学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「もうじきワイルドカードの氾濫が起こって世界が滅ぶ、だぁ!?」
トリス・メギス──2018年、現代のアルカナ研究会の元・筆頭魔導司である彼女は、大概の事に動じはしない。
多くの魔法を使いこなし、強力なクリーチャーを従える彼女には、大概の超常現象も些事である。
……はずだったのだが、今回の大ホラばかりは驚愕を受けざるを得なかった。
未来からやって来た白銀朱莉を名乗る少女が、よりによって黒鳥と一緒にアルカナ研究会拠点にやってきたのだから。
「この僕が一緒に居るのだ。信じられないとは言わんだろう。かれこれ僕も過去や未来を行ったり来たりしてきた所だ」
トリスは台パン。
タイムボカンは知らないが、クールで冷徹な黒鳥の顔から微妙に自分を馬鹿にするような意図を感じ取ったのである。
「ンなモン信じられるか! オタクら分かってんの? 魔法でタイムスリップとか絶対無理なんだよ、OK? 時間魔法なんてモン出来てたら、皆使ってるっての!」
「そうは言っても本当なものは本当ですし……後、団長」
「団長やめろ。バスターみたいだろうが」
「……お若いですね!」
「御年3桁だよ馬鹿にしてんのか!」
掴み掛かるトリスを抑えながら、もう1度黒鳥はトリスと向かい合う。
「そんなわけで、貴様等とエリアフォースカードの取り扱いについて相談しに来たわけだ」
「というかお前らさ、オトモダチの家感覚でうちにやってきてるけど、此処一応極東の要所なの分かるか? よりによって元・要注意人物の黒鳥レンに、頭のネジが飛んだ女連れて来られたあたしの身にもなってみろ! どんな顔をしてファウストに報告すれば良い?」
「酷いです団長! 私は至って真面目なのに!」
「だからあたしはバスターじゃねェよ! 一昨日きやがれ電波女!」
とまあこの通り、完全に混乱してしまっていた。
いきなり事のあらましを伝えてもこうなるであろうことは黒鳥も予測していたが、よりによってアカリにとってトリスが上司であるのもタチが悪い。
変に親しく彼女が絡んだ所為で、トリスは完全に警戒してしまっていた。
「まあ待てトリス。ヒイロからの報告と、彼女の証言は一致していル。それに、その手の魔法、薬の気配も感じンからナ」
「あたしだってそうだよ、だから猶更なんだよ……この女があたしらの力を超えた洗脳魔法を使ってるんじゃないかとか疑っちまうよなぁ! まあ、そんな神サマでもない限り無理なんだけどな!」
「その通りです! えっへん!」
「ドヤ顔すなッ! アルファリオン投げるぞ!」
つまり、逆説的にアカリの話を信じざるを得ないのであった。
”未来から白銀耀の孫を名乗る少女がやってきた”という報告は、昨日に火廣金から入ったばかりだ。
その時、トリスは火廣金の全身検査を提案した。取り合えず頭からスタートで。
超常現象を扱う魔導司からしても荒唐無稽、そして突飛な御伽噺ないしメルヒェンであった。
「良いか。白銀朱莉? だっけ。お前の話が仮に本当だとして、ウチのエリアフォースカード全てを渡せって言われて、ハイそうですって言えるかコラ」
「逆ですよ逆。むしろ、エリアフォースカードがこれだけ集まっている時代は他にありません。私達のカードを渡せば良いだけの事です」
そう言ってアカリは1枚のカードを差し出す。
それは
「……ねえロス。これ本物だと思う?」
「その手の鑑定はお前が一番得意だろウ」
「いや、うん。そうなんだけど……こうやってポン、とヤバい魔法道具3枚を手渡されるあたしの身にもなってほしいわけよ。なんかの罠かって疑うじゃん」
「やれやれ貴様も繊細だな」
「馬鹿にしてんのか!」
実際に二枚のカードを手に取って、トリスは眉を顰めた。
