学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR72話:デュエマ部伊勢参り──空亡の宣告

 ※※※

 

 

 

「──あのクリーチャー達は、まだこの辺に潜伏している可能性が高いデス。サッヴァークには伊勢市全域を領域化してもらって、あいつらを逃がさないようにしてるデスが……」

「それでも見失った、と……」

「ハイ……」

「人の信仰が多く募る場所……それが聖域じゃ。神社仏閣、教会、魔導司の造った施設……これらはワシの力では見通せん」

「サッヴァークの迷宮化も万能じゃねえんだな……」

 

 さて、覗き魔騒ぎでてんやわんやだった昨日の夜から一晩明けた。

 すぐさまモンキッド追跡の為にサッヴァークの能力を使ったのは良いものの、すぐさま行方不明になってしまったという。

 尚、翠月さんが旅館から飛び出して一人で深追いしようとしたのだがすぐさま止められた。覗き魔死すべし! だそうだ。

 確かに、あの時倒せるなら倒してしまっても良かったのだが、出所が分からないクリーチャーである以上情報源を潰すのも悪手だったのである。

 

「しかし……桃太郎と猿、か」

「仲間が居るってことは残りのクリーチャーもおのずと絞られてきますね」

「犬と、キジか……」

 

 これらは桃太郎の3匹のお供だ。

 そんでもって、桃太郎を探すとか一体何を考えてんだろうな……。

 

「そんな事はどうだって良いのよ!!」

「ミヅキ!?」

 

 唐突に翠月さんが街中で顔を真っ赤にして憤慨した。

 

「フフフ、次に会った時は……タダではおかないわよ、あのお猿さん……!」

「こんなにキレている翠月は見た事が無いな」

「クリーチャーに裸を見られるなんて、屈辱だわ! 初めては桑原先輩って決めてたの!」

「貴様は何を言ってるんだ……」

「怒りの余り普段なら絶対に口走らない事を口走ってるんです。これは後で思い出して、恥ずか死ですね」

 

 この通り怒りに燃える翠月さんの目は、かなり怖くなっている。

 そして普段が温厚な分、紫月より翠月さんの方が二倍マシで怖ろしく見える。

 

「ねえしづ、猿って美味しいのかしら……ほら、よくジビエってあるじゃない?」

「やめてくださいみづ姉、あの猿は絶対マズいですよ」

 

 それでも収まらない翠月さんの不気味な微笑み。助けてください、と紫月が俺に視線を送って来た。

 だがすまない、俺にはどうしようもねえ。

 だって怖いもんは怖いんだから仕方ないだろ。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ──肝心の伊勢神宮までは徒歩とバスを経由して進む事になった。

 その車内で黒鳥さんは語る。

 

「伊勢神宮は、言わば神社本庁の本宗。つまり、全国約8万社の神社のトップだ」

「じんじゃほんちょー? って、何なんですか?」

 

 うーん、聞き慣れない単語だ。どうしても官公庁とか、そういうものの類が思い浮かぶ。

 しかし、そんな省庁聞いたこと無いしな……。

 

「日本各地の神社を包括する宗教法人の名だ。ちなみに文科省の管轄だな」

 

 どうやら官公庁とは関係なかったらしい。

 神道にそんな正式名称があったのか。そして、それを総括するのが伊勢神宮なんだな。

 

「……でも、それがどうかしたんですか?」

 

 紫月が眠そうに言う。

 お前はもう少し興味ってもんを持て。

 バスに揺られて、若干ご機嫌が斜めなのは分かるけど。

 

「故に、その中の仕組みも巨大だ。表から──裏まで」

「裏? 暗部ってことですか」

「暗部と言う程大きくも無いがな。そもそも日本人には魔力を持つ者が少ない。だから、”裏”に関われる人間もおのずと絞られてくる」

「確かに……ヒイロも日本人じゃないデスからね」

 

 それに火廣金は初めて会った時に「日本人は宗教観念が希薄」と言っていた。

 海外の魔導司からは、日本は最も魔法と縁遠い国と思われているのだろう。

 何故なら──魔法は宗教に直結し、科学と相反する力だから。

 

「だが、それでもごくまれに家系単位で魔力を持つ者が存在する」

「家系……つまり、代々血筋で繋がってるってことデスよね? 何だかJapaneseのファンタジーみたいになってきたデス!」

「黒鳥さん、魔法使いの家系が伊勢神宮に居るってことですか?」

「らしいな。その筋の専門家が集められているのだ」

 

