学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「まあ、そんなわけだからよ。桃太郎をさっさとこっちに寄越せや」
金棒を肩に担ぐと酒呑童子を名乗る鬼は笑みを浮かべる。
ひとたび、棍棒が振るわれれば──
「「「ほぎゃーっ!?」」」
──桃太刀達は一瞬で吹き飛ばされてしまった。
肝心の桜桃諸共。
並みのクリーチャーでは、目の前に立つ事すら敵わないというのか!
「あ? やっべ、やりすぎちまった。まぁいいか」
ま、まずい……! こ、このままじゃ……!
強さが、圧倒的過ぎる……!
「サン……ダイ、オォォォーッ!!」
「了解、でありますッ──!!」
少しでも時間を稼いでもらうしかない。
今のままではまともに相手に近付く事すらできない……!
「おんおんおん? まーだやり合うってのか?」
「ッりゃああああああーっ!!」
サンダイオーの大太刀が鬼の肩に叩きこまれる。
しかし──
「ッ……!?」
「丁度肩が凝ってたんでよ」
「き、斬れない──で、あります……!?」
「バケモンかよ……!!」
次の瞬間、パキィッと音を立てて刀が砕け散る。
薄々勘付いてはいたが、規格外すぎる。サンダイオーの馬鹿力でもどうにもならねえのかよ、こいつ……!
駄目だ、こんなやつどうすれば良いんだ……!?
「あーあ、こんなモンかよ。ダメだぜ──もっと本気になって掛かってきてくれねえとなあ……!!」
「ガハッ──!!」
棍棒が振り下ろされ──サンダイオーの身体が消滅する。
それはカードの姿に戻ってしまった。
「あ、ぐ、申し訳ないであります……!」
「チョ、チョートッQ……!! く、くそっ……!!」
これが、神類種だっていうのかよ……!
エリアフォースカードに引きずり込むどころの話じゃない。
そもそも、こいつが強過ぎるんだ。
守護獣で弱らせることすら叶わないし……!
「あーあ、面白くねェ。面白くねェよ!!」
鬼が迫る。
死をその肩に携えて。
ぞくり、ぞくり、と背筋が粟立った。
人間にはどうしようもないものが迫り来ている。
「桃太郎さっさと貰って帰るつもりだったけどよ、気が変わったぜ」
鬼の棍棒は──弱者である俺達を指し示していた。
「此処に居る奴ら、全員皆殺しにしてやるぜ──!!」
「──安心しきってる場合ですか?」
坂田さんの声が響いた。
「んあ?」と呆けた声を上げた酒呑童子だったが──直後、足元を見て身体を強張らせた。
光り輝く魔方陣、そこから無数の腕が彼の身体を覆い尽くす……!!
「がっ……!? ンだコレ、何しやがったァ……!!」
「鬼殺しの封技です」
「ぐぎっ、く、くびが……テメ……!!」
「彼らが時間稼ぎしてくれたおかげで、術を練る時間が出来ました。貴方は此処で終わりです」
動こうとしても、酒呑童子の身体に腕が食い込み封じ込めてしまう。
ま、まさか、坂田さん……あの鬼を、完全に止めてしまったのか……!?
「人間、如きがァ……俺様を止める、だとォ!? 解けェ、解けよォ!! 俺様に戦わせろーッ!!」
「そうはさせません。この呪符は対・鬼の特効兵器。鬼の力を封じる神酒をたっぷり沁み込ませているのですよ」
「ッ……神酒、だとォ!? テメェ、まさか──」
「私は坂田史郎──鬼殺しの一族・坂田の姓を継ぐ者ですから」
「その名を聞くと虫唾が走るぜェェェーッ!!」
坂田……鬼殺し……?
それって……。
「何の関係があるんだ……?」
「知らないのでありますか……」
「先輩、坂田で鬼殺しって言えば金太郎ですよ! 坂田金時です! つまり、坂田さんは金太郎の子孫ってことじゃないですか……!」
「一応、そういうことになっています」
ぎち、ぎちぎち、という音が響く。
そうか金太郎! 京都に住んでいる鬼を仲間と言って近付いて、酒を呑ませて酔わせたところを倒した……って話だっけか。
神酒が効くのは、酒呑童子が昔同じ方法で倒されたから……!