「……同じ時代に二枚のエリアフォースカードは有り得ない。
「残るは
「だけど眉唾だ。実際世界は滅びたのか?」
「そんなに信じ難いなら、その目で見れば良いだろうトリス」
尖った声が聞こえてきた。
黒鳥は思わず振り向き、
「──デュエマ部はどうした?」
と投げる。
返って来たのはやさぐれた声だった。
「……辞めた」
火廣金緋色は、鶺鴒の制服ではなく──魔導司のローブを羽織っていた。
※※※
「──火廣金がデュエマ部を辞めたァ!?」
「朝部室に来たら、こんな置手紙が……」
昨晩あった諸々をすっ飛ばす程に、今朝の出来事は鮮烈だった。
退部届。漢字三文字の太い明朝体フォントで始まる1枚のプリントには、火廣金の名前。
そして、「一身の上の都合につき」という言葉が添えられていた。
プラモデルが消えて小綺麗になった部室に、火廣金緋色の姿は無かった。
「……アカル。ヒイロと、ちゃんと仲直りしなかったんデス!?」
「だって! あいつ勝手に居なくなるしLINEにも電話にも出ねえし……!」
「全部ガンスルーされたんデス!?」
「話しかけようとしても個室で寝てるし、何時の間にか帰ってるし……!」
言い訳のように聞こえるが全部事実である。
あいつは此処に来てスルースキルを発揮し、俺をガン無視。
そして、そのまま消えてしまった。
何がいけなかった?
何がまずかった?
思い当たる事なんて幾らでもある。
元はと言えば、シャークウガの扱いを巡っての決闘だ。
だけどそれ以上に火廣金は俺に対して「私情」を剥き出しにして挑みかかって来た。
花梨の名前を出して──
「……だけど……まさか、次の日にすぐ退部届を出すなんて……」
「そ、そんな……どうしようもないデス!?」
「……あいつ、花梨の件で大分腹立ってたみたいだしな……」
……俺は唸る。
軋轢は、亀裂は、いとも容易く決定的なものとなってしまうものなのか。
「……最初は、確かに敵同士だったさ」
「私だってそう思ってました」
「そう、デスね。初めては敵同士デシタね……」
「成り行きで共闘するようになってさ、最後には……あいつも俺の事信頼してくれてると思っててさ」
あの衝突だって、火廣金が俺を信じて全部ぶつかってくれたのかと思ってた。
だけど、火廣金はもっと複雑な思いを胸に秘めて戦っていた。
「俺が勝手にそう思ってただけなのかなあ」
思わず、そう零した。
「……ショックなんだよ。来るもの拒まず、去るもの追わずって言うけど……本当は、内心では嫌われてたんじゃないかって思うと気が気で無いんだよ」
「それはアカルがヒイロの事、仲間だって思ってるからデショ?」
「あいつがどう思ってたかは知らねえけどさ」
俺が一方的に思ってただけかもしれない。
それでも良いと思ってた。
だけど、こうして態度でいざ示されると……本当に心にぽっかり穴が開いたような気分だった。
俺に間違いは無かったのか?
俺は正しかったのか?
きっと、間違いも正しいも無かったのだ。
紫月を守るという選択を取った時点で。
だけど……ブランが前に言ってたように、それは他の誰かを切り捨てる理由にはならない。
俺達は、4人でデュエマ部なのだから。
どうする、どうする、と思索を巡らせるが──ガコン、と音が鳴った。
紫月が鋭く俺を睨み付けながら椅子の脚を蹴っていた。
「白銀先輩」
「……紫月」
キッ、と彼女の目が細くなる。
色素の薄い唇が結ばれた。
「へこたれてる場合ですか?」
「だけど──」
「でももへちまもありません。私を未来まで追いかけに行った先輩は何処に行ったんですか」
そうだ。
そうじゃないか。
一方的に突き放されたって……俺はあいつの事を仲間だって思ってんだ。
「白銀先輩は──貴方自身は、どうしたいんですか」
……今更あいつの元に行っても元の関係にはもう戻れない?
