学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
館内の職員に連れられるまま外に飛び出すと、外の暗さに驚かされた。
まだ午後5時、しかも今日の天気予報は晴れ。
にも関わらず、既に辺りは夜のように闇に包まれている──
「あの雲から強烈な魔力反応を感知! ありゃあ相当のデカブツだぞ! わんさか居やがるぜ!」
シャークウガが叫ぶと共に全員身構えた。
間もなく──黒い雲から、大量の影が雨霰のように降り落ちてくる。
すかさずサッヴァークの目が光った。
「この辺り一帯を迷宮化した──ヌシら、一匹も取り逃すでないぞ!」
「アカル! ザコは私達に任せるデス!」
「ま、待て! 俺を置いて行くんじゃねえ!」
「白銀。貴様、まだデッキの中身を変えていないだろう」
「あっ……!」
そ、そうだ。
今のままじゃ俺はまともに戦う事すらできない。
アバレガンさえ俺の身体の中に居なければ、すぐにでも戦えるのに……!
「此処は私達に任せてください、白銀先輩! しづ、行くわよ!」
「待ってください、みづ姉。肝心の”桜桃”を守る為にこちらに一人は残っておく必要があります」
紫月が親指で桃太刀三人衆を指す。
確かに……こいつらに任せておくのはちょっと心許ないかもしれない。
「っ……分かった。じゃあ、しづに此処を任せるわ」
「良いんですか?」
「お姉ちゃんが率先して頑張らないと……ね! それに何時までも恰好の付かないままはダメだと思うから!」
「アカルとシヅクは徴古館と桜桃の防衛をお願いできマスか!? 敵は何処から来るか分からないのデ!」
「了解です! 先輩はすぐにデッキを組み替えて!」
「って言われても……!」
今のジョラゴンデッキからデッキのパーツを入れ替えようとすると、多くのカードが抜けてしまう。
安全の為にGR召喚に関わるカードは全て抜かなければならないが、そうなるとほぼほぼ総とっかえだ。
「そもそも今持ってる予備の組み換えパーツもGRに関するカードが多い……! 組み替えようにも足りないパーツが発生する……!」
「GRを入れる前のデッキに戻せないんですか……!?」
「っ……」
想像も付かない自分に恐怖した。
GRを使っていた期間は、俺が思っていた以上に長かったのだ。
※※※
ブランを乗せたサッヴァーク、そして黒鳥と翠月を乗せたオウ禍武斗はすぐさま伊勢市上空に浮かんでいる巨大な暗雲目掛けて飛んでいた。
そこからはぽろぽろと次々にクリーチャーが溢れ出ている。
「スポーンポイントは間違いなくあの雲の中デス! どうなってるか分かりマスか?」
「うむ……転移魔法の一種に違いなかろう。何処に繋がっておるかは分からんが……!」
「あれが全部鬼って言うなら、京都だと思うのだけど」
「とすれば、京都は今頃鬼の都と言う事か……考えたくもないな」
「然り。さすれば一刻も早く鬼を成敗するまでの事。主よ!」
「分かっているわ、オウ禍武斗! 全部纏めてやっちゃいなさい!」
急上昇するオウ禍武斗が思いっきり拳を振り上げる。
鬼の軍勢目掛け、それを空振りすると大気を揺らす程の衝撃が吹き荒れ、すぐさま鬼達は空中で隊列を乱して吹き飛んで行く。
その様はまるで、風に舞う塵の如く。
「そうれ、良い的じゃわい!!」
そして吹き飛んだ鬼達をサッヴァークが見逃すわけも無く。
周囲に展開した結晶の剣を幾つも飛ばし、次々にクリーチャー達を切り裂いていく──しかし。
「全然減らないデス!」
「数が多すぎるのう──! このままでは──!」
「やっぱり、あの雲を直接破壊するしか手はあるまい」
「破壊って……どうするんデス!?」
「オウ禍武斗の出力なら……出来るかもしれません」
オウ禍武斗の拳は文字通りの質量兵器。
その拳と角に力を限界まで貯めれば、暗雲一つくらいは吹き飛ばせるだろう、と翠月は考えた。