「──鬼に横道無し、と言いますが……妖の弱みを突いて倒す邪道こそ我々神職の王道……どうかもう一度、天に召されるよう」
「……そうか、そうかよ──なら仕方ねえな」
「……?」
「確かに、1000年前の酒呑童子ならこれで絞め殺されて終わり……だったかもなあ」
苦悶の声が響く。
しかし、その言葉には──余裕が浮かんでいる。
「そう、
めき。
めき、めき。
鬼の身体に纏わりついた腕が軋む。
「──いったい、何を──!」
「
次の瞬間。
鬼の身体に赤黒い炎がまとわりつく。
それが──彼の身体を一瞬で燃やし尽くしていく。
何が起こったのか分からなかった。
だが、そこに立っていたのは最早酒呑童子という鬼ではない。
骨のような面を付けた巨大で強大な大鬼が立っていた──
「ッ……何だよ、これ……!!」
──姿が、変わっている……!!
「バカな、封技が……!」
「フゥーッ、こいつはな。俺が復活するにあたって与えられた、器の鬼だ。くりーちゃー? だっけか。こいつの身体に今の俺の魂は封じ込められている」
「クリーチャー!?」
「与えられたってことは……空亡が……!」
「未だ不完全な神類種・酒呑童子の身体が復活するまでの繋ぎって奴よ。俺様だって本当は、あんなチャチな技に引っ掛かるタマじゃねえんだけどなあ。でもこの身体は気に入ってるぜ。デカいし、頑丈だし──」
次の瞬間、棍棒が地面に突き立てられた。立てない程に足元が揺れる。
アスファルトが音を裂けて割れ、無数の刃となって──
「──何より鬼強ェ」
──針の山と化す。
俺の眼前にそれは迫る──
やばい。
今度こそ死んだかもしれない。
守護獣も、誰も、あの鬼に太刀打ちできない──!
「危ないッ!!」
その声が響いた時。
俺の身体はふぅっ、と浮いていた。
まるでそよ風に吹かれる塵のように──
※※※
再び目を開いた時。
俺の目の前には──針の山が出来上がっていた。
恐る恐る視線を上に向ける。
そして、俺は言葉を失った──
「やだっ、そんな──」
紫月の声が聞こえた時。
俺は何が起こったのかを肌で察した。
──針山に串刺しにされた坂田さんの姿があった。
アスファルトで構成されたそれは、すぐさま崩れ去る。
しかし──その上に横たわる彼は、どうしようもなかった。
手の施しようがない。
片眼は抉れ、全身に穴という穴が空いている。
目を逸らしてしまいそうな惨劇──それでも、駆けよらずにはいられなかった。
しかし──その目はもう、何も見えていないようだった。
「坂田さんッ、坂田さん──!!」
「……白銀君……鬼を、倒しなさい」
「っ……!!」
「泣いている場合では、ありません……人の手で──鬼を滅するのです」
俺の声は、きっと嗚咽混じりだったのだろう。
鼻がひくつき、つんと痛む。
袖で顔を拭き、俺は彼の手を掴んだ。
あまりにもその力は弱々しく、途絶えようとしていた。
「悲しむ事はありません。我々人間は──多くの犠牲の中で、鬼を封じてきました。その過程で人の歴史の礎になる──それだけの事」
「そんな悲しい事言うなよ……!」
「だから、貴方が繋ぐのです。貴方、達が……!」
「俺が……!」
「これは、賭けです。年端もいかない貴方に託すのは気が引けますが……これしか手が無いのです。どうか、京都の人々を──」
「っ坂田さん……!」
呼びかけに返事はもう帰って来なかった。
するり、と手は──俺から離れてしまう。
「笑わせるな! この日本はもう鬼が治める国となる!」
鬼の声が響き渡る。
「脆弱で、愚かで、卑劣で……汚ェ人間共は絶滅だ!! お前らは所詮、一人じゃ何も出来ねえ弱者なのよ! ギャーッハッハッハ!!」
脆弱で、愚かで、卑劣で──確かに、そうかもしれない。
俺だって誰かの力を借りなきゃ戦えないから。
今だって、GRの力が封じられただけでこの様だ。
だけど。
「黙って……滅ぼされてなんかたまるかよ」
「あん?」
俺は弱い。俺は無力だ。でも──目の前で、世話になった人をあっけなく殺されて、ムカつかねぇ訳じゃねえ!!
「おい桃太郎!!」
俺は叫ぶ。
もう、これしか手は無いのだから。
「テメェが鬼を滅ぼす
掲げられたエリアフォースカード。
無茶なのは分かってる。
それでも──黙って逃げるなんてもっと無理な話だ!!
