学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】   作:タク@DMP

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GR75話:暴君龍アバレガン

 ようやく、意識が戻ったかと思えば──俺は空間の中で倒れ伏せていた。

 負けたのか? 俺は──

 駄目だ、身体が思った通りに──動かねえ……!

 熱い。全身が焼け爛れていくようだ。

 

「──白銀耀。それは貴様に掛けた呪いだ」

「あ、ぐぅっ……!!」

 

 散らばったデッキのカードから浮かび上がる12枚のGRのカード。

 それらが──次々に俺の身体へ入り込んでいく。

 気持ちの悪い異物感。

 そして──胸を焼け焦がすような強い憎悪。

 それを吐き出すように咳き込むが、何も変わりはしない。

 

「GRゾーンを使えば、暴君龍《アバレガン》が貴様を蝕む。何度でも」

「て、めぇ……!! 何しやがったぁ……!!」

「喜べ。お前が溜めに溜め込んできた鬱憤を晴らしてやろうと言うのだ。今回はこれで済んだが……次はどうなることやら」

 

 嗤いもせずに、空亡は鎌を振るう。

 時空が裂け、そこに彼女は飛び込んでいった──

 

 

 

「次に《アバレガン》を使う時──きっと貴様は、文字通りの”暴君”となるだろう」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「白銀先輩! 白銀先輩!」

「キャイン、大丈夫!?」

「マスター、しっかりするでありますよ!」

 

 目が醒めた時には紫月、キャンベロ、そしてチョートッQが──俺の顔を覗き込んでいた。

 ……身体が凄く痛い。

 だけど、空亡のやつ、俺には何もしなかったのか?

 命を取られたわけじゃないし、仲間も無事だ。

 

「……お前ら……良かった。何事も、無かったのか」

「先輩こそ……私、どうなることかと……! デュエルの途中で先輩の様子がおかしくなって……!」

「……それで、此処は何処なんだ?」

「あの後、師匠達を呼んだのです。それで──」

 

 室内を見渡す限り、何処かの和室のようだが──

 

 

 

「──伊勢神宮に、タクシーで連れて行ったんです」

 

 

 

 ──そう、か。

 此処は……伊勢神宮なのか。

 

「もうじき、師匠が関係者を連れて来るそうです。もう……大丈夫だと思います」

「……そうか。良かった……だけど、俺は何があったんだ?」

 

 自分でもさっぱりだ。

 《Theジョラゴン・ガンマスター》は《Theジョギラゴン・アバレガン》に変化していたわけだし。

 

「空亡のやつ、マスターのGRゾーンに細工をしたでありますよ!」

「すっごく、怖かったキャン……!」

「……そうか」

 

 ……やっと分かった。

 此処まで大掛かりな手を使ってでも、俺のGRゾーンを封じたかったのか。

 怒り。

 憎悪。

 激情に駆られて暴れ回る恐ろしさ。

 俺はそれを身を以て味わされた──

 

(次にGRゾーンを使えば、どうなるか分からねえ……あいつの言う”暴君”とやらになっちまうのか?)

 

 ──今更GRゾーン無しの構築で戦えって言うのかよ?

 だけど、《アバレガン》の恐ろしさは想像以上だ。

 あの時の事はぼんやりとしか覚えていない。

 しかし、ただひたすらに今までの辛かった思い出と一緒に憎悪が噴き出して来た。

 止めどめなく溢れる怒り。

 あんなものに手を出したら──

 

「……なあ、紫月。俺は……俺じゃなくなっちまう所だった」

「え?」

「《Theジョギラゴン・アバレガン》……あいつを使った時、俺は……正気を失った」

「っ……」

「次にGRゾーンを使ったら、俺は……空亡の言う通り、どうなるか分かんねえ」

「そんな……!」

「あの空亡ってヤローが白銀耀のGRゾーンに介入した以上はそうなるわな。オマケに、そのGRゾーンのカードは──今、あんたの身体ン中に封じられている」

「ッ!!」

 

 シャークウガの言葉に俺は跳び起きた。

 嘘だろ!?