「雲そのものが何らかの魔術で形成されたものならば、物理的に吹き飛ばせば術式も乱れて奴らは流れ出なくなる……結局最後に行き着くのはレベルを上げて物理で殴れという事か」
「無理を押し通せるのがガイアハザードの力というものですので!」
「脳筋極まるが、最早仕方あるまい! しかし実際、あれは雲なのか? 雲だとして、オウ禍武斗で破壊出来るのか?」
「雲というより、エネルギー体のようなもんじゃからのう。問題は肝心の質量が大きすぎる事じゃが……ワシらの身体もまた魔力で構成されておる。ならば、それを上回る質量をぶつければ破壊出来るじゃろう」
「とにかくデカいのにはデカいのをぶつけろって事デスね!」
身も蓋もないが実際その通りであった。
理屈はどうあれ破壊出来るのであれば、根元を断つ事が可能だ。
「出来ますか? オウ禍武斗!」
「時さえ許せば──!」
「なら、その間時間はサッヴァークが稼ぐデス!」
「翠月。振り落とされるなよ」
「分かってますよ、師匠!」
宙に雲の子のように散る異形達をサッヴァークが次々に撃ち落としていく。
それを横切り、オウ禍武斗は自らの最大の武器たる鉄拳に力を籠め、暗雲目掛けて飛び掛かる──
「──オイ、何処見て飛んでやがる」
翠月は目を見開いた。
どこからともなく、男の声が飛んできた直後の事。
オウ禍武斗の身体が宙で飛んだまま硬直する。
同時に、彼の背中が大きく揺れた。
その腹には──金棒が深々とめり込んでいた。
「こっちを見ろよ──俺様をよォ。遊び相手は此処に居るぜ?」
巨大な鬼。
両足に金棒を括りつけた大鬼の蹴りがオウ禍武斗を襲ったのである。
「ぬ、ぐぅ、貴様は──!!」
「オイ、カブト虫のおっさん。闘ろうぜ。身体が鈍っちまってしょうがねぇや」
「オウ禍武斗、乗せられないで! エリアフォースカードに引き込むわ!」
「あん?」
翠月の取り出したエリアフォースカードを見た途端、大鬼の目の色が変わった。
「テメェッ──神職か!!」
「えっ!?」
「うぐぬぅっ!? ま、魔力が……!!」
大鬼の右足に紫電が何本も迸る。
オウ禍武斗の顔に苦悶が浮かび上がった。
脚を腹から抜こうとしても、全く抜けない──!
「ウッソだろオイ! こいつぁぶったまげた!! だけど、二度と封印なんてゴメンだぜ!!」
大鬼の左手に金棒が何処からともなく現れる。
翠月も瞬時にそれが危険と悟った。
黒鳥が「いかん!! 行くな!!」と止めるのも聞かず、オウ禍武斗の背中を走ってエリアフォースカードを突きつけようとするが──
「名前は……デモニオ八金棒、だっけか? まあ使ってみる価値はあるか──!!」
「ダメーッ!!」
間に合わない。
あと一歩で届くという所で──
「啼け、焦・熱・棍!!」
オウ禍武斗の脳天目掛けて大上段に棍棒が叩きつけられる。
大きな音を立てて、彼の角が一つ、また一つと折れていき──
「えっ……!?」
そのうちの一本が、翠月の身体に降りかかった──と同時に。
身体のバランスを崩したオウ禍武斗が、ぐらりと倒れ、そのまま黒鳥と共に地の底目掛けて落ちていく──
「翠月ーッ!?」
空中に放り出された黒鳥が最後に目にしたのは──オウ禍武斗の折れた角の一本。
そして、虚ろな表情で逆さまに落ちる翠月だった。
※※※
ブランは目を見開く。
急停止したオウ禍武斗の背中から、黒鳥と翠月の身体が放り投げられたのだ。最早一刻の猶予もない事を悟った。
眼前の山や街の影は余りにも小さい。
落ちれば先ず命はない。
重力に従うがままに二人の身体は落下する。
ならば、と落ちる二人を受け止めようとするサッヴァークであったが──
「落・ち・ろッと!!」
角を折られ、そして渾身の一撃を喰らってダウンしたオウ禍武斗の脳天に、金棒を加えた踵落としがトドメと言わんばかりに叩きつけられる。
巨体が一瞬、揺らいだかと思えば──すぐさま、隕石よろしく打ち下ろされたのだ。
──それも、恐ろしい程の速度で!