畜生! そんなの決めつけだ。
「火廣金先輩が白銀先輩を拒絶しても……せめて、白銀先輩の後悔の無いようにするべきです」
折角仲良くなれたのに。魔導司と人間は分かり合えないのか。
そんなわけない。今まで一緒に過ごしたのは全部ウソだなんて言わせねえぞ。
俺は──
「俺は、火廣金に戻ってきてほしい……!」
「……それでこそ、白銀先輩です」
紫月が微笑む。
それが、俺の本音だ。
嘘偽りない気持ちだ。
だって、これで全部終わりだなんて悲しすぎるだろ。
「うんっ、やっぱりアカルとシヅクは、どっちかがダメダメな時が一番噛み合うデスね!」
「どういう意味ですか!」
顔を赤くして反駁する紫月だが、実際ブランの言う通りかもしれない。
落ち込んだり、頑張るのに疲れた時……紫月の言葉に幾度となく助けられてきた。
俺がうじうじしてると、こいつがいっつもストレートに意見をぶつけてケツに火を付けてくれるんだよな。
「じゃあ、アカル! 早速ヒイロの所にレッツゴー!」
「オトモダチの家感覚で拠点に足を踏み入れられる彼らが若干不憫ですが仕方ないでしょう」
「カチコんだ事もあるし今更今更」
だから、ダンガンテイオーを使えば直行できる。
恐らく1時間もかからないだろう。
会えば、分かり合えるかもしれない。
これからどうすれば良いのか話し合えるかもしれない。
だが甘かった。
俺が思っていた以上に──あいつとの禍根は根深かった。
※※※
「え? 火廣金? あいつなら国に帰ったぞ」
「……え?」
門前払いの方がこれならまだ良かったかもしれない。
いや、実際まだ屋敷の中には足を踏み入れていないのではあるが。
玄関前で出迎えたのはトリス・メギスだった。
そして、彼女の口からは「国に帰った」の一言。ちょっと待て、火廣金は日本にいないってことか?
「国って国って」
「あいつ、本籍はこの国の人間じゃないからな」
「た、確かに日本人って顔じゃないデスけど……」
「いざ言われてみると……」
そう言えば前に言ってた気がする。
火廣金緋色という名前も、魔導司として活動する為の仮の名前なのだと。
流ちょうに日本語を話していて不自由した事が一切ないからか、そもそも彼が外の国からやってきた人間という事を忘れてしまっていた。
それほどまでに俺達は近くに居たという事なのだが、
「教えてくれ! あいつの故郷は──」
「もう放っておいてやれよッ!!」
怒気の籠った声でトリスが怒鳴った。
「何があったか知らねえけど、こちとらメイン戦力1人、少なくともテメェらの所為で潰されてんだぞ!」
「っ……それは」
悲痛な沈黙がその場を包み込む。
俺は何も言い返せなかった。
あいつの悩みを何一つ理解出来なかったのは……俺の落ち度だ。
「あいつ言ってたぞ。これ以上、俺を惨めにするなって。俺から何も奪うな、って」
「……」
「言えよ! 白銀耀、ヒイロに何をした? なあ、デュエマ部の部長さんよ!」
「ちょっと! そんな言い方することないじゃないデスか!」
何をした?
惨めにするなって、どういう意味だよ。
俺は今まで、あいつに何をして来た?
戦って、勝って、魔導司としてのプライドを傷つけた?
それだけか? 本当に?
あの時、俺が火廣金を捻じ伏せた事自体が、間違ってたんじゃないかと思わされる。
──それで、ヒイロが真っ先に嫉妬するのは……。
あの火廣金の事だぞ。
それだけで、俺に嫉妬するとは思えない。
あの時、ブランは声を濁していた。
──カリンが事ある毎に名前を出すアカルだったんじゃないデスか?