 確かに枕元にデッキは置かれていた。

 だけど、無い。

 何処にも見当たらない。

 探してもGRゾーンのカードが無い……!

 

「は、はぁ!? ど、どうなってやがんだよ!?」

「だから言ったろ。あの空亡って奴は、GRゾーンを身体ン中に埋め込んだ。恐らく、デュエルになったらGRゾーンは強制的に現れる」

「そして、《ジョギラゴン》を捲れば……マスターは再び暴走するというわけでありますか……!」

「……ウッソ、だろ……! 《ジョギラゴン》をGRゾーンから抜くことすら出来ねえのかよ……!」

「チョートッQの本体のカードである《ダンダルダBB》も、白銀耀の身体の中。今のあんたは──生きた超GRゾーンだ」

 

 さ、最悪だ……!

 呪いの装備も良い所だぞ!?

 あの空亡って奴、俺の身体に何てことをしてくれたんだ!

 

「しかも、《ジョギラゴン》という劇物が体内に入り込んでいる以上……何時暴れ出すかも分からねえ」

「俺、これからどうすりゃ良いんだよ……!!」

 

 こんなのってねぇよ。

 デュエルをする度に俺は暴走のリスクを負う……それならまだGR召喚をしなければ良いだけだ。

 でも、体内に《ジョギラゴン》がある今、俺自身が時限爆弾のようなものだ。

 あの時の感覚はそんなもんじゃなかった。

 次はあれ以上のものが来るなんて冗談じゃない。

 《ジョギラゴン》も、それに憑りつかれた俺も──敵味方関係なく破壊し尽くす。

 文字通りの──暴君だ。

 もうそうなったら……俺が一番危惧していたことが起こるかもしれない。

 仲間を。

 何より、あの夢の通りに紫月を手に掛けてしまうかもしれない──!

 

「先輩。落ち着いてください」

「これが落ち着いてられるかよ……! お前は、俺が怖くねえのかよ!?」

「っ……」

「お前も見ただろ? 次は、あれじゃ済まねえんだぞ? あの時は俺が空亡に敗けたから良かった。だけど……もし、勝ってたら、街中で暴れ出してたかもしれない……!!」

「それは……」

「俺は、嫌だぞ……!」

 

 手がかくかくと震えてきた。

 胸を抑えると──確かに、強烈な異物感、そして焼けつくようなもう一つの鼓動が聞こえてくる。

 冷や汗が伝う。

 俺は──バケモノになりつつある。

 

 

 

「──失礼します」

 

 

 

 襖が開き、俺達の視線はそこに注がれた。

 現れたのは──袴姿の青年。

 その横に黒鳥さんが立っていた。

 

「白銀。体調は……最悪のようだな」

「……黒鳥さん。此処まで運んでくれてありがとうございます」

「礼には及ばん。だが、問題は此処からだ。後は任せて良いな」

 

 黒鳥さんの言葉に袴の青年は頷いた。

 

「……白銀耀様ですね?」

「は、はい……えと、何方ですか?」

「申し遅れました。私、伊勢神宮の少宮司を務めております、坂田と申します」

「坂田……さんですか」

「ええ」

「……少宮司って何ですか?」

「伊勢神宮には他の神社には無い独自の役職があるのです。「祭主」「大宮司」「少宮司」……といった位ですね。所謂、「神主さん」の位というべきでしょう」

「そう、なんですか」

「このうち、「少宮司」は一般の神職のトップとなります」

「っ……! お若いのに結構凄いんですね」

 

 こら紫月。

 その言い方は結構失礼だと思うぞ。

 

「ふふっ、これでももう40ですよ」

「よ、よんじゅう……!?」

「師匠の方が老けて見えます」

「僕もそう思うキャン……!」

「貴様等揃いも揃って失礼な奴だな」

「ですが、それは表向きの顔。我々坂田家は代々鬼道を扱う一族として、異形や異変に対峙してきました」

 

 ……じゃあ、この人が黒鳥さんの言っていた日本の魔導司ってことか?

