学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第九章:鬼神類討伐篇
GR70話:デュエマ部伊勢参り──AD2018


 ──京都府、未明。

 赤い鳥居を潜った奥にひっそりと佇むお堂。

 煌びやかな装飾で彩られた門を目掛けて、黒光りした大鎌がひらりと舞った。

 バラバラと崩れ去る木製の扉。

 それを横目に黒い外套を身に纏った人物はつかつかと堂の奥に進む。

 そして、床を一瞥すると、再びその鎌を振るった。

 一閃と共に床板は外れて、地下へ続く石段が現れた。

 

「……こんなもので隠したつもりか」

 

 ぼそり、と呟くと黒ずくめは躊躇なく禁足地に足を踏み入れた。

 時が経ちすぎて、誰もその由縁を知らぬ場所へ向かう為に。

 石段で続く通路は狭く、暗く、じめじめとしていた。

 いつ崩れてもおかしくなさそうな壁に手を突きながらも進んでいく。

 そして──小さな鉄製の扉が最奥を塞いでいた。

 それに手を翳すと、光が迸り──扉が音も立てずに開く。

 

「──見つけたぞ」

 

 出たのは巨大な空洞。

 しかし、自然に出来たものではない。石の壁に包まれている辺り、誰かが造ったに違いない場所だ。

 そして壁には無数のひっかき傷と御札が貼られていた。

 床には何も言わぬ無数の骸が転がり朽ち果てていた。

 

(……人身御供、か。封印には大分手間取ったようだが)

 

 そう吐き捨てた黒ずくめの視線の先には何の変哲もない石ころが備えられていた。

 しかし、それは何枚もの御札に加え、重い鉄製の鎖がぐるぐると巻き付けられている。

 

「──それも、今日で終わりだ」

 

 ひらり、と黒い鎌がひらめいた。

 それが鎖を一刃の下に斬り裂く。

 次の瞬間──何かが溶けるような音と共に、黒い瘴気がその場に満ち溢れる。

 思わず黒ずくめも手で顔を覆う。

 外套が吹き飛ばされてしまうところだった。

 

(──ッ! エリアフォースカード何枚分の魔力だ……!?)

 

 しばらくしただろうか。

 それは見るも禍々しい赤黒い光を放つと、鋭い眼光と共に骸の上に足を付けた。

 黒く伸びた鍵爪。

 額から伸びた禍々しく湾曲した二本の角。

 そして、凡そ人の血が通っているとは思えない青白い身体の色。

 極めつけは金色の目玉が取り付けられた朱の面。

 悪魔(デーモン)とは似て非なる魔物がその場に立っていた。

 

 

 

「──お、ま、え、うまそうだな──」

「生憎私は神に仕える身なのでな」

「かんけいあるか? それが? 俺に?」

 

 

 

 ごきゅ、ごきゅ、と首を鳴らす音。

 ギラギラと光る目が外套の人物を睨む。

 

「女、なら、なおさら、旨そう、だ──」

「飢えているな? だが、この程度の石倉、貴様なら壊せるだろう。外には沢山食料があるぞ」

 

 鎌を天井に突きつけた空亡は冷淡にその名を呼ぶ。

 

 

 

「──《鬼神類 シュテン》。喜べ、貴様は自由の身だ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「おはようございます?」

「おはよう」

 

 

 

 ──色々あった翌日。

 玄関を潜った俺の前に現れたのは黒鳥さんだった。

 長身で、尚且つ鷹のように鋭い目を持つ彼は居るだけで威圧感を放っている。

 おかげで挨拶が疑問形になってしまったぞ。

 

「何だ? 硬直しているな。紫月ではなく僕が出待ちしていたのがそんなにショックか」

「いや……そういうわけじゃ……」

 

 てかこの人恐ろしい事言うな。

 まだ誰にも紫月とのこと漏らしてないのに、早速この人に伝わってたら怖すぎるんだが。

 

「黒鳥さん……どうしたんすか? 俺今から学校に行くんスけど」

「ほう。貴様は、その状態でもあくまでも学校に行こうとするのか?」

「いや、まあ」

 

 彼が指差しているのは俺の身体に出来た数々の傷。

 昨日も友達にも指摘されたが、これらは全部ここ最近の戦いで出来たものだった。

 シールドの破片が飛んできて出来た腕や顔の切り傷、爆風が原因で出来た火傷、そして外からは見えないが弓矢で貫かれた腹……治っても尚、傷跡となって残り続けるだろう。

 

「これだけの騒動が起こって尚か……貴様、疲れてはいないのか?」

「そりゃあ疲れはしてますけど……学校は休みたくなくて」

「何故? 僕だったら適当な理由を付けて休むぞ」

「俺の中の日常を……少しでも護っていたいんです」

 

 正直、今更と思わなくもない。

 非日常に塗れてしまった今だからこそ、普通で居られる今を噛み締めていたいのだ。

 今度はいつ、何が起こるか分からないから。

 

「……貴様もマメだな」

「褒めてるんすか? 呆れてるんすか?」

「両方だ」

「……で、何しに来たんですか黒鳥さん。わざわざ朝から説教しに来たわけじゃないですよね?」

「何、言っただろう。貴様も疲れているだろう、とな。そこで旅行でもどうかと思ったわけだ」

 

 ……旅行? こんな時に?

