学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「師匠はやめてくれと言っているだろう。老けているように聞こえる」
彼は、長めの前髪を手で払うとうんざりした様子で言った。
「
「い、言われなくても分かってるわよ! てか、此処あたしの家! 何であたしに命令すんのよ腹立つ!」
「早くしろ」
威圧的に、しかし静かに彼は言う。
まるで押し潰すかのような圧力だ。
「……うぅ、人使い荒いんだから」
反発気味に言ったショートボブの少女は、少し怒った様子で家の奥へ走っていった。
どうやらお転婆な娘らしい。腕を組んだ彼が溜息をつくのが見えた。
ようやく落ち着いたところで、紫月が見計らったように俺達に言った。
「紹介します、皆さん。彼が――黒鳥レン師匠です」
※※※
通されたのは、二階の奥の部屋であった。
陽当たりはよく、かつて誰かが使っていたと思われる程の広さであり、それどころか今は余計な家具を取っ払っているからか、俺達4人が入ってきてもまだ人が入りそうなほどには広かった。
部屋の中には、描きかけの絵が壁に立てかけられており、また画材セットが部屋の隅に追いやられているのが見えた。
絵は人物画が多く、特に白いワンピースを着た金髪碧眼の女性が向日葵畑を歩いている絵に桑原先輩が反応した。
「これはっ……素晴らしい。抽象的な描き方の中に、はっきりとしたモチーフを感じるというか」
「ふん、それに目を付けるとはなかなか貴様、目が良いな。僕の一番の自信作だ」
「本当に沢山、絵が置いてありマスネ……」
「はい。師匠の絵は、作品ごとに絵柄が違うので見ていて飽きません」
確かにそうだ。
いろんな画風の絵がある。
しかし、どれもどこか物憂げさを感じさせるのは何故だろうか。
絵を見るという事が余り無いので、俺の感性が間違ってるのかもしれないけど。
「もう1度自己紹介する。黒鳥レンだ。今は美大生をやっている」
低い声でもう1度彼は言った。
「絵も良いが、早速本題に入ろうか」
丸椅子に腰かけると、黒鳥さんは俺の方を指さして言った。
「――貴様か。白銀は」
「は、はいっ」
「何……? 紫月の話によると、負けたくない戦いで負けたくない奴に惨めったらしく負けて凹んでいるとのことだが」
「……え?」
いや、間違ってはいないんだけども、何だその伝え方!!
それとも解釈の仕方?
この人の言い方が悪いのか紫月の伝え方が悪いのか!?
「何だ? 間違ってるところがあったか?」
「い、いや、大方その通り、です」
「で、この僕なら何か次に勝つヒントを教えてくれるかもしれないと思って、此処に来たと」
「誘ったのは私ですけど」
「まあ、何だ」
一度大きくため息をつくと、黒鳥さんは言った。
「馬鹿か? 貴様」
ずばり、と一言。
抉るような重みがこの人の言葉にはあった。
「カードゲームに於いて、必勝という言葉は無い。それに、そんなにすぐ強くなれるならデュエリスト養成学校なんてものは必要ないんだよ。1回や2回、1日如きで自分が変われると思っているのか?」
「っ……」
言葉に詰まった。
確かに、これ以上俺が奴等に手出しをしなければ、俺達が痛い目を見るリスクも無くなるだろう。
だけど――違う。
この気持ちは守りたいという思いだけじゃない。
「それでも勝ちたい相手が居るんです」
「……そうか」
「今は言えませんけど、勝たないといけない理由があるんです」
「それだけではないんだろう」
また俺は言葉に詰まった。どういう事だろう、と俺が答えあぐねている間に黒鳥さんは「まあ良い」と返答を待つのをやめて言った。
「ゲームにそこまで情熱を注ぐ、か。その理由、相応の重さがあると見た。今やデュエマは頭脳スポーツ。お遊びと呼ぶ時代は終わっている」
椅子から立ち上がると、彼は言った。
「それに、あの紫月が姉以外の人間に入れ込むとはな」
「別に入れ込んでませんけど」
照れ隠しなのか本心なのか分からないけど、地味にその言い方は傷ついたぞ。
何? 今日俺のメンタルずっとボロボロ?