 伊勢市駅の近くでバスを降りると、人で賑わう外宮参道に辿り着いた。

 此処を真っ直ぐ歩くと、目的地の伊勢神宮──の外宮・豊受大神宮に到着するという。

 伊勢神宮は外宮と内宮の二つで構成されており、先に前者を参るというのがマナーらしい。

 平日だが、ちらちらと観光客が出歩いており、沿道には瓦屋根木造建築の侘び寂びを感じさせる店や旅館が立ち並ぶ。

 

「まだ約束の時間まで余裕がある。しばし、ゆっくりしていくか」

 

 その黒鳥さんの言葉で、早速ブランが弾かれたように「観光の時間デース!」と叫んで走っていく。ああ、元気なこった。

 しかし実際、気持ちが沸き立つのは分からんでもない。

 参道は景観を損なわない為に電線は地中に埋められているらしく、地面もアスファルトではなく石畳となっており、すっきりとした街並みだ。

 まるでタイムスリップしたかのような……周囲の人達の姿が着物だったなら、本気でそう思えたかもしれない。

 バスでは眠そうだった紫月も、参道に入ると一転、見慣れない風景にときめいているようだった──

 

「せんぱい、せんぱいっ、”ぱんじゅう”ですよ、”ぱんじゅう”! 食べていきましょうよ!」

 

 ──と思っていたら、惹かれていたのは和菓子だったらしい。

 俺の袖を引っ張る紫月は、無理矢理俺を”ぱんじゅう”とやらが売ってある店に連れて行く。

 どうやら、たこ焼き型の生地に餡子が入った焼き菓子のようだ。

 

「へーえ、お参りする人に人気なのか……」

「中身も色とりどりです。餡子、抹茶、カスタード……どれにしますか?」

「俺カスタード」

「じゃあ、私はこしあんにします」

 

 木のベンチに座ると、紫月はこしあんのぱんじゅうを頬張った。

 凄く嬉しそうに食べる姿は、まるでリスでも眺めているような気分だ。

 俺も一口──ん、旨い。噛むと滑らかなクリームが溢れてくる。

 甘いけどしつこすぎない、和菓子らしい奥ゆかしさ。これは、ついつい手を伸ばしてしまう甘さ加減だな。

 

「んふふっ、美味しいです」

「喉に詰まらせるなよ?」

「むぅ、子供じゃないです」

「甘い物食べてる時のお前は、一番子供っぽいけどなー。普段が大人びてるから猶更」

「むー……からかってますね。顔がにやけてます」

「悪くはねえよ。お前のそういう顔見てると、俺も釣られてつい笑っちまうんだ」

「……別に。みづ姉があまり甘い物が好きじゃないから……一緒に同じものを食べられるのが嬉しいんです」

 

 ああ確かに。この姉妹、仲は良いけど色々正反対なんだよな本当に。

 と思った矢先。

 悪戯っ子のような笑みを浮かべた紫月が、最後の一個を俺の口元に差し出した。

 

「それに、こういうのって……デートっぽくないですか?」

「……お前、そういうの反則」

 

 こしあんの味は、気恥ずかしさでよく分からなかった。

 顔が熱くなる。

 ああ、そう言えば全然二人っきりになるような機会も無かったよな。

 忙しなさ過ぎて、それらしいことをする暇も無かったよな。

 

「ほんっと、すまねえ……ダメな彼氏で」

「しょげないでください、今は色々大変な時期ですから……でも、だからこそ私も先輩を支えたいんです」

「俺は幸せ者だよ……」

「先輩は立場ってものがありますし……対外的には伏せてた方が先輩も私も楽なのも分かってるんです。でも……こういう時くらい、思い出を作らせてください」

 

 そうなんだよなあ。

 一応それも覚悟しての関係だったわけだけど、いざこうしてみると難しい。

 組織の長が構成員と恋愛関係になったら、余程上手くやらないと地獄だって神楽坂先輩が言ってたな、そう言えば。

 ……既に色々と拗れた後だ、そういえば。

 だけど……それはきっと、紫月も分かっているのだろう。分かった上で、何かから気を逸らすかのように俺に甘えて来る。

 やはり怖いのだろう。「自分が死ぬ」という歴史の結末がチラついているのかもしれない。

 ……そんな事、考えさせねえよ。絶対に考えさせねえ。

 そのためにも──俺がこいつの傍に居てやるんだ。

 

