラン先輩。変わってるのから、逆に有名な苗字です」

「そうなんデスカ? 日本の苗字はややこしいデス」

「おめー何年日本に住んでんだよ……」

「何だろう……俺の中の芸術が、共鳴しているような……この……吹いてる……風……確かに……」

「桑原先輩落ち着いて」

 

 割と常識人な方だと思ってたけど、ほっといたらだんだんこの人も頭のおかしいことを抜かしだしたぞ。

 インターホンを鳴らすと、すぐさま扉の奥から誰かがやってくるような音が鳴り――開いた。

 

「はーい、誰でしょうか……ゲッ……」

 

 飛び込むように玄関から現れた少女は、俺達の顔を見るなり青褪めたような表情を浮かべる。

 黒髪がショートボブの少女だった。

 そして、「えーっとどちら様方?」とおずおずと言う。仕方ないので、一応責任者である俺が前に進み出た。

 

「そっちに下宿してる大学生の……えーっと……紫月、名前なんだっけ」

「まだ言ってませんでしたっけ」

「聞いてないよ、師匠としか」

「そうでしたっけ」

「とぼけんなや」

「え、いや、”あいつ”はその……」

 

 言い淀む少女。

 するとすぐさま声が響いた。

 

 

 

「来たか」

 

 

 

 低い、男の声だった。

 少女の背後に立つ背の高い影が見える。

 ぬうっ、と間もなくそれは玄関から俺達の前に現れる。

 

「っ……」

 

 ようやく姿を現した彼に、俺達は言葉を失った。

 何だろう。釣った目に、艶のある黒い髪。日本人離れした目鼻の整った顔立ち。

 これが所謂二枚目っていうんだろうな、とつくづく感じるが、それ以上に言いしれない”何か”が伝わってきた。

 

「……お久しぶりです、師匠」

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