「何と言うか……紫月とこの人、似てマスよね……色々と」
「別に似てないですが」
いや、似てると思うぞ。
主に口が悪い所が。
「どっちにせよ、僕のやるべきことは貴様という人間がどういうものなのか確かめるということ。彼女が切羽詰まっていたのだ。只事ではないのだろうが、それについては聞かないでおいてやる」
言うと彼は腰にぶら下げたプラスチックのケースを取り出した。
「デュエリストなら、まずはこれだろう? デュエルで互いの事を確かめる」
「……はいっ」
何だかんだでデュエルは取り付けてくれるらしい。
だけど、急に緊張してきた。相手は、あの紫月の師匠……何処まで強いのか計り知れない。
「いよいよ、紫月の師匠の実力のお披露目か……これは見ものだな」
「師匠は強いですよ。何度も言ってますけど、戦法が凶悪です」
「確か、専門は闇文明デスからネ……後、人柄からして怖そうな人デス……」
「あんな性格ですからね。なかなか友達も出来ないんですよ」
「全部聞こえてるぞ紫月」
だけど、そんなに変な人には見えないんだよな。口調がきつめではあるけど、結局こうやって付き合ってくれてるし。
そして何より、あの紫月が何だかんだ言って師匠と今も慕っているのが理由だ。
だがしかし。それを否定するかの如く、彼はカードを並べていると唐突に話しかけてきた。
「ところで白銀。貴様に聞いておきたい事がある」
「? 何ですか?」
「美学、それは心の中にあるか?」
いや、やっぱり変人だこの人。
紫月の言ってた通り、いきなり美学とか言い出したよ。
いきなりそんなこと言われても、答えられないんだけども。
「美学とは、己の行動指針にして己の心の柱。美学があってこそ、人間は美しくなれる。外見を飾るのではない。大事なのは、もっと別のところにある。なのに、それになかなか皆気付かない」
「は、はあ……」
「そしてこればかりは、僕から教える事ではない。美学の真の意味、それは貴様がデュエルの中で突き止めろ」
カードが全て並んだ。
手札を取り、俺は黒鳥さんと向かい合う。
美学が何なのか、俺には分からないけど……この人は強敵だ。胸を借りるつもりでいかないとな。
「この1日。この試合。貴様にとってどう意味のあるものになるか、貴様自身で見つけろ」
「……よろしくお願いします!」
こうして、デュエルが始まったのだった。
※※※
俺と黒鳥さんのデュエル。
早速、2マナ溜まった俺は動き出していた。
「俺のターン、2マナで《ヤッタレマン》召喚! ターンエンドです!」
「ほう、ジョーカーズか」
無色カードを見て興味深そうにカードを見る黒鳥さん。
だけど、向こうももう2マナを貯めている。マナゾーンには《デビル・ハンド》と《霞み妖精 ジャスミン》が見えた。
そして、2枚のマナをタップする。繰り出したのは、自然と闇の呪文だった。
「呪文、《ダーク・ライフ》。その効果で山札の上から2枚を見る」
《ダーク・ライフ》は、山札の上から2枚を見て、そのうちの1枚を墓地に、そのうちの1枚をマナに置くカードだ。
捲られたのは《悪魔龍 ダークマスターズ》と《母なる星域》。
そのうち《ダークマスターズ》が墓地に置かれ、《母なる星域》がマナゾーンに置かれた。
「ターン終了だ」
「……よしっ」
このままこっちも並べていくか。
そして、早めに《ダンガンオー》でキルを狙いたい。
もっとも、その《ダンガンオー》が手札に来ない訳だけど。
「俺のターン、2マナで《洗脳センノー》召喚! 更に1マナで《ジョジョジョ・ジョーカーズ》を使い、山札の上から4枚を見て《ツタンカーネン》を手札に! ターンエンド!」
「ほう。並べてくるのか。まあ良いだろう。こちらも動くか」
言った彼は、4枚のマナをタップした。
そして――
「《社の死神
黒鳥さんのマナは、これで6枚に増えてしまった。
参ったな。ターンが長引けば長引くほど、こっちの勝ち目は薄くなっていく……早くケリを付けないと。
「俺のターン、《ツタンカーネン》召喚! その効果でカードを1枚ドローして――」
引いたカードは《ニヤリー・ゲット》。
よし。これならいけるぞ! 一気に手札を増やして攻撃を仕掛ける!
