学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR69話:修復

「──火廣金は……!」

「居ねえよタコッ!」

 

 

 

 トリス・メギスと刀堂花梨は一触即発の空気の中、睨み合っていた。

 戦車(チャリオッツ)のカードを手に取る花梨は最早強行突破も辞さないといった様子。

 それに気圧されるトリスだったが──

 

「居ねえっつったら居ねえンだよ、お引き取り願おーか……刀堂花梨」

 

 凄んだまま引き下がるつもりはないようだった。

 まるで門番のようにその場を動かない。

 それに対して余計に不審さを募らせながら、花梨は詰問した。

 

「……何で火廣金は帰っちゃったの」

「知った事か。そのスポンジみてーな脳みそで考えてみりゃ良いんじゃねえか?」

 

 花梨のカードを握る手に力が籠る。

 

「あたしはバカだから、難しい事とか、相手が何考えてるかとか言われなきゃ分かんない。だけど……」

「あん?」

戦車(チャリオッツ)のカードは、火廣金が此処に居るって言ってるみたいだけど?」

 

 カードは、強く熱を帯びていた。

 バルガ・ド・ライバーがカッカッと笑う。

 彼もまた、同じ力を持つ魔導司の存在を感じ取っていた。

 

「主君の言う通りよ。口から出まかせなどやめておけ」

「……デカブツが。だったら何だってんだ?」

「火廣金に会わせて」

 

 同じアルカナ同士は引き付け合う性質を持つ。

 それ故に、花梨はこの屋敷に来た時から火廣金の気配を感じ取っていた。

 

「……どうする? 腕づくで突破してほしい?」

「……悪いがこっちにもメンツってモンがあるんでね」

 

 

 

<Wild……DrawⅦ──>

 

<戦闘術式ⅩⅩ──>

 

 

 

 無機質に戦闘開始を告げるエリアフォースカード。

 そして、浮かび上がる魔方陣。

 魔導司と戦車のカード使いがぶつかり合おうとしたその時だった。

 

 

 

「やめろトリスッ!!」

 

 

 

 叫ぶ火廣金。

 そこで魔方陣は砕け散り、エリアフォースカードも停止した。

 屋敷の扉の前には──息を切らせた火廣金が立っていた。

 

「……火廣金ッ!」

「……刀堂花梨。やはり君に隠し事は通用しないか」

 

 トリスの脇をすり抜け、花梨は火廣金に駆け寄った。

 胸倉を掴み、目をカッ開くと

 

「──何で黙って消えたの!!」

「……」

 

 凄い剣幕で怒鳴りかかる。

 見た事のない表情に、火廣金は黙りこくってしまった。

 

「此処に来る前に……ブランに、何があったのかもう一回聞いた」

「っ……そうか。情けない話も全て、か」

 

 目を逸らす火廣金の顔を無理矢理こちらに向けると、花梨は目を伏せた。

 ブランに携帯で火廣金に何があったのか問い質したのを思い返す。

 最初はあまりの剣幕に言葉を詰まらせていた彼女だったが、そのうちぽつりぽつりと話し出した。

 ──シャークウガを殺すって言って、耀の前に立ち塞がった!?

 ──カリンを助けられなかったのがよっぽど堪えてたというか、なんというか……でもアカルもシャークウガを殺されるわけにはいかなかったし、仕方なかったというか……デスね。

 ──でも、傍から見てもすっごく怒ってたんでしょ!? 何でそんなに……!

 ──そ、それは、私の口からは……。

 ──あーもう、頼りにならないなあ!! ……じゃあ、火廣金が気まずそうにしてたのは、耀と絶交したからとか……!

 ──そうじゃないんデスよ!? アカルもシヅクも、ヒイロの事は全然根に持ってないデス。仕方なかったって言ってるデス。

 ──じゃあ問題はやっぱり……火廣金……!

