学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR66話:帰還──確かめ合って

 ──タイムダイバーの中で、紫月は久々に皆と積もる話をしていた。 

 あんな出来事があったのがまるで嘘のようだ。

 

「……」

 

 紫月の幸せそうな顔。

 もし、それが壊れる日が来るなら……全力で阻止しなきゃいけない。

 そんな筋書き通りにはさせない。

 俺が見たかったのは、あんな光景じゃない。 

 きっと、今みたいな……彼女が笑っていられる光景だ。

 だって俺は──

 

「俺は……」

 

 口に出そうとして、胸が詰まる。

 はっきりさせておきたい。この気持ちを。

 俺は──紫月の事が──

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……何と言うか、帰って来れたんデスねー……」

「現在の時間は2018年の3月1日……午後4時。少し帰ってくる時間はズレましたけど、良かったですね!」

「えらくハードな時間旅行だったな」

 

 黒鳥さんが感慨深そうに言った。

 鶺鴒の街は、何事も無く夕陽が沈みつつあった。 

 タイムダイバーが浮上したのは街の外れ。

 此処で解散という流れになった。

 花梨の怪我については……またノゾム兄に説明しなきゃいけないだろう、俺が責任を持って。

 きっと分かってくれるだろうとは思うけど、たっぷり絞られるのは間違いない。

 

「花梨さん、本当にもう大丈夫なんですか? ご家族への説明は……」

「傷の治りも大分早いし、大丈夫だよ。派手にすっ転んだって言えば大丈夫!」

 

 等と本人は言っているが、大丈夫には見えないんだよな。

 あちこち包帯塗れだし。それを言ったら俺もなんだけど。

 だけど本当にこれで、ひと段落って感じだ。

 デュエマが消え、デュエマ部の歴史も書き換えられ、変わり果てた俺達はようやく元通りになったのだから。

 

「じゃあ、シヅク! 明日はシヅクのお帰りパーティやるデスからね!」

「そんなのやらなくて良いです、恥ずかしい!」

「僕も同席させて貰おうか」

「師匠が来たら不審者で通報します」

「解せないな……」

 

 取り囲まれて困り顔の紫月。

 だけど……安心感もあるだろう。

 いつにもまして、何処か楽しそうだった。

 

「白銀先輩。分かります? しづのあの顔。滅多に表情が変わらない子だったのに……、ウソみたいですよね」

 

 翠月さんが何処か嬉しそうに言った。

 

「……ちょっと寂しいけど……あの子がデュエマ部って居場所を見つけられたの、私すっごく感謝してるんですよ? 白銀先輩」

「俺は何も……」

「謙遜し過ぎだわ、もう。あの子がどれだけ白銀先輩の事、話題に出してると思ってるの?」

「……俺は、先代から受け継いだ部活を引き継ぐのに必死だっただけだよ。それがいつの間にかこうなってたんだ」

 

 皆が楽しく笑い合える、デュエマ部。

 それが神楽坂先輩の夢だった。

 先輩。俺は……あんたの夢、きっちり引き継げてるだろうか。

 デュエマ部は何時の間にか、超常現象の溜まり場みたいになっちまったし……。

 

「ね、白銀先輩。これからも……しづの事よろしく頼みますね?」

「分かってるよ。部長として、卒業まで面倒見るさ」

「別に卒業した後でも私は大いに構わないのだけど……」

「……もしかして、全部分かって言ってるのか? 翠月さん」

「貴方達の関係、もどかしいけど分かりやすいもの」

 

 ふふっ、と悪戯っ子のように笑みを浮かべる彼女は、やはり紫月のお姉さんなのだと思わされる。

 駄目だ、全部お見通しみたいだ。本当に……敵わないな。

 

「それじゃあシヅク! 私、そろそろ帰るデス!」

「あたしも! 耀、また明日ね!」

「僕はしばらく鶺鴒に留まる。また何かあったら困るからな」

「黒鳥さん……本当毎度すいません」

「何、気にするな。脚を突っ込んだ以上、半端なところで抜けはしないさ」

 

 一人。また一人と皆は帰っていく。

 火廣金はと言えば何時の間にか居なくなっていた。結局ちゃんと話せなかったな……。明日また、学校でしっかり話を付ける必要がありそうだ。いつまでも拗れた関係のままなのは俺も嫌だし。

 アカリもアカリでタイムダイバーの整備の為、一足先に家に帰るらしい。あいつにも大分世話になった。後で労っておこう。旨いモンでも買っておくか。

 彼らに手を振る紫月は──俺と翠月さんの方に向き直った。

 

「ねっ、しづ。私達もそろそろ帰る?」

「……あのっ、みづ姉。ワガママ、一つだけ言ってもいいですか?」

「なぁに?」

 

