学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「ウッキィィィーッ! 感動で、涙が溢れてくるぜーッ! まさか、こんな所に桃太郎様が眠っているなんて……!」
「此処まで長かったからな……うむうむ」
「ウキキキ、桃太郎様ってよぉ、どんな人なのかなぁー、会った事ねぇけどよぉ」
「そうだな……我々の役割は、この鬼退治で桃太郎様の助太刀をいたすこと」
「なあ、俺達で桃太郎様の力になれるんかな?」
「バカ! 今更弱気になるんじゃないケン!」
「そ、そうだけどよぉ……何か武者震いっていうか、俺みたいな猿で本当に良いのかなって」
「今更そんな事を言ってる場合かケン!」
「ほら、長旅のうちに心が擦り切れて……」
「どっかの誰かが温泉を覗きに行って捕まったりしなければ、もっと早く見つかってたはず……」
「ウキィ!? う、うるせー! べ、別に良いだろ、温泉くらい!」
「良くないわ! やれやれ、お前は自分の立場というものが分かってな──」
「ヘイヘイヘイヘーイ!! そこまでデース!!」
騒がしい声の聞こえる地下庫の一角。
雪崩れ込むようにして俺達は事件の現場に駆け込んだ。
そこに居たのは鬼ではなく……巨大な大太刀を持ち出そうとしている、見覚えしかない猿と──初めて見るキジのクリーチャーの姿があった。
「げぇっ!! 見つかった!?」
「あーっ!! テメェはあの時のスケベ猿!!」
「ウキィーっ!! よ、よりによっておめぇらかよ! 此処は関係者以外は入っちゃいけねえんだッキーッ!!」
「貴様が言うか貴様が……しかも見覚えのない鳥も増えている」
「鳥とは失礼な!」
黒鳥さんがこめかみを抑える。
俺だって今にも頭が痛くなりそうな勢いだ。
「我が名はケントナーク。桃太郎の助太刀・桃太刀3人衆のリーダー──以後お見知りおきを」
「白銀先輩、キジって美味しいんですよね? 遠山のキジ鍋って聞いたことがあります、私……食べたいです!」
「ケェン!? こいつヤバいケン!」
「ヤバい? ただ可食部位を探していただけですが……」
初対面のクリーチャーに向かって堂々とそれを言い放つお前はどうかと思うぞ紫月。
……でもキジって美味しいらしいからな。俺もちょっと腹減って来た。
「てか、覗き、食い逃げと来て次は窃盗か!」
「あの刀って……!」
「桃太郎が封じられていると伝えられている刀、”
坂田さんの指差した大太刀。ずっしりとした鉄の鞘に包まれた大刀だ。
まずい、今あいつらにアレを持ち去られたら肝心の桃太郎が居なくなっちまう!
「キィッ! 悪いけど、こいつは持ち出させてもらうぜ!」
そう言って背を向けたモンキッドだったが、無数の氷の剣が退路を断った。
紫月がシャークウガのカードを掲げながら睨み付ける。
「逃がすわけないでしょう。特にそこの猿には覗きの前科があるので」
「こんな所に居たのね? オウ禍武斗に磨り潰される準備は良いかしら?」
「レディの尊厳を踏みにじった罪、万死に値するデース!」
「こいつらおっかねえんだけどーっ!?」
「三十八計、逃げるに如かず──我々には桃太郎様を復活させるという重大の任務があるので、これにて失礼する……ケェン!」
ケントナークの背中にモンキッドが飛び乗る。そして、そのままこちらへ羽ばたこうと地面を蹴った。
いかん、あいつら強硬突破するつもりだ!
どうにかして止めないと──
「ま、待ちなよ二人共ーっ!!」
逃げ出そうとする猿とキジの前に立ち塞がったのは──キャンベロだった。
「なっ、キャンベロ!?」
「ウキィ!? お前、何処行ってたんだ!?」
「離れ離れになった後、何とか伊勢について……」
「そこの人間たちに捕まって酷い事をされていたんだな!?」
「キャイン!?」
「えええ!? 違う! 冤罪だ!」
待て待て、それは言いがかりだろう!
むしろ俺はこいつにぱんじゅう盗られてるんだが!?
「成程。確かに、そこのツンツン頭の人間なんて鬼のような凶悪な面をしているケン。可愛いキャンベロに乱暴な事をしたのだろう!」
「してねーよ!」
「そいつの連れてる新幹線なんて俺の頭を風呂のタイルにブチ当てた鬼畜生ッキィ! 俺に乱暴な事したよな!?」
「それは覗きが悪いキャン」
「覗きが悪いでありますな」
「死んで償うべきケン」
「俺の擁護は誰もしてくれねぇのかよ……ウキィ」
「猿はどうでもいいケン。我らが同胞、キャンベロを返して貰おうか?」
キジのクリーチャーが俺を指差す。
何でか知らんけど、俺達が悪者みたいになってませんかね?
