学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR68話:銃創

「──ロス、この世に神は居るだろうか?」

「その質問は今日で何度目ダ?」

 

 

 

 ローブを纏ったままプラモデルを延々と組み立てている同僚にティンダロスは苦言を呈した。

 接着剤と塗料のシンナーの匂いがキツい。窓を開ければ開けたで虫が入って来る上に寒風が入って来るのであるが。

 

「言っているだろウ。神とはあくまでも人の心に在るものダ、それ以上先は宗教戦争になるゾ。嫌なことがあるからといって、哲学とプラモデルに逃げるのはお前の悪い癖ダ」

「今に見てろ俺はプラモデルで哲学してみせる」

「いよいよおかしくなったカ」

「しかし宗教戦争、か。現代に於けるこの国はそんなものとは無縁だと思っていたが、どうやらタケノコとキノコで争う愚かな人間が多いらしい」

「タケノコとキノコの神が居るのカ」

「いや……ただの些事だ」

「宗教戦争がカ?」

 

 

 

「何を馬鹿なことを言っている」

 

 

 

 部屋の扉が音も無く開く。

 黒髪をなびかせた少女──の姿をした、大魔導司ファウストは呆れた目で二人を一瞥すると椅子に座る。

 

「──ファウスト様」

「この数日間、ずっと書庫に籠りっきりでしたガ……お体ハ?」

「心配ない。この身体は見掛け以上に頑丈に作ってある。書物も、私でなければ読むことすら出来んものばかりだからな」

 

 ワイルドカードの氾濫。

 そして、エリアフォースカード22枚全てを集めたらどうなるのか。

 これらについて何かヒントが無いか、ファウストは本国や支部からありとあらゆる書物を持って来させていた。

 また、配下の魔導司には父である大魔導司・メフィストの魔導工房の捜索を急がせていた。

 例えホラ話だったとしても、いずれエリアフォースカードについては解明しなければならないことが多いのだから。

 

「ふぁあ……火廣金。お前の言っていた、”白銀耀の孫”とやらの情報をわざわざ真に受けてやったのだ。お父様の資料を全て目を通すのは大変だったぞ」

「全て、って……この三日間で?」

「速読は得意なものでな。まあ、目新しい情報は見つからなかったが」

 

 ファウストは浮かない表情で言った。

 

「エリアフォースカードは人の手で魔法を使えるようにするため作られたもの。父が何故これを作ったのか分からない。その仕組みでさえも。私にも──分からない」

 

 彼女は目を伏せる。 

 物心ついた頃には、メフィストは居なかったという。

 ただただ偉大な魔導司であった、という伝説だけが残っていたらしい。

 だから、彼の残した功績こそ多いものの失われた資料や魔法が多いのも確かだった。

 

「まぁ、使い方を誤れば邪悪な力に支配されることだけは確かだ。だが、それは魔法とて同じ」

「……」

「火廣金。未来での暗野紫月の救出、ご苦労だった」

「俺は何もしていません」

 

 火廣金はローブを強く握り締める。

 

「そればかりか──仲間の脚を引っ張った」

「……お前がカ?」

「……今の私に読心は使えない。だが、見た所……並々ならぬ理由があったように思えるが」

「……俺はもう、あそこには戻れない」

「何故?」

「……言えません」

 

 心底悔しそうに彼は言った。

 白銀耀達が訪問した時も、「国に帰ったと言え」とトリスに追い払わせた。

 彼らに合わせる顔が無いという様子だった。

 

「一意攻苦……苦しみながら考えこんでいるようだな、火廣金」

「……」

「それで、神にも縋る思いだったか」

「そう言う訳では……」

「そうだろうか? とてもお前一人では結論付けられそうにはないようだったがな。これでも多くの子供を見てきた」

「俺を子供扱いしないでください!」

「子供さ。少なくとも、この私よりは」

 

 そこで火廣金は口を噤んでしまった。

 姿なりの所為で忘れてしまいそうになるが、目の前に居るのは御年4桁を超える大魔導司だった。

 

「……ファウスト様」

「……何だ?」

「アカデミーでは、神は居るものとして教えられてきました。我々は魔法を使役する以上、何かしらの神を信じねばならないと」

 

 しかし、もし神が居たのなら。もし神が魔法使いを作ったなら、どうして自分は完全ではない?

