学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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第2話:弾丸VS剣─ワイルドカード

 ※※※

 

 

 

 ぼんやりとした表情で、俺は月曜日を迎えた。

 あの後、店から家にどうやって帰ったのかよく覚えていない。

 日曜日は取り合えず勉強と、あのデッキの試運転をやっていた気がする。

 どこか、ぼーっとした俺は放課後、部室の自分の机に突っ伏していた。

 

「白銀先輩……元気無いですね」

「アカル……大丈夫?」

 

 おそらく、花梨の事で心配してくれてるのだろう。

 勿論、俺が不調なのはそれもある。

 だけど――

 

「んー……何つーかな……ちょっと週末不思議な店に行ったっていうか……ただ、本当夢を見てたみたいなんだ。何か、変な店だったのは覚えてるけど、デッキを買ったのは確かだし、ちゃんとあるんだなコレが」

「大丈夫? 変なお薬キメたデスか?」

「おめーの大好きな名探偵と一緒にするんじゃねえ」

 

 シャーロック・ホームズは事件が無いとコカインを服用する悪癖があったという。そんなのと一緒にされてたまるか。

 それはともかく、本当に調子が上がらない。

 花梨の事も心配だが――

 

 

 

「……なあ、失礼するぞ」

 

 

 

 そんな声とともに、珍しく部室の戸が開いた。

 服装から見るに、どうやら剣道部の部員で花梨と同じクラスの男子生徒の熊原だ。

 熊原はそのまま部室には入らず、どこか困ったような表情で告げた。

 

「実は、刀堂のやつがまだ武道場に来てなくて……」

 

 ブランと紫月は顔を見合わせた。

 生真面目な性格の花梨が部活に遅れる事はまずない。

 それは中学生の頃から同じだ。時計を見ると、既に練習開始から30分も経っている。

 最近、彼女の様子がおかしいのは熊原を含む他の剣道部員も気づいていたことらしく、何か知っていることは無いかと色々な所を回った上で、幼馴染である俺のところに相談に来たらしい。

 しかも下駄箱を見ても彼女の靴が残っており、家に勝手に帰ったことも考えにくいという。花梨の奴、何やってるんだ。

 

「心当たりは、ないな……すまねぇ。ちょっと俺の方で探してみるから、熊原は部活に行ってくれ」

「良いのか? お前たちに面倒をかけてしまうが」

「何言ってんだよ。万年部員不足の同好会を嘗めんなよ? 暇人ばっかだぜ。何ならそっちで放送でも掛けておいてくれよ」

「……助かる」

 

 わざとおどけて言った俺に、誠実な性格の熊原は礼を言うと、そのまま走り去っていった。

 さて、こうなるとやることは決まってくる。

 

「カリンが帰った線は薄い、デスネ。此処は私のスーパー推理で――」

「アホな事やってる暇あるか。さっさと行くぞ」

「りょーかい、デス!」

「……先輩、私も。退屈、少しはしのげそうですから」

「お前なあ……まあ、良いか」

 

 珍しく紫月も乗り気のようだ。とにかく、花梨が学校の何処にいるのか探す必要がある。

 3人ならばすぐに見つかるかもしれない。

 

「んじゃあ、花梨探し、行くか!」

「了解デス!」

「らじゃー、です」

 

 俺と、女子2人に分かれて、俺は新校舎の3階から特別棟をくまなく探していた。

 すぐさま剣道部の放送が掛かった。だが、最近のあいつの挙動からして、それに従うとは思えない。

 保健室にも居ない彼女は、やはりどこかで睡眠不足がたたってぶっ倒れているかふらついているか――あらゆる可能性が浮かぶが、どれもろくな結果ではないことは確かだ。

 花梨。

 小学生の時から一緒で、あいつはいつも剣道の夢を語っていた。

 それと同時に、俺の趣味のデュエマにも付き合ってくれた。

 中学生になったら、今度は俺があいつの夢を応援していたはずなのに。

 

 

 

 からん。

 からん。

 からん――

 

 

 

 金属を引きずるような音が聞こえる。

 思わず、振り返った。この学校という空間には合わない、奇妙な音――その正体を確かめるために。

 

「――花梨――!!」

 

 探していた存在は、思いのほかすぐ見つかった。

 しかし。俺は思わず絶句した。

 あいつの目は虚ろで、もう生きているようには見えない。頬は骸のように痩せこけている。

 そのうえ、右手には巨大な太刃の剣が握られていた。

 あれは、何だ? 