「あ、いや、返すには返したいんだけど盛大な誤解ってか思い込みが発生してるってか」
「そ、そうだよぉ……この人たちめっちゃ良い人キャン……顔は怖いけど」
「怖くねえよ!!」
「ほら、今怖い顔したキャン!」
「いや、これは……ツッコむ為に止むを得ないってか」
「そうよ! 顔が怖いのは師匠だけよ!」
「余計な事を挟まないと気が済まないのか貴様は!」
「同意です。こればっかりは──揺るがない事実なのですよ」
「何故貴様も神妙な顔で言った!」
「あーもう、滅茶苦茶デース! こうなったら力づくで取り返すデスよ!」
ああ、とうとう事件解決には実力行使も辞さない脳筋探偵がエリアフォースカードの準備を始めてしまった。
相手は仮にも鬼の監視者だし、下手に倒してしまったらマズイって分からないんですかね!?
ああくそ、もうこいつらは本当に──何で毎回俺の胃を痛めるんだ! 何で思い通りにならないんだ──
「その大太刀は我らが伊勢神宮が保管している所有物。幾ら鬼の監視者たる貴方達と言えど、正当な手続き無しに貴方達に渡すことは出来ません」
そう思った時だった。坂田さんが前に進み出る。
神職者の威厳が一言一言から溢れ出ている。
流石の猿とキジもたじろいでいるようだ。
「桃太郎を復活させ、鬼達を倒す……その目標は我々とて同じです。今は一致団結することが出来ませんか? 鬼の監視者・桃太刀達よ」
「っ……貴方は……誰ッキィ?」
「バカ! 口を慎めケン! 服装を見て分からんのか! あれは──神職の人間だろう、多分!」
「その大太刀……”桜桃”は限られた者にしか封印を解く事が出来ないと代々聞いています。貴方達でもそれは不可能なはず」
「ぐっ、確かに……っキィ」
「相手は神職の人間。信用しない手はないケン……」
「協力していただけるようで何よりです」
良かった。
何とか猿とキジと協力することが出来そうだ。
でも、あの刀に桃太郎が本当に封印されているのだろうか?
クリーチャーのあいつらが何かを感じ取った辺り、本物に違いは無いんだろうが……。
※※※
俺達は館内で集まり、これからの事を話し合っていた。
桃太郎のお供も全員揃い、ひと段落と言ったところだ。
「キャンベロ!」
「モンキッド!」
「ケントナーク!」
「「「我ら三人合わせて、桃の助太刀・モモダチ三人衆!!」」」
戦隊ヒーローのようなキメポーズをする3匹。
お前らそういう感じだったのね。
「此処までの数々のご無礼、このリーダーであるケントナークがお詫びするケン」
「ウキィ!? テメェ、何リーダー気取ってんだよ!?」
「やかましい! どっかの誰かがやらかしてくれたからに決まってるだろケン!」
「うぅ……先が思いやられるよォ……」
そして大丈夫なのかこいつら。
見た所、チームワークは最悪なのだが。
「なあ紫月。こんなやつらを従える桃太郎って、どんな人なんだろうな」
「先輩。桃太郎って、そもそも人なのでしょうか?」
「え?」
「お供が
「……まあ確かに」
「桃太郎は、鬼の如き二本の角を持った英雄と伝わっています」
言ったのは坂田さんだ。
その手には、桃太郎の姿を書き記しているという資料が広げられていた。
「桃太郎の封印を解除出来るのもまた、鬼の如き顔を持つ豪傑である……と坂田家では口伝で伝わっているのですよ」
「じゃあ、坂田さんでも桃太郎の封印は解除できないかもしれないって事デス?」
「そうなりますね。そもそも、この大太刀が本物かどうかも……中身は朽ち果てていると聞きますし」
「まあ、顔が怖いだけなら黒鳥サンデスけど」
「僕は豪傑だなんて言われるガラじゃないぞ」
封印を解除できるのは豪傑のみ、か。
何だか恐ろしげな話も伝わってるし、もしかして桃太郎も鬼だった……なんてオチじゃないよな?