 白銀耀との軋轢、決裂。

 もっと自分は賢く立ち回れたのではないかという後悔と、そうはさせてくれない意地がせめぎ合う。

 シャークウガの処理を巡っての対立。

 自分の心を幾度となく揺るがせる刀堂花梨。

 その好意は白銀耀に向いている。しかし、彼が見ているのは──暗野紫月だ。

 四角関係ですらない。蚊帳の外だ。

 それが悔しかった。悔しさと嫉妬が内心に渦巻く幼稚な自分も許せなかった。

 刀堂花梨の好意に気付かないばかりか、別の女とくっつこうとしている(くっついた後なのを火廣金は知らない)耀に無性に腹が立った。

 滅茶苦茶で支離滅裂で矛盾した感情なのは分かっている。

 だが全ては──花梨の報われなさ、そして自分の不甲斐なさに直結していた。

 ──せめてこの手で刀堂花梨を守れたなら……!

 それすらも、叶わなかった。

 アイデンティティも、プライドも、何もかもをへし折られた火廣金は──自分から彼らの前から姿を消すことを選んだ。

 

「神は……どうして我らに試練を与える? 何故、俺を人とは違う相容れない存在に作った? 今は、そう思えて仕方ありません」

 

 火廣金は今ほど、人間であれば良かったと思った事は無かった。

 もし、自分が人間だったならば。もし、彼らが魔導司だったならば。

 もっと分かり合えたのかもしれないのに、と。

 

「……こんな時に、どうすれば良いか魔法で分かればいいのに……」

 

 気付けば言葉に出てしまっていた。 

 お手上げだ。自分で考える事すらしたくなかった。

 

「やれやれ。何故そうなる前に誰にも相談しなかった」

「……俺には、そんな相手は……」

「この通りダ、ファウスト様。俺にも教えてはくれなイ」

「ロス相手なら猶更だ。後で蒸し返される」

「心外だナ」

「今の俺に信じられるのは……プラモデルとカードだけだ。プラモデルとカードは人を裏切らない」

「これは重症だな……」

 

 新しく箱を開ける火廣金を前に、ファウストは眉を顰めた。

 彼の前には接着剤の乾燥待ちのヘリコプターが何機も置かれている。 

 部屋の中は、シンナー臭で充満していた。指でロスに「換気してくれ、すまない」と促すと彼は嫌な顔をしながら窓を開ける。吹き込んだ風が寒い。

 

「……まあ、白銀耀達と何かあったことくらいわかるさ」

「……」

「だが火廣金。言ったはずだ。お前は私と比べても、魔法使いとしても、まだまだ子供さ」

「そんな事は──」

「子供が大人に頼っていけない道理等無い」

「……」

「アカデミーで主席として育てられ、貴重な攻撃型魔導司として育成されたお前は……周囲に甘える事すら許されなかったのだろうな」

「俺は──」

 

 ファウストは彼に笑いかける。

 

 

 

「そもそもの前提として……君は君が思っている以上に、十分に頑張っているよ。優秀過ぎるくらいに、ね」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ノゾム兄は昨日、卒業式の余韻に浸る事なく再び超常現象の世界に引き戻される事になったという。

 卒業式の後、部活の打ち上げに加えてお世話になった色んな所を回っていたら何時の間にか夜の10時。

 家に帰ってきたら……花梨が大怪我して帰っていたので──

 

「──正直、花梨に怪我させたやつの喉に竹刀突き立てる準備は出来てた」

 

 すっごくお冠だったようである。

 平謝りするしかなかった。

 実際俺の非だと言われればその通りである。

 音頭を取っていたのは俺な訳だし。 

 

「この度は本当にすみませんでした……」

「いやまあ事情聞いたら、それも収まったんだけどよ。とりま、お前は何も悪くねえ。シャークウガも悪くねえ。こういう誰も悪くない時が一番難しいんだよなー、うんうん」

 

 さて、意気消沈する間もなく俺は刀堂家に寄っていた。

 昨日ノゾム兄からメールが返って来たのは11時頃。

 「明日の夕方来てくれ」とのことだったので、その約束通りに刀堂宅に来たのだ。

 火廣金の件で完全に気分が沈んでいた俺だったが、それでも約束は約束なので守らなければならない。

 のだが──

 

「……なあ耀。お前本当ひっどい顔してんぞ」

「……」

 

 かえってノゾム兄には心配されてしまっている。

 顔に出ているようだ。

 