 平日から誘ってくるとなると、タダ事ではない気がしてきた。

 そもそもどう理由を付けて休むんだよ。今から学校って言ってるだろ。

 

「……誰が言いだしたんですか?」

「主催はアルカナ研究会だ」

「ほらぁぁぁーっ、絶対レジャーじゃないでしょ!!」

 

 今回の案件確定だ。

 絶対に何か起こるに決まってる。

 

「今度は何ですか? またクリーチャーが暴れてるとか?」

「別に何か事件があったというわけではない。しかし、貴様の孫の言うワイルドカードによる破滅を避ける手掛かりになるかもしれんと思ってだな」

「手掛かりって手掛かりって……そんな簡単に見つかるもんじゃないと思うんですけど。でも、俺学校あるし──」

「アルカナ研究会の偽造工作で貴様は既に風邪で休むことになっている──約一週間ほど」

 

 手が速過ぎる!!

 いやまあ、もうこの時期になると試験も終わってるからまだ良いんだけどさ!

 あ、俺は普通に単位落とさずに進級出来そうです。

 ブランは現国ヤバいって言ってたけど、追試は回避できたんだろうか。

 まあ、でも、そんなわけだし一応反論はさせてもらおう。

 

「学生の本業は学業なんすけど!?」

「それを学生の方から言い出す稀有な例は初めて見たぞ」

「やかましいわ! 一体何処に俺を連れていくつもりですか!」

「貴様は一つ勘違いしているな。()ではない、()()が正しい」

「達?」

 

 ちょっと待て。

 それってまさか──

 

 

 

「行くのはデュエマ部全員+αだ。今からこの面子で三重県伊勢市──つまり、伊勢参りへ行く」

「うわぁぁぁ、何やってんのあんたらぁぁぁーっ!!」

 

 

 

 頭を抱えた。

 伊勢参り!? 何故!? 何故此処で東海道中膝栗毛(お伊勢参り)!?

 加えて出発は今から!? 旅行の準備とか全然してないんだけど、費用は出してくれるんだろうな!?

 そんでもって、他のメンツも一緒って──

 

「俺は良いんすよ、一人暮らしだから! 他のやつはどうするんすか!? 親がいるのに!?」

「魔導司なら、偽物を人数分作るらしいな……魔導司なら可能だ」

「偽物って、パーマンかよ……」

 

 即答されるアンモラルな対処法。

 理由が理由とは言え人を騙すのに良心の阿関は無いのか、魔導司って生き物は。

 

「そういうわけだ。良かったな。貴様等は伊勢へ旅行だ。日頃の疲れを癒せ」

「癒すつもりなんか無いんでしょ? 絶対何かがあるんでしょ?」

「そうだが?」

「涼しい顔でよく言えたな!」

「時間は無いのでな。貴様の孫の言う、ワイルドカードの氾濫とやらまでの時間も少ない」

「確かにそうですけど……」

 

 あれって確か、2019年4月に起こるんだっけか?

 それが本当ならば、時間は無い。

 余裕があるうちに、黒鳥さんの言う旅行とやらに行くベきなのだろうが……。

 

「そして貴様の孫も出来れば連れていきたいのだが」

「え、アカリも?」

 

 

 

「どーしたんですかぁ……一体……」

 

 

 

 後ろから声が聞こえてくる。

 寝間着姿で現れたアカリだ。

 眠そうに目を擦っている辺り今さっき起きたみたいだ。

 俺は彼女に事のあらましを話すと、

 

「ごめんなさい! 多分……伊勢に行くのは無理です」

「どうしてだよ」

「せんすいカンちゃんが度重なるタイムダイブで疲弊しきってて……調整をしないといけないんですよねえ」

「あー……確かに、大分疲れてるみたいだったな……」

 

<マスターもうムリィ……早く整備してえ……>

 

 そんな声がアカリのデッキケースから聞こえてくる。

 せんすいカンちゃんの悲鳴だ。

 流石にタイムマシンという高精度のマシンであればこまめなメンテナンスは欠かせないのだろう。

 それ以上に、元が守護獣である以上は本体の魔力も起因しているので、酷使は出来ないはず。

 にも拘らず。

 

「やーれやれ、なっさけない後輩でありますなぁー、我なんかマスターに無茶ぶりされてもなんともないでありますよー」

 

 最悪かコイツ。

 ドヤ顔で実体化するチョートッQ。

 お前本当、黙って巨大化してればカッコ良いのに、すぐ調子に乗って人にマウント取るのが悪い所だぞ。

 

<ぐぬぬぬ、新幹線の癖にぃー、生意気だぞー! 先輩面すんなー!>

「はははは、新幹線の方が速くて強いのでありますよ、ぬわーははははは──いだだだだ、急に腰が」

「オメーも人の事言えねえじゃねえか」

「元はと言えばマスターが悪いでありますよ! 急な合体は身体がキツいのであります!」

「そうかそうか俺が悪いのか、ガタが来てるんだったらお前も分解して点検しねえとな。先ずは頭から」

「それは勘弁するでありますよーっ!」

 

 さて、茶番はこの辺にしておくか。

 涙目の新幹線の頭を掴んだまま俺はアカリに問うた。

 

「一人で大丈夫か?」

「平気ですよぅ、子供扱いしないでください! それに、鶺鴒が手薄になりすぎるのも良くないでしょう?」

「刀堂花梨も同様の理由で此処に居ると言っていたな」

「じゃあ、二人は此処に残るってことか……」

 

 思っていたよりも人数は少なくなりそうだ。

 デュエマ部の4人……いや、3人……か。

 それに加えて翠月さんと、黒鳥さんって所なのか?