「キャンベロ。モンキッド。ケントナーク。お前達は桃太郎がどんな姿なのか知ってんのか?」
「……」
「……」
「……」
「「「さあ?」」」
3匹揃って同じポーズで知らん顔。
流石に脳の血管が切れるかと思った。
「ハッ倒すぞボケットモンスター共!! 桃太郎はテメェらの主だろーが、何でその顔まで忘れてんだ!! ええ!?」
「キャインキャイン、乱暴反対乱暴反対!」
「いけねーんだぞー、動物虐待禁止ッキィ!」
「テメェらが要領を得ない事ばっかり言うからだろーが! 吐け! 桃太郎の素顔を吐けーッ!」
「白銀先輩落ち着いて!」
「アカル、ちょっと怒りっぽくなってるデスよ!?」
「っせーよ! 此処まで何度こいつらに振り回されたと思ってやがる! いい加減、ちょっとくらい役に立てや!」
「先輩! 駄目ですよ、そんなに怒ったら!」
あーくそ、すっごくイライラする……!
何でだろう、胸の底から燃え滾るようだ。
……だけど皆の言う通りだ。ちょっと怒り過ぎたかもしれない。既に喉がガラガラになっていた。
「そんな事言われても、我々は鬼が封印された後に造られたから何も知らないケン」
「えっ!? そうなのか!?」
それなら知らなくても仕方ない……のか。
それにしても……こいつら、顔も分からない桃太郎を探して此処まで来たんだなあ。
……いや、元々「鬼が復活したら、桃太郎が封印されている太刀が納められている伊勢へ行け」という命令だったのかもしれないが。
そう考えると……律儀だと頷かざるを得ない。
「……それは悪かったな」
「これを伊勢神宮に持ち帰り、どうすれば封印を解除できるのか……また、神社本庁の方で協議する必要があるでしょう」
「ウキィ!? 協議ィ!? そんな時間無ェよ!!」
モンキッドが声を上げた。
「今、京都の方じゃあ、鬼が夜になると人を襲ってるんだ!」
「おまけに目覚めたのは鬼の中の鬼……酒呑童子だケン」
「酒呑童子って、あの……酒呑童子か? 金太郎の?」
京都に現れた日本最強の鬼。
それが酒呑童子と言われている。
確か、金太郎こと坂田金時が酒を飲ませてベロンベロンに酔わせた隙に倒したんだっけか……?
「訊いた事あるデス! 酒呑童子と言えば、ヤマタノオロチの子供だー、とか日本三大妖怪の一角だー、とか箔付きの鬼デスよ!」
「……敵は、鬼の中の鬼ってことですか」
「でも──鬼がクリーチャーって言うなら、俺達の手で退治出来ると思うんですけど」
この際、桃太郎の復活を待っている時間は無いかもしれない。
それならば、エリアフォースカード使いの俺達の手で鬼を倒すしかない。
しかも、鬼を復活させたのはトキワギ機関の空亡だ。決して元より無関係ではない。
「俺達が京都に行けば、鬼を倒すことが出来るかもしれない!」
「そうですね。相手がクリーチャーなら、エリアフォースカードで倒せるはずです」
「そう簡単に行くかどうか」
坂田さんが憂鬱そうに言った。
「坂田家は京都全域の異変解決に携わる元締め……西洋魔術の使い手が介入しては、決して良い顔はしないでしょう」
「そんな事を言ってる場合デス!?」
「東洋と西洋。二つの魔術の確執は理解出来ます。しかし、今それを持ち出している場合ではないですよね」
「そうよ! ケンカしてる場合じゃないわ!」
「ええ勿論。
やはり、そこに京都の坂田本家が関わって来るのだろう。
相当にデカい家みたいなんだよな……。
「魔導司が京都で活動出来ていない理由の一つが、京都に住む鬼術勢力の存在だ。神職、仏閣の管理者、京都は彼らの縄張りであり、それを他の者に手を付けられるのを良しとしない」
黒鳥さんは悲痛そうに言った。
「そ、そんな……」
「だが、空亡が復活させた鬼が彼らだけでどうにかなるとは思えない。放置していれば日本中に奴らは湧き出すだろう」
「ええ、その通りです。彼らにも危機感を持ってほしいのですがね……」
苦々しそうに坂田さんは言う。
それほどまでに、向こうは意地を張っているのだろう。
面子というものもあるのかもしれないが……。
「やれやれ。時間Gメン、マフィアの次は鬼退治か……」
「師匠。今度は京都に行く事になるのでしょうか」
「そうなるだろうな。神類種の情報を追って伊勢神宮に来たのは良いが……まさか鬼の話になるとは」
「ふむ。神類種、ですか」
「ああ。白銀の処置に追われて、そんな暇は無かったのだが、元より伊勢には神類種と呼ばれる存在についての資料があると聞いて此処まで来たのだ」
「成程……しかし、私も神類種についての記述は1つしか知らないのです。私は古文書は全て諳んじる事が出来るくらいには暗記しているのですがね」