「なっ!?」
躱す余裕も無かった。
サッヴァークに、オウ禍武斗の巨体がぶつけられる。
「もっと強くなってきてから出直してきやがれ!! 命があれば、だけどなぁぁぁ、ギャーッハッハッハッハッハ!!」
鬼の高笑いをバックに、サッヴァークも、オウ禍武斗も、そしてその場に居る全員が──空から叩き落とされたのだった。
※※※
「ジョラゴンもガンバトラーもGRを使っている……! このままじゃ……!」
「……先輩。落ち着いて下さい。先輩は今までGR召喚が無くても戦えていたじゃないですか」
「っ……そうだけど」
「恐らく、GR無しならば使い慣れているメラビートの方が良いでしょう。勝負を決める力はこちらの方が強いので」
「え、えと、紫月さん?」
「赤緑でメラビートを組むんですよ、先輩。発想を転換するんです」
紫月の眼差しは真剣そのものだ。
考えた事も無かった。
メラビートジョーカーズはサンダイオーマキシマムを重視する為に無色と一緒に組むのが定石と思い込んでいたのだから。
「先輩はアーキタイプとデザイナーズコンボに縛られるあまり、そこから逸脱した構築を嫌う傾向があります。オマケにデッキに多くの種類のカードを詰め込み過ぎる悪癖も」
「うっ……」
「だから──カードを私に託してください。私がデッキを組みます。先輩が良ければ、ですが」
「……」
……そんなの答えは決まっている。
「いや、お前の言う通りだ。任せるよ。……悪いな、不甲斐なくって」
「何言ってるんですか、先輩。私達は一蓮托生、そして持ちつ持たれつじゃないですか」
俺の袖をぎゅっと握る紫月はふにゃり、と微笑んだのだった。
一蓮托生……そうだ。どんな結果になろうとも、俺達は一緒なんだ。
そう誓ったじゃないか。
「何か、あいつらすっげー良い雰囲気キャン……」
「邪魔するのは良くないと思うケン」
「チッ、目の前でイチャついてんじゃねーよッキィ」
テメェら……全部聞こえてんぞ……。
一方、紫月はと言えば俺の出したカードを前に睨めっこしている。
完全に集中しているな。
「で、どんなもんなんだ?」
「クォリティを度外視すれば、何とか形にはなりそうです。問題は《メラビート》を使うのにある程度の手札が必要と言う事でしょうか」
「赤緑で組むとすぐに無くなるんだよな……」
「加えて《メラビート》の全体破壊が発動するだけの打点を並べるのはGR無しだと少し厳しいかもしれません」
「やっぱり《マンハッタン》に頼るっきゃねぇか……」
「また、マナさえ増やせれば《サンダイオー》のシールド焼却を発動させることが出来るかもしれません」
「それなら、マナを加速できるジョーカーズを多めに入れた方が良いかもしれねえ。手札も補充できる《ひゃくよウグイス》も使えるかもしれねえし……そうだ、《バングリッド》も使えるかもな」
アカリから貰ったガンバトラーに入っていたカードや改造用カードの中には紫月が知らないものも入っている。
それを見てか、彼女は目を輝かせて、
「《バングリッド》……? そんな良いカードがあるなら、早く言って下さい! こんなのループの玩具ですよ!」
「紫月さんや、今ループデッキ組んでる場合じゃないから!」
「しまった、私としたことが発作が……」
「オイ、こいつらに任せておいて大丈夫なのかよッキィ?」
……そういや桃太郎のお供達もクリーチャーだったな。
「つーか、オメーらもクリーチャーならそこで見てないでカードになれたりしねえのかよ」
「……」
「……」
「……」
3体は黙りこくってしまう。
そして皆揃って、
「「「考えた事も無かった!!」」」
ハッ倒すぞボケットモンスター共!!
「お・ま・え・らぁぁぁ!」
「無理もありません。彼らはデュエル・マスターズという概念が生まれる前に造られたクリーチャーです。花札は知っていてもデュエマは知らないでしょう」
坂田さんの言葉で何とか俺は溜飲を下げる。
考えてみればそれもそうか。
「何のためにこいつら居るんでありますか……」
「でもよォ、カードに変身する方法を知らねえだけなんじゃねえか? オイテメェら、このシャークウガ様が直々に教えてやらん事もねぇぜ」
「何か上から目線の鮫かやってきたッキィ」
「弱い鮫程よく吼えるケン」
「テメェら喧嘩なら買うぞ!!」
あー、これはダメそうだ。
もしかして、目覚めた桃太郎がクリーチャーだとして、こいつらみたくカードになれないってパターンも有り得るぞ。
不安になってきた……。
「テメェこら表出やがれ! あっ此処表だった」
「我々三人衆に勝てるとでも?」
「我も加勢するでありますよ、シャークウガ!」
「オイこら卑怯だぞテメェ!!」
「3人掛かりのテメェらの方が卑怯だわ!」
「あんだとコラ!」
「ちょっとモンキッド、桜桃は武器じゃないんだから乱暴に扱うのはやめようよ、キャイン……」
……でもそろそろ五月蠅くなってきたな。
取り返しのつかなくなる前に止めねえと……紫月の眉間にも大分皺が寄ってるし。
「テメェら、好い加減に──」
そう、言いかけた時だった。
モンキッドの握っている桜桃が赤く輝く。
「あっづっ!?」
叫んだ彼が刀を手放した。
地面に桜桃が転がる。
「オ、オイ、何なんだ!? どうした!?」
「こ、この気配って……!」
「身の毛がよだつケン……!」
「キャイン……!」
桃太刀達が一方向を揃って向く。
何だ? どうしたんだ?