 ああ、思い返せば思い返すほど、腹が立つ。

 

「バカッ!! あんたって本当バカ!!」

「っバカとは何だ! 君にだけは言われたくは──」

「あたしがあそこでやられたのは……どうしようもない事じゃん! なのに、何でいつまでうじうじしてんのさ! あたしは無事だったし、今もこうやって立てる! なのに、何で──」

「君こそ、やっぱり何も分かってないな。何も分かっちゃいない」

 

 突き放すように火廣金は返した。

 冷淡で哀愁を込めた瞳だった。

 掴まれた手を引き剥がそうと握り返した。

 

「……分からないよ、火廣金。あんたの事も、あんたが何考えてるかも分かんないよ……何も言わない癖に分かってくれだなんて、そんな事してたら……あんたは本当に独りぼっちになっちゃうよ!?」

「俺は一人でも生きていける。だが、君はそうじゃない」

 

 彼女の手を引き剥がすと、火廣金は吐き捨てた。

 

 

 

「今からでも遅くない。俺の事は忘れて白銀耀の所に戻れ。そっちが……君の居場所だ」

「一人で生きていける人なんか……いるもんかッ!」

 

 

 

 もう一度花梨は掴み掛かった。

 此処で離したら、火廣金はもう二度と戻って来ない気がした。

 

「だから……耀達の所に、戻ってきてよ火廣金」

「俺の役目はとうに終わってたんだ。君が戦車の力に完全に目覚めた時点で」

「っ……」

「その時点で俺は居ても居なくても同じだったわけだ。結果だけを見れば、俺は仲間の脚を引っ張り、部長に刃を向け、そして何も出来なかった」

「……それは」

「俺は──不甲斐ない俺自身が一番許せない」

「許せてないのは、あんただけだよ火廣金!」

「っ……」

「誰が許さないって言ったの? 火廣金……失敗したり、間違っちゃいけない、って誰が決めたの?」

「俺は、シャークウガを──」

「あたしだって、耀を殺そうとしたよ」

 

 戦車(チャリオッツ)が暴走した時だけど、と花梨は付け加える。

 

「君は俺のとは違う! 不可抗力だ! 俺は今更戻って来れない」

「戻って来れるよ! 本当は……戻りたいんでしょ!? じゃなきゃ、ウソなんかわざわざつかないよね!?」

「何故俺にそこまで執着する? 君は部長が好きなんだろう」

「それは──」

「俺は知っている。君の中には常にあの男が居るだろうが」

 

 彼女は無理に笑ってみせた。

 その顔を見た時──火廣金は何かを察した。

 刀堂花梨が、敗北を認めた表情だった。

 

「……好き、だったよ。でも、耀は紫月ちゃんの事が好きみたいだからさ」

「だったら何故無理矢理でも奪いに行かない!? まだ間に合う、君らしくも──」

「ごめん、多分無理」

「……!」

「……あの二人の間になんか、今更割って入れないよ」

 

 自嘲気味に言った花梨の顔は何処か晴れやかだった。

 割って入れるわけがなかった。

 あの二人は、好意だとか恋だとかそういう次元を超えて、何か別のもので繋がっているように思えたのだ。

 互いの間にある絶対的な信頼。

 それは恋よりも悲壮で、愛よりも哀愁さえ感じる何かだった。

 

「だからさ、あたしもこの事はスッパリ忘れて、次はもっともっと良い男を好きになってやるんだ、ってね!」

「……」

 

 ああ、自分が思っていた以上に──刀堂花梨と言う少女は強かったのだ、と火廣金は思い知らされた気分だった。

 いつまでも先の出来事に囚われ続けている自分が小さく見えた気がした。

 

「まあ、一生竹刀が恋人でもそれはそれでいいかなって思うけど」

「……それで、本当に……良いのか?」

「割り切るのは、もうちょっと時間かかりそうだけど……それで良いと思う。どっちにしたって今、あたしは耀と顔合わせられそうにないし」

「……奇遇だな。俺もだ」

「ダメだよ、火廣金は。ちゃんと耀と仲直りしなきゃ」

「君こそだ。俺の事を言えない」

「っ……そうだ!」

 

 何か思いついたように花梨は子供じみた笑みを浮かべ、火廣金の顔を指差した。

 