「なあ、お前もカスタード、食う?」

「いただきます、あーん」

「……あーんしろ、ってこと?」

「そうです。早く早く」

 

 ……恥ずかしいな。

 人目も憚らず手を繋ぐアベックが羨ましいとは言ったが、かなり勇気がいるぞコレ。

 だけど、折角照れ屋の紫月の方から振ってくれたんだ、俺も勇気を振り絞って──

 

「──あーん」

「ん?」

 

 ちょっと待て。俺はまだ何も言ってねえぞ。

 紫月でも、俺のでもない声が何処からともなく、上空から飛んできた──次の瞬間。

 俺が手に持っていたぱんじゅうは──消えていた。

 

「ぱんじゅうが!?」

 

 振り向くと、人込み目掛けて走っていく影。

 犬か何か、かと思っていたが──皇帝(エンペラー)のカードが熱を帯びている!?

 

「先輩っ、今のって──!」

「オイ、マスター!! クリーチャーだ!! 今の、クリーチャーだぞ!!」

 

 ああ、またこのパターンか!

 しかも逃げ込んだ影は犬に見えたような見えなかったような……。

 どっちにしても、こんな参道にクリーチャーが居るのは非常によろしくない。

 

「チョートッQ、頼む!!」

「超超超可及的速やかに、追跡するでありまーす!」

 

 ……数秒後。

 新幹線頭が犬らしき生き物の首根っこを掴んで、帰って来た。

 ご苦労。褒美にお前の分のぱんじゅうも買っておいたぞ、チョートッQ。後、シャークウガの分も。

 

「マスター。こいつ、あの猿と同じでありますよ。守護獣でもワイルドカードでもない、純粋なクリーチャーであります」

「キャイ~ン……」

 

 首根っこを掴まれた犬──のようなクリーチャーは涙目で許しを乞うてきた。

 覗き魔の次は食い逃げか。

 どっちもどっちだけど

 

「まず何処のどいつか名乗れ」

「キャインキャイン、許してくださいキャン、お腹が空いてる可哀想な子犬ですキャン」

「犬はまず喋らねえ」

「先輩、ぱんじゅうの一個や二個くらい許してあげましょう、覗きに比べればマシに思えます。それに、この子正直可愛いんで」

 

 確かに、昨日の猿に比べれば目はくりくりしてるし幾らかファンシーな見た目だ。

 だけど、そうは言ってられない。なんせこいつが異形……クリーチャーであることは確定しているのだから。

 

「可愛いか否かで判断すんなよ。コイツはクリーチャーだぞ……もしこいつが昨日の犯人だったら、どうしてた?」

「シャークウガの口に放ってましたね……」

「俺様の口をシュレッダー代わりにすんなよ、マスター!!」

 

 良かった紫月、そういう点で平等なのはお前の良い所だ。

 だけど犬の方は震え上がってしまったぞ。このまま心臓麻痺しそうだな。

 

「きゃぃぃぃん、ぶるぶるぶるぶる、この人達怖い……」

「大丈夫ですよ、本当に怖いのは隣に居るツンツンした頭の人だけですから」

「お前も人の事言えねえよ!」

 

 このまま怖がられて逃げられるよりは、事情をさっさと聞いた方が良いかもな。

 たまたまかもしれないけど、昨日のモンキッドと何か関係があるのかもしれないし。

 だって、桃太郎のお供で猿が来たら残りはキジと犬だぜ?

 

「おいお前、桃太郎を探してるのか?」

「キャインッ!? 何故それを!?」

「昨日、モンキッドという猿がそう言ってたのです」

「ギャインッ!? 何故仲間の事を!?」

「温泉覗き見して捕まったんだよ。その後逃げた」

「モンキッドなんて仲間知らないキャン……人違いだキャン……」

「現実から目ェ逸らしたい気持ちは分かるぜ……」

「あいつめぇ、本当に相変わらずキャン! お風呂を覗くのは犯罪、武士の風上にも於けないキャン!」

 

 一方、そう憤慨するコイツはぱんじゅう食い逃げしたんだけどな……敢えて触れないでおいてやるか。

 

「話してくれねえか? ぱんじゅうなら幾らでもやるからよ」

「キャイン……」

 

 ベンチに座らせ、ぱんじゅうを頬張る犬。

 しばらくして落ち着いたのか、彼はゆっくりと口を開く。

 

「僕はキャンベロ……鬼と戦ってくれる桃太郎様を探しているんだキャン」

「鬼?」

「鬼って……日本昔ばなしに出てくる鬼ですか?」

 

