学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
「っ……!?」
直後、ズキズキ、と痛みが激しくなる。
腕を切り落としたくなるほどに。
身をよじってしまいたいが、全身が重く鉛のようになっており動かない。
「く、桑原先輩、何でこんなっ……!?」
「悪く思うなよ白銀。それはコイツの能力だ」
「コイツって……!」
「痛みに耐え、悶え苦しむ虫けらの姿……くくっ、実に悪くない」
痛みで頭をやられそうになる中、女の声が聞こえた。
発したのは──蜂のクリーチャーだ。
まさか、痛みが増したのは……こいつの毒……!?
「テメェ、何モンだ……!?」
「不躾であるぞ、ソナタ。妾は蜂の女王。
「っ……!? 先輩の新しい守護獣……う、ぎっ……!?」
痛みがいっそう増す。
もう、目が開けられない。
ウソだろ、何で──
「もう良い、寝てろ白銀」
※※※
「──空亡は居るかァ!!」
岩戸を蹴破る。
そこにあったのは、黒いマントに身を包んだ人物たちが計器を持ち込んでいる光景だった。
その中には当然、黒マントの集団──抹消者のリーダーたる空亡も混じっていた。
頭は一瞬で沸騰した。
自らの根城たる山に立ち入るだけでは飽き足らず、明らかに”何か”をしている人間たちに、鬼の首魁・酒呑童子の激怒は頂点を超え──
「オイ、俺様の山で何好き勝手してやがる!!」
洞窟が崩れんばかりの怒号を轟かせたのだった。
比喩ではない。不運にも、落石で黒マントの一人の頭蓋が潰れて崩れ落ちた。
しかし、部下に起こった
「大江山のマナ観測だ。貴様の復活に合わせて、巨大なうねりが発生しているのでな。やはり、この山には──」
「御託は良い! 確かにテメェは俺様を蘇らせた。その功績は褒めてやる。だけどな──俺様の根城を汚い足で歩くと殺すぞ」
「……はぁ、それは済まない事をした」
「それとだ、白銀耀に細工をしやがったな?」
「それがどうかしたか? 白銀耀は歴史改変を受け付けない特異点である以上は最優先討伐対象だ。倒せないならば、極限まで弱らせておくしかなかった」
「そりゃあテメェが白銀耀に勝てねえから、ってことかぁ!? ハッハッハッハ、笑わせるぜ!! 俺様をぶつけた挙句、その俺様の勝負を一つ台無しにしたってのか──っと」
「ほげっ!!」
棍棒が飛ぶ。
血飛沫が上がり、肉塊になったマントの男が倒れ伏せた。
周囲からどよめきが上がる。
だが、部下だった挽肉を一瞥すると何事も無かったかのように空亡は肩を竦め、
「分からんようだな。任務は100%遂行する。それだけの話だとも」
「だからテメェら人間は気に食わねえ。どんな汚い事でも恥も無くやってのける、ド外道の集まりだ」
「我らが神がそうせよと命じたのだ」
「神ィ? ハッ、くだらねぇ。天も神も仏も何もかもがくだらねぇよ。そんなもんは所詮は人間の見た妄想に過ぎねえんだよ。言わば夢と希望だ。夢は過去を視るもの。希望は未来を視るもの。だけど──人間はだぁれも分かっちゃいねえ。俺らが生きてるのは昨日でも明日でもない。今日、今この時間なのになぁ」
指を鳴らすと、血の付いた棍棒が酒呑童子の手に帰って来る。
気分が悪そうに彼はそれを空亡に突きつけた。
「俺はその時その時、瞬間瞬間の勝負に命賭けてんだ。それに水を差す奴は誰だろうが許さねえ」
「愚かな。今に拘る癖に、1000年もの間人間を憎み続けた事──」