「ちゃんと休んでいるのか? それとも……やっぱ、花梨とか火廣金の件が……」

「両方、だと思う」

 

 俺でも分かり切っていた。

 疲れが身体から抜けきらない。

 常にだるさが付き纏っている。

 だけど──

 

「俺、分かんねえんだ。今のままで良いか」

「オレはお前が十分頑張ってると思うけどな」

「……誰か一人の為に頑張るって道だよ」

「お前が?」

「……絶対に助けなきゃいけない人がいるんだ。そいつは、今のままの歴史だと──死んでしまうから」

「成程……しかもそれがお前の好きな人だった、と」

「飛躍し過ぎだぞ!?」

「いやまあ、お前が誰が好きでも関係ねえんだけどな」

 

 変なところで勘繰り入れるなよ、この人は……。

 

「だけど今のままだと……俺は何処かで他の仲間を取りこぼす。きっと──今回みたいに」

 

 選ばなかった道が、呪いのように俺を苦しめて来る。

 全員を等しく救う?

 そんなことは不可能だと分かってしまったのだから。

 

「ノゾム兄……俺、リーダーとか部長とか向いてねえってのがよーく分かったわ」

「……」

「花梨は大怪我しちまったし、火廣金とも仲違いしちまった。どうするのが正しかったんだろーな……って。いや、正しいとか正しくないとか無いんだけど、もっとやりようはあったんじゃないかって……こんな事考えてる時点で部長失格かもだけど」

「……しゃーねえだろ。お前の思った通りにはならなかった。それでこの話はお終いだ、耀」

 

 ぽすん、とノゾム兄の大きな手が肩に置かれた。

 

「だからよ、済んだことでうじうじすんのはお前らしくねえよ。それは、お前の選んだ選択の先に居る人に失礼ってもんだぜ」

「……俺の選んだ選択の先に居る人」

 

 紫月。

 俺の好きな女の子。

 今の歴史のままじゃ──死んでしまう人。

 俺が、命を懸けてでも助けたい人。

 

「万人に好かれるヒーローになんて、なれないんだ。だから、既に行った決断を後悔すんなよ。それが選んだ道なんだから。お前はあくまでも、お前のやりたいように生きるべきだ」

 

 まあ良いさ、とノゾム兄は立ち上がる。

 

「オレは……オレの選んだ結末に後悔はしてない。そりゃあ、お前含めて多くの人に迷惑は掛けたぞ? だけど……爺ちゃんとホタルの復讐に命を懸けたのは後悔してねえんだぜ」

「……ノゾム兄……」

「自分の道を進むのに嫌われる事を恐れるな、耀。残酷な決断かもしれねえけど、そうでもなきゃよ……お前自身の道を見失う事になるぜ」

 

 ……俺は、怖かったのかもしれない。 

 仲間が離れていくのが。

 仲間に嫌われていくのが。

 

「耀。万人に好かれるヒーローになんて、なれなくたって……誰か一人のヒーローになれるなら、それで十分なんだよ」

 

 そうだ。迷っていたらきっと……この先の道は進めない。

 俺は一度決めた決意を揺るがせちゃいけないんだ。

 火廣金とは対立した。だけど……シャークウガを助けたいって思ったのは……俺の偽りざる本音だ。

 

「……ありがとう、ノゾム兄」

「礼はいらねーよ。後……花梨の事はオレに任せてくれねえか?」

「え?」

「あいつも色々あるみてえだからな。兄貴として面倒見てやんねえといけねえし」

「そうか……なあ、オレに出来る事があったら……」

「心配すんな」

 

 やっぱり、花梨に何かあったのだろうか。

 怪我の事?

 それとも……俺の事?

 

「また目がブレてんぞ、耀」

「え?」

「お前は今、お前が一番やりたいことをしな、耀」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──耀が帰った後。

 ノゾムは花梨の部屋の前に立っていた。

 扉の奥には──花梨が居る。

 

「なあ花梨」

「っお兄!?」

 

 慌てて飛び出して来た義妹に飛び退きながらも、ノゾムは心配そうに投げかけた。

 

「……花梨。怪我は大丈夫か?」

 