 首を傾げる翠月さん。

 ……ワガママ? 一体なんだろう。

 

「まだやる事があるので……。ちょっとだけ残りたいです」

「……良いわよ」

「良いのか!?」

「ええ! お邪魔虫はさっさと退散するわねー」

「別に、そういう気遣いは要らないんですけど……」

「あ、俺様刀堂の兄ちゃんに詫び入れないといけねえから、ちょっくら離れるわ」

「我はこの辺パトロールしてるでありますよーう」

「ちょ、お前らァ!?」

 

 ……守護獣2体がその場から飛んで逃げてしまい、翠月さんもさっさと帰ってしまって、完全に俺達二人になってしまった。

 何なんだろうな。

 皆して変な方向に気ィ遣ってるな……何と言うか、手玉に転がされてる気分がするぞ。

 当の紫月と言えば、恥ずかしそうに顔を赤くして俯いている。

 そして……少しだけ、こちらを向いた。

 

「え、えと……白銀先輩。今回の……その、お礼を──」

「なあっ、紫月」

「は、はいっ、何ですか」

「……」

 

 二人きり。

 この場には俺と紫月しか居ない。

 ……覚悟を決めろ、白銀耀。

 こんな時くらい男を見せてみろ。

 

「えと、あの、先輩。後で……良いですか。私、先輩に言いたいことが……」

「俺から言わせてくれ」

「っ……」

 

 ちょっと強引だったかもしれない。

 紫月が居なくなった時。彼女との思い出が全部無かったことになったらどうしようって思うと、ずっと怖かった。

 だから、絶対に──彼女を取り戻したかった。

 どうして? 仲間の一人だから?

 違う。

 俺の中で、紫月は──暗野紫月は、俺が思っていた以上に心の中に鮮烈に焼き付いていたんだろう。

 これが偽りの無い、俺の気持ちだ。

 彼女の瞳を真っ直ぐ見据える。

 例え、何が伏せられていても関係ない。俺は切札を此処で切る。

 

 

 

「──紫月が好きだ。俺と付き合ってほしい!」

 

 

 

 勢いのままに言ってしまった後に、口の中に甘酸っぱさが広がった。

 その周りの時間が止まったようだった。

 彼女は顔を逸らしてしまう。

 だが──耳まで真っ赤になっているのは分かった。

 

「……先輩。ほんとに、ほんとですか?」

 

 か細い声が返って来た。

 そして、何処か不安げな表情で俺を見つめてきた。

 

「先輩は、皆の部長です。私は先輩と一緒に居たいけど……それが同じ気持ちか、分かんなくて、不安で」

「俺は本気だぞ。いつだってな」

「……」

「むしろ、お前の返事をはっきりと聞きたい」

 

 うまく言えない。

 だけど、誤解させたくはない。

 俺はいつだって本気だ。お前もそうだろ? 紫月。

 

「だから、改めて返事が聞きたい。俺の好きは──お前に恋してる、の好きだ」

「……私は……ううん」

 

 そして遅れて──

 

 

 

「私も……大好きです。白銀先輩と……真剣にお付き合いしたいですっ!」

 

 

 

 地面を蹴った彼女は、俺の胸に飛び込んで来た。

 紫月の全部を受け止め、抱き締める。

 彼女は泣いていた。

 顔も、耳も、感情が昂ると色が変わる目も真っ赤にして俺に頭を擦りつけている。

 

「オーケー、で良いんだよな?」

「先輩が良いです。先輩じゃなきゃ嫌です! 言ったじゃないですか……先輩と、ずっと一緒に居たいって!」

「悪かったよ。でも、俺の方からハッキリさせておきたかったんだ。随分長い事、ヤキモキさせちまったみたいだからな」

「本当ですよ。でも……先輩の気持ち、私の心にダイレクトアタックで通りましたからっ!」

「うわっ、お前──」

 

 ぎゅう、と抱き締める力がもっと強くなり、俺は尻餅をついてしまう。

 そうすると、必然的に俺達の顔は近くなって、鼻と鼻がくっついた。

 鼓動が強く高鳴り、頭はどんどん熱くなっていく。

 きっと紫月も同じなのだろう。掌から手の甲へと熱が伝わって来る。

 

「……」

 

 どちらかが促すわけでもなく瞳を閉じる。

 気が付いたら俺達は自然に──口付けしていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……」

 

 

 

 何の気も無く、ただ気になっただけ。

 二人がそわそわしていて、様子がおかしいからもしかしたら、と第六感が知らせたのだ。

 そして物陰に隠れて、全てのやり取りを見届けた後。

 

 

 

