学園デュエル・マスターズ WildCards【完結】 作:タク@DMP
※※※
「ミヅキ、待つデスよーっ!」
「頭を打ってるんだぞ! まだ安静にしていろ!」
「これが落ち着いていられるわけないじゃない!」
起き上がるなり、飛び出した彼女をブランと黒鳥が追いかける。
建物から飛び出した彼女を待っていたのは──ドーム状に展開された空間。
「何じゃ!? 誰かが空間を開いておるぞ!」
サッヴァークの言葉に3人はぎょっとした。
戦闘だ。
それも、強い魔力同士のぶつかり合い。
互いにエリアフォースカードを用いてのデュエルがそこで繰り広げられているのだという。
「
「ってことは……アカルと桑原先パイが戦ってるってことデス!? Why!?」
「……何で。何でよ、先輩ッ!」
目を見開く彼女は──空間目掛けて駆け出した。
※※※
「《終葬 5.S.D.》──」
突如、空より飛来する蜂の女王。
赤いバイザーが陽光に照らされて光り輝く。
腕で目を覆った一瞬の間だった。
雷鳴が、幾つも振り落ちる──!
「これより、
──気が付けば、《バングリッド》の胸に、赤い針が脈打ちながら突き刺さっていた。
「妾が甘美なる死をくれてやろう──女王の一刺しを以て、なぁ!」
「この呪文の効果で、俺はテメェのクリーチャー1体を山札の上から4枚目に横向きで刺す」
「はぁ!? さ、刺すってどういう──」
現に、《バングリッド》のカードは俺の山札にそのまま突き刺さっている。
そしてバトルゾーンに居る機体は倒れ伏せ、蜂の紋章が刻まれた──と同時に。
俺の左胸にも、同じ蜂の紋章が浮かび上がる。
まるで、倒れ伏せた《バングリッド》と俺の心臓を紐づけるかのように──
「な、何が起こってるんだ……!?」
「この呪文を唱えた後──俺の場に暴風のガイアハザードを君臨させる」
暴風が吹き荒れる。
桑原先輩の目の前に刻まれるのは、金色のMASTERの紋章と
硝子の如き深緋の羽根を広げた蜂の女王が、優雅に、しかし不遜に降り立つ──
「
女王。
いや、女帝と言うのが相応しい。
Q.Q.QX.──そのクリーチャーは、美しくも苛烈な蜂の剣士だ。
バイザーの奥に輝く黄色い瞳が爛々と俺の胸を覗く。
「大儀であったぞ、我がシモベよ。褒めて遣わす」
「へーへー、そうかい女王様……あんたは良いよな、立ってるだけなんだから」
「桑原先輩、そのクリーチャーは──」
「あ? あー、《
「翠月さんのオウ禍武斗と同じ、ってことかよ……!?」
「ハッ、同じか。どうだか──」
次の瞬間、胸の紋章がずきり、と疼く。
な、何なんだコレ──
「痛い? 痛いか? そうじゃろうなあ。ソナタは後4ターンの命なのだから」
「はあ!?」
「《Q.Q.QX.》の効果だ。テメェはデッキに横向きで刺さったカードを引いた瞬間に負ける」
「ッ……!?」
「既にテメェには
「そ、そんな……!?」
ど、どうすりゃ良いんだ。
手札を奪われた状態で──勝てるっていうのかよ!?
そ、そうか。そう言う事か! 手札を奪い、相手の盤面を壊滅させたところにQXをぶつけるのが桑原先輩の新しいデッキの正体だったのか……!
「何でQXなんだよ……! 全然、
「だから言ってんだろ。力の制御、それこそが
焦燥感が込み上げる中、カードを引く。
こんなの、山札の残りがいきなり4枚になったようなもんじゃないか。
《ジョジョジョ・ジョーカーズ》……ダメだ、こんな時に引けても仕方がない!
……いや、待てよ。引いたらアウトってことは、引かなきゃ良いってことじゃないか。
「呪文、《ジョジョジョ・ジョーカーズ》! こうなったら、横向きのカードを山札の一番下に送れば──」
「無駄じゃ」
サクリ、という音と共にQXの毒針が俺の山札を串刺しにする。
蜂の女王が喉で嗤いながら俺を凝視した。
最早、呻き声も出はしなかった。
玩具で弄ぶかのように、彼女は俺のシールドに腰かけていた。
「無駄って──」
「妾の能力の前では、自身の山札を見たり、順番を入れ替えたりできないということじゃ。ソナタは、刻一刻と無抵抗のまま死に近付くのみというわけじゃな」
「っ……!?」
「それにしても、白銀耀。歪で、不安定で、そして強い欲望を持っておる──」
「う、うるせぇ! さっさと俺の前から消えろ!」
「何を焦っておるのだ? 力の守護獣たる妾の前で、力の源泉たる欲望を隠し通せると思うな」
俺の、欲望──?