「先輩、無茶です!! デッキがまだ出来てないんですから!!」
「っ……駄目だ来るな、紫月!!」
「心配しなくても──テメェら皆、纏めて首を潰してやるぜェェェーッ!!」
大鬼が棍棒を振り上げた。
その時──
「おりゃああああーっ!!」
鬼の頭に、何かが飛びついている。
棍棒を振るう腕がぶれた。
「んっだぁ、テメェら──!?」
「俺たちゃ桃太郎の懐刀、桃太刀ッキィーッ!!」
「テメェーッ、顔から離れやがれェェェーッ!!」
モンキッドだ。
モンキッドが大鬼の顔に引っ付いているのだ。
更に、後ろを見るとケントナークが紫月を乗せて飛び立とうとしている。
「っ待ってください! 先輩を置いて逃げるなんて──」
「我々は一足早く離脱する。貴方のクリーチャーも、すっかりバテている。今は──生き残る事を優先するんだケン」
「でも──」
「後は……私の見込みが間違ってなければ、全て上手く行くはず──」
「待って、先輩っ、先輩ーッ!!」
飛び立つケントナーク。
そして、彼から飛び降りてくる影。
やってきたのは──キャンベロ。
その口にはデッキケースが咥えられていた。
「キャンベロ……!」
「桜桃を手に取るのです」
「えっ」
「貴方は──資格を手にしました。後は──桜桃を」
今までの怯えた表情はそこにはない。
目はカッと開かれており、まるで機械のように彼はしゃべる。
俺は──言われるがままに桜桃を握る──
「うっぎぃっ……!!」
その時。
掌を通じて痛みが全身に走った。
「マスター!?」
「あっ、ぐ、ンだコレェ……!!」
まるで全身に紫電が迸るような感覚。
焼け爛れるような痛み。
立てなくなりそうだ。
だけど──
「っ出て来い──」
「させるかァァァーッ!!」
──負けて、堪るか……!
「桃太郎ーッ!!」
刀の鞘が抜ける。
迫りくる鬼に桜桃を向けたその時だった。
暗雲から迸る一筋の稲光。
それが刀に落ち──砕け散る。
鬼の棍棒が吹き飛ぶ。
雷霆は、龍となってその場に舞い降りた。
「ッ……ンだァァァーッ!?」
大地を揺るがす、二刀を構えた侍。
鬼の如き二本の角を生やした──厳めしい龍人。
こいつが、桃太郎……!?
”汝は我が主に足るか?”
「ッせェ、目ェ醒ますのがおせぇんだよ──!!」
龍はカードの姿となり、デッキケースの中に入っていく。
更に、鬼に跳ね飛ばされたモンキッド、そしてキャンベロもカードの姿となっていく──熱を帯びた
胸で燃え滾る怒りの炎。
俺は叫ぶ。
自分の無力も、何もかも全てかなぐり捨てて!
「足るかどうかなんざ、後で考える……テメェが桃太郎だってんなら、鬼退治の一つでもしてみせやがれッ!!」
<Wild DrawⅣ……EMEPERO!!>
※※※
「──ンだァ? これはよォ」
目の前に浮かぶ5枚の楯。
それに戸惑っているような鬼だったが──すぐさまにたりと口角を上げてみせる。
「成程ォ、理解したぜ。あの空亡って女が言ってた札遊戯か! 面白ェ! 遊びは好きだ。存分に死合うとしようじゃねえか!!」
「ッ……来るか」
こいつ、デュエマも分かるのか……!
だけど怯んでばかりはいられない。
坂田さんの仇を絶対に取らなきゃいけないだろ。
それに、此処で俺が負けたら全部終わりだ……!
「俺様のターン!! 2マナで《
現れたのは火と闇のクリーチャーのコストを軽減するアウトレイジだ。
ともすれば、こちらも先手を打つしかない。
「2マナで《タイク・タイソンズ》を召喚! ターンエンド!」
「クッククク──面白ェ、面白くなってきた!! 分かる、分かるぞ、この器の鬼に刻まれた、遊戯のルールが! テメェの切札と俺様の鬼札、どっちが強いか比べようじゃねえか!」
浮かび上がる火のマナ。
飛び出したのは──赤い獣のクリーチャーだ。
「2マナで《キズグイ変怪》を召喚! さあ、食い破れッ!!」
次の瞬間、飛び出した獣は酒呑童子のシールドを食い千切り、そして俺のシールドも突貫して叩き壊してしまった。
こいつ、攻撃するときに自分のシールドも食っちまうのか……!?