「勘違いすんな。この地上に人間が不要なのは、今も同じだった。たまたまそれだけだ。俺は汚ェモンが嫌いなんだよ」
「では、終わった勝負の中身に拘るのは?」
「終わったもんは仕方ねえ。だけど──次はねぇって言いてえのよ。覚えとけ。俺様は神類種だ。人間共の恐怖が俺に力をくれる。それは直に、俺の器を完全に満たす。その時が人間の最期だ」
「まあ良い。今日の所は譲歩してやる。だが、たった今の損失分は何時か請求するぞ」
彼女は肉塊を冷たく一瞥した。
「損失ゥ? 殺した俺が云うのもなんだが、随分と安っぽいんだな人間の集まりってのは。今も昔も変わりゃしねえな」
「貴様等には一生分からぬことだ。……撤収するぞ」
その呼びかけで、黒マントたちの姿は消えて無くなる。
その場に残ったのは、理不尽に死を与えられたミンチ肉、そして──それを掴むなり口に頬張る鬼の首魁だった。
「はっ、面白くねえ。だが、面白くなってきやがった」
先の死合を思い出す。
桃太郎。白銀耀。その両者に対する失望は──耀の中にある龍によって打ち消されたと言っても良い。
あれほどの力を持つ龍は、酒呑童子とて見た事は無かった。
「クッ、クク、ワイルドカード、かぁ。良い響きじゃねえか。気に入ったぜ」
「ウゥ……」
「お?
彼の手には、自らの器たる鬼のカードが握られている。
それに、仮面越しに笑みかけ、名前を呼ぶ。
「──なあ、《ジャオウガ》よォ」
※※※
まだ、痛い。
デュエルの後にぶっ倒れるのは、何度目だろうか。
辛く、苦しく、痛い決闘。
だけど──あいつは。鬼の首魁は。
悍ましい程に……愉しそうだった。
「ふむ、起きたようじゃのぅ!」
「……」
顔を覗き込んで来るしわくちゃのお化け。
ああ、ようやくくたばったのね、俺。
此処が地獄ですか。
「これ! 何故目を逸らす!」
「いや、本当もう勘弁してください、せめてあの世では穏やかに──」
「カカカカカッ、それはそれは残念じゃったのう! 貴殿はどうやらくたばり損ねたようじゃな!」
「……は?」
いや、だってさ。お化けじゃん。
やったらめったら声が甲高いし、しかも──宙に浮いてるし。
あ、分かった。魔導司か。それなら納得──
「じゃねえよ! あんた誰だよ! どっからフッて沸いて出たんだよ!」
「のーほっほっほっほ、そう怒るでないわ!」
起き上がると、全身に激痛が走る。
だけどおかげさまで目が覚めた。
此処は──木組みの寝室のようだ。
だけど伊勢神宮とも違う場所であることは、窓から見える生い茂った木々からして明らかだ。
俺……何処に連れて来られたんだ?
「何、ワシの門下生が貴殿たちを連れてきたんじゃよ。全員、なかなか死に掛けじゃったが、まあ無事じゃ!」
「無事って──待ってくれ! 俺の近くに倒れてた宮司さん──坂田さんは──」
「ああ、心配するでない! あ奴が言うには、死人は誰一人居らんと言うとったわ!」
「……その門下生って」
「俺だ」
ガラガラ、と戸が開く音。
現れたのは──他でもなく桑原先輩だった。
「先輩……!」
「……よぅ。しばらく姿ァ眩ませてて悪かったな」
言いたい事は正直幾らでもある。怒りが無いわけじゃない。問い詰めたい気持ちが無い訳じゃない。
だけど──今は、ただ純粋に感謝しかなかった。
そういえば、ぐちゃぐちゃに踏み潰されたはずの右腕が元に戻っている。
これも桑原先輩が?