 

「貴方達の事は訊いています。エリアフォースカードなる魔法道具、そして守護獣とワイルドカードの事も」

「魔導司の事も知っているんですか?」

「ええ。とはいえ、我々東洋の神職と西洋の魔導司は折り合いが悪く……相互不干渉を掲げていたのです。そもそも、我々は西洋の魔導司とは魔力の質が違う。クリーチャーであっても、対応できるケースが大幅に限られます」

「例えば、そのままではワイルドカードや守護獣と戦う力は無い。扱えるのは補助的な魔術だけだ」

「ええ。お恥ずかしながら……しかし、今貴方の近くにいる犬のクリーチャーや守護獣の姿は見ることが出来ますよ」

「っ……! チョートッQ達が見えてるんですか!?」

「勿論。そして、問題は……貴方」

 

 坂田さんの指はキャンベロに向いていた。 

 びくり、と震える子犬のクリーチャーは紫月の影に隠れてしまう。

 

「怖がらなくて良いですよ。そもそも貴方達はそのために此処に来たのでしょう?」

「キャイン……」

「どういう事ですか?」

「この子は鬼を監視する3体のうちの1体です」

「そう……キャン」

 

 キャンベロは頷いた。

 

「でも、僕らだけでは鬼には敵わない。だから、鬼が復活したら鬼を倒せる桃太郎様を探せと命じられていたんだキャン」

「一体誰に?」

「恐らく、造られた時からそういう風にインプット……されているのでしょう。所謂プログラムのようなものです」

 

 ってことは、こいつらは人に作られたクリーチャーってことか?

 

「成程。では、彼らはその命令に従うままに伊勢神宮まで?」

「そうだキャン……僕らは桃太郎の助太刀、桃太刀(モモダチ)なのだキャン……!」

「だが肝心の桃太郎とやらは、本当に此処に居るのか?」

 

 黒鳥さんが懐疑的な目を向ける。

 それで再びキャンベロは紫月の後ろに隠れてしまった。

 

「もう。師匠が怖い顔をするから震え上がってるじゃないですか」

「キャインキャイン、ブルブル……」

「僕の顔が怖いって言うのか!」

「怖いです」

「怖いと思うであります」

「……白銀、貴様は!」

「……そ、そんなに気にするほどじゃない……っすかね?」

「……!! 貴様等、憶えておけ……」

「ですが、桃太郎は確かに此処に居ますよ」

「いるんですか!?」

「ええ。……そう、伝えられているというだけですがね」

 

 坂田さんは、何処か困ったように言った。

 

「それよりも白銀耀君。少し服を脱いでくれませんか?」

「え? 今此処で、ですか!?」

「上だけで構いません」

「……良いですけど」

 

 真剣な眼差しだ。

 俺は言われるがままに服を脱いだ。

 一瞬、坂田さんは俺の胸、背中の生傷に息を呑んだようだった。

 

「……君は、その歳で幾つもの怪異と戦ってきたようだね」

「……そ、そうなんですかね?」

「君はもう少し、自分の体を労わるべきだ。それに加え、《アバレガン》なる怪異が眠っているようです」

「それも知ってるんですか!?」

「我が黒鳥殿に全部話したでありますよ」

「……今出来るのは、《アバレガン》を封じてしまう事でしょう」

「出来るんですか!?」

「応急措置でしかないが……」

 

 そう言うと、彼は御札を何枚か取り出す。

 それらは坂田さんの手から離れると、独りでに俺の身体に貼りついていく。

 

「……これで、《アバレガン》とやらが独りでに動き出すことは無いでしょう」

「……ありがとうございます」

「だが、超GRを使うのはしばらく控えるべきだな、白銀。GR召喚に頼らず戦った方が良い」

 

 黒鳥さんの言葉に、俺は頷くしかなかった。

 GR無しで、オーラを使う空亡相手に……どうやって戦えば良いんだ……!?