「決めた! あんたがデュエマ部に戻ってくるまで、あたしも耀と口を利かない!」

「……はぁ!? 何だそれは!」

「だって、不公平だよ。要するにあたし達、耀と気まずい関係なのは同じわけでしょ?」

「ぐ、ぬぬ、それは……!」

「だから、だからさ火廣金」

「何だ?」

「……居なくなったりしたらダメだよ。耀、すっごく落ち込んでたみたいだからさ」

「……」

「それとも……本当に耀の事が嫌? 日本から出たいくらい……?」

 

 お手上げだ、と言わんばかりに火廣金は両手を上げた。

 完全に根負けだ。最後の最後で花梨らしからぬ策に嵌められたわけだし──

 

「……いや、俺も意地を張り過ぎた。次に学校で会った時にきちんと話すさ」

「……そっか! なら、これで解決だね!」

 

 ──つい、折れてしまうのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──2079年、ペトロパブロフスキー重工本社。

 

「……どういう、事かね……!?」

「ええ、派遣した合成人間の隊は3割を損耗……全滅しました」

「バカな事があるものか! 我々とて、トキワギから神の力を提供されているのだ! 奴らが我々に見せていたのは……その一端に過ぎなかったと!?」

「は、はい──そうなりま──しゅ」

 

 言いかけた途端、秘書の頭はスイカのように粉々に砕け散った。

 肉片と血飛沫が爆ぜて飛び散る中──黒ずくめの外套に身を包んだ人物が立っていた。

 

「──金にモノを言わせ、我ら議会を掌握しようとしていたようだが……掌握されているのが自分達とは微塵も考えなかったようだな」

「あ、ぐ、貴様は──」

「なあ、プレジデント・ペトロパブロフスキー……」

 

 鎌を向けられたペトロパブロフスキー重工社長は言葉を失った。

 

「……馬鹿な! 馬鹿な! 社内の警備はどうなっている!? もう、突破されたのか!?」

 

 プレジテント・ペトロパブロフスキーの額に汗が伝う。

 この本社の場所は機密事項。トキワギにも知らせていなかった場所だ。

 しかも、周囲は氷の大地に閉ざされており、更に私設軍隊とオレガ・オーラで武装されているのだ。

 時間Gメンでも突破は出来ない。そう考えていたのだが──

 

「神類種の力を前に戦争を仕掛けようとしたお前達の負けだ。古来より、戦とは頭を取ったモノの勝ちなのでな。私単身で潜入させてもらった」

「ど、どうやって──!」

「どうやって? 理屈で考えるな。()()()()()()()()()()のが神の権能だ」

「イカルスは! 一人欠けたとしても、エリアフォースカードを持つ、あいつなら──」

 

 

 

「あ、ひゅ、ひゅぃ──」

 

 

 

 声が聞こえてきた。

 社長椅子から立ち上がった彼は、空亡の足元を見やる。

 そこにはイカルス──少女の方──が這いつくばっていた。

 首からは、ホースのように太い動脈がどくどくと言いながら脈打ち、飛び出していた。

 

「あ、イ、イカルス──!?」

「私は生憎、愛する者を失った者には甘いのでな。生かしておいてやってるのさ」

「う、ぐぅ……!?」

「逆に貴様のように、口だけで愛を語るような者には心底反吐が出る。愛娘を私に殺されたから、宣戦布告か。心にも無い事を」

「……な、何が欲しい!? 欲しいものは何でもくれてやる──」

 

 命乞いをする社長には興味を全く示さない空亡は、イカルスの首根っこを引っ掴んだかと思うと露出した動脈に指を突き立てる。

 白目を剥いて、四肢をだらんとしていた彼女だったが、そのうちビクン、ビクン、と全身がのたうち──

 

「──さあ、生まれ変われ。神の洗礼だ」

「っ……!?」

 

 ぼこぼこ、と粟立つ全身。

 天使擬きの姿は、文字通り作り替えられていき──怪物と化す。

 最早、原型を留めない程に変貌した合成人間を前にして、社長はエリアフォースカードを取り出したが──

 

 

 

「ざ、(ザ・ムーン)──」

「処せ」

 

 

 