 そんな疑問が咄嗟に浮かんだ。廊下についた傷をみるに、レプリカだとかの類では無さそうだ。

 だが、それ以上に変わり果てた花梨を前に、俺は呆然と立ちすくむしかなかった。

 

「あたしには、剣しか――無いんだから……」

 

 ぶつぶつと呟く花梨。

 どこから出てきたのかも分からないその剣を前に、俺は恐れ戦いていた。

 得物を両手で握りしめ、彼女は廊下を蹴る。

 

「ちょっと待て、花梨!! 俺が、俺が分からないのか!?」

 

 俺の叫びは、彼女には届かなかった。振り上げられる大剣。狙いは勿論俺だ。

 それを――大上段に振り下ろした。

 

「!!」

 

 死を、覚悟した。

 そもそもあの剣は何なんだ。

 あれが真剣ならば――俺は両断される。真っ二つに。今この場で。

 だが、腰が抜けて避けることも逃げることも出来ない――

 

 

 

 ガキィイイイイイン!!

 

 

 

 何かが――剣を、弾いた。

 それは、俺のデッキから飛び出したカードだった。

 弾丸のように、振り下ろされた剣へ向かって飛び出したようだ。

 ようやく、俺は目を開けることができた。

 

 

 

「ワイルドカード、発見!! これより超速、高速、音速的に捕獲するのであります!!」

 

 

 

 目の前に居たのは――空中に浮かぶ、異形の姿だった。

 一言でいえば、頭が新幹線になっている二等身の人型だ。

 

「白銀 耀!! 速く、エリアカードを使うのであります!!」

「いや、いやいやいやいやいや――何!? 何なんだお前!?」

 

 コレは一体どういう超常現象なのだろう。

 花梨がいきなり俺に向かって剣を振り下ろしてきたのもびっくりだが、それを防いだのがこの新幹線野郎というのも驚きである。

 そもそもワイルドカードって何だ。エリアカードって何だ。サッパリ分からんのだが。

 そんな俺を見兼ねてか、呆れた様子で異形は答えた。

 

「何ってクリーチャーなのでありますよォ。見て分からないのでありますか?」

「クリーチャーってお前、デュエマの!?」

 

 クリーチャーと言われると見覚えがあった。

 こいつは、土曜日買ったデッキに入っていたカードだ。

 いや、いやいやいやいや……それが問題だ。何でデッキの中のクリーチャーが出てくるんだ。

 実体化しているんだ。

 

「詳しい説明は後!! まずはあの、ワイルドカードに取りつかれた人間をどうにかするでありますよ、超超超可及的速やかに!!」

「近い、近い、近い!!」

 

 ずいっ、と巨大な顔面を近づけてきたクリーチャーを押しのけ、弾き飛ばされて怯んでいる花梨を見据えて俺は立ち上がった。

 まだ、足は震えている。

 

「この人間は、言わば暴走したクリーチャーカード、ワイルドカードに取りつかれているのでありますよ!! 奴の背後を見るのであります!!」

「ああ!? んなもん言ったってなにも――」

 

 そう言いかけた俺は絶句した。

 いる。剣を咥えた巨大な蒼龍が花梨の背後にいる。

 

「《蒼き団長 ドギラゴン(バスター)》!! あのクリーチャーこそ、あの人間に取りついたワイルドカードの正体であります!!」

 

 薄っすらとではある。

 だが、それは確かに花梨に取りつくようにしていた。

 こいつが、今回の事件の元凶ってことか。

 

「え、えと、それは良いとしてどうすればいいんだ!?」

 

 《蒼き団長 ドギラゴン(バスター)》。俺も知っているが、火/自然文明の巨大なドラゴンクリーチャーだ。非常に強力で、対処が難しいことでゲームでは有名だが――

 

「此処で真っ白なカードを使うでありますよ!!」

「真っ白なカード!?」

 

 デッキケースを見た。思い当たる点は確かにある。

 その中にはあの店の老人にお守りと言われて貰ったカードが入っていたが――そのテキストやイラストが変化していく。

 背景は相変わらず白いままだったが、名前がはっきりとそこには刻まれていた。

 

「”デュエルエリアフォース”――!?」

 

それを読み上げた刹那。

 廊下一面の空気が変わった。

 気付けば、そこは元の廊下であったが、空気は様変わりしていた。

 新幹線野郎が俺の傍にいるが、びっくりしたのは5枚のデュエマのカードが俺の目の前に浮いていること。

 そして、ガラスのような盾が5枚、更に奥に並んでいること。

 手元にはカードの束が浮かんでいた。

 