全部知っていたんじゃないか? だって、クラスメイトの事を込み入った領域まで把握しているブランだぞ。
普段から付き合いが多い花梨の事は猶更じゃないか。
例えば……これは「もしも」で「仮定」の話だ。
だけど、考えれば考える程、ピタリとピースにハマってしまう。
その可能性を信じたくなんてなかった。
ふと浮かんだただの推論のはずだった。
なのに──頭から離れなかった。
分からない。何が正しかったのか、間違っていたのか、もう何も分からなかった。
「こんな事って、あるかよ……!」
俺は膝から崩れ落ちた。
何もかもが手遅れだったのかもしれない。
それを見てか──トリスは調子の戻った声で、
「……すまん、言い過ぎた。何も言わずに、尻尾巻いてお前らから逃げるアイツにも非はあるからな」
「……トリス・メギス」
すっく、と立ち上がった俺は──
「邪魔して、悪かったな! 俺、帰るわ!」
多分、笑ってたんじゃないか。
笑う事しかできなかったんじゃないか。
「待ってください白銀先輩! せめて、事情だけでも話していくべきでは──」
「そうデス! 誤解されたままデスよ!」
だけど、火廣金はもう……居ないだろ。此処に居ても何も意味は無い。
俺はダンガンテイオーに飛び乗る。
「マスター、良いのでありますか?」
「……鶺鴒に飛んで戻ってくれ」
今の俺は、誰とも顔を合わせられる気がしなかった。
※※※
「っシヅク、アカルを追うデスよ!」
「で、でも──」
「こんな時にアカルを元気づけるのは、シヅクの役目デショ!?」
「……は、はい! シャークウガ!」
シャークウガに飛び乗ってその場を去る後輩を、果たして追いつくだろうかという懸念を抱きながらブランは目で追う。
そして、再びトリス・メギスに向き直った。
突き立てるような視線を投げかけ、
「……わざとデスね? さっきの」
「っ……!」
問い詰めた。
トリス・メギスが何か隠し持っている事は、分かっていた。
「……流石、
「幾ら偉大な魔法使いでも、ウソをついている時の微妙な動作、クセというものは誤魔化せないものデスね」
「そういうのは気を付けてたつもりだったんだがな」
「そこまで怒ってるわけじゃないのに無理して怒鳴ってたからデス。気持ちが声に追いついてないんデスよ」
「……探偵は伊達じゃなかったな。寒気がするね」
「趣味は人間観察、デスので!」
そして、揺さぶりをかけるためにブランは一つの質問を投げかけた。
「ヒイロ、国に帰ったわけじゃないんデショ?」
「……」
トリスは肯定も否定もしなかった。
「わざわざヌシを出て行かせてそんなウソを吐かせる辺り、火廣金緋色は相当我らに会いたくないと思っておるな」
「でも……アカルにあんな言い方したのも許さないデス。アカル、気にしたらとことんまで悩むタイプデスよ」
「はっ、うっせー。お前らが仲間が大事なように──あたしらだって、仲間が大事なんだよ」
「気兼ねなく精神汚染で洗脳するくらいデスか?」
「お前、ほんっと性格悪いな」
トリスは眉を顰める。
当時アルカクラウンに憑依されていたファウストの命令だったとはいえ、トリスが魔導司達を洗脳したのは事実であるので否定しようがないのであるが。
しかし、それを蒸し返すくらいブランは腹が立っていた。
「You程じゃないデス」
くるり、とブランは踵を返すとサッヴァークを実体化させた。
そして──そのまま彼の背中に跨った。
「おい。ヒイロの事は良いのかよ? 或瀬ブラン」
「当人の問題みたいデスからネー。そこまで会いたくないなら、無理に会わせても仕方ないデス」
──まあ、早く仲直りしてほしいのは事実デスけど。
となれば探偵は傍観者に回るしかない。
結局のところ、当人同士の問題なのだから。
──本当に、そうデショウか?
そう、思いたかった。
これは火廣金の恋が絡んでいる問題でもある。
そして──花梨の恋が絡んでいる問題でもあるのだ。
花梨に近い立場であるブランは、思い当たる点が無いわけではなかった。
──私だって、どうすれば良かったのかなんて……分かんないデスよ。
飛び立とうとする彼女。
それを、「おい、ちょっと待てや!」とトリスが引き留めた。
「……何デスか?」
「ヒイロの件も重要だが……白銀朱莉と黒鳥レンの話もしておこうと思ってな」
「!」
──アカリと黒鳥サン、アルカナ研究会の拠点に来てたデス!?