「《ゼロの裏技 ニヤリー・ゲット》をG・ゼロでノーコスト詠唱! 効果で山札の上から3枚を表向きにして、《ダンガンオー》、《チョートッQ》、《ヤッタレマン》を手札に!」
「ほう」
「そして、1マナで《ヤッタレマン》を召喚してターンエンドです!」
「……なかなかやるな。コレで次のターン、僕にトドメを確実に刺せるわけだが――甘い」
カードを引いた黒鳥さんは、手札からカードをマナに置く。
これで7枚。とても速い。
「そして、《壊滅の悪魔龍 カナシミドミノ》を召喚」
出てきたのは悪魔龍。
確かあいつの効果って……何だっけか。あまり見ないカードだが……。
「その効果で、貴様のクリーチャー全員のパワーをマイナス1000する」
何だ。それなら《ツタンカーネン》が破壊されるだけで済む。
余り大したことはないじゃないか。
「そして、相手のクリーチャーが破壊された時、このターン更に追加でパワーを1000下げる」
「……え?」
そう思っていた時代が俺にもあった。
今度は、連鎖するようにパワーが追加でマイナス1000され、《ヤッタレマン》2体が破壊される。
さらに、これだけではまだ終わらなかった。
「そして、2体が死んだので合計パワーマイナス4000。《洗脳センノー》もパワーを0にして破壊だ」
「……全滅した」
嘘だろ!?
たった1枚のカードで、俺のクリーチャー4体が全滅……。
「これは痛いな……並べるデッキに全体除去はかなりキツいぞ」
「師匠の戦い方。それが、デーモン・コマンドを使った徹底的な破壊戦法です」
「ひええ……怖いデスネ」
「いや、ブラン先輩の墓地退化も十分おっかないと思いますが」
実際その通りだ。
俺の場のクリーチャーは全滅。
次のターンに。《ダンガンオー》でトドメを刺すプランも霧散してしまった。
『諦めるのはまだ早いでありますよ!』
「っ!」
手札からチョートッQの声が聞こえた。
完全に戦意を削がれていた俺に、呼びかける。
『マスター、後悔するような試合をするのだけはやめるでありますよ! まだ、手は残っているのであります!』
「……そうだな」
「む? 何だ。何か良い手でも思いついたのか?」
そう問いかけてくる黒鳥さん。
俺の答えは決まっていた。
「全っ然!! 何も、決まっちゃいませんよ!! でも……ひたすらに目の前のドローに賭ける、それだけでしょ!!」
「ほう。面白い。嫌いではないぞ、そういう刹那的な戦い方は。掛かって来い」
挑発するように指をくいくい、と動かす黒鳥さん。
上等だ、やってやる!!