「なあ、これってどういうことだ?」

「ワイルドカードを封じるには、デュエルで屈服させて従えるしかないであります」

「デュエルって――今ここでデュエマしろってか!?」

「むしろ、耀はそれが本業だと思うのでありますが。肉弾戦闘では死ぬだけであります」

「ぐっ、それは否定できねーけど……」

 

 悔しいが、此処は飲み込むしかないようだ。

 見れば、花梨――いや、それに取りついたドギラゴン(バスター)も俺と同じようにシールドや手札が浮かんでいる。

 ワイルドカードっていうものが何なのかよく分からないが、とにかくここはデュエマで勝つしかないらしい。直接戦うよりはよっぽど安全でこっちに分があるし穏便な方法だろう。

 上等だ。デュエマ部なら、売られたデュエマの1つ買ってやる。いや、この場合は俺が売ったことになるのか?

 

「剣、あたしには剣道しかない……!!」

 

 虚ろな目の花梨の背後で咆哮を上げるドギラゴン(バスター)。とにかく、奴を花梨から引き剥がすしかない。

 先攻はどうやら仕掛けた側の俺のようだ。と言っても、マナをチャージする以外には何もないのでターンを終える。

 

「あたしのターン、マナチャージして1マナで《冒険妖精 ポレゴン》召喚」

 

 そう言った彼女は、カードを1枚目の前に投げ入れた。

 次の瞬間、自然文明のマークと共にカードから現れたのは、航海士のような雪の妖精。

 思わず目を見張る。クリーチャーが、俺の傍にいるこの新幹線野郎のように実体化したのだ。超常現象の巣窟か、この空間は。

 

「ターンエンド」

 

 冷淡にターンの終了を告げる花梨。どうやらルールは普通のデュエマと同じらしい。

 新幹線野郎が、ドヤ顔で説明した。

 

「これがこの空間でのルールでありますよ! マナによってクリーチャーの体が生成され――実体化するのであります!!」

「すっげぇ、漫画かアニメかよコレ……! よし、それじゃあ俺のターン――2マナで《ヤッタレマン》召喚!!」

 

 俺も真似をするようにマナをタップしてカードを目の前に投げ入れた。すると、応援団のような人型が光と共に姿を現す。JOEというアルファベットの文字の刻印と共に。

 

「ジョーカーズ……!!」

 

 花梨が呻くように言った。

 デュエマには光、水、闇、火、自然の5つの文明がある。

 しかし、最近になってその文明の枠を超えるという触れ込みで文明を持たない無色カードに新たなものが登場した。

 それがジョーカーズ。

 俺があの老人から買ったこのデッキは、《ヤッタレマン》をはじめとしたジョーカーズをメインにしたデッキなのだ。

 

「ターンエンドだ」

「あたしのターン――呪文、未来設計図で山札の上から6枚を見る」

 

 花梨が手を使わなくとも、上から6枚山札が宙を舞った。

 

「――そして、クリーチャーの《二族(ンビビ) ンババ》を手札に加える」

 

 虚ろな目でカードを手札に加えた花梨は、そのまま場の《ポレゴン》に向かって指示を出す。

 

「攻撃、《ポレゴン》! そして自然のクリーチャーが攻撃したので革命チェンジ!」

 

 彼女の指示に応えるように、《ポレゴン》は再びカードとなって花梨の手へ戻る。

 そして今度は、自然文明と光文明の紋章を掲げたクリーチャーが飛び出した。

 

「現れて、《二族(ンビビ) ンババ》! その効果で山札から1枚をマナゾーンに!」

 

 革命チェンジ。特定のクリーチャーが攻撃したとき、そのクリーチャーと手札から入れ替わる能力。一気に大型のクリーチャーが現れるため、強力な能力だ。

 そしてカードをマナゾーンに置きつつ、現れたのは巨大な鉄槌を掲げたインディアンのようなクリーチャー。

 しかし、こんなナリでもコスト5の光と”自然”のジュラシック・ドラゴン。放置しておけば、更に強力な革命チェンジクリーチャーを呼ばれる可能性があるのだ。コスト5以上の指定された文明のドラゴン革命チェンジするクリーチャーは、いずれも強力なもの。

 これでもデュエマ部だ。デッキの動きからおおよその流れと内容は予想できる。

 