「どうなってるんすか、これって。全部治ってる……!」
「俺の守護獣の能力だ。毒も薄めたり調合次第で薬になる、らしいぜ。死ぬ程痛いけどな」
「……シャレになってねえんすけど」
「命あっての物種っつーだろーが。立てるか? 白銀。いや、もう立てるはずだ」
「え?」
身体は確かにまだ痛い。
だけど──動ける。何とか、立てる。
「一体、どうなってんだ……?」
「来い。此処を案内してやる。じーさん、良いよな?」
「ウム! 百聞は一見に如かずというからのう!」
※※※
外に出ると、そこに広がるのは──天を覆う生い茂った木の枝。
そこから木漏れ日が差し込み、緑の日溜まりを地面に落としていた。
聖域、と例えるのが相応しい得も言われぬ空間。
そしてその中に、建築された木組みの社の数々。
荘厳さに思わず言葉を失った──
「此処は伊勢の近くに作られた”不可侵領域”。異形の出現に備えて築かれた【力の座】を守る樹海……らしい」
「力の座……? それがこの場所の名前──」
「然り」
ふよふよと浮かぶ小さな老人は俺の周りをぐるりと回ると、自慢するように笑みを浮かべてみせる。
「かつて、このワシが修行した場所じゃよ。昔は文字通り、本当の樹海獄じゃったがのう! にょーほっほっほっほ!」
「修行って何の修行だよ……」
「そりゃあ剣の修行に決まっとろうが!」
「何時の時代だよ」
「そんなもん平安の世に決まっとろうが!」
そんなのもう何百年も前の話じゃないか。
魔導司じゃああるまいし、こんなに長い年月を生きられるわけがない。
「ははは、桑原先輩。この爺さんやっぱボケてるんじゃないすか?」
「……バケてるんだ」
「……」
バケてるって何?
それってどういうこと?
じゃあ、浮いてるのってつまるところ──
「……マジすか?」
「大マジだ」
「やっぱり、お化けじゃねーか!!」
「お化けじゃない、地縛霊じゃわ”い”!!」
それをお化けっつーんだよ、ざっけんな!!
クリーチャー、魔法使い、未来人、鬼と来て次は幽霊か!
俺の行くところには不審者通り越して変なモンしかうろつかないのか畜生!
「あんたマジで何なんだ!?」
「にょほほ、聞いた事が無いかのう? かつては人斬り巌流齋と呼ばれたこのワシを」
「知らん」
「にょほ……」
「巌流齋の爺さんは、見ての通り剣豪だった……らしいぜ」
「何処がだよ」
見ての通りって言われても全く分からねえんだけど。
「いやー、剣の修行の途中でそこの滝に落ちて溺れてしもうてな? 気が付いたらこうなっておったわ!」
「だが、この聖域の特性上か悪霊になることもなければ、天に上る事も出来ず、ずっと現世で此処にとどまってるらしいぜ」
「此処で死んだら成仏出来ないってことか……」
「にょほほ、知らんけど」
「適当言ったのかよ!!」
「それから数百年くらい後に、本庁からの依頼で爺さんは此処で神職に修行を付けてるんだと。所謂、”異形が視える人間”の育て手だ」
「坂田さんみたいな、
「いや、物の怪ではないでありますよ!!」
ポコンッ、と音が鳴って飛び出したのはチョートッQだった。
なんか額にでっかい絆創膏がついてるけど大丈夫かコイツ?