「テメェはテメェ自身の本質が見えてねえんだ。だから、ちょっと小突かれただけで不安定になる」
「だったら、どうしろと──」
「さあな。それは俺から言う事じゃねえ。だけど、今のままで鬼に勝てる訳はねぇ。ましてや、俺にも」
俺の本質?
分からない。
だけど、知りたくもない。
あったとしても、それは俺の知っている俺じゃない。
シー・ジーもそうだった。オペラもそうだった。
どいつもこいつも、俺の中身を見て揚げ足を取った気になって──!
「だらだら長引かせるのは嫌いなんでな。これで終わりにしてやる」
「っ!? まだ、3ターンも──」
「バァカ、律儀に4ターンも待つわけねぇだろうが!! 呪文、《
山札に突き刺さった毒針が引き抜かれると共に、俺の山札の上から2枚がマナゾーンに置かれる。
そして、俺の山札の上には──横向きで突き刺さった《バングリッド》のカード……!
「し、しまっ──」
「ターン、終了──
どくんっ。
紋章が輝く。心臓が、音を立てて脈打った。
女王の高笑いが聞こえ、聞こえなく、なって──
息が出来なくなり、目の前が暗転した──
※※※
「っ……俺の敗け、か」
倒れ伏せた俺は桑原先輩を見上げる。
険しい表情で、彼は俺を見つめていた。
「何のつもりなんですか、いきなり、こんな……」
「……
「っ……! 今は疲れてるだけです。今日は、連戦だったから……」
言い訳がましいとは自分でも思う。
しかも、その全部に俺は負けている。
だから──きっと理由は別の所にある。
「休めば治るってもんじゃねえ。これはテメェの本質的な問題だからな……そうだろ? 爺さん」
「うむ。伊勢神宮から報告は聞いておる。身体に龍を埋め込まれたのもあり、貴殿は完全に精神的なバランスを崩しておるのじゃろう」
「龍──アバレガンか! アバレガンが居るから、こんな事に」
「ワシは言ったはずじゃぞ。本質的な問題じゃと。貴殿の心の問題からどうにかしない限り、アバレガンもどうにもならん」
「っ……じゃあどうすれば。心だとか何だとか、曖昧過ぎるだろ……!」
「心配せんでも貴殿に素質はある。後は──安定した心持が重要なのじゃよ」
「バカな! 根性論だ! 今までそんな事無かったのに!」
「そのカードは
爺さんは俺のデッキケースを指差した。
そこから──《モモキング》のカードが浮かび、爺さんの手に渡る。
「これを見よ。今、この桃太郎はワシの神力に導かれてワシの手に来た。勿論、ワシがこのカードを扱う事は出来んがの。それでも、このカードを扱う基本的な力が神力というわけじゃ」
「神力……? マナとは違うのか?」
「うむ。言わば、東洋の神職が持つ独自のマナじゃ。今の貴殿は、その回路を持っておる」
ん、ちょっと待て。
確かにエリアフォースカードを使っている以上、俺の身体にもマナが流れているはずだけど……何時の間に上書きされたんだ?
「ってか、俺そんなの初耳なんだけど!? 俺、実は坂田さんみたいにクリーチャーが見える特異体質だったのか!?」
「それは絶対無いでありますよ! マスターがクリーチャーが見えるようになったのは、我が接触したからであります。マスターは正真正銘、タダの人間のはずでありますよ」
「じゃあ、俺の体内にマナは──」
「それはあくまでも、エリアフォースカードから受け取った借り物に過ぎないでありますよ。さもなくば、今頃マスターは魔法が使えるはずであります」
「……確かにそうか。それじゃあ、今回は……」
「マスターの中には、その神力とやらの回路が小規模ではあるものの埋め込まれてるでありますよ!」
「はぁ!? 何で!? 何で!? 何時の間に!?」
怖い、怖すぎる。
改造人間が俺は。
「桃太郎を紛いなりにも扱えるようになった時点で、貴殿のマナ性質は神職のそれに似たものに変質しておるのは確実じゃ。恐らく、金の字がやってくれたのう」
「金の字って……」
「ああ、坂田金助。ワシの弟子の一人じゃよ」
「ああ、坂田さんの事か……」
「神力を扱う者は皆、ワシの元に来る。あやつは分家出身じゃが優秀じゃったからな、他者に神力を分け与えるくらいは容易いじゃろう」
「坂田さんが……俺にそんな事を?」
「うむ。一か八かじゃったろうな。下手したら死ぬ。それについては後で説教じゃな、にょほほほほ! それと、桜桃を目覚めさせた時、激痛が迸ったのではないか?」
「っそ、それは──まあ、そうだけど。何かあるのか?」
「その痛みは血管に電気を通したから、と例えることが出来る。初めての感覚だったはずじゃからのう」
「じゃあ、今の俺は……神力を扱えるって事か」
「一時的に金の字から間借りしとるだけに過ぎんが、そうなるのう」
ってことは、俺の心の問題さえどうにかすれば──神力を扱いこなして、モモキングを従わせることが出来る、ってことなのか。
でも、そんなのどうすれば良い。
色々ゴチャゴチャしていて訳が分からねえ。
「そこで、修行じゃ! 完全に神力をモノにするのじゃよ!」
「修行ォ!? 此処で、ってことか!?」
「日本が焼け野原になるまで2週間……クックッ、上等じゃ。地獄の超スパルタコースを実施してやるわい!」
「ま、待ってくれ! 修行でどうにかなるのか!? アバレガンも!?」
「なる! 成せば成る。そもそも、己の中の暴れ竜如き抱え込めん小僧が、どうして鬼退治出来る?」
「……」
確かにその通りだ。
俺だって──このままで終わりたくはない。
でも、後二週間しかないのに、修業なんて終わるのか?