「そして《ンババ》でシールドをブレイク!」

「!!」

 

 ガラスが割れるように砕け散るシールド。 

 そして、それが俺の手札となって加わった。

 デュエマは5枚のシールドが全てブレイクされて直接攻撃されると敗北するゲーム。

 ということは、あの実体化したクリーチャーに負けたら直接やられるということだが、一応俺の命の保証について問うてみることにした。

 

「な、なあ、もしこの空間で俺が負けたらどうなるんだ?」

「うーん、最悪死ぬでありますな。逆に言えばあの人間の方は、クリーチャーを倒すだけなので無事でありますが」

 

 ちっとも安全で穏便ではなかった。負けたらやっぱり死ぬのかよ!!

 冷や汗たらたらで、俺は脅威の排除にかかる。

 

「俺のターン、《ヤッタレマン》の効果でコストを1軽減して、3マナで《ドツキ万次郎》召喚!! その効果で相手のタップしているクリーチャーを相手の山札の下に送る!! 選ぶのは《ンババ》だ!!」

「っ……!」

「ターンエンド、だぜ」

 

 現れたのはいくつもの拳を持つクリーチャー。それがンババを山札の下へ殴り飛ばす。

 取り合えず、これで次のターンに革命チェンジされる恐れはなくなった。

 此処では取り合えず殴ることはせず、ターンを終える。

 不用意に相手のシールドを増やせば手札を増やすことに繋がるからだ。

 

「……あたしのターン、2マナで《次元の霊峰》を使う。その効果で、多色カードの《蒼き団長 ドギラゴン(バスター)》を山札から手札に加えるから」

「やっぱり、入ってたか――!!」

 

 思わず歯を噛み締める。

 あれが花梨を誑かせたワイルド・カード。最強の革命軍カードとも名高いドラゴン、《ドギラゴン》。大型サイズと出しやすさが相まっている上に、自身も一撃必殺の能力を有している為、非常に危険なクリーチャーだ。

 つまり、俺に残された選択肢は――このターンで決めるしかないということ。そして、このデッキならばそれが出来る。

 絶対にあいつを、花梨を助けなければならないという強い意志が俺を動かしていた。

 

「俺のターン、場に無色クリーチャーがいるからG・ゼロで《ゼロの裏技 ニヤリー・ゲット》を使う! その効果で、山札の上から3枚を捲り、その中の無色カードを全て手札に!」

 

 G・ゼロは条件を満たすことでただでカードを使える効果。

 《ニヤリー・ゲット》の場合は俺の場に無色クリーチャーがいること。

 そして、展開された3枚のカード、《破界秘伝 ナッシング・ゼロ》、《ゲラッチョ男爵》、《ヤッタレマン》。全て無色カードだ。

 そして、これで全てカードは揃った。

 

「出番だ新幹線野郎!! 《ヤッタレマン》でコストをマイナス1してコスト4で《チョートッQ》召喚!!」

「速攻で片付けるであります!!」

 

 現れた新幹線野郎こと《チョートッQ》は既に花梨の方へ突貫している。

 普通、クリーチャーは場に出たターンは召喚酔いで攻撃できないが、こいつは相手プレイヤーに対しては場に出たターンでも攻撃できるのだ。

 

「更にこいつは場とマナゾーンにジョーカーズが合計2枚以上あれば、パワー+3000されてW・ブレイカーになる!!」

「それだけじゃ、打点は足りないよ……!」

「ああ、足りねえな!! だから、手札からこいつを使う!! アタック・チャンス呪文、《破界秘伝 ナッシング・ゼロ》!! 無色クリーチャーの攻撃時に、こいつをコストゼロで使うことが出来る!!」

 

 花梨の表情に動揺は見えない。

 だが、こいつが一撃必殺の切り札と化すのだ。

 

「こいつの効果で山札の上から3枚を表向きにし、その中にあった無色カードの数だけ俺のクリーチャー1体のシールドをブレイクする数をプラス1する!」

 

 捲れる3枚のカード。

 そこにあったのは――《パーリ騎士(ナイツ)》、《戦慄のプレリュード》、《ドツキ万次郎》、全て無色カードだ。

 つまり、《チョートッQ》は一気に5枚、この攻撃でシールドをブレイクできるということだ。

 

「行け! シールドを全てブレイクだ!!」

「了解であります!!」

 

 勢いよく突貫したその時。

 

 

 

「ニンジャ・ストライク4、発動。《光牙忍 ハヤブサマル》――!」

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