 花梨は包帯をもう取っていた。

 しかし、顔、手、穿ち傷の痕が乾いたまま残っていた。

 恐らく一生消えないだろう。どんな目に遇ったかは想像もつかなかった。

 ──かと言って、こいつが望んだことだし……オレが戦えたら助けられたわけでもなさそうなんだよなあ。

 ようやく想像がついたのは黒鳥からの報告。

 クリーチャーの装甲さえも貫く、改造シャークウガの魔力の雨。

 恐らくあの場に誰が居ても──防ぎようが無かった。

 だからどうしようもない。……理屈では分かっていても、感情で割り切れはしないのであるが。

 

「もう平気。痛みとかはない。怖いくらいに、傷の治りが速いから……魔法ってすごいね」

「あー、オレもよく守護獣に世話になったわ……でも痕とか目立たないようにしたいだろ? オレが海戸のツテで病院を手配するが……」

「そうだね……皆、包帯見てもびっくりしてたし、これ見たらもっと驚いちゃうもんね」

 

 彼女の声は沈んでいた。

 生傷は剣道家の誇り。だが、それはあくまでも剣で負った傷の話だ。

 

「じゃあ、それで決まりだな」

「うん、ありがと……お兄」

「……それと、もう一つ聞きたい事があるんだけどよ」

 

 そしてもう一つ。

 彼女が負っているのは身体の傷だけではない。

 

「耀と話さなくて良かったのか?」

「……」

「お前もあいつと喧嘩したのか? あいつが悪いなら竹刀ブッ刺してくるぞ」

「刺さなくて良い! 刺さなくて良いから! あいつは悪くないの! ……多分、あたしが全面的に悪いし理由もバカバカしい」

「はっはっは、お前が深刻な顔してる時に馬鹿馬鹿しい理由なんてあるもんかよ」

「……言ったら笑うだろうし」

「はっはっは、そこまで言うなら笑うかもなあ。だけど、大抵の事は大海の広さに比べれば何てことはねえんだぜ花梨、だから遠慮なく言うが良い」

「……じゃあ言う。いっそのこと、笑ってほしいし」

 

 ほう、何だろうと身構えていた。

 

 

 

 

「……耀と紫月ちゃん、ちゅーしてた……」

 

 

 

 ……?

 ノゾムは頭に理解が追い付かなかった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「……あー成程。今まであいつの事が好きなのをひた隠しにしてたのが裏目に出た、と」

「……笑っちゃうよね。あたし……アプローチとか、そんなの考えた事もなかった。なのに、二人が一緒なのを見てると……心が痛くって。バカバカしいよね! 今まで何もしなかった癖に、何を今更って」

「バカバカしくなんかねーよ」

 

 ……というかオレも経験なんて無いから大層な事言えないんだけど、と前置きしつつもノゾムは言った。

 

「誰かが好きな気持ちに貴賤はねえと思うぞ」

 

 それだけは言える。

 そこに順列を作ってしまうのはノゾムは憚られた。

 

「花梨。結果だけ見りゃあ、そりゃ敗北だったかもしれねえよ? だけど……結果だけが全部じゃねえしなあ」

「うー……たしかにそうかもだけど」

 

 彼女は目を伏せた。

 

「……あたしさ。小さい頃からこの家で育って、剣道家として男みたいに育てられたから……耀だけだったんだよ? あたしの事をオトコオンナとか言わないのはさ」

「まあ、ずっと一緒だったしなあ、お前ら」

「……うん。だから、悔しかったのかも。紫月ちゃんと耀が出会って、まだ1年も経ってないのに……って思っちゃう自分が居るんだ。おかしいよね、そんなの……ってあたしでも思うけど」

「理屈で割り切れても感情では割り切れない、か」

 

 結局は初めての失恋で混乱してるんだな、とノゾムは結論付けた。

 

「そっかー、お前が恋か……剣しか見てないって思ってたけど、ちゃんと耀の事好きだったんだな」

「……あたし自身も曖昧にしてた。でも……今、すっごく悔しい。何もしなかったあたし自身が……とても嫌」

「はっはっは、いつも言ってるだろ。剣は敗れた後の方が大事ってさ。気持ちの問題でもそれを忘れちゃあいけねえよ」

「敗れた後が、大事……そうだね。敗北は、強くなるためのバネ、だったね」

「ああ。スパッと割り切るか、それとも……力づくで奪うか? 略奪愛なんて言葉もあるし」

「うっ、あたしには……無理かも。今度は紫月ちゃんに悪いよ」

「どうするかはお前が決める事だけどなあ、まあでも……そんなになるくらい、耀の事が好きだったんだな!」

 