「チョートッQ、お前その傷は──」
「あの蜂の女王にブッスリと……」
「あー……」
「でも、おかげでもう元気でありますよ! マスターの失言を追及する程度には!」
「別に良いだろ、今更過ぎるぜ。お前らが何だろうが仲間には変わりねぇし」
「ぐぬぬ……」
「とにかく無事でよかったぜ……酒呑童子との戦いで大分ダメージ受けてただろ?」
「それを言うならマスターも同じであります!」
「……次はきっと、こうはいかねえよな……」
今回は、酒呑童子の力がまだ完全に目覚め切ってないからこれで済んだのかもしれない。
しかし、次負けた時は恐らく即刻殺される──どころか、日本中を奴は火の海に変えられるだろう。
皆にこの事を伝えないと──
「爺さん、他の皆は何処にいるんだ?」
「皆、大なり小なり怪我しとったからのう、そこのチビの小僧が抱えてワシの所に連れてきたわい!」
「だぁからぁ爺さん、チビはあんたにだきゃ言われたかねーぜ!」
「桑原先輩! 皆は無事なんですか!?」
「あぁ、無事と言えば……無事なんだがな」
橋にもたれかかり、彼は吐息をつく。
何かあったのだろうか。
「実は……翠月がまだ目覚めねえんだ」
「ッ……!」
顔を険しくすると、桑原先輩は事の経緯を語り出す。
どうやら、黒鳥さん、ブラン、そして翠月の3人の中で唯一彼女だけが重傷を負っていたらしい。
腹に何かが突き刺さった形跡に加え、頭を強く打っていたらしく、打てる手は打ったものの未だに目を覚まさないのだという。
「それなら病院に──」
「此処は医療施設も兼ねている。その手の事情に通じた医者達が駐留してんのよ。非常時には異形から人々を守るシェルターになる場所だからな」
「……そうですか」
「ま、命に別状はねぇらしい。だから、あの酒呑童子と接触していたテメェから話を聞くのが先決だと思ってな」
「居てあげなくて良いんですか?」
「勝手に消えた手前、合わせる顔がねぇんだ。正直、殴られても文句は言えねえ。姉妹の両方からな」
「……俺は、桑原先輩がいなくなった理由、何となく分かるんです」
「うっせぇ、同情なんざいらねーんだよ。それよか、俺は鬼の脅威を爺さん達から既に聞いている。白銀、あの鬼に負けたお前はどうやってあの場を切り抜けた?」
「……」
今度は俺が話す番だ。
今までの経緯を彼に話した──
※※※
「二週間後に、酒呑童子は日本中を火の海に……!?」
「ううむ、奴ほどの鬼ならばその速さで強くなるのも納得じゃ。元々が京都を脅威に晒していた大鬼、1000年もの眠りで力を蓄えておったのじゃろう」
「……次は絶対に勝たないと。2週間後までに、強いデッキを──」
「にょほほほ、無理じゃろうな!」
老人はケタケタと笑ってみせる。
む、無理だって……!?
「今のままでは、貴殿は酒呑童子と何度闘り合っても勝てはせんよ」
「そんなっ、何で──」
「貴殿自身がなっとらん。桃太郎──モモキングは、貴殿を完全に見下しておる」
「ッ……!!」
桃太郎が──俺を見下してるって、どういうことだ!?
「それって」
「しょんべん臭いガキんちょに力なんか貸したくないやい、カーッペッ!! ってところじゃろーな! にょほほほほほ!」
「は、はぁ!? な、何で! 俺だって修羅場は幾つも──」
「そういう問題じゃねーんだよ、白銀。俺が云えた口じゃないかもしれねえが……それでも分かる。今のテメェは誰にも勝てやしねえ」
「ッ……」
誰、にも……!?
何の根拠があって、と問い詰めたくなって口を噤む。
身に覚えがないわけではなかった。
だけど、それを信じたくはない。
しかし心の底から巻き起こる焦燥感が俺自身への不信感を後押しする……!
「……チビの小僧、試しにやってみせれば良いじゃろう」
「そうだな爺さん」
「……?」
「白銀。俺と勝負しろ──本気でな」
「え?」
次の瞬間、桑原先輩が取り出したのは──
「ま、待ってください先輩!」
「何考えてるでありますか、桑原殿! それはエリアフォースカードでありますよ!?」
「死合いに待ったはねぇ。
無機質な起動音が鳴り響く。
先輩の背後に浮かび上がるのは──赤い眼光を放つ蜂の女王──
「──調教してやれ」
<Wild DrawⅧ──STRENGTH!!>