「そっかー……やっぱ、好き同士だったんだー……」

 

 

 

 刀堂花梨は、何処か安堵の溜息を吐いていた。

 両親が仕事で居なくて、カードが心を埋める手段だった幼馴染が真っ当に女の子と恋愛できるくらい成長したのか、と感慨に浸る。

 

「なあ主君よ。大丈夫か?」

「うんうん、良かった。本当に良かったよ! 紫月ちゃん、耀の事気になってたみたいだしね! 耀もカードが恋人呼ばわりされずに済むってわけ!」

「主君……」

「どしたの? バルガ・ド・ライバー」

「いや、敢えては言うまい」

 

 そこで相棒の声は消えた。

 目が妙に熱い。

 頬を伝う雫に、彼女は今更気付いた。

 

「あれ」

 

 ──ならば、どうして自分は泣いているのだろう。

 彼女には自分でも説明が付かなかった。

 男のような自分を、偏見の目で見ないでいてくれて、小学校から高校までずっと一緒で。

 それなのに。自分から突き放してしまったのに。

 彼は──必死で自分を助けてくれて。

 

「……あっ、はははっ」

 

 彼女は嗤う。己の愚行を。

 何となく。漫然と──ずっと一緒に居られるだろうと思ってた。

 距離が遠いから仕方ない。彼と自分では進む道が違うから仕方がない。

 何度、言い訳をした? 何度誤魔化し続けた?

 ろくに自分からは、彼に近付く努力すらしなかったくせに?

 関係が壊れて変わるのが恐れたくせに?

 だからこれもきっと、当然の帰結だった。

 

「ばっかみたい……あたし、こんなんじゃ、何しに未来に行ったのか……分かんないや」

 

 それがとてつもなく愚かしい思考だと刀堂花梨は気付いていた。

 今になって、包帯よりもキツく、とても胸が締め付けられるようになってから──

 

「ああ、そうか」

 

 傷だらけの少女は、ようやく気が付いた。

 

 

 

「あたし……こんなになるくらい、耀の事……好きだったんだ……」

 

 

 

 ──全ては、遅きに失したのだと。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「議長。ペトロパブロフスキー重工の反抗について、お話があります」

 

 

 

 返事は無かった。

 そのまま通れの意だ。

 【抹消者】──空亡(ソラナキ)は、黒ずくめの部下達を差し置き、自らのフードを取り払う。

 その中から、枯れ果てたような白い髪がふわりと浮き上がる。

 

「では、私が話を付けて来る」

「ハッ……了解です」

 

 空亡は白い回廊を進み続ける。 

 しばらくしただろうか。

 巨大な御簾が覆う最奥へ辿り着く。

 そして空亡は──躊躇なく、その場で頭を垂れた。

 

 

 

「議長」

「──可愛い我が子達よ。何故に争うのです?」

 

 

 

 声が、聞こえて来る。

 透き通ったような女の声だ。

 

「……議長。ペトロパブロフスキー重工の件ですが……」

「いえ、申し訳ありません。また、いつものように……泣いておりました」

 

 穏やかに、語り掛けるような声が聞こえて来る。

 並大抵の人間ならば、そのまま絆されて眠ってしまいそうな調だ。

 だが、動じる様子も見せずに空亡は続けた。

 

「奴らは今、合成人間を使って国境付近の『壁』を目指して進軍中です」

「力を示せというならば仕方がありません。科学と──神の力。どちらがこの世界の道理に合っているのか、今一度思い知らせる必要がありますね」

「では、【抹消者】総力で潰せという解釈でよろしいですね?」

「我が子よ。あまり殺し過ぎてはいけませんよ? 子供たちが痛い思いをするのは、私とて望みません。人の子は、皆等しく我が子。貴方もその中の一人なのですよ?」

「……分かっています」

「──我々は絶対なる平定の元──世界の平和を成し遂げるのです。魔力(マナ)で世界を満たす、その日まで」

 

 ──トキワギ機関。 

 常盤の名が指し示す通り、不変にして不滅の平和を掲げられて作られた超巨大国家。

 それが納めるのは、22枚のエリアフォースカードの頂点に立つカード、世界(ザ・ワールド)

 しかし、その魔力はあまりにも膨大で凡そ人の身に、ましてやクリーチャーに扱える代物ではない。

 人類は愚か、魔法使いも超越した類──不可侵の神秘を宿した【神類種】のみ。

 

「この地上、トキワギは神である私が納める神の国……全ての醜い争い、生死の冒涜は平定されるのです」

 

 トキワギ機関の頂点に立つ女神。

 彼女は憂うように告げた。

 

 

 

 

「この、【神類種】ククリの名の元に……地上を綺麗にしないとね」

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