 涙を貯めながらも、花梨は頷いた。

 「本当に……気付くのが遅かったけどね」と言うと、もう1度頷く。

 今はまだ割り切れないかもしれない。

 だけど……花梨はきっと、この敗北をバネにまた強くなる。

 そうノゾムは信じている。

 

「お前ならきっと、この経験を糧に出来るさ。オレは応援するぜ」

「……お兄」

「まあ、それがせめてもの罪滅ぼしって奴だよ。今度はちゃんと、兄貴としてお前の事見ていないといけねえし。お前らが幾つになっても……弟妹みたいなのは変わんねえんだぞ?」

「……あたしは助かってるよ。すっごくね」

 

 にゃはは、と花梨は久々にあのふにゃっとした笑顔を見せたのだった。

 ……様子は見ないといけないだろうが、これで一先ずは大丈夫だろうか、とノゾムも安堵する。

 後は──もう1名についてだ。

 

「ところで話は変わるんだがな、花梨」

「どしたの、お兄? 改まっちゃって」

「……火廣金の事だ」

 

 きょとん、とした顔で彼女はノゾムの顔を見た。

 そして考え込むように唸ると──弾かれたように顔を上げる。

 

「そういえばあいつ、今日も学校で見なかった……! なんかあたし達の事避けてるみたいだけど」

「大分エラい事になってるみたいだぞ。お前、あいつに色々教わってたんじゃなかったっけか」

「そうだけど、エラい事って何!?」

「話によると……国に帰るとか何とか言って」

「!?」

 

 花梨の顔は蒼褪める。

 そしてすぐさまノゾムの隣を横切った。

 ドカドカと階段を駆け下りる音が後から響いていく。

 

「あたし、行ってくる!! あいつ何やってんの!」

「花梨!?」

 

 まだ最後まで言ってないにも関わらず、花梨は家から飛び出してしまった。

 恐らく守護獣に飛び乗って空を飛んでアルカナ研究会の拠点へ殴り込みに行くのだろう。

 ──まっずいなあ、国に帰るとか何とか言ってまで耀達を近付けないようにしている……が正しいんだけど……。

 ノゾムは黒鳥から全てを聞いていた。聞いていたのだが、火廣金の気持ちを汲み取ると無暗にそれを耀達に打ち明ける気にもなれなかった。

 だが、それはそうと──衝動のまま飛び出した花梨が何をするか分からない。

 どうするか、と思案した。

 思案して──ふと、口が綻んだ。

 

「それにしても成長したよなあ」

 

 二人ともちょっと前まではガキンチョだったのに。

 今では……悩んで、もがいて、あがいても──自分の道を進もうとしている。

 

「オレは、何時まで経っても……お前らの味方だぜ。花梨、耀」

 

 例え彼らが大人になったとしても、ノゾムにとって二人が弟、妹のような存在である事には変わりない。

 例え世界が敵に回っても、自分だけは彼らの味方でいよう。

 それが兄貴分としての務めなのだから。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──神が存在するか、否か」

 

 

 

 火廣金と話した後。ファウストは再び書斎に籠り、1冊の本を手に取っていた。

 眠っていた蔵書の中でも最も古い本の一冊。

 ワイルドカードやエリアフォースカードについての情報は無かったが──

 

「……我らが魔法の始祖……【神類種】の伝説がある限り、神の存在は否定できない」

 

 古来、魔法の始祖は神の領域に至ったとされている。

 しかし、昨今の研究ではそれは覆されつつある。

 

「……古代、40億年もの地球の歴史の中でほんの一瞬だけ……多量のマナが観測された時代が存在している。それが言わば神代。神の支配した時代……魔法を生み出した貴方達は果たして何者であったか?」

 

 ファウストは書物の山の中で目を伏せた。

 自身の父・メフィスト。

 その彼に魔法を伝えたのは?

 一度だけその名を聞いたことがある。

 魔法さえも超越した存在。

 

 

「アルカクラウンは、私の身体を使って”神”を降ろそうとしていた。彼らの指し示す神は恐らく……【神類種】だ。アルカクラウンがその存在を知っていたのだとすれば、エリアフォースカードとも関連があるということか?」

 

 クリーチャーさえも超克した存在。

 それを神と呼ばずして何と呼ぶべきか。

 

 

 

「……魔法の始祖の名はオーディン……《魔神類 オーディン》。確か、父は……そう書き残していた」

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