カードを引く。
そして――ここで、俺の取る手は1つ。完全に決まっていた。
「5マナをタップして、《チョートッQ》召喚! こいつは場に出たターンに、相手プレイヤーを攻撃できるうえに、場とマナにジョーカーズが合計2枚以上あればパワーが+3000されてW・ブレイカーを得ます!」
そう言って俺はカードをタップし、黒鳥さんに攻撃を仕掛ける。
「たかがW・ブレイカーでどうするつもりだ?」
「いや、此処からが本番! アタック・チャンス、《破界秘伝 ナッシング・ゼロ》で山札の上から3枚を見て、無色カードの数だけシールドのブレイク数を増やします!」
「……何?」
あからさまにそのカードを見た時、黒鳥さんは驚いたようだった。
それが何故なのかは分からない。だけど――
「山札の上から捲られたのは、《戦慄のプレリュード》、《バイナラドア》、《ジョジョジョ・ジョーカーズ》……全部無色カードだ!」
「……面白い。懐かしいカードを見せてくれるじゃないか。これで、僕のシールドを全て割るというのか」
「勿論! 捲った3枚を山札の下に置き、そして《チョートッQ》でシールドを全部ブレイク!」
一気に黒鳥さんのシールドが全部割られた。
あと1回攻撃出来れば、このゲームは俺の勝ちになるが――
「――今のは少々痛かったぞ。S・トリガー、《デビル・ハンド》。山札の上から3枚を墓地に置き、《チョートッQ》を破壊」
また破壊された。
だけど、流石の黒鳥さんも今の攻撃には面食らったようだ。
「……貴様には久々に良い物を見させてもらったよ。お礼をしっかりしないとな」
攻撃は止められた。
だけど、次のターンに《ダンガンオー》を出して殴るだけで、勝負は決する。
そのはずなのに、何だろう……この焦燥感は――
「貴様の考えている勝利プラン……悪いが、此処で全て断ち切らせて貰うぞ。マナをチャージして、4マナで《白骨の守護者 ホネンビー》を召喚し、山札の上から3枚を墓地に置いて《ベル・ヘル・デ・スカル》を回収」
しまった。
あの《ホネンビー》はブロッカーだ。
今の俺には、ブロッカーを排除しつつダイレクトアタックを通す方法が無いじゃないか!
「そして、貴様のマナは次で6マナだが……念のためにブロックされない《ジョリー・ザ・ジョニー》対策もしておくか。2マナで《マインド・リセット》。貴様の手札を見せて、その中の呪文を1枚選び、墓地に置く」
ピーピングハンデス!?
たったの2コストで出来る呪文があったのか!?
だけど、ブロッカーを置かれた以上、こっちは次のターンに勝つことが出来ない。
俺の手札にある呪文は――《戦慄のプレリュード》。それが墓地に落とされた。
「貴様の次のターンの勝ち筋は、《ジョニー》を引いて《プレリュード》から出して攻撃することだったが……これでどっちかを引いても貴様は勝てない」
「……」
もっとも居ないんだけどね、その《ジョニー》が……。
つまり、実際には状況はもっと悪い。勝ち筋が、次のターンは無いと言っても良い。
「そして、最後に《ダーク・ライフ》を唱える。効果で、《永遠の悪魔龍 デッド・リュウセイ》を墓地に置き、《ヘックスペイン》をマナに置く。ターンエンドだ」
「……俺のターン……!」
手札に来たのは《ニヤリー・ゲット》。しめた。まだ《ヤッタレマン》がいるから、クリーチャーさえ並べればまだワンチャンスあるぞ!
「よし、《ヤッタレマン》を召喚して、G・ゼロから《ニヤリー・ゲット》を唱えます! 効果で、《パーリ騎士》と《バッテン親父》、《タイム・ストップン》を手札に!」
「まだ展開するつもりか」
もっとも、《カナシミドミノ》がいるから、いつ全滅してもおかしくないけど……残念だが、これしか手が無い。
1体でもクリーチャーが残っていれば、次のターンで軍勢にものを言わせて勝てる。
「《パーリ騎士》を2コストで召喚。その効果で、墓地から《チョートッQ》をマナに置いて、残りの3マナで《バッテン親父》も召喚! ターンエンドです!」
「……ふむ」
さあ、どう出てくる……!?
「僕のターン、10マナをタップ」
言った彼は、全てのマナをタップした。
そして――
「――呪文、《大地と悪魔の神域》」