「自傷……!? 何でそんなカードが……!」
「《ブラッドギア》! 追撃しやがれッ!」
割られる2枚目のシールド、トリガーは無し。
赤黒のビートダウンで手札を補充されながら殴られ続けるのは、なかなか厳しい……!
どうにかして、盤面を取らないと……!
『《タイク・タイソンズ》で相手を攻撃するんだキャン! そうすれば、我らの力を発揮できるんだキャン!』
手札の《キャンベロ》ら声が聞こえてくる。
まだ見ないカード達、そこに記されていた能力を見て──俺は思わず口角を上げる。
どうやら、こっちもアグレッシブに攻めなきゃダメみたいだ。
「……そうか、早速お前らの力を使わせて貰う! 《タイク・タイソンズ》でシールドを攻撃──する時、Jチェンジ発動!」
マナゾーンに置いたコスト4のジョーカーズと《タイク》が入れ替わる。
早速、その力を使わせてもらうぞ!
「出すのはコスト4、《カタブランプー》! 場に出た時にコイツをアンタップする能力を持つ!」
「あん? 何だヘンなのが出て来やがったな。最近の妖怪はこんなんばっかりか? なんつーか覇気が足りねえ」
「妖怪と一緒にすんじゃねえ。こいつらはジョーカーズ。人に笑顔を守るクリーチャーだ!」
「そうかそうか! 道理で弱そうに見える訳だ」
「見掛けは問題じゃねーんだよ。中身が強いかどうかだ!」
ランプの魔人《カタブランプー》が鬼のシールドを更に1枚、撃ち砕く。
だけどこれだけで終わりじゃない!
《タイク・タイソンズ》が場を離れた事で、俺のマナは4枚!
「さあ、それでテメェの攻撃は終わりだろ! さっさと手番を俺様に寄越すんだなァ!」
「行くぜ、モモダチ……キリフダッシュ発動!」
「ああん? 何だァ?」
<ジョーカーズ疾走!! キリフ・ダッシュ!!>
手札から2枚のカードを投げ放つ。
現れたのは──《モンキッド》と《キャンベロ》だ!
「《モモダチ キャンベロ》! 《モモダチ モンキッド》! 俺の攻撃の終わりに、こいつらを1マナ、そして2マナ支払って召喚する!」
「あんだとォ!? とんだインチキしやがって──」
悪態をつく間も与えない。
《キャンベロ》と《モンキッド》が飛び出し、戦場を駆ける──!
これが新しいジョーカーズの技、”キリフダッシュ”……攻撃の終わりに規定のコストを支払えば、奇襲する形で召喚できる!
「ウッキーッ! 我ら桃の助太刀・モモダチ参上! 俺の能力でマナを1枚増やすぜーッ!」
《モンキッド》はマナを増やす、キリフダッシュの付いた《青銅の鎧》だ。
そして、《キャンベロ》は──
「ガクガクブルブル……此処、何処? 何でボク、こんな所に? 何で紙の中に?」
「お前、さっきの流れ覚えてねえの?」
「とにかく……代わりに戦ってくださいキャーン!!」
「おいいいい!?」
物陰に隠れて出てこない。
しかし、その遠吠えが《カタブランプー》を奮い立たせる!
「《キャンベロ》の効果発動! 《カタブランプー》をスピードアタッカーにする……くそっ、そういう解釈なのかよ、この能力!」
「急にわらわらと出て来やがるじゃねえか……!」
「《カタブランプー》で《ブラッドギア》を攻撃! そのまま破壊だ!」
これで──相手はもう、コスト軽減してクリーチャーを出す事など出来ない。
こっちには場に3体のクリーチャーが居り、盤面も取り返した……!
「ターンエンドだ!」
「ハァーあ、成程。人間にしちゃあよくできた遊戯を作ったな。だけど──ハッキリ言って欠陥も良い所だ」
「んだと?」
「何でかってそりゃあ簡単だぜ──結局俺様が必ず勝っちまうからだよ!!」
2枚のマナがタップされる。
これって──呪文か!?
「さあ行くぜ──!!」
次の瞬間、鬼のシールドが蹴破られる。
こいつ、また自分のシールドを減らして──何をするつもりだ!?
「呪符、《鬼寄せの術》! 次に召喚する妖怪に使う魔力は、四つ減らされる……ククク、鬼には鬼のルールってもんがあんのよ!」
魔力が一気に集い、炎が迸った。
巨大な鬼が姿を現す──!
「鬼よ、俺の手に集え──《「影斬」の鬼 ドクガン竜》、召喚!!」