学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「──伊勢志摩と言えば温泉地で有名なのデース!!」
電車の中は既に賑やかだった。
これから先の目的地が如何に素晴らしい観光地であることをブランが紫月と翠月に熱弁している。
黒鳥さんに事情を説明された後、やはり俺同様に戸惑っていたらしいが、悪質なデマだったようだな。
翠月さんに至っては「温泉……!」と目を輝かせているし。
「毎度毎度だが観光じゃねえんだぞ……ブラン」
「アカルはもっと、肩の力を抜くべきデス。もう定期テストも全部終わってるし、ちょっと学校休んだって大丈夫デスよ!」
「成績が終わってるじゃなくってか」
「ギリギリ現国の追試は回避したデース!!」
「ギリギリじゃねえか、もっと国語勉強しろよお前は! 俺達ゃ来年度は受験生だぞ!」
「……ぴゅーぴゅ、ぴゅるるるるるる」
へったくそな口笛だなあオイ!
誤魔化してんじゃないよ! ……ああ、このままじゃあ受験前はコイツに付きっ切りで国語を教える羽目になりそうだぞ。絶対嫌だからな。
「ちょっと休むくらい良いじゃないデスか。それに本分はmissionデスしー?」
「どうせ目当ては観光と温泉だろ……俺達ゃ調べ物で伊勢神宮に行くんだぞ」
「今日は予約している旅館に直行する事になるがな。着いたらもう夜だ」
「温泉、ですか……もきゅ」
紫月が、じゃがりこをまとめて頬張った。
そして──
「三重って意外と観光地だったんですね。何も無いただ長細いだけの県かと」
──衝撃の爆弾発言。
何てことを言ってくれるんだお前は!
「し、紫月さんや! それ一番言っちゃいけないやつだから! 伊勢・志摩は立派な三重の観光地だから!」
「……? 有名な神社仏閣は大体京都にあるものかと」
「やめやめろ! 何でわざわざ喧嘩を売っていくんだ!」
「暴論デース!! 暴論ノ裁キデース!」
おめーはそれが言いたかっただけだろ!
ああクソ、突っ込んでる暇は無いからスルーだスルー!
「そも、私が履修しているのは日本史なので」
「腹立つなァ!」
ああ、この自由人め。
こういう何にも囚われない誰にも縛られない我が道を行く所、本当に見習いたいもんだ。
……いや、やめておこう。俺までそうなったら誰が音頭を取るんだ。
「まあ、温泉は楽しみにしておきます。後料理も」
「結局食う事に終始するのな……」
「もう、シヅクはそうやっていつもテンションがローデース。折角の旅行なんだから、もっとアゲていくデスよ! ウェーイ!」
そのテンションのアゲ方の方向性もおかしいだろ。
ブラン。お前最近、そのエセ(じゃないけど)外国人のキャラ付け迷走しているな?
「はしゃいでるのはブラン先輩くらいなものですよ。旅行と言いつつ実際は、エリアフォースカードに封じられているバケモノの手掛かり探し、師匠が引率なのは良いやら悪いやらですし……」
「安心感は段違いじゃない?」
「貴様ら全員の面倒など見切れるものか。勝手に引率にするんじゃあない。僕だって温泉に浸かって伊勢神宮観光してさっさと帰りたかったさ」
「あら、良いじゃない。観光の時間だって十分にあるわよ、師匠」
とか言って伊勢志摩の観光ガイドを「じゃーん♪」と掲げる翠月さん。準備万端か!
何だよ。あんたら揃いも揃ってノリノリかよ。
ひょっとして気分がイマイチ乗らないの俺だけか?