「俺は確かに、今のテメェに鬼が退治できないとは言った」
桑原先輩の冷徹な声が響いた。
橋の柵に彼はもたれかかっている。
彼の背で滝の音が静かに鳴っていた。
「だが、テメェならやれる。俺は信じている。何度でも這い上がって来い、白銀。」
その瞳の熱は死んで居ない。
確かに、あの人のものだった。
「……桑原先輩。俺、やってやりますよ。鬼をぶっ倒す為に」
「アーカールー!」
その時だった。
走って来る三つの影。
あれってもしかして──ブランと黒鳥さんと──翠月さん!? 良かった、目が覚めたのか!
「ちょっと、何でいきなりデュエルなんかしてたんデス!?」
「俺だってよく分からねえよ!」
心配そうに手を掴んでブンブン振る彼女。
課題はあると気付けたが、結局よく分からないまま始まってよく分からないまま終わったデュエルだったな……。
黒鳥さんも、俺の顔を見てかようやく安堵の息を吐いた。ああ、仮にも保護者役だし大分心配かけちまったな。
「黒鳥さん、何と言うか……」
「今は良い。それよりやらなければいけない事が山積みだ。課題があるのは貴様だけではない」
彼は親指で橋の方を指差す。
うん? あそこにもたれかかっている桑原先輩に翠月さんが駆け寄っている。
ああ、これは感動の再開シーン──
「貴方って人はーッ!!」
──じゃなかった! 胴を思いっきり突き飛ばした!
そのまま彼は橋の下の池目掛けて真っ逆さま──どぼん!
「っ……テンッメェ、何しやがるーッ!!」
しばらくして、池の方から怒号が轟いた。
良かった、生きてた……。
「何しやがるはこっちの科白です! 貴方って人はいきなりいなくなって私達を心配させた挙句、エリアフォースカードで白銀先輩とデュエル!? 何考えてるんですか、ねぇ!」
「あ、いや、お嬢さん、けしかけたのはワシ──」
「部外者は黙っててください」
「ひんっ……最近の女子怖い……」
「長らく私がどんな思いをしたか、その池の中で頭を冷やしながら考えれば良いでしょう! バカ! アホ! すかたん! しばらく口を利いてあげませんから! ね!」
「あ、ちょ、待て! オイ、QX! 俺を此処から引っ張り上げろ! 今すぐだ!」
「ほほほ、水もしたたる良い男。どん底に突き落とされた後は自力で這い上がるのも一興であろう?」
「テメェマジで嫌いだ!! クソ蜂女!!」
池に落とされて喚いている彼を見て──何と言うか桑原先輩、自業自得だけどご愁傷様です。
もしかして、今日ずっとテンション低かったのは、あのQXの所為なんじゃないだろうか。
取り合えず後でダンガンテイオーに救出させておこう。流石に可哀想だし。
「とまあこの通り。課題は山積みだ」
「課題ってそっち!?」
「どうなる事やら、デスね!」
おめーは他人事っぽくて良いよなブラン!
あーくそ、今から胃が痛くなってきた。
この力の座で、俺は一体どうなっちまうんだ……修行が終わったころには胃潰瘍出来てなきゃいいけど。
「なあオイ、さぶいんだけど!! 凍え死ぬーッ!!」
……鬼が日本を火の海に変えるまで、残り2週間。
俺は──桃太郎に認められるのだろうか。
それはそうとして、桑原先輩は大丈夫なのかコレ。