桜桃の挙動と何か関係が──
「オイオイオイ、何だ? 面白そうな事やってんな?」
──衝突音。
それが俺の思考を遮った。
どこからともなくそれはやってきたのだ。
アスファルトに突き刺さるのは太い二本の脚。
「っ……!」
嘘だろ。
あっちはブランたちが食い止めてたんじゃないのか?
じゃなきゃ、こんな奴見逃すはずがない。
それは、身の丈は俺と然程変わらない男だった。
袴を乱暴に着崩した粗雑な若者──額に二本の角、そして金色の目玉が埋め込まれた不気味な仮面を身に着けていなければそれで済んだのかもしれない。
「よう、遊ぼうぜ!! テメェら退屈だろ!!」
その一言で鬼の脚元が罅割れた。
一瞬で大地が隆起し、突き出したアスファルトの塊が鋭利な剣となって襲い掛かる──!
「っシャークウガ!!」
「ダンガンテイオー!!」
揺らぐ地面。
ダンガンテイオーがすぐさま俺達を次々に回収していく。
「早く飛び乗るでありますよ!」
「キャインキャイン、落ちちゃうんだけどぉ!?」
シャークウガが氷の剣でアスファルトを砕く。
しかし──
「もっと愉しませてくれよ。こちとら、1000年眠ってて久々の運動なんだぜオイ」
「っ……!!」
──シャークウガの背後に、既に鬼は回り込んでいた。
凄まじい炸裂音と共に、スーパーボールのようにシャークウガの身体は跳ね跳ばされる。
「嘘でしょ!? シャークウガ!!」
「つまんねぇなぁ……もっと遊ぼうぜ」
その姿勢から、蹴りを見舞った事は確実だ。
ダンガンテイオーが剣を構える。
しかし──
「おい、そこのお前。ちょっくら付き合えや」
──いきなり、ダンガンテイオーの身体が揺れ、地面へ叩きつけられたと気付いたのは少し遅れてからだった。
当然、飛び乗っていた俺達は弾き出されてアスファルトに放り投げられたのである。
「あっ、があ……!?」
頭を打った俺の前に、鬼が詰め寄って来る。
まずい。このままでは、全滅だ。まだデッキも出来てないのに……!
「おい、何湿気た顔してんだコラ? もしもーし? もうお終いか? 現代の妖怪ってのは、随分と軟弱なんだなぁ、姿は変わったけど全然つまらねぇぜ」
「瞬間移動して回り込んだので、ありますかぁ……!?」
「何なんだよコイツ……!」
「この鬼は、まさか……!」
坂田さんが顔を顰めた。
「オイ、もしかして俺様の事を知らねえのか? 神職まで居るのにか? おん? 鬼を知っててこの俺様を知らねえとはどういう了見だコラ」
仮面の下で鬼は笑う。
俺達は地面で伏せながら、それを聞くしかない。
「俺様は泣く子も笑う大江山の大悪鬼……酒呑童子様だぜ!!」
※※※
私、死ぬのかな──
空に放り出されて、誰も助けに来ない。
重く硬い角が、ずぶりとお腹に突き刺さった感触だけが残る。
体中から暖かいものが抜けていく感覚──
あんなこと言ったのに……私、もうちょっとしっかりしたお姉ちゃんで居たかったなあ、しづ……。
「──
桑原先輩。
どこに居るの?
最期に……会いたかったなぁ……。
ごめんね、しづ。お姉ちゃんはもうダメかもしれない。
居るはずのない、あの人の叫びが──聞こえてくる。
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