 真っ先に思いつくのは二本の角を生やし、赤い肌の巨漢。

 金棒を振り回して暴れる桃太郎に出てくる鬼だ。

 

「鬼は、すっごく恐ろしくて、怖くて、人への恨みで悪さをする憎悪の化身……!」

「……なあ、その鬼ってクリーチャーなのか?」

「クリーチャー? かどうかは、よく分からないけど、僕達は鬼が復活しないように見張っていたんだキャン。数百年の間、ずっと──」

 

 随分と長い間だな。

 だけどクリーチャーだし、それくらいの年月は生きられるモンか。

 

「でも、この間の事! いきなり鬼が目覚めたキャン! 誰かが復活させたに違いないんだキャン!」

「鬼が目覚めたって言われても、俺達は何にも……」

「そもそも、その鬼は何処にいるんですか?」

 

 

 

「──京都だ」

 

 

 

 途端。

 道行く人々の足が止まる。

 風になびいていたのれん、空を飛ぶカラス。

 全てが写真のように硬直してしまう。

 

「えっ、何が起こったんですか……!?」

「時止め……!」

「キャイン……な、何が起こってるの……!?」

 

 そして、停止した世界の中でひらりひらりと宙を舞う黒ずくめがゆっくりと参道に降り立った。

 見覚えのある声、そして姿に思わず声を荒げた。

 

「テメェは──!」

 

 鎌を取り出し、振り回す黒ずくめ。

 忘れもしない。こいつはシー・ジーを目の前で斬殺し、黒鳥さんには何故か太陽のカードの分身を手渡した謎の人物。

 

空亡(ソラナキ)!! 何しに来やがった!」

「次に会う時は敵。その言葉、忘れていなかったようだな──白銀耀」

 

 素性も目的も分からないが、トキワギ機関の忠実な僕であることだけは確かだ。

 その姿を見てかキャンベロは震え上がって紫月の胸に飛び込む。

 

「コ、コココ、コイツだキャン!! こいつが鬼を復活させたんだキャン!!」

「吠え方だけは一流だな、逃げ腰の負け犬め。鬼の監視者が聞いて呆れる」

「キャイン……!」

 

 鎌を突きつけた空亡は不遜に嗤う。

 成程、こいつが鬼を……!

 

「おいテメェ、鬼って何なんだ。ンなモン復活させて、何がしてえんだ!」

「鬼は──貴様等が破滅するシナリオの1ピースだ」

「あんだと!?」

「……白銀耀──皇帝の猟銃を抜いてもらおうか」

 

<SUN──!>

 

 無機質な音を立てて空亡の両手からタロットカードが宙に浮かび上がる。

 あれは太陽のエリアフォースカードだ。見入っているだけで、肌が焼け付くようだ。

 

「オマケも見せてやろう」

「!?」

 

<THE・MOON──!>

 

 そればかりか、空亡のローブからもう1枚のカードが浮かび上がる。

 こいつ、2枚もエリアフォースカードを持ってるのか……!?  

 しかもよりによって、太陽(サン)(ザ・ムーン)という、世界のアルカナに隷属する天体のカードを……!

 

「白銀先輩っ……!」

「下がってろ紫月……! こいつは俺がやる──!」

 

<Wild……DrawⅣ……EMPE──>

 

 

 

「──すまんが、貴様の時間。切り取らせて貰うぞ」

 

 

 

 次の瞬間だった。 

 空亡の鎌が、俺のデッキケース目掛けて振るわれた──

 

 

 

「──()()()()()()()

 

 

 ※※※

 

 

 

「──さて。問題のカードは──これか」

 

 

 

 身体中から抜けていく多量の魔力を振り絞り、空亡は白銀耀のデッキケースを手に取る。

 そして、笑み一つ零さず呟いた。

 

「確かに名案だ。これなら、私の弱点を補い、尚且つ白銀耀を機能停止に追い込むことができる……流石ククリ様だ」

 

 すかさず、その中にある12枚の白い裏面のカード──超GRゾーン目掛けて鎌の切っ先を当てる。

 狙いは一番上にある《Theジョラゴン・ガンマスター》。

 そのカードが音も立てずに、黒く染まっていく──

 

 

 

「さあ、本性を見せろ皇帝の猟銃……ジョラゴン。貴様の溢れんばかりの星の力、解放するのだ」

 

 

 

 ──貴様には、()()を産む足掛かりとなってもらおう!

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