 ──怪物の一掻きで、その首は消し飛ばされたのだった。

 その場に死の匂いと静寂が支配する。

 主だったものの命を奪った怪物。

 そして、黒い外套の死神だけがその場で息づいていた。

 怪物が付き従うようにして傅くのを見やった空亡は、立ち上がったままの遺骸の手から(ザ・ムーン)のカードを手に取る。

 

「……(ザ・ムーン)のカード。世界を変えるクリーチャーの力。人間如きにその力を引き出せるものか」

 

 月と太陽。

 二つの天体のカードはこの日、ペトロパブロフスキー重工と共にトキワギ機関に完全に掌握されたのだった。

 後は──白銀朱莉の持つ星が残るのみ。

 

 

 

「こんなものを扱えるのは神か、神の恩寵に預かるもののみだ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「──ああ、僕だ」

 

 日もとっぷりと暮れた頃。

 黒鳥レンの元に掛かって来たのはアルカナ研究会からの連絡だった。

 

「……ああ、ファウストか。何か分かったのか?」

<さっぱりだよ。エリアフォースカード、ひいてはワイルドカードの氾濫について記された資料は無かった>

「……そうか」

<意図的に隠された線は薄いな。ワイルドカードの出現はここ最近だ。やはり、両者の関連性は薄いのだろうか?>

「……紫月の話によればエリアフォースカードの中には何かが分割されて封印されているらしい。人の悪意を吸収する何かだ」

<人の悪意、か……その特性はワイルドカードと共通するものがあるな>

「ああ。ここで、今までの件を逆に考えてみよう」

 

 エリアフォースカードは悪意を吸収するわけではない。

 対して、ワイルドカードは悪意を吸収することが出来る。

 一方で、ワイルドカードに対抗できるのはエリアフォースカードと魔導司のみ……。

 

「……この特性を鑑みるに、エリアフォースカードはやはり貴様の父がワイルドカードを想定して作ったものではないかと考えているのだが」

<……そして悪意を吸収する特性はエリアフォースカードの中に潜む何かとワイルドカードに共通する……>

「悪意を吸収する上に、エリアフォースカードの中に封印されるような存在……何か知らないか?」

<……お手上げだ。しかし、それだけ大きな存在には心当たりがある>

「何だ?」

<神類種だ>

「……しんるい、しゅ……? 何だそれは」

<我らが魔導の始祖はかつて、オーディンと言った。彼は最初の魔法使いと思われていたが、近年になってそもそも魔法使いを超越した存在ではないかと言われるようになったのだ>

「その分類が……神類種か」

 

 成程、クリーチャーでも魔法使いでもない存在──神類種。

 それが22分割されてエリアフォースカードの中に封印されている?

 黒鳥はバカげた話と切って捨てることは出来なかった。

 神とも呼ばれる存在ならば、そうやって封印しなければ抑えられなかったと考えても不思議ではない。

 

<その名称は父の資料のある一か所にしか残されていなかった。父の師でもあるオーディンの存在を定義づける唯一つの言葉だ。魔法を無際限に生み出す神にも匹敵する存在。オーディンは自らを神類種と名乗ったという>

 

 太古の時代。

 地球上のマナが著しく上昇した時代があったという。

 それは神類種と定義づけられる存在たるオーディンがもたらしたのではないかと考えられていた。

 いたのだが──

 

「神類種はオーディンの他には居ないのか?」

<そう……思われていた>

「思われていた?」

<日本に以前行った部下が、神類種という名前を書物で見たと言っているのだ。しかも、それは今も日本のある場所で封じられているという」

「何と」

<まあ元より、私もそうではないか? と決め打ちして調べていたからな。だが、次に行き着いた先が日本とは……>

 

 曰く。神類種という名称もその書籍の中にしか存在しない。

 しないはずのものが、遠き異国の日本に存在していたのだ。

 

「──ファウスト。それは何処に行けば見られる?」

<……困った事に我々の管轄外だ。扱う領域が違う>

「何なんだ。早く教えろ」

<神社だ。それも──>

 

 

 

 

<──伊勢。太陽神アマテラスを祀る伊勢に、その社は存在する>

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