「しかし、何だかいけない事をしている気分になります。一応今日平日ですし……」
その感覚は大事だぞ紫月。ちゃんと覚えておくように。
だけど、平日だからこそ人がいないうちに調査をしておくべきではあるんだよな。
休日だと国内の観光客でごった返すだろうし……。
「まあ……こんな日くらいあっても良いさ」
「そうでしょうか。あ、白銀先輩じゃがりこどうぞ」
「サンキュ」
「私もデス! 私もデス!」
「ごめんなさい、今ので最後です」
「シヅクーっ!?」
「冗談ですよ」
ああ、こうしてみると遠足や中学の修学旅行を思い出すよなあ。
「どうせ費用はアルカナ研究会……と僕のポケットマネーから出るのは分かっているのだ」
「わざわざ黒鳥さんが出す費用ってあるんですか?」
「土産代だ」
「……ああ」
「従妹が煩いのでな……手ぶらで帰ったら、また急に居なくなった上に何も無しと文句を言われる」
「ああ、玲奈ちゃんが……」
玲奈ちゃんは、ばりっばりの反抗期。
従兄の黒鳥さんにデュエマで勝つのを目標にしているので、家に居ないと機嫌を悪くするらしい。
かと言って負かせたら負かせたで拗ねるのだという。
「玲奈ちゃん、まだ拗らせてたんですね……」
「あいつは万年ああだ。僕も適当なところでわざと負けてやれば良いんだろうが……」
「手を抜くなんて黒鳥さんのガラじゃないですからね」
「……ああ。挑まれた以上は全力で返すのが礼儀だからな」
──とのことだ。
実際、玲奈ちゃんは強い。
めきめきと実力を上げているという。手を抜いたらそれを見抜いてしまうし、そもそもハンデ付で勝てる程弱くも無いという。
実際、地の実力なら既に俺を超えているんじゃないか、と黒鳥さんは語る。ひぇえ……中学生怖い。
「あいつも距離を取ってほしいのか構ってほしいのか分からん。年頃で不安定なのは分かるが」
「でも、傍から見れば仲の良い兄妹みたいなもんですけどね。玲奈ちゃん、黒鳥さんを目標にしてるってことは多かれ少なかれ慕ってるってことでしょ」
「だったら良いがな」
憂鬱気味に黒鳥さんは窓に息を吐いた。
何だよ。俺が言うのもなんだけど、旅行前だというのに既にブルーな人の割合多すぎやしないか。
いやそもそもレジャーなんかじゃないんだけど、このまま自粛ムードってのも空気が悪いしな。
折角観光地に行くわけだし、気を引き締めつつも楽しまないと。
じゃなきゃ、心が休まる暇も無い訳だし。
「……よし、ブラン。良さげな観光スポットとか無いか?」
「もうそれはそれは沢山調べてきてるデスよ! 用事が終わった後に、ゆっくり遊びに行けそうな所とか!」
「だってよ、紫月。お前も興味あるだろ?」
「それは……はい」
目配せすると、紫月が頷いた。
ずっと自粛ムードって訳にもいかないしな。たまには息抜きするのも良いだろう。
ちなみに旅館に着くまでの間だが、「ところでシヅク、新しいデッキ作ったんデショ!?」とわざわざ電車の中でデュエマを挑んだブランが(すっごく場所を取る。今日はガラガラで助かった)、無限ループを決められて涙目になっていたりした。
「……紫月、お前それ気に入ったのか? トワイライトΣループ……」
「手触りは最高です」
「僕はこんな弟子に育てた覚えは無い……ループは僕じゃなくてヒナタの領分だ。頭痛すらする」
「あの人ループも使うのかよ……」
黒鳥さんが眉を顰めながら頷いた。
彼の永遠のライバルであるヒナタさんは、ドラゴンデッキや墓地ソースのみならず呪文を多用するループデッキも使っていたのだという。
文字通りのオールラウンダーだったらしい。
現在最強のデュエリストは伊達じゃねえってか。
「今の紫月を見てると、いずれヒナタみたいになるんじゃないかと心配になるな……」
「なら師匠も倒せて一石二鳥ですね」
「悪夢だ」
「ううー……二度と電車の中でデュエマなんかしないデース……」
「おう、時が時ならクソ迷惑だからな」
※※※
──そんなわけで宿泊先の旅館には予定通り辿り着いた。
温泉は見事な露天風呂。
伊勢・志摩自慢の半島の夜景を一望することが出来るのだという。
「っあぁぁあ~~~~~」
巨大な湯舟に浸かるとおっさんみたいな声が出てしまった。
人も少なく、実質俺達の貸し切りみたいなものだ。
こうやって落ち着いて風呂に入る事が出来るのは何時ぶりだろう。
しばらくなかったような気がするなあ、本当に。
効能とかは詳しく知らないけど、肩こりとかリウマチとかに効くっての分かる気がする。
身体に、こう……沁みるんだよなあ。自然の湧き水なわけだし? 身体が喜んでいるんだよ。
「堪能しているようだな」
「おかげさまでー、あぁぁぁぁ」
黒鳥さんが声を掛けてきた。
彼も湯舟に浸かり、目を閉じている。
すっかり二人共温泉の魅力に取りつかれてしまったようだった。
景色も最高、湯も最高と来た。
気分は良い湯だな、ババン・バン・バン。