「何だと? いや、待て! そもそもやはり、神類種とやらについて記されている書物があるのか!?」
黒鳥さんが食らいつく。
坂田さんは面食らいながらも頷いた。
「ええ、ええ……貴方達には鬼退治を手伝って貰う事になるでしょうし、そちらの助力も出来るだけするべきでしょう」
「それで坂田さん。神類種ってのは、結局何なんですか?」
「その記述は、本来人が読む事は出来ないのです。魔導司が読む魔術書のように、読むだけで心が侵されます」
「……まさに、禁断の書って訳デスね!」
「それを取り扱うのが魔導司、あるいは……我々のような”裏”に携わる人間の仕事です」
魔導司は魔導司書の略だ。
普通の人間にはとても読むことが出来ないような魔法の本を管理するのが本来の役目だとトリスや火廣金が言っていた。
何処の国にもそれと同じ役割を持つ人間がいるのだろう。
「その禁忌の書の中に、神類種……いや、神職のタブーについて記された事件があるのです」
「タブー?」
「はい。伊勢神宮が
それは勿論、周知の事実だ。
ブランですら知っているようだった。
「それを……遥か昔の神に携わる者は、”降ろそうとした”という記述があるのです」
「降ろす? 降ろすってーと、召喚の類かァ?」
シャークウガが怪訝そうに言った。
「はい。神を地上に降ろす、顕現させようとしたのです」
「……」
そう言えば、アルカクラウンもそんな事を言っていた。
人々を生贄に捧げて、この世に神を降ろす……と。
「アマテラス様を元に、人の手で造り出した太陽神を作り出す……それが計画だったようですね」
「……何故そんな事を」
「そこまでは分かっていません。しかし、アマテラス様に似た何かを彼らはこう呼んだそうです。”神に比類する種”……神類種と」
「……それだけか?」
「それだけですね。そもそもそれが、一体いつの出来事なのかも分かりません。本当かどうかも。何を持って神類種とするのか? 我々の信じる神様と何が違うのか? 分からない事があまりにも多すぎる」
情報が断片的過ぎる。
その太陽神がどうなったのかも分かっていないわけだし。
「現在の我々の結論は、”現世に降り立った神を名乗る何か”を神類種と呼ぶ……ということでしょうね。あまり良い情報が無くて申し訳ない」
「いえ、助かりましたよ」
これって、もしかしてタイムダイバーを使えば神類種のルーツに辿り着けるんじゃないか?
誰かが神を降ろそうとした……っていうのは結構大きな情報かもしれない。
「……となれば、当面の目標は空亡が復活させた鬼退治か」
「次の目的地は……京都ってことになるな」
この桃太郎のお供三人組も気になるけど……京都も放っておけないしなあ。
「鬼退治なら俺達を連れていけッキィ!! 桃太郎様が復活したら、京都に駆け付けるからな!」
「足手纏いにはなるつもりはないケン。我らが桃太刀、助太刀致す」
「ううう……戦うとか……無理ぃ……」
「おい約一匹」
「微妙に情けないですね……」
「ううー……! だって怖いものは怖いキャン! 僕、紫月さんから離れたくないキャン……」
「やれやれ、仕方ないですね……」
紫月の胸に抱き着くキャンベロ。
それをよしよしする紫月を見てると……なんだろう、相手は子犬のクリーチャーなのに、何だかイライラしてきたぞ。
「……先輩。どうしたんですか?」
「何でもねえよ!」
「あーあ、成程……アカルもまだまだ子供デスね!」
「どういう意味だよ!」
「白銀先輩も甘えたい時があるって事ね!」
「……え?」
「バカ! 変な言い方すんじゃねえ! 紫月、翠月の言う事なんか真に受けなくて良いからな!?」
「分かってますよ」
「貴様等やってる場合か。次は京都だぞ。長旅の覚悟をしておけ」
「また電車に揺られるんですね……」
他愛もない話をしている中、妙に胸の心地が悪かった。
妙に空が暗い気がするな……。
「どうしたんですか? 先輩」
「あ? ああ……桃太郎の件も、空亡の件も心配なんだけどよ……」
「やはり、お体が?」
「……」
何なんだろうな。
やはりあれから体調が優れない。
体内からアバレガンが暴れ出す事は無いらしいが……それでも不安は残る。
しかし、俺だけが弱音を吐いているわけにもいかない。
皆──頑張ってくれているのだから。
(でも、本当に……大丈夫なのかよ……)
賑やかな面子たちの中で、俺は一人胸を抑える。
この中には──俺を狂わせる暴君龍が、今も暴れ回っているのだ。
(このまま……何事も無けりゃ良いが……)
「大変です! 坂田さん!」
その時だった。
緊迫した声が、徴古館に飛び込んできた──