 だけど、これで勝手にアバレガンが暴れ出す事も無い……のか。

 

「先輩……」

「今は、不安な顔をしていても仕方ない。坂田さんを信じるよ」

「私に出来る事があれば、また何でも仰って下さい」

 

 GRは封じられてしまった。

 だけど──今は耐え忍ぶしかない。

 アカリに相談すれば、どうにかできるだろうか。

 

「では、君達を神宮徴古館へ案内しましょう」

「ちょーこかん? 桃太郎様は伊勢神宮に居ると聞いていたキャン」

「昔はそうでしたが、宝物を集める徴古館が出来てからはそこに保管されています」

「保管……?」

「ええ。鬼が復活したとなれば、時は一刻を争いますからね──」

 

 

 

「大変デース!!」

 

 

 

 言うが速いか。

 切羽詰まった様子のブラン、そして翠月さんが部屋に駆け込んできたのだった。

 

「って、アカルも大変だったデース!! 大丈夫デス!?」

「俺は……大丈夫じゃないけど今は平気だ」

「白銀先輩……」

「そんな顔すんなよ。坂田さんに御札でアバレガンは封じて貰った。それより……どうしたんだ?」

「え、えーと……それはデスね……」

「話は向こうに着くまでの道のりでするとしよう。いずれにせよ、鬼の復活とやらはホラ話ではないようだからな」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 

 神宮徴古館は伊勢神宮から北へ道路を通っていった場所にあるという。

 所謂、宝物が展示されている場所だそうだ。

 そこへは坂田さんの車で向かう事になった。その道中で、ブランはタブレットを取り出すなり語り出した。

 

「私達は、最近京都で起こった事件を調べていたのデスよ!」

「事件?」

「夜、遊び歩いていた若者たちが行方不明になる事件が発生しているんです。そこから立て続けに、夜に外出していた人が次々と……」

「そして、街の人たちは深夜から早朝にかけて大きな唸り声を聞いたという情報がSNSに上がっているのデース!」

「鬼の仕業……でしょうね」

 

 坂田さんの言葉に背筋が凍った。

 

「鬼は人を喰らいます。恨みのままに人を襲う、怨念の化身です」

「……じゃあもう既に犠牲者が出ているというのか。事は僕達が思っている以上に重大のようだな」

「ぶるぶる……怖いキャン……」

 

 何てことだ。

 既に鬼による被害が出てしまっているのか。

 

「恐らく、京都の坂田本家が既に調査を開始しているでしょうが……奴らは闇に紛れて人を喰います。そう簡単に尻尾は掴めないでしょう」

「本家?」

「ええ。私は分家の者なのです。坂田本家は、代々京都を守って来た神職の一族なのですよ。恐らく、桃太刀を造ったのも……」

「で、でも、僕らはそんな事知らないキャン……」

「でしょうね。鬼が目覚めるまで君達は凍結されていたはず。その間に抜け落ちてしまった情報も多いでしょう。中世の鬼術である以上は仕方ありませんが」

 

 淡々と言ってのけるけど、キャンベロ達は単なるシステムだっていうのか?

 こんなに感情豊かなのに……。

 

「さて、着きましたよ。神宮徴古館に」

 

 駐車場から見える建物を見て、俺は言葉を失った。

 見た所、西洋式の石造りの建造物だ。

 

 

 

「かつて、京都に出た鬼を撃破したという伝説の英雄”桃太郎”。あまりにも危険なため、今はこの場所に保管されていま──」

 

 

 

 その時だった。

 けたたましく、坂田さんの携帯が鳴り響く。

 駐車場に車を止めた彼は、電話を取ると──

 

「……失礼。はい、私です。……何?」

 

 しばらく、切羽詰まった会話が聞こえてきた。

 そして──

 

「──皆さん。急いで着いてきて下さい」

「どうしたんですか? 坂田さん」

「事件デス!?」

 

 おめーは事件を期待するなブラン!

 本当にそうだったらどうするんだ……と思っていたが、

 

「ええ、事件も事件。”桃太郎”が保管されている地下が──何者かに襲撃されたようです」

 

 ──知らされたのは、文字通りの緊急事態であった。

 まさか、鬼の仕業っていうのか──!?

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