「特に貴様は無理にでも休めないと休まんだろうからな。アルカナ研究会も、こんな機会を用意したんだろう。粋な計らいをしてくれたよ」
「有難く貰っておきますよ」
あー、気持ちいい。本当に気持ちいい。
こういう旅館とか来た事無かったけど、良いもんだよな。
もう俺ずっと此処に居ても良いかもしれない。
「FOOOO!! 温泉サイコーデース!!」
「はしゃぎすぎですよ、ブラン先輩……」
「ねえねえしづ! あっちの景色綺麗よね、スケッチしていいかしら!」
「良い訳ないでしょう!?」
……姦しい声が聞こえてきた。
そういや、向こうの柵が男湯と女湯を隔てているのか。
本当に今日は貸し切り状態みたいだな。
向こうの声が筒抜けだ。
「ブラン先輩、シャンプーは自分の物を使ってるんですね」
「Yes! 髪が私のハートみたいに繊細だから、これじゃないと荒れてしまうのデス」
「はぁ……だからいつも、髪から良い匂いが……すん……」
「ちょっとシヅク!?」
「或瀬先輩、そのシャンプーって何処で買ったんですか!? 私にも教えてください! 私も髪が荒れやすくって!」
「ちょっとミヅキまで!? 圧し掛かったら、滑──」
ガラガラガラ……風呂桶が崩れる音が聞こえてきた。
何やってんのあの3人。頼むから風呂場で怪我したとかはやめてくれよ。
「憧れのHot spring! 日本の文化デスねー!」
「景色も最高ね! 家のお風呂じゃあ、絶対に体験できないもの! ああ、桑原先輩も来れば良かったのに……」
そんな事言ったら……俺だってどうせなら全員で一緒が良かったよ。
アカリ、温泉に入らなくて良かったのかなあ。
花梨とか、定期的に家族と温泉旅行行くって言ってたよなあ。
火廣金は……温泉とか入った事あったのかなあ。
「はぅ……本当に気持ちいです……肩凝りに効くって本当なのでしょうか」
「肩凝り酷いものねえ、しづ」
「大変なんですよ。色々」
「溢れるくらいのNiceなバディデスからね……」
「何処見て言ってるんですか……」
「肩なら私が揉むわよ、しづ!」
「みづ姉、そこは肩じゃないです!」
……いかん。
ちょっと想像してしまった。
心頭滅却すれば火もまた涼し……心を落ち着けろ俺。
「そうそう、可愛い後輩を抱いて浸かると、癒し効果が倍増するって聞いたデス!」
いや何の話だよ。何処情報?
「ちょっとブラン先輩、抱き着かないでくださいっ……!?」
「ずるいわ、或瀬先輩! 私も私も!」
「みづ姉まで!? ちょっと、重いんですけど二人共ーっ!?」
……また滑っても知らねえぞ俺は。
良い歳してはしゃぎすぎなんだよ、ブランも翠月さんも。
「……向こうの様子でも想像したか?」
「滅多なこと言わんでくださいよ!」
真顔で何てこと聞くんだこの人は!
くそっ、想像しない訳が無いだろうに!
俺だって健全な男子高校生だぞ、だけどやって良い事と悪いことがこの世にはあるんだ。
部長は何時だって慌てず、騒がず、狼狽えず。きっちりと精神の均衡を保っていないと。
あークソ、やめやめ、ゆっくり浸かる暇もありゃしない。
このままじゃ逆上せちまうし、さっさと上がるか。
「ん? もう上がるのか、白銀」
「逆上せたんでデッキ組んできます」
「……そうか」
「全てを察したような表情すんな! ぜってーあんたが思ってるのと違うからな!」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!!」
!?
突如。
劈くような悲鳴が聞こえてきた。
何だ!? とうとう湯舟の中ですっ転んだのか!?
いや、でも、この声って翠月さん──!?
「オイ! 大丈夫か! お前ら!」
「白銀先輩!? 白銀先輩の声が!?」
「向こう男湯デスよ! でも丁度良いデス!」
「どうした!? とうとう翠月さんが頭打ったのか!?」
「違うデスよ!?」
じゃあ何事なんだ!?
そう聞き返す間もなく、ブランが叫んだ。
「クリーチャーが──女湯を覗いてたのデスよ!!」
な、何だとぉぉぉーっ!?
クリーチャーも女湯に興味があったのか!?
いや、そうじゃなくって──クリーチャーが温泉に出た事の方が問題だわ!
「クリーチャーは何処に行った!?」
「もう逃げたデス! 茂みの向こうへ──」
「チョートッQ!」
「呼ばれて飛び出て参上でありますよ!」
こんな事もあろうかと、エリアフォースカードは風呂桶に入れて湯舟に浮かべていたのだ。
……温泉入ってる途中に急襲されるのを想定するとか、嫌で仕方なかったけど……嫌な予感って当たるモンだな!
それに、守護獣の人格は皆オスだ。女子勢は守護獣を呼ぶに呼べないはず。
つまり、こういう時に速攻で動けるのは、男の俺とチョートッQだけということだ。
「この辺に出てきた怪しいクリーチャーを超超超可及的速やかにとっ捕まえてきてくれ!」
「了解であります!」
マッハで飛び出す新幹線頭。こういう時は本当に頼りになる。
間もなく──
「ウッキィィィアアアアアアアアアアアーッ!!」
ゴッチーンッ!!