 合計5人……火廣金も、居ない訳だしな。

 だけど、俺が心細そうな顔をしていたら皆にも心配を掛けちまう。

 起こってしまったことはもう仕方ないんだ。俺は──切り替えないと。

 

「……黒鳥さん。一体、伊勢に何をしに行くんですか?」

「伊勢参りだが?」

「冗談でしょ?」

「ふむ、正確に言えば──エリアフォースカードの中に封じられている存在について、だ」

「っ……!」

 

 そう言えば紫月が言っていた。

 シャークウガを取り返しに行った際、教皇のカードに限らずエリアフォースカードの中には”何か”が居るとのことだった。

 

「ファウスト曰く、その正体が何かを現代魔術で突き止めることは出来ないという」

「……多分、未来の魔術でも無理だ。誰も”何か”に勘付いてすらなかった」

「あ、あの……お爺ちゃん、”何か”って結局何なんでしょう? 触らぬ神に祟りなしって言いますし……やめておきません?」

「何言ってんだアカリ、手掛かりになりそうなものは何でも調べた方が良いだろ? ワイルドカードの氾濫の原因が何なのか分かってないんだからさ」

「その通りだ。だが、エリアフォースカードの中に22分割せねばならない程大きな存在、そして人類の悪意を吸収する存在……最早、クリーチャーだとしても強大な存在に違いない」

「その手掛かりが伊勢にあるっていうんですか、黒鳥さん」

「ああ」

 

 彼は頷く。

 何でそんな危ないものに関する手掛かりが日本にあるんだろう。

 

「その名は──神類種。人々の感情を吸収して肥大化する存在が、かつて封じられたという記録が記されているらしい」

「ッ……!」

 

 アカリが驚いたように目を見開く。

  

「……神類種。聞いたことがあります」

「何?」

「トキワギの議長の肩書です。男か女か、名前も分からない議長ですが、自らを神類種だと名乗ったそうです」

「何だって!? じゃあ、エリアフォースカードに封じられているのって、もしかして……」

「それは早計だ。未来の教皇のカードに”何か”が潜んでいた説明がつかん。”何か”は未来でもエリアフォースカード内に分割封印されたままだな」

「あ、そうか……」

「魔法の始祖たるオーディン、エリアフォースカードに封じられている個体、そして現在トキワギ機関を運用している個体……これら全てが同一とは考えにくい」

 

 じゃあ、”神類種”とやらは複数体居て、エリアフォースカードの中に封じられているのはその1体って考えるのが妥当なのだろう。

 そいつらが人間の悪意を吸収して、エリアフォースカードも暴走させていたとすれば──

 

 

 

「──神類種とやらが文字通り、全ての元凶……!!」

「ああ。復活を阻止するだけじゃない。トキワギを相手取るなら、完全に滅ぼす手段を講じなければならんだろうな」

 

 

 

 その手掛かりは伊勢にある。

 ならば──猶更行くしかない。

 

「じゃあアカリ、留守の間は頼むよ」

「お、お爺ちゃん……旅行の準備は出来てるんですか?」

「……出来てねえ。つか、する暇なんかあるわけなかったよな!?」

「まあ、準備くらいは手伝おう」

 

 まだ全然心の切り替えは出来てねえけどな……。

 そもそも何日鶺鴒を離れるかも分からないわけだしさ。

 

 

 

「マスター、我もお供するであります。心配無用でありますよ!」

「チョートッQ……!」

「エリアフォースカードの中に潜んでいる悪鬼羅刹、必ず追い出すでありますよ!」

 

 

 

 ……まあ、頼もしい相棒も居るんだ。

 今更、何を躊躇するんだって話だな。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「きゃああああああああああああ……!」

 

 

 

 京都に渦巻く黒い影。

 一度目覚めた鬼神は人への恨みを持って顕現した。

 解き放たれる数々の異形。 

 それが喰らうのは人々の命。

 夜の闇に、無数の悲鳴が響き渡った。

 暗闇に紛れた殺戮が──始まった。

 

「ウ、ウキィ……! 鬼が、鬼たちが目覚めたッキーッ!!」

「悍ましい、誰がこんな事を……!」

「キャィン……ぼ、僕達に出来る事はないの……!?」

「今の我々では、成す術が無い……だから、探すしか、ないケン……!」

 

 小さく、非力な3匹はそれを見つめる事しか出来ない。

 

 

 

「我々の、(キング)……()()()を見つけねば……!」

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