甲高い叫び声、そして遅れて風呂のタイルに何かが叩きつけられる音。
チョートッQが、その”何か”の首根っこを引っ掴んで捕縛してきたのである。
任務ご苦労。
肝心の犯人は頭ぶつけて完全に気絶しちまったみたいだけど。
いや、犯”人”っていうか──
「猿だ」
「サルだな」
「エロ猿であります」
「覗きは立派な犯罪だが、クリーチャーに刑法は適用出来ねえからなあ」
ひっ捕えられたのは、サル。
布の覆面で顔を覆った猿のクリーチャー……なのか?
「……チョートッQ、こいつで間違いないんだな?」
「間違いないも何もクリーチャーがウロウロしてる時点で異常事態でありますよ」
「それもそうか、どっちにしたって見過ごせねえよな」
「しかも名残惜しそうに木の上で望遠鏡使って女湯覗いてたから確信犯であります」
「最悪だな……」
黒鳥さんが溜息を吐いた。
俺だって……俺だってゆっくり風呂に入りたかったですよ……。
※※※
画して。
覗き魔猿を捕縛した俺達は、大部屋にて簀巻きにした犯人を座らせ、取り囲んでいた。
捕り物が終わったのは良いが、問題はこの猿の処遇。
「クッ、殺すなら殺せッキィーッ!!」
「一周回って清々しいな……」
盗人猛々しいとはこの事だ。
悔しそうな顔を浮かべる猿。「もっと早く逃げていれば……」と呟いているので、反省の色ゼロ。
「タダのワイルドカードならば、さっさと破壊すれば良かったが……」
「そうではないようじゃのう」
「どういうことだよ」
シャークウガとサッヴァークの見解は、猿が「ワイルドカードではない」という事だった。
じゃあ何なんだ? 何でコイツは実体化してるんだ?
そもそもクリーチャーって言っても、こんなの見た事無いんだけど……。
ドリームメイト? ビーストフォーク? 何か、そのどっちでも無い気がするんだよな。
前者にしては可愛げが欠片もねぇし、後者にしては猛々しさが足りない。
まあどっちにせよ──
「オイこらテメェ──ちったぁ反省しろや大ボケ猿。うちの部員の裸見ておいて、よくもまあいけしゃあしゃあと──」
「ッキィー? 羨ましかったのかッキィ?」
「あんだとテメェ!」
「マスター、ステイ! ステイ!」
マジで許さねえ、この猿……。
もう大分チョートッQが痛い目遇わせてるけど、この図太さには感心するくらいだ。
「まあ、そもそもコイツ、我々の脅威になるほどの力は秘めてないでありますなぁ」
「ウキィッ!?」
「猿のクリーチャーなんて沢山いますが、私もこんなの見た事無いです。見るからに弱そうですが」
「ウギィッ!?」
「そりゃそうデスよねー、強いクリーチャーならわざわざ覗きなんてしないデスよねー」
「ウ、ギィ……」
おお、効いてる! 効いてるぞ!
真っ向から相手するより、こういう精神攻撃の方がキくのだ。
「すいませんでした……ちょっと、魔が差したんです……ッキィ……」
「謝って済むなら警察は要らないデスよ!」
「長旅で、疲れてて……癒しが、欲しくって……つい」
「ついじゃねーよ! オイ猿。お前、仲間は居るのか?」
「俺は仲間は売らないッキィ!!」
「テメェ……俺には反抗的なのな……!」
もう許さねえ、やっぱりもう一遍痛い目に遇わせて──
「まあ待て白銀。こいつの仲間は見つからんが、間抜けは見つかったようだな」
「あ?」
「今、仲間は売らないと言ったな貴様。居るんだろう、同朋が」
「あ”」
硬直する猿。図星みたいだ。
居る。こいつの他にも同じようなクリーチャーがいるんだ。
「覗き魔は他にも居たんデスか!」
「クックックッ、俺達を見くびるんじゃないッキィ。覗きなんてやるのは、このモンキッド様くらいだっキィ!!」
「テメェだけが下劣なんじゃねえか!!」
てか、こいつの名前、モンキッドって言うのか。
猶更そんなクリーチャーの名前は聞いたことが無い。
「とにかく! もうじき、この日本は大変な事になるッキィ」
うん?
何の話だ? とっくに大変な事になっている気がするんだが。
未来から孫が来たり歴史改変されたり、ヤクザにうちの後輩攫われてるし……。
「だから、我らが
次の瞬間。
突風が部屋の中に吹き荒れた。
一瞬のうちにモンキッドの姿は無くなっていた。
見ると、大部屋の窓が開いている──!
「マジかよ……逃げられた……!?」